144 / 169
反撃開始
弱さとは
しおりを挟む
次の国へと向かいつつ、私は中断してしまった話をアシャレラに聞くことにした。
「さっき言ってた悪魔の魔法は弱いってどういうことですか?」
「魔法自体の強さではなく、魔法の種類の強さが弱いって意味だよ。闇魔法はたくさんの種類が存在している。その中でも例えば白銀の王様の結界魔法。あれは桁違いに強い種類の魔法だね。闇の神が授けたとはいえ、応用の幅も広いだろ?当の本人が物理的に強いからあまり魔法に頼ってないみたいだけど、あの結界魔法ってもっと様々な場面で使える魔法だと思うんだよね。応用の幅が広いほど、便利なほど、強い種類だと思わない?」
確かにヒサメの魔法が強い種類だというのは分かる。
使い勝手がいいほどに強い魔法となるのだろうか。
「強い種類の魔法はそれだけ扱うのも難しいけどね。それこそ狼獣人以外を入れなくする結界なんて後継者の特訓が大変そうだ。逆にさ、弱い種類の魔法は制限があったり役に立てる幅が少なかったりする。ドウシュちゃんの魔法ってさ、対象の毒を割り出せる魔法なんだけど。あれって毒は分かっても対処法までは分からないんだよね。結局はその毒に対応する解毒方法を学んでいないと使えない訳だ。それをきちんと学んでいるドウシュちゃんは魔法を上手く使っているみたいだけど全員がそうできるわけじゃないでしょ。」
ドウシュはヒバリから植物の知識を学んでいた。
それ以前からも自分自身で努力していた可能性は高い。
生前の彼は、妹のために頑張れる心優しい人だったのだから。
「悪魔なんてさ、ただでさえ努力からかけ離れてるわけ。それに限らず悪魔が持ちうる闇魔法は誓約によって制限されてるのさ。それをいかに上手く使って人間から負の魔力を搾り取れるか。ある意味、努力できている奴が生き残っているのかもしれないな。」
人間から負の魔力を取っていないアシャレラが言うと違和感がある。
「でも、シュマの負の魔力を付与する魔法は強いじゃないですか。今私たちはそのせいで振り回されているんでしょ。」
「その子の魔法はさ、今まで何十年と集めてきた下界の者の負の魔力を利用してるんだったでしょ。つまり、長い年月をかけなければ使えないほどの魔法なのさ。ちょっとずつちょっとずつ国を移動しながら負の魔力を集めて、ようやくその計画を開始した。まぁ、年月をかけられるのは堕ちた悪魔の特権だけどね。」
寿命が人よりも長いから成立する魔法ってことになる。
でも、成立した時点で厄介なのは一緒だ。
「それならルージの操りの魔法はどうです?静寂の海のクレタさんのときも、黄金の国のグウル国王のときも、もっと被害が拡大してもおかしくなかった。それでも操りの魔法は他と比べると弱いってことですか?」
私の問いにアシャレラは頬杖をつく。
「俺も正確に魔法を把握できるわけじゃないけどね。その悪魔の魔法は操りではないと思うよ。」
「どういうことです?」
「ざっと話を聞いた限り、その魔法をかけるためには直接話をする必要がある。そして、相手に興味を持ってもらう必要がある。俺の印象としては欲をかきたてる魔法、という方がしっくりくるね。だからこそ唆して毒薬を飲ませたり、元々ドラゴンに興味のあったグウル国王が魔法をかける対象になったのかもしれない。事前調べが必要だったり、長々と話をしなくちゃならなかったり、やっぱり弱い魔法っていうのは面倒な行程があるってことだ。」
アシャレラはそう言って私の肩に腕を回す。
「リビちゃんは食べるだけでその効果を付与できる。闇の神が与えた超つよーい魔法ってこと。」
「私だって今までこの魔法を使いこなすの大変だったんですよ。そもそも、効果だって植物図鑑で勉強したんですから!」
「リビちゃんが苦労してないなんて一言も言ってないでしょ。きみの体見れば、どれだけ死にかけてきたかなんて明らかだ。神様っていうのは残酷だよね、悪魔の俺の方がリビちゃんのこと心配するくらいにね。」
