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反撃開始
水晶の試練
白銀の国の城、いつも寝泊まりしているこの部屋で私は水晶の信号の勉強をしていた。
水晶は魔力を入れると光る。
光の強弱、点滅、光の長さで文字を作る。
モールス信号が近いのかもしれないが、私はかなり苦戦していた。
「それぞれの文字に加えて、重要な単語やよく使う言語は別の信号が割り当てられている。それも一緒に覚えないと会話できませんね…。」
心が折れそうで思わず口に出せば、隣に座るアシャレラが頬杖をついた。
「心が折れそうなリビちゃんに朗報です、リビちゃんには俺がいます。」
「?はい。」
「俺とリビちゃんは一心同体。離れることはできないんだから、互いにフォローすれば短期間でも信号を読み取れるようになるよ。いずれは一人で信号が分かるようになるさ。今はいち早く手段を得るのが先でしょ。」
アシャレラの言うとおりだ。
私がこんなところで躓いている場合ではない。
こうして白銀の国に滞在する間も、被害拡大は待ってはくれない。
表の信号を一通り確認してなんとか頭に叩き込む。
そこにシグレが扉をノックして入ってきた。
「リビさん、各国の騎士の配置についての話合いが終わりましたので水晶の信号のテストをやってみましょう。それでは単純な文字のテストから。」
水晶が光り、何の文字が当てる読み取りテスト。
何度も間違えたがなんとか全体を通して答えることが出来た。
「今は水晶が光るスピードはかなり落としています。通常会話するときにはだいたいこの5倍ほどの速度で信号を発します。」
シグレのその言葉に頭が痛くなる。
するとアシャレラが手を挙げた。
「俺もテスト受けていい?リビちゃんと常に一緒にいる俺が信号をちゃんと覚えれば連絡もスムーズでしょ?」
「ヒサメ様から多少貴方のことは伺っていますが、俺は貴方の存在が不可解で仕方ありません。信用に値するかどうかも決めかねています。」
アシャレラは私が契約した悪魔だ。
悪魔と契約するなんてことはこの世界で知る人はいない。
同じ悪魔であっても記憶がなければ契約できることを知らないからだ。
誓約に触れるであろうその事実を、転移者以外が受け入れるのは困難だろう。
たとえ、転移者である私と近しいシグレであったとしても。
「確かに悪魔の契約を知らない人から見れば、俺は恐怖の対象だろうな。俺はリビちゃんにしか触れることも干渉することもできず、契約主であるリビちゃんに不利な行動は取れないと口では言っても鵜呑みにはできないはずだ。かと言って、それを証明する術は存在しない。きみはどうしたい?」
アシャレラの問いにシグレは眉をひそめて睨む。
「どうもこうもありません。触れられない俺は排除することも出来ない。そもそもヒサメ様が黙認しているのならば俺が口をだすことではありません。その上で、俺は悪魔である貴方を警戒していると口にしておきます。」
「そうこないとな、騎士長様。賢くない奴は飲まれるだけだ、俺は飲まれない奴と会話するのが好きでね。それで、テストは受けさせてもらえるのかな?」
シグレはわざとらしくため息をつくと、水晶をかまえた。
「この信号は白銀の国でしか使われていない極秘のもの。本来、王族、白銀の国に従事するもの、騎士、兵士にのみ教えられるものです。あの馬鹿は例外ではありますが、その他の例外は有り得ない。悪魔である貴方は、白銀の国王に忠誠を誓えますか。」
「悪いけど、俺はリビちゃんにしか従えない。でも、そのリビちゃんが白銀の国王様のものなんだからそれでいいよ。」
アシャレラとシグレの視線がぶつかり、そうして互いに納得したように見えた。
「いいでしょう、それではテストを始めます。」
「違います、それは一つ前の文字です。」
「その光り方の場合は意味が変わると言ったでしょう。」
「ああ、ほらまた間違えた。記憶喪失ですか?」
目の前で繰り広げられる水晶のテストは、明らかに私の時よりも難しかった。
「あのさぁ、リビちゃんの問題より難しくない!?っていうか、リビちゃんより俺に厳しくない!?」
