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夜明けの国
負の魔力
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シュマの言っていたことは気になるが、今はヒサメのことが心配だ。
私は、片膝をついて胸を押さえるヒサメに近づく。
「ヒサメ様、どのように痛みますか。」
私が声をかけると、ヒサメは一瞬こちらを向いて目を逸らした。
「心臓が圧迫されるような苦しさがある。耐えられぬほどではないが、魔法が発動しなかったことも、気掛かりだ。」
ヒサメが立ち上がると、ベルへがその体を支えるように手を添えた。
「ヒサメ様、一度建物の中へ入りましょう。もしまた魔獣が来ても、この建物であれば多少は凌げます。」
「そうだな。すまない、ベルへ。」
「何も謝ることなどありません。さぁ、リビさんたちも中へ。」
ベルへは私に柔らかい表情を向けた。
魔獣を目の前で殺した私にそんな顔を向けられるなんて、ベルへさんはできた人だ。
私はヒサメやベルへが建物の中に入って行く背中を眺める。
そして、10体の魔獣の遺体が転がる地面を見回した。
私が、殺した。
拳を握りしめる私の肩に手を置いたのはハルだった。
「ハルさん、私の記憶を見ましたね?」
「・・・話を聞くよりも手っ取り早いと思ったの。闇の神との会話を、全部見たわ。だから、お嬢さんのこの行動は間違ってない。」
私が魔獣を殺す判断をハルが肯定するのは当然に思えた。
私と神の会話を覗いたのならなおさらだ。
「間違いとか、正しいとか、そんなことより。殺す選択ができた自分に呆れています。神はここまで見抜いていたんでしょうか。私が誰かを殺すのが怖いのは、それが自分のせいになるのが怖いだけだって。でも、それが神に命じられた役割なら神のせいにできるから、残酷な決断すら容易にできるって。」
結局、私という人間は自分が責任をとるのが怖いだけなのだと、神は見抜いて。
そんなことを考えている私の背中に物凄い衝撃が走った。
ハルの手のひらで叩かれたようだ。
「痛・・・・・・。力加減知らないんですか?」
「生きていれば誰しも、誰かのせいにしたくなる時があるわ。親や兄弟、友人、自分以外のすべて、そして神のせいにするのよ。いいじゃない、それで立っていられるのなら。立ち上がれるのなら。心の中でどれだけ責任転嫁したって、許されるわ。」
許される?誰に許されるのだろうか。誰がこんな私を許してくれるのか。
神のせいだと思うだけで、残酷な行動をすることができる私を、誰が。
「キュ!」
私の手を掴んだのはソラだ。
建物に入ろう、と手を引っ張っている。
「ソラ。」
「キュウ?」
首を傾げるソラは私が話すのを待っている。
ソラは私が魔獣を殺すのを見てどう思ったの。
私のこと、恐くなったりしてないの。
今まで通りの私のように接してくれるの。
そんなこと、ソラに聞くことは出来なかった。
ソラがしっかりと私の手を握っているから、聞けなかった。
「そうだね、入ろうか。ヒサメ様も心配だからね。」
「キュ!」
私は扉に向かって歩き出す。
そんな私の隣をハルとソラは歩いてくれる。
だから、今私が俯きたい気持ちはどうでもいい。
自分の中にあった残虐性に戸惑っている時間はない。
「とりあえず、王子様の現状を把握するところからね。」
「はい、今はそれが第一です。」
建物の中の休憩場所とされている部屋に神官たちは集まっていた。
ここなら横になれるスペースや座れる椅子もある。
魔獣との戦いで怪我をした神官は、この夜明けの国にいる医師が診てくれている。
そして、ヒサメも同様に医師が診察をし終わったところだった。
「負の魔力を取り込んでいるなど、聞いたことがありません。これは、私の手に負えるようなものではないようです。申し訳ありません。」
「いや、分かっていたことだ・・・手間を取らせた。すまない。」
ヒサメは医師にそう告げると苦しそうに胸を押さえる。
「ヒサメ様、横になられてください。対処法が分からない以上、できるだけ動かない方が。」
