【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
120 / 169
夜明けの国

あんな男

遠霧山を下り、私たちは夜明けの国へと向かう。
現在は夜の森の中。
夜明けの国には明日到着予定だ。
闇魔法の人間である私や、そう判断されてしまうハルがいるため町の宿をとることは難しい。
迷いの森でのベッドのない生活というのは、まさか野宿を慣れさせるためなんて目論見はないだろうか。
神がどこまでを想定しているかなんて知らないが、役に立っていることに腹が立ちそうだ。
焚火をたいてその周りを囲んで座る。
ソラは私とハルとアルを乗せて飛んでいるので疲れて既にうとうとしている。
「寝てていいよ、ソラ。」
「キュ。」
ソラは丸くなると寝息を立て始めた。

ヒサメは森の奥が騒がしいと言って、そちらの方へと歩いて行ってしまったがいつものことだ。
「今回の野宿はお嬢さんの王子様がいるから安心ね。魔獣が山ほどいる遠霧山を一人で無傷で登ってくるような人だもの。戦闘向きではない私やアルはおろか、お嬢さんの出番だって必要ないでしょうね。」
向かい側に座るハルはそう言って頬杖をつく。
「そうは言ってもヒサメ様は白銀の国王なので、私は部下として守る役目があります。」
「守り守られる関係って話?あの人、どんな部下にもあんな対応なの?」
「あんな対応、とは?」
ハルはうんざりしたような表情で頭を抱える。
「遠霧山を登ってきた直後のあの人の話よ。今思い返してみると、物凄く怖いこと言ってたわよね?封印の話でそれどころじゃなかったから流してたけど、あんな感情を向けられてよく平気な顔してられるわね。」
「ああ、あれ言われたの初めてじゃないんですよね。」
私が暢気に頷けば、ハルはとてもげんなりした顔をする。

”逃げられないと知っているなら、いい。”

ヒサメのその言い方は、他にやり方を知らないからだと考えている。
自分の手元に置いておきたい人を繋ぎとめる方法が分からない。
だから、必然的にそうなるように仕向けることしか出来ない。
そんなところが、横暴な前ザラ王と少し重なってしまう。
だけどきっと、そうならざる負えない部分もあるはずだ。
幼いころからの愛情の欠如や信用できる大人の少なさ。
大切なフブキが自分のせいで国を追い出され、そのフブキの両親は父親によって処刑された。
ヒサメは、自分の手の届かない場所でもう、全てを失いたくないだろう。

「ヒサメ様が私に向ける感情は、私を傷つけたりなんかしないって分かってますから。言い方は本当に怖いですけど、ヒサメ様なりの部下を大切に思うお言葉ってやつです。」
「そうだった、お嬢さんもおかしいんだったわ。普通なら、あんな男やめておきなさいと言うところよ。」
「ハルさんにヒサメ様がどう見えているか分かりませんが、一般的に優良物件なお人だと思いますよ。基本的に気遣いのできる人ですし、王族だというのに階級問わず分け隔てない接し方の出来る人です。それに・・・。」
そこまで言って、私はボタンのプレゼンを思い出す。
何故私はハルさんにヒサメ様のプレゼンをしているんだ?
ヒサメの部下としての自覚が出てきているという証拠だろうか。

「それに、なんだ?」

すぐ後ろから声が聞こえて、私が見上げる先には見下ろすヒサメがいた。
ハルは飛び退いて隣のアルに抱きついている。
「モンスターいました?」
「ああ、追い返した。オレにかまわず話を続けて良いぞ。あんな男と言われたのだから、部下であるリビ殿がちゃんと弁明してくれないとな。」
ヒサメは私の隣に腰を下ろすと、ハルに向かって微笑んだ。
ハルはヒサメを睨んでそれから、腕を組んだ。
「私はヒバリのような物腰の柔らかい男が好みなの。いくら顔が良くてもその微笑みには屈しないわ。」
「別にそんな理由で笑顔を向けたわけではないのだが。これから行動を共にするキミたちとは程よい友好関係を築いておこうと思ってな。だが、あんな男と言うほどだ。懸念点があれば教えて欲しい。」
私はヒサメの横顔を見ながら、あ、ちょっと根に持ってるなと思った。
「私たちの目的はドクヘビの行動を止めること。あなたの戦闘力や魔力は申し分ないし、決断力も判断力もそれに伴う行動力も何も問題ない。今回の要は獣人王が持つ結界魔法と知って、あなたが協力してくれるならこんなにも心強いことはないと思ってる。」
「その評価に恥じぬ働きをするつもりだ。」
「こんな私の物言いにも真摯な対応ができるあなたの度量の大きさも上に立つ者としての気概も十分で非の打ち所がないのは確か。」
ハルは思っていた以上にヒサメのことを認めているようだ。
ハルが重要視している覚悟をヒサメが持っているからだろうか。

「でも、それとこれとは話が別。あなたが向ける感情は一歩間違えば脅威だわ。お嬢さんは何故か平気みたいだけど、他の人もそうとは限らないでしょ。」
「誰彼構わず向けるはずがない。ハル殿がその対象になることはないから安心してくれ。」
「そんな心配してないわよ!あーもうやだ、藪蛇じゃないの。」
ハルはそう言って寝ているソラのもふもふな体に顔を埋めた。
ソラは寝息を立ててすやすやと眠っている。
アルはそんなハルを見てからヒサメの方を向く。
「当然ボクもその対象にはならないわけだ。」
「無論だ。なりたいわけでもあるまい。」
「うん、ボクは無理だね。重たいのとか向いてない。でも、仮にボクがヒサメ国王の恩人になれば、その可能性はあったりする?」
アルの言葉にヒサメは表情を動かすことなく、ゆっくりと瞬きした。
「ないな。」
「だよね、それを聞いて安心した。」
アルは人懐っこい笑顔を浮かべた。