「何を当然のことを。鍛錬においてリビさんは私の生徒ですが、貴方は他人なので。優しく手取り足取り教えてあげるなどという性格は持ち合わせておりません。そもそも、貴方はリビさんの補助に過ぎない。だいたいを叩きこんだら、あとはお一人でお勉強なさってください。」
「きみ結構ドライだね、モテるためには優しさも必要だよ。」
アシャレラはそんなことを言っているが、シグレはそんなことをしなくてもモテている。
騎士であるボタンも、泉の谷のエルフであるビルもシグレに恋心を抱いているのだから。
「リビさん、余計なこと言わなくていいので。」
「まだ何も言ってないじゃないですか。」
シグレに口止めされた私を見てアシャレラは勘付いたらしい。
「ああ、なんだ。さすが騎士長様はおモテになるわけね。その中に一生を共に生きたい人はいる?」
「何故貴方にそんなことを教えなければならないんですか。だいたい、悪魔である貴方は恋心をお持ちなのですか?」
シグレの問いにアシャレラは穏やかな笑みを浮かべた。
「俺は生前から今も、これからも、たった一人に恋し続けてるよ。生まれ変わっても、その人だけを想い続ける予定なんだ。」
その表情が嘘には思えなかった。
それをシグレも感じ取ったのだろう。
「重いですね、悪魔らしくない一途さともいえる。それに、愛を知らない悪魔よりかは信用できます。」
「それなら良かった。仲良くなる足掛かりとして恋バナしない?」
「しません、メリットがないので。」
ばっさりと切られたアシャレラは冷たいなぁと笑っていた。
「文字と重要な単語はだいたい問題ないようですね。ここで水晶の連絡について重要なことをお伝えします。水晶は基本全体に連絡するものです。一人が発信すると水晶を持っている全員に伝わるように出来ています。ですが、ある一部は個別に連絡が取れるように設定がなされています。まず国王であるヒサメ様、国王側近である俺には個別に連絡を取ることが出来ます。そして、騎士だけに連絡する、兵士だけに連絡するという方法もあります。これは、騎士のみに重要な情報を伝達するために設定されているものです。この特殊な個別設定にリビさんを入れます。」
「え、私に個別連絡を取れるようにするってことですか!?」
大きな声をあげてしまったのでシグレの耳は斜めに折れ曲がる。
「何を驚くことがあるんです?リビさんはヒサメ様の近衛騎士であり、今回の堕ちた悪魔との対決に必要不可欠です。それに誓約に縛られないリビさんの話を瞬時に理解できるのはヒサメ様くらいでしょう。リビさんを個別にしておかなければ混乱を招くことにもなるんです。逆に、リビさんだけに確認を取らなくてはいけないこともあるはずです。判断を仰ぐ際、全体よりもリビさんだけの方が都合がいいこともあります。」
確かに今回の作戦を正確に把握している私に個別に連絡を取れるようにするのは何もおかしくない。
闇の神と会話し、悪魔と契約し、誓約に縛られない私はこの世界の見えない部分を下界で誰よりも知っているだろう。
「そうですね、その方が私としても助かります。ですが、ヒサメ様とシグレさんに並ぶというのは少し気が引けますね。」
「これはリビさんのためでもあるんですよ。」
「と、言いますと?」
シグレの微笑みに嫌な予感がした。
「ヒサメ様は本来、部下たちとは程よい距離を保っています。健康を心配したり、良い生活が送れているかなど気遣いはして下さる方ですが、深くまで踏み込んでくることはありません。断れない命令を下すことも、部下に強要することもありませんが、その代わり方針の違う部下は潔く手放すことができます。そんなヒサメ様が全体連絡を使用してリビさんに呼び掛けたとしたら、どうなるでしょう。”オレとの約束を破るなよ”などと言った日には、部下たちの頭が真っ白になります。」
「そんな言葉くらいでならないでしょ。」
「ヒサメ様は、自分が守れる約束しかなさいません。つまり、相手に委ねる約束はしないのです。相手に期待しないヒサメ様がリビさんに約束を委ねていることは一大事と言えるでしょう。」
前々から思ってはいたが、ヒサメは騎士たちにかなり好かれている。