「休んでいる場合ではない。今後のことを話さなくては。そうだろう、リビ殿。」
ベルへに支えられるヒサメの元へと向かう私が視界に入ったようで、こちらに声がかかる。
私は頷いて、それから神官たちすべてに話を聞いてもらうことになった。
ドクヘビという堕ちた悪魔の存在について。
ブルームーンドラゴンの殺害や、グウル国王の殺人未遂に関わっていること。
そして、今回の魔獣の暴走も関連していること。
にわかには信じがたいという表情を浮かべる神官たちは顔を見合わせる。
その状態になることは想定内だ。
今は、100パーセントを信じてもらう必要はない。
「先ほどのシュマと名乗る女性の口ぶりからして、魔獣はあれだけではないはずです。再びこの夜明けの国が襲撃される可能性もありますし、警戒しておくことが必要です。」
私の言葉に戸惑いながらも頷いてくれる神官の皆さんに感謝しなくては。
そこに、扉からアルが入ってきた。
「シュマって人を追いかけてたんだけど、そこらじゅうに魔獣がいて追いつけなかった。やっぱり、魔獣は10体だけじゃないよ。」
アルは息を切らしながら私の隣に来た。
「堕ちた悪魔は身体能力も人並み外れてるみたい。頑張って飛んだんだけど、ボクの体力じゃ相手にならない。戻ってくる時に他の地域を見たけど、色んな種類の魔獣が暴走させられてる。」
アルの言葉にベルへが立ち上がる。
「もし魔獣が町や村に向かってしまえば大変なことになります。周辺の町には夜明けの国に避難するよう呼びかけたほうが良いかもしれません。ここら辺で頑丈なのはこの神殿ですから。」
ベルへの言葉に他の神官たちは行動しだした。
近辺の町の人への避難勧告と、周辺の魔獣の情報をいち早く把握するためだ。
ベルへは動こうと立ち上がりはしたが、ヒサメを心配そうに見下ろしている。
「オレのことはいい。ベルへが行けば町の人も安心するだろう。」
「町の人たちの避難を済ませたらすぐに戻ります。ヒサメ様、無理をなさらないでくださいね。」
「分かったから。ベルへはオレをいくつだと思ってるんだ。」
ヒサメが力なく笑えばベルへは心配そうに無理やり微笑んだ。
「いくつだろうと関係ありませんよ。それでは、行って参ります。」
ベルへの背を眺めるヒサメは、苦しそうに息を吐く。
ベルへの手前、平気そうに振舞っていたかったのだろう。
柱にもたれかかりながら、ヒサメは私を見上げた。
「気づいたことは何でも言ってくれ。キミならこれも、なんとかできるかもしれない、だろ?」
ヒサメは胸を押さえながら、息を乱す。
額からは汗が溢れていて、状態が悪いのは誰の目から見ても明らかだ。
「シュマはヒサメ様に触れることによって、負の魔力を取り込ませたってことですよね。医師の見解からすれば、負の魔力を取り込んでいる症例を見たことがない。つまり、基本的に下界の者は負の魔力を取り込める作りはしていないってことですよね?」
空気中には光の魔力と闇の魔力、そして負の魔力と正の魔力が混在しているわけだ。
光魔法と自然魔法の者は、光の魔力を吸収することで回復できる。
闇魔法の者は、闇の魔力で回復することができる。
魔力回復薬をつかった際には、その空気中に含まれる魔力を吸収する速度が急激に上昇することによって、魔力を回復することができる。それに加えて、回復薬に含まれる魔力を多少取り入れることも可能だ。
「魔力増幅や回復薬を使うことによって、今取り込んでいる負の魔力を押し出すことはできないでしょうか。」
そんな私の言葉を聞いていた医師が魔力回復薬を持ってきてくれた。
ヒサメはその魔力回復薬を受け取って、口に含む。
しかし、ヒサメはその瓶を落としてさらに苦しみだした。
「ヒサメ様!!」
近づこうとしたが、ヒサメはそれを手で制した。
「・・・この手段は、使えないようだ。おそらく、この回復薬によって空気中の負の魔力をも取り込める体になっているのかもしれない。」
ヒサメの体に負の魔力が取り込まれていることによって、その空間が出来てしまっているというのか。
それなら、負の魔力を取り除く方法を探すしかないってことなのか。
でも、どうやって?