ヒサメの中で恩人枠というのがあったのだろうか。
そりゃあ、助けられるたびに恩人にしていたらキリがないだろうが、これからもきっとフブキを助けてくれる人はいると思う。
そうなれば、ヒサメはきっとその恩に報いるのだろう。
私は偶然にも、その枠に入っているだけ。
ハルは私のことをおかしいと言ったけど、ヒサメの執着には決定的に足りないものがある。
相手に同じものを求めない。
だからヒサメはフブキを無理やり国に連れ帰ったりしないし、私のことを部下だからと縛り付けたりはしない。
そんなことをすれば、父親と同じ道を辿ると心のどこかで感じているのかもしれない。
そんなヒサメを放っておけないのは、むしろ周りの方だ。
信頼されたい、信じて欲しい、一人でどこかへ行かないで欲しい。
ヒサメの周りの人たちはそう思っていてもなかなか口には出せない。
近づきすぎれば離れていくと思うから。
逃げられないと知っているなら、なんて言っておいてヒサメの方がきっと私を置いていくだろうから。
だから、私は怖くもなんともないんだ。


「リビ殿、先ほどの続きは聞かせてもらえないのか?」
もふもふの尻尾が背中にぽふっと当たる。
ヒサメにとってはありきたりな誉め言葉だっただろうに、何を期待しているのだろう。
「フブキさんを一途に思い続けることが出来る人って、言いたかっただけです。」
「それは、紹介内容として適しているのか?」
「フブキさんのことを抜いてヒサメ様のことを語るわけにはいかないでしょ。一番じゃなくてもいい、と思えるか否か。ヒサメ様のお相手として成り立つのか見分けるには最適の一文だと思いますけどね。」
シグレも言っていたが、未来の妃には絶対に聞いておかなければならないことだ。
絶対にヒサメの一番にはなれないのだから。
「そんな一文がなくとも、こんな男はやめておけとオレも思うがな。貴族の令嬢の皆様は、オレが何をしてきたか知るはずもない。親父を殺す以前より、もっと多くを手にかけている。王になるために、それに必要なことはどんなことでもやってきた。そんなオレの手は、穢れを知らない者に触れてはならない。」

焚火を見つめるヒサメ同様に、私も焚火を眺める。
アルはいつの間にか寝てしまっていて、ハルもソラに抱き着いたまま動かない。
火のパチパチとした音と、木々の揺れる音だけがこの空間にある。

「皆が皆、おきれいな訳じゃないと思いますけどね。勝手な貴族のイメージですが、賄賂や裏金は当たり前。周りを蹴落としてでも王族と懇意にしたい人で溢れている。金の力で他人を動かしてあくどいことに手を染めて。そんな親の背を見て育つ令嬢方もきっといます。」
「酷いイメージだな、キミの貴族は。」
「例えそんな親を見て育っても、揺らがない自分の意思がある令嬢ならいいかもしれませんね。本当に何もかも知らない令嬢が妃なんてやっていけないと思いますし。」
「キミはオレに貴族相手との結婚を望むか?」

突然の問いに私はヒサメの顔を見た。
表情はあまり動かないが、耳が少し傾いているように見える。

「え、いや、それはヒサメ様次第なのでは。私は、私やシグレさんたちはヒサメ様がいいなって思う人と結婚して欲しいですよ。」
「そんな相手が候補の中にいると思うのか?そもそも、今回の封印でオレが死ぬのなら婚約など無意味だ。」
そんな弱気なことを言うものだから、私はヒサメの背中をそれなりの強さで叩いた。
ヒサメは想定外だったのか、少し驚いて耳を立てている。
「私には尻尾がないので拳でやらせてもらいました。死なない方法を探すために夜明けの国に向かってるんでしょうが。そんな後ろ向きなことを言うほど婚約が嫌ですか。それならしなくていいです、そんな婚約。相手の令嬢も一番目になれない上に投げやりなこんな男が婚約者なんて可哀想だし。」

勢いで強い口調で言ってしまった。
ヒサメに死ぬなんて嘘でも言って欲しくなかった。
私には、死ぬなって言ったその口で。

いくらなんでもさすがに怒られるかな。
俯いているヒサメの様子を伺おうとすると、小刻みに肩が揺れている。
顔を覗き込めば、口元を押さえて笑っていた。

「ああ、そうだなキミの言う通りだ。オレとの婚約など可哀想だ、だから全て白紙に戻す。しなくていいってリビ殿が言ったのだとシグレたちには伝えよう。」
「ちょっと待ってください、それは言い方に気を付けてください本当に。」
「一言一句そのままだ、嘘偽りない真実だろう。」

笑っているせいだろうか、尻尾がかすかに揺れている。
こうやって笑っててほしいって、私もシグレたちも・・・。
いや、私自身が思っているんだ。


「あなたたちいつまで喋ってるつもり?明日も早いんだからさっさと休んでくれる?むず痒い会話聞かされるこっちの身にもなってちょうだい。」

もぞもぞと動いたハルに怒られた。
確かに少しうるさかったかもしれない。
私とヒサメは顔を見合わせてから目を閉じた。
モンスターが来るかもしれないから完全には眠れないけど、ヒサメがいるのだから何も恐れることはない。

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。 ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。 だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。 第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。 第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。