気遣いができて、褒めるところは褒めてくれて、自ら前線に立つ国王についていきたいと思う者は多いだろう。
完全な信頼を寄せられないとしても、国王のために命をかけようと考える騎士たちばかりだ。
そんな彼らのわずかな懸念点である、ヒサメからの信用をぽっと出の私が掴んでしまっている。
悔しい悲しいふざけんな、という気持ちでいっぱいになるはずだ。
「かなり一方的な約束ですが、他の騎士の皆さんからすれば羨ましいってことですよね。ですが私が転移者で、この世界にしがらみが少ないからこそあんな約束を取り付けたんだと思いますよ。私が闇魔法を持っている人間だったから、一番遠い存在だったから、細かいことを気にせずに近寄れたのかもしれません。ヒサメ様からすれば私は脅威にもならない弱い存在だっただろうし、信用以前の問題だったはずです。」
フブキの命の恩人、という出会い方のおかげでだいぶ助けられた気さえする。
「リビさんでなくては駄目だった、と?」
「いや、私じゃなきゃとかじゃなくて。まったく関係のない人間の方が都合が良かったって話です。国王の立場では、口にする言葉を選ばなくてはならない。白銀の国に住むすべては自分の国民でしょ、騎士も含めて。何を言っても許される、というか無関係だからこそ口に出来る。それが私だったという話だと思うんです。」
何故かシグレとアシャレラは顔を見合わせる。
「同じ事じゃん?封印の役目という運命によって国王様と出会うことが確定してたのはリビちゃんなんだし。」
「ええ、いずれはその運命により引き合うことになったでしょう。ですが、二人の出会いは必然でした。宝石山に向かったヒサメ様は、ドラゴンを連れた闇魔法使いがいると知っていましたから。」
私が目を丸くすれば、シグレは首を傾げる。
「驚くことあります?今は公になった隠密であるヒメの存在をリビさんは早くから知っていたはずです。魔力感知できる彼ならばドラゴンの魔力と人間の闇の魔力を識別できる。そして、光属性に属するブルームーンドラゴンであれば治癒の鉱石を運ぶことが出来る。ヒサメ様はすべて分かった上でリビさんに接触しています。そう考えれば確かに都合がいい存在でしょうね。利用しようとした貴女は馬鹿の命の恩人だったことで、一時的に利用価値のある人間から格上げされたのは間違いありません。しかし、そこからヒサメ様の信用を獲得したのはリビさんの功績です。騎士ならば胸を張り誇りなさい。」
「はい、それは、誇ります。」
「よろしい、それでは本題です。個別に連絡する場合、割り当てられる信号をまずはじめに込めることになります。ヒサメ様の場合は、一番強い光を4回点滅させる。これが一番使うことになるでしょう。リビさんも同様に割り当てることになります。」
シグレの話が終わり、一息つくためにベッドにダイブした。
頭の中に信号の文字が流れていく。
まずい、一気に詰め込んだから忘れないようにしなきゃ。
「リビちゃん、水晶光ってるよ。」
枕に顔を埋めているとアシャレラに声をかけられ、慌ててベッドを下りた。
〈リビ殿 シグレから聞いた 信号は覚えたか〉
ゆっくりと光るそれはヒサメから私への配慮だ。
〈難しい 頑張る ヒサメ様 大丈夫?〉
片言でしか送れないけどしょうがない。
アシャレラと話合いながら一文字や単語で送ってみる。
〈問題ない ソラ殿とドウシュ殿と合流した 鉱石発見 残り二つだ〉
結界を入れる魔光石は4つ必要だ。
ヒサメたちならばすぐにでも見つけるだろう。
魔光石はアイル先生に加工してもらえばすぐにでも使用できるだろう。
〈了解 鉱石加工 アイル先生 確保〉
〈分かった ところで傷 増えているらしいな〉
包帯の巻かれた腕をシグレが報告したのだろう。
フェニックスの再生の力で動きに問題はない。
包帯の下の皮膚の色は、燃えた赤色だろうが。
大丈夫です、と送ろうとしたのに先に水晶が光る。
〈リビ殿は 雪豹も 好きなのだな〉
アシャレラと一文字ずつ翻訳し、そうして先に読み終わったアシャレラが私の肩に手をおく。
「浮気ばれてんじゃん、リビちゃん。エルフちゃんがばらしたかな。」
ヒメがしっかりと仕事をしているわけだ。
だいたい、ネコ科が好きなのは浮気ではない。