遠い目をしているアシャレラの腕をどけつつ、私はその横顔を見る。
「そういえばアシャレラの魔法を聞いていませんでした。一心同体の私を通してならアシャレラの魔法は使えますよね?」
「使えるか使えないかという問いなら前者だね。俺の体ってもう全てリビちゃんのだからさ。」
「その言い方、なんとかなりませんか。」
私だけではなく、アルもヒメもうわ・・・という顔をしている。
「俺は事実を言ってるだけだよ。悪魔の契約はこの身すべてを契約者のために使うことが条件なんだからね。そういえばリビちゃん、いつの間にか俺のこと呼び捨てで呼んでくれてるね。嬉しいな、距離を縮める気になったの?」
腰に回そうとしてくる腕を払いながら、下を見下ろす。
「名前長いので、さん付けするのが面倒になっただけです。かまいませんか?」
「勿論いいよ。リビちゃんのお好みでたくさん呼んでね。」
わざとらしく語尾にハートを付けたような言い方を無視しながらふと思う。
話を逸らされた。
アシャレラは自分の魔法の話をしたくないのかもしれない。
私がちゃんと聞けば答えなくてはいけないだろうけど、今無理に聞き出すこともないだろう。
上から見える大きな国にもうすぐ到着する。
太陽の国、ここでヒカルに協力を要請するつもりだ。
まずは、魔獣対策と魔法暴走対策をみんなに伝えなければ。
上空から太陽の国の門の前。
たくさんの騎士が魔獣の侵入を阻止しているのが目に入る。
大きな国である太陽の国は、騎士の数も他国より多い。
そして、魔獣を足止めできるだけの強さがあるわけだ。
『自国でなんとかなるなら、俺たちの助けはいらないんじゃないか?』
ウミがそう言って踵を返そうとするので、背中をもふもふと叩く。
「そういう訳にはいきません。負の魔力の暴走を止める術は今のところその魔力を取り除くことだけ。それができるのも今私たちだけなんですから。とりあえず凍らせてください。」
『はいはい。』
バサリと大きな翼の影が太陽の門を覆い尽くす。
急に暗くなった上空を騎士の全員が見上げていることだろう。
次の瞬間、その大きな門を突き抜けるほどの魔法で地面も建物も凍りついていく。
そうして戦っていた魔獣も動けなくなり、言葉を失っている騎士たちの目の前にドラゴン4頭が降り立った。
「リビ!!」
駆け寄ってきてくれたのは当然ヴィントだ。
こんな大きなドラゴン4頭がいるところに平然と寄ってこれる人間はそういない。
「ヴィントさん、太陽の国は魔獣の侵入がないようですね。それならここで情報共有しますので、国王にはあなたが伝えて頂けますか。」
私が開口一番にそう言えば、ヴィントは一瞬だけ表情が固まった気がした。
だがすぐに頷いてくれる。
「ああ、分かった。」
私はヴィントに魔獣の暴走はなるべく私たちで対処することと、その影響で人間の魔法の暴走が起きていることを伝えた。
「ただ、太陽の国は魔獣によって外壁を壊されたりしていません。なので堕ちた悪魔たちが接触している可能性は低いとは思います。ですが、万が一魔法の暴走が多発した場合には水魔法の人間を集めて下さい。対象にとって安全ならいいので光魔法でもいいですが、今太陽の神殿はどうなっていますか?」
その問いにヴィントは困ったような顔をする。
「今太陽の神殿は2極化してる。これまでの聖女と神官の固定概念を壊そうとするヒカル派閥。これまで通り、光魔法を神格化する派閥だ。そして太陽の国の国民の大半が従来の考え方を推している。変わることを恐れている、というのが正しいかもしれない。」
太陽の国は光魔法を持つ人達を特別視して丁重に扱った。
転移してきた人間たちはとても魔法力が高く、聖女や神官にさせるためにあらゆることを援助した。
そうして彼らがその役目を担うために、彼らを隔離する。
祈りを捧げ続けることが素晴らしい役目だと教え続け、神殿から自由に出ることも叶わず、彼らはそうであることが正しいのだと刷り込まれるのだ。