このまま取り込んではいけない負の魔力を体に留めておけば、他の魔獣と同じようにもがき苦しむことになる。
いったい、どうすれば。
目の前で苦しむヒサメを救うために必要なものは。
「魔光石、もしくは魔守石はどうでしょうか。魔力を吸収する特徴があるなら、負の魔力の吸収をすることも可能ではないでしょうか。魔力コントロールに困難な子供に持たせて魔力を安定させようってビルさんが考えていたように、それを応用させて負の魔力を取り除くことは出来ないでしょうか。」
無理やり取り込ませた負の魔力がヒサメの体に馴染んでいる訳では無いはず。
それならば、吸収する鉱石に負の魔力を引き出すことが出来るのでは。
私の言葉にハルが答える。
「魔光石や魔守石があらゆる魔力を吸収することは証明されてる。あの女は人型の器は複雑だと言っていたから、魔獣よりも負の魔力を取り除ける可能性は高いわ。」
ハルの言葉に頷いて、アルはそれに付け加える。
「もし、その鉱石で負の魔力を引きずり出せたとして。さっきみたいに回復薬によって空気中の負の魔力を取り込んでしまう体になってたらまずいんじゃない?物理的な穴が開いている訳じゃなくとも、本来は取り込まない負の魔力が入ってしまってる訳だし。」
アルの言葉も一理ある。
だとしたら負の魔力を取り除くことと、本来の闇の魔力だけを吸収する器に戻す必要がある。
「光魔法の治癒で、元の器の状態に戻すことは出来ないでしょうか。」
私の提案にハルとアルは顔を見合わせる。
「確かに光魔法は外傷や内傷を治癒することができる。でも、魔力の器の回復なんて見たことも聞いたこともない。だけど、やってみる価値はあると思う。」
アルはそう言うとヒサメの胸に手を当てた。
「ヒサメ国王、触れたほうが分かりやすいから触るね。」
「ああ…。」
「確かに不安定な負の魔力が内側にある。これを完全に取り除いてから治癒魔法を試してみよう。そのために、鉱石が必要だね。」
魔守石を使った研究をしていた白銀の国なら鉱石が手に入る。
それに、鉱石加工の職人であるビルたちもいる。
「私は白銀の国に行ってきます。ハルさんとアルさんはヒサメ様をお願いします。」
ハルとアルはしっかりと頷いてくれた。
ヒサメはそんな私を見上げて、そうして目を伏せた。
「よろしく頼む、リビ殿。」
「はい、すぐに戻ります。」
私はソラと共に夜明けの国を出発した。
ヒサメが私に何か思うところがあったとしても関係ない。
彼の命が最優先だ。
そこだけは揺らぐつもりはない。
私は、片膝をついて胸を押さえるヒサメに近づく。
「ヒサメ様、どのように痛みますか。」
私が声をかけると、ヒサメは一瞬こちらを向いて目を逸らした。
「心臓が圧迫されるような苦しさがある。耐えられぬほどではないが、魔法が発動しなかったことも、気掛かりだ。」
ヒサメが立ち上がると、ベルへがその体を支えるように手を添えた。
「ヒサメ様、一度建物の中へ入りましょう。もしまた魔獣が来ても、この建物であれば多少は凌げます。」
「そうだな。すまない、ベルへ。」
「何も謝ることなどありません。さぁ、リビさんたちも中へ。」
ベルへは私に柔らかい表情を向けた。
魔獣を目の前で殺した私にそんな顔を向けられるなんて、ベルへさんはできた人だ。
私はヒサメやベルへが建物の中に入って行く背中を眺める。
そして、10体の魔獣の遺体が転がる地面を見回した。
私が、殺した。
拳を握りしめる私の肩に手を置いたのはハルだった。
「ハルさん、私の記憶を見ましたね?」
「・・・話を聞くよりも手っ取り早いと思ったの。闇の神との会話を、全部見たわ。だから、お嬢さんのこの行動は間違ってない。」
私が魔獣を殺す判断をハルが肯定するのは当然に思えた。
私と神の会話を覗いたのならなおさらだ。
「間違いとか、正しいとか、そんなことより。殺す選択ができた自分に呆れています。神はここまで見抜いていたんでしょうか。私が誰かを殺すのが怖いのは、それが自分のせいになるのが怖いだけだって。でも、それが神に命じられた役割なら神のせいにできるから、残酷な決断すら容易にできるって。」
結局、私という人間は自分が責任をとるのが怖いだけなのだと、神は見抜いて。
そんなことを考えている私の背中に物凄い衝撃が走った。
ハルの手のひらで叩かれたようだ。
「痛・・・・・・。力加減知らないんですか?」