そもそも、ヒサメ様の耳も可愛いと思ってるが口にしないだけだ。
〈おおかみも すきです〉
〈前も聞いた どうせ感情がこもってないだろ 見なくても分かる〉
私も今ヒサメ様がどんな表情をしているか分かる気がした。
〈なるべく 早く来い 山で待ってる〉
〈了解 すぐ 行きます〉
返事をし終わった瞬間、部屋のドアがノックされた。
そこには呆れた顔をしたシグレが水晶を握りしめている。
「個別に連絡しなさいと言いましたよね?今の会話、全体にいってるんですよ!!」
「え、私からしてませんよ!!」
「知ってます、でも全体だと気付けなかったリビさんにも問題ありますからね。」
理不尽に怒られたが、そこまで問題のある会話だっただろうか。
情報伝達といつもの軽口だったつもりだ。
「おかげで他の騎士たちは水晶を落として割るところでした。」
「そんなにですか!?」
軽口だとしても好きだと言ったのがまずかったのだろうか。
「信号に感情が乗っているヒサメ様は珍しいことですからね。基本、淡々とした情報しか話さない方です。揶揄いを含んだような会話に他の騎士が驚いてしまったようですね。」
シグレの言葉に私は呆れながら、水晶を握る。
〈ヒサメ様 もっと騎士と 仲良くお喋りしたほうが いいですよ〉
本日一番スムーズに信号を発信できた。
封印でヒサメを死なせない。
生き続けるからこそ、騎士ともっと仲良くなってもいいはずだ。
そう思って送った信号に返事が来た。
〈話してるだろ オレの騎士様〉
ああ、しまった。
ヒサメにはこの会話は聞こえていないのに。
そう思った時にはもう遅かった。
シグレの耳が揺れる。笑顔が怖い。
「今、広間で水晶が割れました。何個も。」
水晶は魔力を入れると光る。
光の強弱、点滅、光の長さで文字を作る。
モールス信号が近いのかもしれないが、私はかなり苦戦していた。
「それぞれの文字に加えて、重要な単語やよく使う言語は別の信号が割り当てられている。それも一緒に覚えないと会話できませんね…。」
心が折れそうで思わず口に出せば、隣に座るアシャレラが頬杖をついた。
「心が折れそうなリビちゃんに朗報です、リビちゃんには俺がいます。」
「?はい。」
「俺とリビちゃんは一心同体。離れることはできないんだから、互いにフォローすれば短期間でも信号を読み取れるようになるよ。いずれは一人で信号が分かるようになるさ。今はいち早く手段を得るのが先でしょ。」
アシャレラの言うとおりだ。
私がこんなところで躓いている場合ではない。
こうして白銀の国に滞在する間も、被害拡大は待ってはくれない。
表の信号を一通り確認してなんとか頭に叩き込む。
そこにシグレが扉をノックして入ってきた。
「リビさん、各国の騎士の配置についての話合いが終わりましたので水晶の信号のテストをやってみましょう。それでは単純な文字のテストから。」
水晶が光り、何の文字が当てる読み取りテスト。
何度も間違えたがなんとか全体を通して答えることが出来た。
「今は水晶が光るスピードはかなり落としています。通常会話するときにはだいたいこの5倍ほどの速度で信号を発します。」
シグレのその言葉に頭が痛くなる。
するとアシャレラが手を挙げた。
「俺もテスト受けていい?リビちゃんと常に一緒にいる俺が信号をちゃんと覚えれば連絡もスムーズでしょ?」
「ヒサメ様から多少貴方のことは伺っていますが、俺は貴方の存在が不可解で仕方ありません。信用に値するかどうかも決めかねています。」
アシャレラは私が契約した悪魔だ。
悪魔と契約するなんてことはこの世界で知る人はいない。
同じ悪魔であっても記憶がなければ契約できることを知らないからだ。
誓約に触れるであろうその事実を、転移者以外が受け入れるのは困難だろう。
たとえ、転移者である私と近しいシグレであったとしても。
「確かに悪魔の契約を知らない人から見れば、俺は恐怖の対象だろうな。俺はリビちゃんにしか触れることも干渉することもできず、契約主であるリビちゃんに不利な行動は取れないと口では言っても鵜呑みにはできないはずだ。かと言って、それを証明する術は存在しない。きみはどうしたい?」