そうして怪我をした人々を癒し、太陽の国の加護を強い状態に保つことこそ誉れであると崇められる。
加護が強ければ強いほどその中で暮らす自然魔法の人間は魔法が安定し加護の力を受けることができる。
光魔法があればあらゆる怪我を治せる、そしてその人間たちは常に太陽の国にいてくれる。
国民が考えているのは自分たちの安寧の暮らしであり、自分たちがこれまで通り何不自由なく生きていけることだけだ。
…光魔法の人達の安寧な暮らしはどこにあるのか。
国民たちの笑顔の裏で身を犠牲にしている光魔法の人間が本当に見えていない訳では無いだろう。
見ないふりをしてきたそれは、ヒカル達によって今可視化されているのだ。
「ウミ、ヴィントさんと共に太陽の国の中に入って貰えますか。」
『入ってどうするんだ?』
「ヴィントさんを王宮に送るだけでいいです。あなたほど大きければ国民は必ず気付く。守り神であるドラゴンが太陽の国の騎士を乗せていると。国王は当然、ヒカルさん側ですよね?」
ヴィントはそれに大きく頷く。
「リビと話した国王はあれから考えを変えていない。国民を守るために変わりたいと思い続けている。」
「それなら良かった。ついでに帰りにヒカルさんを乗せて帰ってきて下さい。ヒカルさんには封印を手伝ってもらわないといけないので。」
多くの人が目にすることになる。
守り神のドラゴンに乗る聖女の姿を。
誰もがきっとその姿に畏怖と憧れを抱く。
ヒカルを支持したいと思う人間が必ず増える。
ヒカルが乗っていれば神秘的にも映るかもしれない。
今更卑屈になるわけではないが、私と違って、という言葉が後ろに付くだろう。
『今は人間同士が争ってる場合ではないのにな。周りが見えていない人間どもの家でも凍らせとくか?』
「ウミの判断に任せます。」
『ほう、柔軟になってきたじゃないか騎士様。』
ふと、ヴィントが何故か驚いているのが目に入る。
「今気付いたが、ドラゴンの声が俺にも聞こえる。」
「ああ、特殊言語が強くなってまして。」
「それに、騎士様って…?」
「ヒサメ様の騎士になりました。」
ヴィントはなにやら複雑な顔をして、それから深く息を吸った。
「リビは凄いな、どんどん前に進んでる。その点、俺は何も変われていない。」
「何言ってるんですか、この国を騎士として変わらず守っている。魔獣の侵入だって防げている。それに、こうやって駆け寄ってきてくれたじゃないですか。変わればいいってもんでもないですよ。」
私がそう言って笑えば、ヴィントも笑顔になってくれた。
ウミの背中に乗ったヴィントは私の方を見下ろしている。
「リビ、やっぱりまた無茶したんだな。言うか迷ったが、どうしても気になった。その腕は、大丈夫なのか?」
「痛みもなくて問題ありません。そうだ、ドウシュさんに会いましたよ!ヴィントさんとエルデさんのことちゃんと覚えてました。今は協力してもらっています、いつかまた会えるといいですね。」
「…そうだな、そうなれば嬉しい。リビも、また来てくれるか?」
なんだかいつもよりも不安そうな表情を浮かべている。
私はその表情に気付かないフリをしながら微笑んだ。
「はい、いつかまた。」
ヴィントを乗せたウミは王宮へと飛んでいく。
すると何故か姿を消していたヒメとアルがそろそろと姿を現した。
「なんで隠れたんですか?」
「邪魔かなって。」
アルがそんなことを言うのでアシャレラも同意する。
「翼のエルフ二人が消えたから俺も空気を読んで黙ってたのよ。なーにあの騎士、特別な人?恋バナする?」
「もうとっくに振られて吹っ切れていますので。」
大袈裟に驚いた顔をするアシャレラは私の肩に腕を回す。
「俺の胸貸してあげるね。リビちゃんも人並みに恋できる乙女だったことが衝撃だけど。」
「1000年以上思い続けてるアシャレラより衝撃的でもないでしょ。」
離れようとするとアシャレラは引き寄せて耳許で囁く。
「痛くないじゃなくて、痛みを感じないでしょ。あの騎士絶対気付いてたよ?もっと上手に誤魔化さないとね。」