「生きていれば誰しも、誰かのせいにしたくなる時があるわ。親や兄弟、友人、自分以外のすべて、そして神のせいにするのよ。いいじゃない、それで立っていられるのなら。立ち上がれるのなら。心の中でどれだけ責任転嫁したって、許されるわ。」
許される?誰に許されるのだろうか。誰がこんな私を許してくれるのか。
神のせいだと思うだけで、残酷な行動をすることができる私を、誰が。
「キュ!」
私の手を掴んだのはソラだ。
建物に入ろう、と手を引っ張っている。
「ソラ。」
「キュウ?」
首を傾げるソラは私が話すのを待っている。
ソラは私が魔獣を殺すのを見てどう思ったの。
私のこと、恐くなったりしてないの。
今まで通りの私のように接してくれるの。
そんなこと、ソラに聞くことは出来なかった。
ソラがしっかりと私の手を握っているから、聞けなかった。
「そうだね、入ろうか。ヒサメ様も心配だからね。」
「キュ!」
私は扉に向かって歩き出す。
そんな私の隣をハルとソラは歩いてくれる。
だから、今私が俯きたい気持ちはどうでもいい。
自分の中にあった残虐性に戸惑っている時間はない。
「とりあえず、王子様の現状を把握するところからね。」
「はい、今はそれが第一です。」
建物の中の休憩場所とされている部屋に神官たちは集まっていた。
ここなら横になれるスペースや座れる椅子もある。
魔獣との戦いで怪我をした神官は、この夜明けの国にいる医師が診てくれている。
そして、ヒサメも同様に医師が診察をし終わったところだった。
「負の魔力を取り込んでいるなど、聞いたことがありません。これは、私の手に負えるようなものではないようです。申し訳ありません。」
「いや、分かっていたことだ・・・手間を取らせた。すまない。」
ヒサメは医師にそう告げると苦しそうに胸を押さえる。
「ヒサメ様、横になられてください。対処法が分からない以上、できるだけ動かない方が。」
「休んでいる場合ではない。今後のことを話さなくては。そうだろう、リビ殿。」
ベルへに支えられるヒサメの元へと向かう私が視界に入ったようで、こちらに声がかかる。
私は頷いて、それから神官たちすべてに話を聞いてもらうことになった。
ドクヘビという堕ちた悪魔の存在について。
ブルームーンドラゴンの殺害や、グウル国王の殺人未遂に関わっていること。
そして、今回の魔獣の暴走も関連していること。
にわかには信じがたいという表情を浮かべる神官たちは顔を見合わせる。
その状態になることは想定内だ。
今は、100パーセントを信じてもらう必要はない。
「先ほどのシュマと名乗る女性の口ぶりからして、魔獣はあれだけではないはずです。再びこの夜明けの国が襲撃される可能性もありますし、警戒しておくことが必要です。」
私の言葉に戸惑いながらも頷いてくれる神官の皆さんに感謝しなくては。
そこに、扉からアルが入ってきた。
「シュマって人を追いかけてたんだけど、そこらじゅうに魔獣がいて追いつけなかった。やっぱり、魔獣は10体だけじゃないよ。」
アルは息を切らしながら私の隣に来た。
「堕ちた悪魔は身体能力も人並み外れてるみたい。頑張って飛んだんだけど、ボクの体力じゃ相手にならない。戻ってくる時に他の地域を見たけど、色んな種類の魔獣が暴走させられてる。」
アルの言葉にベルへが立ち上がる。
「もし魔獣が町や村に向かってしまえば大変なことになります。周辺の町には夜明けの国に避難するよう呼びかけたほうが良いかもしれません。ここら辺で頑丈なのはこの神殿ですから。」
ベルへの言葉に他の神官たちは行動しだした。
近辺の町の人への避難勧告と、周辺の魔獣の情報をいち早く把握するためだ。
ベルへは動こうと立ち上がりはしたが、ヒサメを心配そうに見下ろしている。
「オレのことはいい。ベルへが行けば町の人も安心するだろう。」
「町の人たちの避難を済ませたらすぐに戻ります。ヒサメ様、無理をなさらないでくださいね。」
「分かったから。ベルへはオレをいくつだと思ってるんだ。」
ヒサメが力なく笑えばベルへは心配そうに無理やり微笑んだ。
「いくつだろうと関係ありませんよ。それでは、行って参ります。」
ベルへの背を眺めるヒサメは、苦しそうに息を吐く。
ベルへの手前、平気そうに振舞っていたかったのだろう。
柱にもたれかかりながら、ヒサメは私を見上げた。