アシャレラの問いにシグレは眉をひそめて睨む。
「どうもこうもありません。触れられない俺は排除することも出来ない。そもそもヒサメ様が黙認しているのならば俺が口をだすことではありません。その上で、俺は悪魔である貴方を警戒していると口にしておきます。」
「そうこないとな、騎士長様。賢くない奴は飲まれるだけだ、俺は飲まれない奴と会話するのが好きでね。それで、テストは受けさせてもらえるのかな?」
シグレはわざとらしくため息をつくと、水晶をかまえた。
「この信号は白銀の国でしか使われていない極秘のもの。本来、王族、白銀の国に従事するもの、騎士、兵士にのみ教えられるものです。あの馬鹿は例外ではありますが、その他の例外は有り得ない。悪魔である貴方は、白銀の国王に忠誠を誓えますか。」
「悪いけど、俺はリビちゃんにしか従えない。でも、そのリビちゃんが白銀の国王様のものなんだからそれでいいよ。」
アシャレラとシグレの視線がぶつかり、そうして互いに納得したように見えた。
「いいでしょう、それではテストを始めます。」
「違います、それは一つ前の文字です。」
「その光り方の場合は意味が変わると言ったでしょう。」
「ああ、ほらまた間違えた。記憶喪失ですか?」
目の前で繰り広げられる水晶のテストは、明らかに私の時よりも難しかった。
「あのさぁ、リビちゃんの問題より難しくない!?っていうか、リビちゃんより俺に厳しくない!?」
「何を当然のことを。鍛錬においてリビさんは私の生徒ですが、貴方は他人なので。優しく手取り足取り教えてあげるなどという性格は持ち合わせておりません。そもそも、貴方はリビさんの補助に過ぎない。だいたいを叩きこんだら、あとはお一人でお勉強なさってください。」
「きみ結構ドライだね、モテるためには優しさも必要だよ。」
アシャレラはそんなことを言っているが、シグレはそんなことをしなくてもモテている。
騎士であるボタンも、泉の谷のエルフであるビルもシグレに恋心を抱いているのだから。
「リビさん、余計なこと言わなくていいので。」
「まだ何も言ってないじゃないですか。」
シグレに口止めされた私を見てアシャレラは勘付いたらしい。
「ああ、なんだ。さすが騎士長様はおモテになるわけね。その中に一生を共に生きたい人はいる?」
「何故貴方にそんなことを教えなければならないんですか。だいたい、悪魔である貴方は恋心をお持ちなのですか?」
シグレの問いにアシャレラは穏やかな笑みを浮かべた。
「俺は生前から今も、これからも、たった一人に恋し続けてるよ。生まれ変わっても、その人だけを想い続ける予定なんだ。」
その表情が嘘には思えなかった。
それをシグレも感じ取ったのだろう。
「重いですね、悪魔らしくない一途さともいえる。それに、愛を知らない悪魔よりかは信用できます。」
「それなら良かった。仲良くなる足掛かりとして恋バナしない?」
「しません、メリットがないので。」
ばっさりと切られたアシャレラは冷たいなぁと笑っていた。
「文字と重要な単語はだいたい問題ないようですね。ここで水晶の連絡について重要なことをお伝えします。水晶は基本全体に連絡するものです。一人が発信すると水晶を持っている全員に伝わるように出来ています。ですが、ある一部は個別に連絡が取れるように設定がなされています。まず国王であるヒサメ様、国王側近である俺には個別に連絡を取ることが出来ます。そして、騎士だけに連絡する、兵士だけに連絡するという方法もあります。これは、騎士のみに重要な情報を伝達するために設定されているものです。この特殊な個別設定にリビさんを入れます。」
「え、私に個別連絡を取れるようにするってことですか!?」
大きな声をあげてしまったのでシグレの耳は斜めに折れ曲がる。
「何を驚くことがあるんです?リビさんはヒサメ様の近衛騎士であり、今回の堕ちた悪魔との対決に必要不可欠です。それに誓約に縛られないリビさんの話を瞬時に理解できるのはヒサメ様くらいでしょう。リビさんを個別にしておかなければ混乱を招くことにもなるんです。逆に、リビさんだけに確認を取らなくてはいけないこともあるはずです。判断を仰ぐ際、全体よりもリビさんだけの方が都合がいいこともあります。」
確かに今回の作戦を正確に把握している私に個別に連絡を取れるようにするのは何もおかしくない。
闇の神と会話し、悪魔と契約し、誓約に縛られない私はこの世界の見えない部分を下界で誰よりも知っているだろう。
「そうですね、その方が私としても助かります。ですが、ヒサメ様とシグレさんに並ぶというのは少し気が引けますね。」
「これはリビさんのためでもあるんですよ。」
「と、言いますと?」
シグレの微笑みに嫌な予感がした。
「ヒサメ様は本来、部下たちとは程よい距離を保っています。健康を心配したり、良い生活が送れているかなど気遣いはして下さる方ですが、深くまで踏み込んでくることはありません。断れない命令を下すことも、部下に強要することもありませんが、その代わり方針の違う部下は潔く手放すことができます。そんなヒサメ様が全体連絡を使用してリビさんに呼び掛けたとしたら、どうなるでしょう。”オレとの約束を破るなよ”などと言った日には、部下たちの頭が真っ白になります。」
「そんな言葉くらいでならないでしょ。」
「ヒサメ様は、自分が守れる約束しかなさいません。つまり、相手に委ねる約束はしないのです。相手に期待しないヒサメ様がリビさんに約束を委ねていることは一大事と言えるでしょう。」
前々から思ってはいたが、ヒサメは騎士たちにかなり好かれている。
気遣いができて、褒めるところは褒めてくれて、自ら前線に立つ国王についていきたいと思う者は多いだろう。
完全な信頼を寄せられないとしても、国王のために命をかけようと考える騎士たちばかりだ。
そんな彼らのわずかな懸念点である、ヒサメからの信用をぽっと出の私が掴んでしまっている。
悔しい悲しいふざけんな、という気持ちでいっぱいになるはずだ。
「かなり一方的な約束ですが、他の騎士の皆さんからすれば羨ましいってことですよね。ですが私が転移者で、この世界にしがらみが少ないからこそあんな約束を取り付けたんだと思いますよ。私が闇魔法を持っている人間だったから、一番遠い存在だったから、細かいことを気にせずに近寄れたのかもしれません。ヒサメ様からすれば私は脅威にもならない弱い存在だっただろうし、信用以前の問題だったはずです。」
フブキの命の恩人、という出会い方のおかげでだいぶ助けられた気さえする。
「リビさんでなくては駄目だった、と?」
「いや、私じゃなきゃとかじゃなくて。まったく関係のない人間の方が都合が良かったって話です。国王の立場では、口にする言葉を選ばなくてはならない。白銀の国に住むすべては自分の国民でしょ、騎士も含めて。何を言っても許される、というか無関係だからこそ口に出来る。それが私だったという話だと思うんです。」
何故かシグレとアシャレラは顔を見合わせる。
「同じ事じゃん?封印の役目という運命によって国王様と出会うことが確定してたのはリビちゃんなんだし。」
「ええ、いずれはその運命により引き合うことになったでしょう。ですが、二人の出会いは必然でした。宝石山に向かったヒサメ様は、ドラゴンを連れた闇魔法使いがいると知っていましたから。」
私が目を丸くすれば、シグレは首を傾げる。
「驚くことあります?今は公になった隠密であるヒメの存在をリビさんは早くから知っていたはずです。魔力感知できる彼ならばドラゴンの魔力と人間の闇の魔力を識別できる。そして、光属性に属するブルームーンドラゴンであれば治癒の鉱石を運ぶことが出来る。ヒサメ様はすべて分かった上でリビさんに接触しています。そう考えれば確かに都合がいい存在でしょうね。利用しようとした貴女は馬鹿の命の恩人だったことで、一時的に利用価値のある人間から格上げされたのは間違いありません。しかし、そこからヒサメ様の信用を獲得したのはリビさんの功績です。騎士ならば胸を張り誇りなさい。」
「はい、それは、誇ります。」
「よろしい、それでは本題です。個別に連絡する場合、割り当てられる信号をまずはじめに込めることになります。ヒサメ様の場合は、一番強い光を4回点滅させる。これが一番使うことになるでしょう。リビさんも同様に割り当てることになります。」