「アシャレラもでしょ、それは。」
自分の魔法を気づかせたくない、そうでしょ。
そんな私の思考を読むようにアシャレラは不敵な笑みを浮かべる。
その瞬間、後ろから気配を感じて思わずそれを手で掴んだ。
手で握ったのは酒瓶で、その視線の先には酔った男がふらふらと立っている。
外に出るのは危ないと騎士に言われているはずなのに。
守られていると自覚がない人間はどこにでもいる。
「魔獣騒ぎはお前の仕業か?お前のような人間のせいでこの太陽の国はめちゃくちゃだ。今まで平穏だったのに、お前のような闇魔法なんかがこの国に来たせいでなにもかもおかしくなっちまったんだよ!!」
周りの騎士は男を止めるか迷っているようにも見えた。
そういえば門番も私に好意的だったことはないな。
するとアシャレラが私の肩を掴む。
「俺の隠し事、リビちゃんはきっと無理に聞き出そうとはしないよね。そんなリビちゃんだからこそ、俺は放っておけない。瓶を持ってる手をぎゅってして。」
アシャレラに言われるがまま手を握れば、酒瓶は粉々に崩れ落ちていく。
いとも簡単に、脆いクッキーみたいに。
それを見ていた男も騎士も顔面蒼白になり、一歩後ずさる。
丁度いいなと思った。
「あなた達がどう考えようと、私は魔獣を鎮めに来たんです。邪魔だけはしないで下さい。」
その言葉に、剣に手をかける騎士までいる。
私と戦うつもりなの?国王側の私と?
最悪眠らせるか、と思ったその時。
上空からウミが戻ってきた。
『頭が高いな、人間ども。』
顔が怖いウミに凄まれた男も騎士も膝をつく。
『聖女連れてきたぞ、早く乗れリビ。』
ウミが名前を呼んだのはおそらく周りに聞かせるためだ。
誰が守り神と共にいるのか知らしめるためだ。
ウミに乗っていたヒカルもこちらに笑顔で手を振っている。
「リビさん、行きましょう!」
そうして手を伸ばすヒカルに引き上げられ、私たちは太陽の国を後にした。
「さっき言ってた悪魔の魔法は弱いってどういうことですか?」
「魔法自体の強さではなく、魔法の種類の強さが弱いって意味だよ。闇魔法はたくさんの種類が存在している。その中でも例えば白銀の王様の結界魔法。あれは桁違いに強い種類の魔法だね。闇の神が授けたとはいえ、応用の幅も広いだろ?当の本人が物理的に強いからあまり魔法に頼ってないみたいだけど、あの結界魔法ってもっと様々な場面で使える魔法だと思うんだよね。応用の幅が広いほど、便利なほど、強い種類だと思わない?」
確かにヒサメの魔法が強い種類だというのは分かる。
使い勝手がいいほどに強い魔法となるのだろうか。
「強い種類の魔法はそれだけ扱うのも難しいけどね。それこそ狼獣人以外を入れなくする結界なんて後継者の特訓が大変そうだ。逆にさ、弱い種類の魔法は制限があったり役に立てる幅が少なかったりする。ドウシュちゃんの魔法ってさ、対象の毒を割り出せる魔法なんだけど。あれって毒は分かっても対処法までは分からないんだよね。結局はその毒に対応する解毒方法を学んでいないと使えない訳だ。それをきちんと学んでいるドウシュちゃんは魔法を上手く使っているみたいだけど全員がそうできるわけじゃないでしょ。」
ドウシュはヒバリから植物の知識を学んでいた。
それ以前からも自分自身で努力していた可能性は高い。
生前の彼は、妹のために頑張れる心優しい人だったのだから。
「悪魔なんてさ、ただでさえ努力からかけ離れてるわけ。それに限らず悪魔が持ちうる闇魔法は誓約によって制限されてるのさ。それをいかに上手く使って人間から負の魔力を搾り取れるか。ある意味、努力できている奴が生き残っているのかもしれないな。」
人間から負の魔力を取っていないアシャレラが言うと違和感がある。
「でも、シュマの負の魔力を付与する魔法は強いじゃないですか。今私たちはそのせいで振り回されているんでしょ。」