「気づいたことは何でも言ってくれ。キミならこれも、なんとかできるかもしれない、だろ?」
ヒサメは胸を押さえながら、息を乱す。
額からは汗が溢れていて、状態が悪いのは誰の目から見ても明らかだ。
「シュマはヒサメ様に触れることによって、負の魔力を取り込ませたってことですよね。医師の見解からすれば、負の魔力を取り込んでいる症例を見たことがない。つまり、基本的に下界の者は負の魔力を取り込める作りはしていないってことですよね?」
空気中には光の魔力と闇の魔力、そして負の魔力と正の魔力が混在しているわけだ。
光魔法と自然魔法の者は、光の魔力を吸収することで回復できる。
闇魔法の者は、闇の魔力で回復することができる。
魔力回復薬をつかった際には、その空気中に含まれる魔力を吸収する速度が急激に上昇することによって、魔力を回復することができる。それに加えて、回復薬に含まれる魔力を多少取り入れることも可能だ。
「魔力増幅や回復薬を使うことによって、今取り込んでいる負の魔力を押し出すことはできないでしょうか。」
そんな私の言葉を聞いていた医師が魔力回復薬を持ってきてくれた。
ヒサメはその魔力回復薬を受け取って、口に含む。
しかし、ヒサメはその瓶を落としてさらに苦しみだした。
「ヒサメ様!!」
近づこうとしたが、ヒサメはそれを手で制した。
「・・・この手段は、使えないようだ。おそらく、この回復薬によって空気中の負の魔力をも取り込める体になっているのかもしれない。」
ヒサメの体に負の魔力が取り込まれていることによって、その空間が出来てしまっているというのか。
それなら、負の魔力を取り除く方法を探すしかないってことなのか。
でも、どうやって?
このまま取り込んではいけない負の魔力を体に留めておけば、他の魔獣と同じようにもがき苦しむことになる。
いったい、どうすれば。
目の前で苦しむヒサメを救うために必要なものは。
「魔光石、もしくは魔守石はどうでしょうか。魔力を吸収する特徴があるなら、負の魔力の吸収をすることも可能ではないでしょうか。魔力コントロールに困難な子供に持たせて魔力を安定させようってビルさんが考えていたように、それを応用させて負の魔力を取り除くことは出来ないでしょうか。」
無理やり取り込ませた負の魔力がヒサメの体に馴染んでいる訳では無いはず。
それならば、吸収する鉱石に負の魔力を引き出すことが出来るのでは。
私の言葉にハルが答える。
「魔光石や魔守石があらゆる魔力を吸収することは証明されてる。あの女は人型の器は複雑だと言っていたから、魔獣よりも負の魔力を取り除ける可能性は高いわ。」
ハルの言葉に頷いて、アルはそれに付け加える。
「もし、その鉱石で負の魔力を引きずり出せたとして。さっきみたいに回復薬によって空気中の負の魔力を取り込んでしまう体になってたらまずいんじゃない?物理的な穴が開いている訳じゃなくとも、本来は取り込まない負の魔力が入ってしまってる訳だし。」
アルの言葉も一理ある。
だとしたら負の魔力を取り除くことと、本来の闇の魔力だけを吸収する器に戻す必要がある。
「光魔法の治癒で、元の器の状態に戻すことは出来ないでしょうか。」
私の提案にハルとアルは顔を見合わせる。
「確かに光魔法は外傷や内傷を治癒することができる。でも、魔力の器の回復なんて見たことも聞いたこともない。だけど、やってみる価値はあると思う。」
アルはそう言うとヒサメの胸に手を当てた。
「ヒサメ国王、触れたほうが分かりやすいから触るね。」
「ああ…。」
「確かに不安定な負の魔力が内側にある。これを完全に取り除いてから治癒魔法を試してみよう。そのために、鉱石が必要だね。」
魔守石を使った研究をしていた白銀の国なら鉱石が手に入る。
それに、鉱石加工の職人であるビルたちもいる。
「私は白銀の国に行ってきます。ハルさんとアルさんはヒサメ様をお願いします。」
ハルとアルはしっかりと頷いてくれた。
ヒサメはそんな私を見上げて、そうして目を伏せた。
「よろしく頼む、リビ殿。」
「はい、すぐに戻ります。」
私はソラと共に夜明けの国を出発した。
ヒサメが私に何か思うところがあったとしても関係ない。
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