シグレの話が終わり、一息つくためにベッドにダイブした。
頭の中に信号の文字が流れていく。
まずい、一気に詰め込んだから忘れないようにしなきゃ。
「リビちゃん、水晶光ってるよ。」
枕に顔を埋めているとアシャレラに声をかけられ、慌ててベッドを下りた。
〈リビ殿 シグレから聞いた 信号は覚えたか〉
ゆっくりと光るそれはヒサメから私への配慮だ。
〈難しい 頑張る ヒサメ様 大丈夫?〉
片言でしか送れないけどしょうがない。
アシャレラと話合いながら一文字や単語で送ってみる。
〈問題ない ソラ殿とドウシュ殿と合流した 鉱石発見 残り二つだ〉
結界を入れる魔光石は4つ必要だ。
ヒサメたちならばすぐにでも見つけるだろう。
魔光石はアイル先生に加工してもらえばすぐにでも使用できるだろう。
〈了解 鉱石加工 アイル先生 確保〉
〈分かった ところで傷 増えているらしいな〉
包帯の巻かれた腕をシグレが報告したのだろう。
フェニックスの再生の力で動きに問題はない。
包帯の下の皮膚の色は、燃えた赤色だろうが。
大丈夫です、と送ろうとしたのに先に水晶が光る。
〈リビ殿は 雪豹も 好きなのだな〉
アシャレラと一文字ずつ翻訳し、そうして先に読み終わったアシャレラが私の肩に手をおく。
「浮気ばれてんじゃん、リビちゃん。エルフちゃんがばらしたかな。」
ヒメがしっかりと仕事をしているわけだ。
だいたい、ネコ科が好きなのは浮気ではない。
そもそも、ヒサメ様の耳も可愛いと思ってるが口にしないだけだ。
〈おおかみも すきです〉
〈前も聞いた どうせ感情がこもってないだろ 見なくても分かる〉
私も今ヒサメ様がどんな表情をしているか分かる気がした。
〈なるべく 早く来い 山で待ってる〉
〈了解 すぐ 行きます〉
返事をし終わった瞬間、部屋のドアがノックされた。
そこには呆れた顔をしたシグレが水晶を握りしめている。
「個別に連絡しなさいと言いましたよね?今の会話、全体にいってるんですよ!!」
「え、私からしてませんよ!!」
「知ってます、でも全体だと気付けなかったリビさんにも問題ありますからね。」
理不尽に怒られたが、そこまで問題のある会話だっただろうか。
情報伝達といつもの軽口だったつもりだ。
「おかげで他の騎士たちは水晶を落として割るところでした。」
「そんなにですか!?」
軽口だとしても好きだと言ったのがまずかったのだろうか。
「信号に感情が乗っているヒサメ様は珍しいことですからね。基本、淡々とした情報しか話さない方です。揶揄いを含んだような会話に他の騎士が驚いてしまったようですね。」
シグレの言葉に私は呆れながら、水晶を握る。
〈ヒサメ様 もっと騎士と 仲良くお喋りしたほうが いいですよ〉
本日一番スムーズに信号を発信できた。
封印でヒサメを死なせない。
生き続けるからこそ、騎士ともっと仲良くなってもいいはずだ。
そう思って送った信号に返事が来た。
〈話してるだろ オレの騎士様〉
ああ、しまった。
ヒサメにはこの会話は聞こえていないのに。
そう思った時にはもう遅かった。
シグレの耳が揺れる。笑顔が怖い。
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女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します
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ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。
だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。
第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。
第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。
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