「その子の魔法はさ、今まで何十年と集めてきた下界の者の負の魔力を利用してるんだったでしょ。つまり、長い年月をかけなければ使えないほどの魔法なのさ。ちょっとずつちょっとずつ国を移動しながら負の魔力を集めて、ようやくその計画を開始した。まぁ、年月をかけられるのは堕ちた悪魔の特権だけどね。」
寿命が人よりも長いから成立する魔法ってことになる。
でも、成立した時点で厄介なのは一緒だ。
「それならルージの操りの魔法はどうです?静寂の海のクレタさんのときも、黄金の国のグウル国王のときも、もっと被害が拡大してもおかしくなかった。それでも操りの魔法は他と比べると弱いってことですか?」
私の問いにアシャレラは頬杖をつく。
「俺も正確に魔法を把握できるわけじゃないけどね。その悪魔の魔法は操りではないと思うよ。」
「どういうことです?」
「ざっと話を聞いた限り、その魔法をかけるためには直接話をする必要がある。そして、相手に興味を持ってもらう必要がある。俺の印象としては欲をかきたてる魔法、という方がしっくりくるね。だからこそ唆して毒薬を飲ませたり、元々ドラゴンに興味のあったグウル国王が魔法をかける対象になったのかもしれない。事前調べが必要だったり、長々と話をしなくちゃならなかったり、やっぱり弱い魔法っていうのは面倒な行程があるってことだ。」
アシャレラはそう言って私の肩に腕を回す。
「リビちゃんは食べるだけでその効果を付与できる。闇の神が与えた超つよーい魔法ってこと。」
「私だって今までこの魔法を使いこなすの大変だったんですよ。そもそも、効果だって植物図鑑で勉強したんですから!」
「リビちゃんが苦労してないなんて一言も言ってないでしょ。きみの体見れば、どれだけ死にかけてきたかなんて明らかだ。神様っていうのは残酷だよね、悪魔の俺の方がリビちゃんのこと心配するくらいにね。」
遠い目をしているアシャレラの腕をどけつつ、私はその横顔を見る。
「そういえばアシャレラの魔法を聞いていませんでした。一心同体の私を通してならアシャレラの魔法は使えますよね?」
「使えるか使えないかという問いなら前者だね。俺の体ってもう全てリビちゃんのだからさ。」
「その言い方、なんとかなりませんか。」
私だけではなく、アルもヒメもうわ・・・という顔をしている。
「俺は事実を言ってるだけだよ。悪魔の契約はこの身すべてを契約者のために使うことが条件なんだからね。そういえばリビちゃん、いつの間にか俺のこと呼び捨てで呼んでくれてるね。嬉しいな、距離を縮める気になったの?」
腰に回そうとしてくる腕を払いながら、下を見下ろす。
「名前長いので、さん付けするのが面倒になっただけです。かまいませんか?」
「勿論いいよ。リビちゃんのお好みでたくさん呼んでね。」
わざとらしく語尾にハートを付けたような言い方を無視しながらふと思う。
話を逸らされた。
アシャレラは自分の魔法の話をしたくないのかもしれない。
私がちゃんと聞けば答えなくてはいけないだろうけど、今無理に聞き出すこともないだろう。
上から見える大きな国にもうすぐ到着する。
太陽の国、ここでヒカルに協力を要請するつもりだ。
まずは、魔獣対策と魔法暴走対策をみんなに伝えなければ。
上空から太陽の国の門の前。
たくさんの騎士が魔獣の侵入を阻止しているのが目に入る。
大きな国である太陽の国は、騎士の数も他国より多い。
そして、魔獣を足止めできるだけの強さがあるわけだ。
『自国でなんとかなるなら、俺たちの助けはいらないんじゃないか?』
ウミがそう言って踵を返そうとするので、背中をもふもふと叩く。
「そういう訳にはいきません。負の魔力の暴走を止める術は今のところその魔力を取り除くことだけ。それができるのも今私たちだけなんですから。とりあえず凍らせてください。」
『はいはい。』
バサリと大きな翼の影が太陽の門を覆い尽くす。
急に暗くなった上空を騎士の全員が見上げていることだろう。
次の瞬間、その大きな門を突き抜けるほどの魔法で地面も建物も凍りついていく。
