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組織の調査2
熱い体温
部屋に入ってきたのはヒサメとシグレ、そしてボタンだ。
「傷は痛むか、リビ殿。」
ヒサメはそう言いつつ、ベッドサイドに置いてある椅子に腰かける。
「それなりに痛いですね。全身、顔にもこんな傷が広がっていて驚きましたよ。」
私が笑顔を作るが、ヒサメはじっと私の顔を見て告げる。
「目覚めなかったらどうしようかと思っていた。オレとの約束を、こんな形で反故にするのかと怒りすら覚えたな。」
「あの場で国王を救うには、あの方法しかなかったでしょう?」
「キミは命をかけることに躊躇さえしなかった。死ぬのは怖いと言っていたその口で、命を失う覚悟を語るのか。」
私を睨むその表情は、初めてヒサメが私に向ける怒りだった。
シグレもボタンも部屋の端に立ったまま何も口を出してこない。
ソラはそんなボタンの手を握っている。
分かってる、ヒサメ様が私を心配していることくらい。
「死にたくないことは事実です。でも、あの場の最善を尽くしたつもりです。グウル王が死ぬことで、今成立している環境が崩れるのは良くなかった。彼が他の国の財源になっていることや、闇の商売の引き取り先になっていたことで救われた命があった。それに、重要な情報を持っている可能性があったことも考慮すると助けない選択肢はなかった、そうでしょ。」
私の言葉に頷こうとしないヒサメに少しだけ腹が立った。
氷のような冷たい瞳を向けるヒサメの手を掴み、私は自分の首を掴ませた。
ヒサメは一瞬戸惑って、それからゆっくりと私の首を掴む。
「温かいですよね?」
「・・・ああ。」
「私は生きてます、約束はちゃんと守ってるんですから誉めて欲しいくらいなんですけど。」
私がそんなことを言えば、ヒサメは眉を下げて微笑む。
「ああ、それもそうだな。オレのためにこれからも生き続けてくれ。キミの代わりに生き残った者を、オレが殺さぬように見張っておいてくれよ。」
優しい顔を向けるヒサメとは裏腹に私はゾッとしていた。
思わず、シグレとボタンの顔を見る。
二人は、至極当然のように頷いている。
この人、グウル国王を殺すつもりだったのか。
「私が助けた人を殺すなんて、本当に止めてください。」
「キミ次第だと言っている。リビ殿が待てというのなら、オレはそれに従おう。どんな殺意や憎悪があろうとも、キミの言葉に耳を傾ける。それなら問題ないだろう?」
問題なくはない。
私の意識がこのまま戻らなかったらどうなっていたのだろうか。
黄金の国の王を殺すなんてことになれば、白銀の国がどうなるかなんて目に見えている。
これまで以上に狼獣人の立場は危うくなり、国交を続けるどころではなくなる。
国民を危険にさらすようなことをヒサメがするとは思えない。
しかし、やり方はいくらでもあるはずだ。
ヒサメなら上手くやれる、そんな気がしてしまう。
私は、自分が死んだ後の世界を心配しないといけないのか。
そんな立派な考えができるような人間でもないのだけど。
それでも、この世界には大切にしたい人が増えてしまっている。
太陽の国、泉の谷、静寂の海、夜明けの国、黄金の国、そして白銀の国。
少しの繋がりでも、生きていて欲しいと思う人がいる。
だからこそ、私が死んだ後のことも考えなくてはいけないのだ。
「私の言葉、絶対聞いてくれるんですね?言いましたね?」
「ああ、勿論。オレは約束を守る男だからな。」
ヒサメの言葉に安堵しつつ、私はヒサメから手を離した。
しかし、ヒサメは私の首から手を離してはくれなかった。
私が何か言おうとすると、首を柔く掴まれる。
ヒサメは首元にある傷を確認するかのように指を動かして、それから手を離した。
私の戸惑った表情を見てか、ヒサメは首を傾げる。
「すまない、痛かったか?乾燥で傷が悪化することもあるからな、潤いの高い軟膏でも用意しようかと考えていた。」
「いえ、よくそんなちゃんと触れるなって思って。首を触らせたのは私ですけど。」
私自身、目を背けたくなる傷なのだ。
色も亀裂も気持ち悪いし、半分かさぶたになっている部分がザラザラで。
だいたい、人の傷に触れるのは誰だって嫌だろう。
そう思うと、薬を塗ってくれていたボタンに感謝しかない。
ヒサメは訝しげな表情を浮かべると人差し指で私の腕の傷をなぞる。
肌がぞわっと粟立って、思わずヒサメの指を掴んでしまった。
「何するんですか・・・!?」
「普通に触れることを証明しただけだ。リビ殿が意味の分からないことを言うからだろう?」
「なんで怒ってるんですか?!」
少し不機嫌になったヒサメにシグレがようやく言葉を発した。
「ヒサメ様、未婚の女性にそのような戯れはいかがなものかと思います。婚約なさるなら構いませんが。」
にこやかなシグレの言葉で、私は掴んでいた指を離す。
シグレの隣にいるボタンもにっこにこで居たたまれない。
ヒサメはと言うと機嫌が戻り、涼し気に微笑む。
「オレはオレの部下を心配しただけだ。そうだろう、シグレ、ボタン。」
「はい、ではそういうことにしておきましょう。」
「はい。でも私まだ諦めてません。」
綺麗な敬礼をしておきながら、二人は言葉を付け足した。
何故かこの二人は私をヒサメの婚約者にしたいらしい。
本当に我ながらおすすめできない。
妃候補になれる素質が皆無な上、こんな傷だらけになってしまっていよいよ可能性はゼロだろう。
そんなことを考えていると、ヒサメが口を開いた。
「そういえばあの男、リビ殿の知り合いか?グウル国王を助ける方法を教えてくれただろう。」
ヒサメが言っているのはローブを来た者のことだろう。
「男性なんですか、あの人。」
「骨格からして男だろうな。それすら知らない者なのか?」
声がハスキーだとは思っていたがやはり男性だったのか。
私はヒサメたちに、収穫祭で一度だけ会ったことを話した。
「その時の印象は良くなかったんですよ。追い打ちかけるようなことばっかり言うし。本人は占い師だって名乗ってました。人の過去が見えるって。」
高身長で、顔をベールで隠した占い師。
怪しいところしかない彼だが、どうして黄金の国にいたんだろう。
「どうしてグウル王を助ける手助けをしてくれたのか分かりません。そもそも、何故ドクヘビの毒の解毒方法を知っていたのか。あの占い師は、あの後どうしたんですか?」
私は占い師に抱きかかえられ、ソラに乗せられたところまでは覚えている。
ヒサメがシグレの顔を見たので、シグレが話し出す。
「黄金の国の医師と話しているところは確認しました。ですがその後、行方が分かりません。黄金の国内外を捜索してみましたが、見つけることは出来ませんでした。」
シグレの耳が少しだけ下がる。
見つけられなかったことが悔しいのかもしれない。
「収穫祭にリビ殿の前に現れ、そして今回グウル王の危機にタイミングよく現れた。偶然とは思えない。占い師は、リビ殿の位置を完全に把握していたのかもしれないな。」
常につきまとわれていたのか。
それとも、ヒサメの護衛であるヒメのような魔法を持っているのか。
「他の騎士に捜索を続けさせてはいるが、見つからない可能性は高いだろうな。今の今まで身を潜めるだけの能力を持っている。それに城で会ったとき、何か違和感を覚えた。気配を感じづらい、そんな気がした。本当にストーカーなのだとしたら、かなりの手練れだな。」
フブキを監視していたヒサメが言うと、余計に手強い相手のように感じる。
「だが、ドクヘビの毒について知っているならその情報を聞き出す必要がある。白銀の国の研究者たちが毒について調査していたが、解毒の方法など載っている文献は一つもなかった。占い師が組織となんらかの繋がりがある場合も考慮したほうが良さそうだ。」
組織に関わりがあるから知識があるのか。
それとも、別の理由があるのか。
占い師の足取りを追うと共に、組織との関連も調査することになりそうだ。
「傷は痛むか、リビ殿。」
ヒサメはそう言いつつ、ベッドサイドに置いてある椅子に腰かける。
「それなりに痛いですね。全身、顔にもこんな傷が広がっていて驚きましたよ。」
私が笑顔を作るが、ヒサメはじっと私の顔を見て告げる。
「目覚めなかったらどうしようかと思っていた。オレとの約束を、こんな形で反故にするのかと怒りすら覚えたな。」
「あの場で国王を救うには、あの方法しかなかったでしょう?」
「キミは命をかけることに躊躇さえしなかった。死ぬのは怖いと言っていたその口で、命を失う覚悟を語るのか。」
私を睨むその表情は、初めてヒサメが私に向ける怒りだった。
シグレもボタンも部屋の端に立ったまま何も口を出してこない。
ソラはそんなボタンの手を握っている。
分かってる、ヒサメ様が私を心配していることくらい。
「死にたくないことは事実です。でも、あの場の最善を尽くしたつもりです。グウル王が死ぬことで、今成立している環境が崩れるのは良くなかった。彼が他の国の財源になっていることや、闇の商売の引き取り先になっていたことで救われた命があった。それに、重要な情報を持っている可能性があったことも考慮すると助けない選択肢はなかった、そうでしょ。」
私の言葉に頷こうとしないヒサメに少しだけ腹が立った。
氷のような冷たい瞳を向けるヒサメの手を掴み、私は自分の首を掴ませた。
ヒサメは一瞬戸惑って、それからゆっくりと私の首を掴む。
「温かいですよね?」
「・・・ああ。」
「私は生きてます、約束はちゃんと守ってるんですから誉めて欲しいくらいなんですけど。」
私がそんなことを言えば、ヒサメは眉を下げて微笑む。
「ああ、それもそうだな。オレのためにこれからも生き続けてくれ。キミの代わりに生き残った者を、オレが殺さぬように見張っておいてくれよ。」
優しい顔を向けるヒサメとは裏腹に私はゾッとしていた。
思わず、シグレとボタンの顔を見る。
二人は、至極当然のように頷いている。
この人、グウル国王を殺すつもりだったのか。
「私が助けた人を殺すなんて、本当に止めてください。」
「キミ次第だと言っている。リビ殿が待てというのなら、オレはそれに従おう。どんな殺意や憎悪があろうとも、キミの言葉に耳を傾ける。それなら問題ないだろう?」
問題なくはない。
私の意識がこのまま戻らなかったらどうなっていたのだろうか。
黄金の国の王を殺すなんてことになれば、白銀の国がどうなるかなんて目に見えている。
これまで以上に狼獣人の立場は危うくなり、国交を続けるどころではなくなる。
国民を危険にさらすようなことをヒサメがするとは思えない。
しかし、やり方はいくらでもあるはずだ。
ヒサメなら上手くやれる、そんな気がしてしまう。
私は、自分が死んだ後の世界を心配しないといけないのか。
そんな立派な考えができるような人間でもないのだけど。
それでも、この世界には大切にしたい人が増えてしまっている。
太陽の国、泉の谷、静寂の海、夜明けの国、黄金の国、そして白銀の国。
少しの繋がりでも、生きていて欲しいと思う人がいる。
だからこそ、私が死んだ後のことも考えなくてはいけないのだ。
「私の言葉、絶対聞いてくれるんですね?言いましたね?」
「ああ、勿論。オレは約束を守る男だからな。」
ヒサメの言葉に安堵しつつ、私はヒサメから手を離した。
しかし、ヒサメは私の首から手を離してはくれなかった。
私が何か言おうとすると、首を柔く掴まれる。
ヒサメは首元にある傷を確認するかのように指を動かして、それから手を離した。
私の戸惑った表情を見てか、ヒサメは首を傾げる。
「すまない、痛かったか?乾燥で傷が悪化することもあるからな、潤いの高い軟膏でも用意しようかと考えていた。」
「いえ、よくそんなちゃんと触れるなって思って。首を触らせたのは私ですけど。」
私自身、目を背けたくなる傷なのだ。
色も亀裂も気持ち悪いし、半分かさぶたになっている部分がザラザラで。
だいたい、人の傷に触れるのは誰だって嫌だろう。
そう思うと、薬を塗ってくれていたボタンに感謝しかない。
ヒサメは訝しげな表情を浮かべると人差し指で私の腕の傷をなぞる。
肌がぞわっと粟立って、思わずヒサメの指を掴んでしまった。
「何するんですか・・・!?」
「普通に触れることを証明しただけだ。リビ殿が意味の分からないことを言うからだろう?」
「なんで怒ってるんですか?!」
少し不機嫌になったヒサメにシグレがようやく言葉を発した。
「ヒサメ様、未婚の女性にそのような戯れはいかがなものかと思います。婚約なさるなら構いませんが。」
にこやかなシグレの言葉で、私は掴んでいた指を離す。
シグレの隣にいるボタンもにっこにこで居たたまれない。
ヒサメはと言うと機嫌が戻り、涼し気に微笑む。
「オレはオレの部下を心配しただけだ。そうだろう、シグレ、ボタン。」
「はい、ではそういうことにしておきましょう。」
「はい。でも私まだ諦めてません。」
綺麗な敬礼をしておきながら、二人は言葉を付け足した。
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そんなことを考えていると、ヒサメが口を開いた。
「そういえばあの男、リビ殿の知り合いか?グウル国王を助ける方法を教えてくれただろう。」
ヒサメが言っているのはローブを来た者のことだろう。
「男性なんですか、あの人。」
「骨格からして男だろうな。それすら知らない者なのか?」
声がハスキーだとは思っていたがやはり男性だったのか。
私はヒサメたちに、収穫祭で一度だけ会ったことを話した。
「その時の印象は良くなかったんですよ。追い打ちかけるようなことばっかり言うし。本人は占い師だって名乗ってました。人の過去が見えるって。」
高身長で、顔をベールで隠した占い師。
怪しいところしかない彼だが、どうして黄金の国にいたんだろう。
「どうしてグウル王を助ける手助けをしてくれたのか分かりません。そもそも、何故ドクヘビの毒の解毒方法を知っていたのか。あの占い師は、あの後どうしたんですか?」
私は占い師に抱きかかえられ、ソラに乗せられたところまでは覚えている。
ヒサメがシグレの顔を見たので、シグレが話し出す。
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シグレの耳が少しだけ下がる。
見つけられなかったことが悔しいのかもしれない。
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常につきまとわれていたのか。
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フブキを監視していたヒサメが言うと、余計に手強い相手のように感じる。
「だが、ドクヘビの毒について知っているならその情報を聞き出す必要がある。白銀の国の研究者たちが毒について調査していたが、解毒の方法など載っている文献は一つもなかった。占い師が組織となんらかの繋がりがある場合も考慮したほうが良さそうだ。」
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