そうして戦っていた魔獣も動けなくなり、言葉を失っている騎士たちの目の前にドラゴン4頭が降り立った。
「リビ!!」
駆け寄ってきてくれたのは当然ヴィントだ。
こんな大きなドラゴン4頭がいるところに平然と寄ってこれる人間はそういない。
「ヴィントさん、太陽の国は魔獣の侵入がないようですね。それならここで情報共有しますので、国王にはあなたが伝えて頂けますか。」
私が開口一番にそう言えば、ヴィントは一瞬だけ表情が固まった気がした。
だがすぐに頷いてくれる。
「ああ、分かった。」
私はヴィントに魔獣の暴走はなるべく私たちで対処することと、その影響で人間の魔法の暴走が起きていることを伝えた。
「ただ、太陽の国は魔獣によって外壁を壊されたりしていません。なので堕ちた悪魔たちが接触している可能性は低いとは思います。ですが、万が一魔法の暴走が多発した場合には水魔法の人間を集めて下さい。対象にとって安全ならいいので光魔法でもいいですが、今太陽の神殿はどうなっていますか?」
その問いにヴィントは困ったような顔をする。
「今太陽の神殿は2極化してる。これまでの聖女と神官の固定概念を壊そうとするヒカル派閥。これまで通り、光魔法を神格化する派閥だ。そして太陽の国の国民の大半が従来の考え方を推している。変わることを恐れている、というのが正しいかもしれない。」
太陽の国は光魔法を持つ人達を特別視して丁重に扱った。
転移してきた人間たちはとても魔法力が高く、聖女や神官にさせるためにあらゆることを援助した。
そうして彼らがその役目を担うために、彼らを隔離する。
祈りを捧げ続けることが素晴らしい役目だと教え続け、神殿から自由に出ることも叶わず、彼らはそうであることが正しいのだと刷り込まれるのだ。
そうして怪我をした人々を癒し、太陽の国の加護を強い状態に保つことこそ誉れであると崇められる。
加護が強ければ強いほどその中で暮らす自然魔法の人間は魔法が安定し加護の力を受けることができる。
光魔法があればあらゆる怪我を治せる、そしてその人間たちは常に太陽の国にいてくれる。
国民が考えているのは自分たちの安寧の暮らしであり、自分たちがこれまで通り何不自由なく生きていけることだけだ。
…光魔法の人達の安寧な暮らしはどこにあるのか。
国民たちの笑顔の裏で身を犠牲にしている光魔法の人間が本当に見えていない訳では無いだろう。
見ないふりをしてきたそれは、ヒカル達によって今可視化されているのだ。
「ウミ、ヴィントさんと共に太陽の国の中に入って貰えますか。」
『入ってどうするんだ?』
「ヴィントさんを王宮に送るだけでいいです。あなたほど大きければ国民は必ず気付く。守り神であるドラゴンが太陽の国の騎士を乗せていると。国王は当然、ヒカルさん側ですよね?」
ヴィントはそれに大きく頷く。
「リビと話した国王はあれから考えを変えていない。国民を守るために変わりたいと思い続けている。」
「それなら良かった。ついでに帰りにヒカルさんを乗せて帰ってきて下さい。ヒカルさんには封印を手伝ってもらわないといけないので。」
多くの人が目にすることになる。
守り神のドラゴンに乗る聖女の姿を。
誰もがきっとその姿に畏怖と憧れを抱く。
ヒカルを支持したいと思う人間が必ず増える。
ヒカルが乗っていれば神秘的にも映るかもしれない。
今更卑屈になるわけではないが、私と違って、という言葉が後ろに付くだろう。
『今は人間同士が争ってる場合ではないのにな。周りが見えていない人間どもの家でも凍らせとくか?』
「ウミの判断に任せます。」
『ほう、柔軟になってきたじゃないか騎士様。』
ふと、ヴィントが何故か驚いているのが目に入る。
「今気付いたが、ドラゴンの声が俺にも聞こえる。」
「ああ、特殊言語が強くなってまして。」
「それに、騎士様って…?」
「ヒサメ様の騎士になりました。」
ヴィントはなにやら複雑な顔をして、それから深く息を吸った。
「リビは凄いな、どんどん前に進んでる。その点、俺は何も変われていない。」
「何言ってるんですか、この国を騎士として変わらず守っている。魔獣の侵入だって防げている。それに、こうやって駆け寄ってきてくれたじゃないですか。変わればいいってもんでもないですよ。」
私がそう言って笑えば、ヴィントも笑顔になってくれた。
ウミの背中に乗ったヴィントは私の方を見下ろしている。
「リビ、やっぱりまた無茶したんだな。言うか迷ったが、どうしても気になった。その腕は、大丈夫なのか?」
「痛みもなくて問題ありません。そうだ、ドウシュさんに会いましたよ!ヴィントさんとエルデさんのことちゃんと覚えてました。今は協力してもらっています、いつかまた会えるといいですね。」
「…そうだな、そうなれば嬉しい。リビも、また来てくれるか?」
なんだかいつもよりも不安そうな表情を浮かべている。
私はその表情に気付かないフリをしながら微笑んだ。
「はい、いつかまた。」
ヴィントを乗せたウミは王宮へと飛んでいく。
すると何故か姿を消していたヒメとアルがそろそろと姿を現した。
「なんで隠れたんですか?」
「邪魔かなって。」
アルがそんなことを言うのでアシャレラも同意する。
「翼のエルフ二人が消えたから俺も空気を読んで黙ってたのよ。なーにあの騎士、特別な人?恋バナする?」
「もうとっくに振られて吹っ切れていますので。」
大袈裟に驚いた顔をするアシャレラは私の肩に腕を回す。
「俺の胸貸してあげるね。リビちゃんも人並みに恋できる乙女だったことが衝撃だけど。」
「1000年以上思い続けてるアシャレラより衝撃的でもないでしょ。」
離れようとするとアシャレラは引き寄せて耳許で囁く。
「痛くないじゃなくて、痛みを感じないでしょ。あの騎士絶対気付いてたよ?もっと上手に誤魔化さないとね。」
「アシャレラもでしょ、それは。」
自分の魔法を気づかせたくない、そうでしょ。
そんな私の思考を読むようにアシャレラは不敵な笑みを浮かべる。
その瞬間、後ろから気配を感じて思わずそれを手で掴んだ。
手で握ったのは酒瓶で、その視線の先には酔った男がふらふらと立っている。
外に出るのは危ないと騎士に言われているはずなのに。
守られていると自覚がない人間はどこにでもいる。
「魔獣騒ぎはお前の仕業か?お前のような人間のせいでこの太陽の国はめちゃくちゃだ。今まで平穏だったのに、お前のような闇魔法なんかがこの国に来たせいでなにもかもおかしくなっちまったんだよ!!」
周りの騎士は男を止めるか迷っているようにも見えた。
そういえば門番も私に好意的だったことはないな。
するとアシャレラが私の肩を掴む。
「俺の隠し事、リビちゃんはきっと無理に聞き出そうとはしないよね。そんなリビちゃんだからこそ、俺は放っておけない。瓶を持ってる手をぎゅってして。」
アシャレラに言われるがまま手を握れば、酒瓶は粉々に崩れ落ちていく。
いとも簡単に、脆いクッキーみたいに。
それを見ていた男も騎士も顔面蒼白になり、一歩後ずさる。
丁度いいなと思った。
「あなた達がどう考えようと、私は魔獣を鎮めに来たんです。邪魔だけはしないで下さい。」
その言葉に、剣に手をかける騎士までいる。
私と戦うつもりなの?国王側の私と?
最悪眠らせるか、と思ったその時。
上空からウミが戻ってきた。
『頭が高いな、人間ども。』
顔が怖いウミに凄まれた男も騎士も膝をつく。
『聖女連れてきたぞ、早く乗れリビ。』
ウミが名前を呼んだのはおそらく周りに聞かせるためだ。
誰が守り神と共にいるのか知らしめるためだ。
ウミに乗っていたヒカルもこちらに笑顔で手を振っている。
「リビさん、行きましょう!」
そうして手を伸ばすヒカルに引き上げられ、私たちは太陽の国を後にした。
14
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる