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反撃開始
復讐心
各国に騎士と兵士が配置された。
狼獣人が己の国に現れることに戸惑うことも、受け入れられない国もあるだろう。
だが、彼らが人々の救助や壊れた建造物の修復に力添えすると分かれば意識は多少変わるはずだ。
混乱を招く最中、猫の手も借りたいそんな時。
最強の戦闘力を有した狼獣人がいれば安心材料にもなるだろう。
「光の加護を施すため、必要な魔法陣の位置を把握するために必要な4人のことなのですが、あれってドラゴンじゃ駄目なんでしょうか。」
そんな問いに隣を歩くアシャレラは吹き出すように笑う。
「あははっ、その発想は面白いね。だけどそれは当然前例はない。特殊言語を持った人間がいなければ成立しない上に、そもそもドラゴンに会えた人間の方が少ないだろうからな。そもそも魔法陣とは、神が下界に生きる者に与えた手段だ。それに対して堕ちた神であるドラゴンが関わることを想定されていると思うか?闇の神は俺のように面白いと許容するかもしれないな。でも、誓約にがんじがらめで融通のきかない太陽の神はどう思うか分からない。後々、記憶を消されるどころじゃなくなるかもな。俺は不利を増やさないためにも正攻法である人間4人を集めた方がいいと思うよ。」
アシャレラの言葉通り、今まで加護の儀式でドラゴンの魔法を利用したことはないはずだ。
加護の強化としてドラゴンに儀式に同席してもらうだけとはわけが違うのだろう。
「戦争後、堕ちた悪魔を一人封印した際、聖女と狼獣人の王は命を落としています。彼らに他に協力者はいなかったと聞いています。光の加護はどうやって成されたんでしょうか。」
「不完全な加護だったんじゃないか?正確な範囲を示すことも出来ず、加護は安定しなかった。聖女と獣人王は魔力が底を尽きるほどに費やさなければ封印を施せなかった。筋は通るだろ?」
戦争直後、堕ちた悪魔の存在に気づいた狼獣人王に協力してくれたのはたった一人の聖女のみ。
国同士の亀裂が最大に高まっていたことと、誓約のせいで知ることが許されないそんな状況が聖女と獣人王を不利に追いこんだ。
今、この時代も国同士の戦争が始まっていれば同じようになっていたはずだ。
「あと3人の協力者を見つけるのは骨が折れますね。」
「そうかな。堕ちた悪魔に恨みのある人間なら協力してくれるんじゃない?」
「恨み、ですか。」
「一瞬でも考えたことない?堕ちた悪魔は様々な死に関与してる。操った人間に血の毒を飲むように誘導して殺し、負の魔力を集めるために魔力の強い者の大切な人を殺してるんでしょ。ドウシュちゃんが闇魔法を上書きして回るのも限界があった。リビちゃんは静寂の海の人魚を救えなかった。そんな失われた多くの命に涙を流した者がいるはずだよ。」
堕ちた悪魔に苦しめられた者はたくさんいる。
そしてそのことに気づいていない人だって大勢いるだろう。
私が迷いの森で殺したあの男二人も、悪魔の魔法によって誘導されていたはずだ。
「しかし、復讐者を駆り立てるのは気が進みませんね。」
「復讐心は何も生まないとか言うタイプ?」
刑事ドラマでよく見るその台詞。
あれは、法に従事する者は、そう言うしかないのだ。
どんな理由があろうとも法を犯すほどの復讐をしてはならない。
その復讐によって新たな復讐を生むことになるからだ。
だが、今回相手は堕ちた悪魔。
復讐が復讐を呼ぶほど、彼らの絆は深くはないだろう。
堕ちた悪魔それぞれが一番大事なのは己の欲以外はないだろうから。
「いいえ。問題は、中途半端な復讐になることです。今回の協力は堕ちた悪魔に直接手を下せるわけじゃない。光の加護を完成させるための間接的な協力になる。堕ちた悪魔に接触することになった時、理性的で冷静でいられる人じゃないと困ります。復讐心が強すぎて、命を懸けて一矢報いたいと思われたら守れる者も守れない。自然魔法の4人は、どんな時でも冷静に対処できて、光の加護を完成させた後は、私たちに全てを任せることが出来る人じゃないといけません。」
「なるほど。リビちゃんを信頼してくれて、冷静で、危険を伴ってでも協力してくれる自然魔法の強い者。そして、堕ちた悪魔に直接復讐しようなんて考えない理性的な者。次第に候補が減ってしまうわけだね。」
条件が多いとはいえ、一番大事なのはこの封印に関わった者が無事生きて帰ることだ。
「冷静で強くて危険にも立ち向かえるなんて、そうそういませんからね。それこそ騎士とかでしょうけど、どの国も大変なのに借りることは難しいですし。」
「絶対来てくれる騎士が一人いるでしょ。負い目感じてるんでしょ?」
悪い顔をして微笑むアシャレラ。
本当に柄が悪い。
「ローザさんのこと言ってます?彼は騎士団長なんですよ、連れてきたらまずいでしょ。」
「彼も堕ちた悪魔に復讐したい一人でしょ。でも、彼の大事なグウル国王は死んでない。つまり、復讐心がそこまで強くない。けれど、私欲でリビちゃんを命の危険に晒したことに罪悪感を抱いている。団長なら強いし、冷静な判断もできるはず。逸材じゃない?聞くだけ聞いてみたら?」
これぞ悪魔の囁きだろうか。
私はため息をつきながらそんな事を思う。
「私が聞いたら断れないでしょ。それに、黄金の国との間に亀裂が出来ても困るんですよ。いくら命を救ったという過去があれど、騎士団長を巻き込んで万が一守れなかったら。」
そんな万が一は、どんな人にだって同じことが言える。
引き受けてくれたアイル先生が死んでしまったとしたら、太陽の国の人も、泉の谷の人も悲しむことになる。
犠牲になっていい人なんかいない。
でも私は、それでもアイル先生にはお願いしたのだ。
国の重要な人物になり得るわけではないから。
私は既に、命を選別してしまっている。
残酷で非情な選択。
最後にはその覚悟ができる闇の神のお気に入りである私だから、命を選ぼうとしてる。
「今考えるべきは守れない確率より封印を成功させることなんじゃない?最低でも4人必要なのは変わらない。そこから危険を伴うか否かは未知数だ。そうして守りきれるか否かも現段階で答えられないよね。だから、リビちゃんは協力してもらう人に命の危険が伴うと正直に伝えるだけでいい。それだけでも誠実だし、最終的に選ぶのは相手だよ。その上で国同士に亀裂が出来ても仕方がないと思うしかない。」
封印が最優先。
封印が成功するとも今ははっきりと言えないのに、成功した後のことを考えても仕方がないと言いたいわけだ。
失敗したら、国同士の亀裂どころではない。
堕ちた悪魔の反撃で今度こそ国は滅んでいくかもしれない。
「そうですね、私は堕ちた悪魔を封印する未来しか見ていませんでした。」
「ある意味ポジティブだね、そういうとこ好きだよ。」
アシャレラが肩を組もうとするのでそれを躱した。
「各国の騎士や兵士が到着し、聞けそうな状況であれば水晶で頼んでみましょう。」
「それなら他の国でも呼びかけてみれば?せっかく水晶で各国と連絡が取れそうなんだから3人くらいすぐに集まるかもよ。」
このことをシグレにも相談し、ある程度騎士や兵士が現地で定着してから水晶で伝令することになった。
あまり時間をかけるわけにはいかないが、焦ってもいいことはない。
その間、私はアシャレラと水晶の信号の勉強に勤しんだ。
通常のスピードに慣れなければ使い物にならない。
ヒカルは光の加護の魔法陣を正確に描けるように、祈りを正しく唱えられるように練習している。
アルはそんなヒカルを補助すべく、一緒に魔法陣について学んでいるようだ。
ヒメは白銀の国にいる間はシグレの補佐に回っている。
ドラゴン4頭は飛び回っている間ずっと魔法を使用し続けてきた。
この白銀の国にいる間は休憩だ。
白銀の騎士と兵士が各国に配置されてから数日。
真っ先に水晶に連絡が来たのは黄金の国だった。
予想の範囲内ともいえるそれは、ローザが話をしたいとの連絡だ。
ローザの言葉を白銀の騎士が水晶で伝えてくれる。
内容は当然、光の加護を施す自然魔法の協力要請だ。
ローザはその協力要請を聞いて、自分が最適だと立候補しに来たと言う。
アシャレラは、ほらね、という顔をしている。
アシャレラだけではなく私だって彼が来てしまうことくらい分かっていた。
彼ならそうするであろうことが、今までの対応から見えていたはずだ。
私は水晶で、過去のことは一切考えずに協力するか否か決めて欲しいと信号を送った。
あなたは騎士団長で、グウル国王の大切な弟、そのことをもう一度考えて欲しいと送った。
私がどれほど気にするなと言ったところで、意味がないことは誰しも分かることだ。
それでも、言わなくてはならない。
ローザの返事は変わらず、協力したいとのことだった。
グウル国王にはそのことを既に伝えており、許可を得た状態だという。
本当に、彼を連れて行ってもいいのだろうか。
迷う私の目に映るのは水晶の光だ。
〈生きて帰ります 兄上の元に リビ様も当然 そのつもりでしょう?〉
彼の望みも私の望みもただ一つ。
今回の封印で誰も死なないことだ。
〈ローザさん よろしくお願いします〉
自然魔法の協力者二人目は黄金の国の騎士団長ローザになった。
彼であれば復讐に身を焦がすこともない。
グウル国王さえ関わっていなければ冷静な対処も可能だろう。
ここまでは想定内とはいえ、残りはどうするか。
そんな思案をする前にまた水晶に連絡がきた。
それは、太陽の国に配置した騎士からだった。
〈リビさんの 知り合いだと 言っていますが〉
そんな信号から始まった連絡の相手は、ミーカだった。
彼女には悪魔の儀式について調査していた時には多くの情報を教えて貰った。
そうして、悲しく辛い過去も話してもらった。
そんな彼女が白銀の騎士に話かけたのは他でもない。
光の加護の協力要請についてだ。
〈どうしても 協力したいと 言っています〉
そんな騎士の言葉に対して、私の返事は決まっていた。
彼女は復讐心が強すぎる。
だからこそ、ミーカに協力を頼むことは出来ない。
でも、彼女に対して誠実であるためにはこの水晶で断るのは失礼に思えた。
「シグレさん、太陽の国に行ってきます。暴走する魔獣の情報があれば水晶にお願いします。」
「ええ、分かりました。とはいえ、あなた方が各国を回ったおかげでかなり治まってはいるようですが。」
目に見える範囲の魔獣は凍らせてきたとはいえ、取りこぼしがないとはいえない。
私はブルームーンドラゴンを連れて再び太陽の国へと向かう。
万が一に備えてヒメを連れてきたが、多少の疲労が見えた。
「ヒメ、大丈夫ですか?」
「シグレさんの補佐疲れた。」
ヒメはそう言ってウミの尻尾に背を預ける。
「ヒサメ様が国の外にいる分、当然シグレさんは国の中での仕事を請け負うことになる。国に残る騎士と兵士の指示。城内にいる上官との会議に出席して、王族貴族の相手をして、財政管理まで。細かい仕事をあげたらキリがないけど、ヒサメ様の側近忙しすぎでしょ。」
確かにヒサメは椅子に黙って座っているタイプではない。
だが、国王としてしなければならない政治的な仕事や管理しなければならないものが山ほどあるはず。
それを、ヒサメがいない間任されているのはシグレというわけだ。
「よくあんなに頑張れるよね。シグレさんだけじゃなくて白銀の騎士は特にそう。ヒサメ様のためならって、リビも思ってるんでしょ。」
そんなヒメの言葉には、羨望を含むようなそんな、感情を乗せているような気がした。
「ええ、そうですね。私も他の騎士の皆さんもヒサメ様に救われている部分が多くある。恩を返したい人も、力になりたい人も、頼られたい人もいるのではないでしょうか。ヒメは、どうですか?」
そんな問いにヒメは丸く縮こまって座って、顔を埋めてしまった。
「ボクに選択肢はない。どこぞの貴族の奴隷になるか、ヒサメ様の部下になるかの二択。実質、一択だね。隠密となったボクが話ができるのはほぼヒサメ様だけだった。生きていく唯一がヒサメ様だけなボクは、ヒサメ様のためになること以外、動けない。ヒサメ様のため、って皆と同じはずなのに、ボクのは同じじゃない。」
「同じじゃないことが嫌なんですか?」
ヒメの白い翼が、ヒメの体を包む。
ヒメは時折ああやって、閉じこもるような形を取る。
ヒメにとってヒサメは命綱だった。
生きていくためにはヒサメの手を取る必要があった。
ヒサメしか会話する相手がいないのに、ヒサメはずっと周りを信用できないでいた。
当然ヒメのことも。
だからヒメはずっと不安なのかもしれない。
皆と同じ感情を持てないことに多少なりとも辛さがあるのだろう。
「私、一番最初ヒサメ様に殺されそうだったでしょ?」
「・・・そうだね。本気ではないだろうけど。」
ヒサメは宝石山にブルームーンドラゴンと闇魔法使いがいることを知っていた。
だが、ヒサメが私を殺しかけたのはフブキの彼女だと思ったからだ。
本気ではないにしろ、多少は殺意があったはずだ。
「本気か否か分からないけど、殺されないためにはヒサメ様に協力するしかないって言うのが私の最初の印象ですよ。強いし、怖いし、フブキさんのことしか考えてないように見えました。でも、ヒサメ様を知るうちに最初の印象はがらりと変わった。国民を想い、己の部下を想いやる。そのために利用できるものはすべて利用する人だから、ヒメのことも私のことも利用価値があるって思ったんでしょうけどね。」
ヒメは顔を上げてこちらをじっと見る。
「リビは近衛騎士になった。それは、ヒサメ様に認められたってことでしょ。利用価値からかなりの出世だ、ボクとは違う。」
「ヒメから見て私はヒサメ様の特別に見えます?」
「それ以外なに。」
「黄金の国でヒメは私を探しに来た。今回の魔獣鎮静化に貢献して、重要人物であるヒバリさんの護衛も任されていた。ヒサメ様は言葉にしないだけで行動には表していると思いますよ。」
ヒサメは思っている以上に面倒な性格の持ち主だ。
それゆえに、もどかしさや不安を感じる騎士やヒメがいる。
「ヒサメ様がヒメに、本当にいつも感謝している、頼りにしているぞヒメ。と言ったらどう思います?」
「気持ち悪い。」
ヒメもヒサメもお互いに素直になれない相手なのではないだろうか。
ヒサメ様にさっきの台詞言って貰おうかな。
そうすれば多少なりとも歩み寄れる、はず。
そんな画策をヒメは知る由もない。
狼獣人が己の国に現れることに戸惑うことも、受け入れられない国もあるだろう。
だが、彼らが人々の救助や壊れた建造物の修復に力添えすると分かれば意識は多少変わるはずだ。
混乱を招く最中、猫の手も借りたいそんな時。
最強の戦闘力を有した狼獣人がいれば安心材料にもなるだろう。
「光の加護を施すため、必要な魔法陣の位置を把握するために必要な4人のことなのですが、あれってドラゴンじゃ駄目なんでしょうか。」
そんな問いに隣を歩くアシャレラは吹き出すように笑う。
「あははっ、その発想は面白いね。だけどそれは当然前例はない。特殊言語を持った人間がいなければ成立しない上に、そもそもドラゴンに会えた人間の方が少ないだろうからな。そもそも魔法陣とは、神が下界に生きる者に与えた手段だ。それに対して堕ちた神であるドラゴンが関わることを想定されていると思うか?闇の神は俺のように面白いと許容するかもしれないな。でも、誓約にがんじがらめで融通のきかない太陽の神はどう思うか分からない。後々、記憶を消されるどころじゃなくなるかもな。俺は不利を増やさないためにも正攻法である人間4人を集めた方がいいと思うよ。」
アシャレラの言葉通り、今まで加護の儀式でドラゴンの魔法を利用したことはないはずだ。
加護の強化としてドラゴンに儀式に同席してもらうだけとはわけが違うのだろう。
「戦争後、堕ちた悪魔を一人封印した際、聖女と狼獣人の王は命を落としています。彼らに他に協力者はいなかったと聞いています。光の加護はどうやって成されたんでしょうか。」
「不完全な加護だったんじゃないか?正確な範囲を示すことも出来ず、加護は安定しなかった。聖女と獣人王は魔力が底を尽きるほどに費やさなければ封印を施せなかった。筋は通るだろ?」
戦争直後、堕ちた悪魔の存在に気づいた狼獣人王に協力してくれたのはたった一人の聖女のみ。
国同士の亀裂が最大に高まっていたことと、誓約のせいで知ることが許されないそんな状況が聖女と獣人王を不利に追いこんだ。
今、この時代も国同士の戦争が始まっていれば同じようになっていたはずだ。
「あと3人の協力者を見つけるのは骨が折れますね。」
「そうかな。堕ちた悪魔に恨みのある人間なら協力してくれるんじゃない?」
「恨み、ですか。」
「一瞬でも考えたことない?堕ちた悪魔は様々な死に関与してる。操った人間に血の毒を飲むように誘導して殺し、負の魔力を集めるために魔力の強い者の大切な人を殺してるんでしょ。ドウシュちゃんが闇魔法を上書きして回るのも限界があった。リビちゃんは静寂の海の人魚を救えなかった。そんな失われた多くの命に涙を流した者がいるはずだよ。」
堕ちた悪魔に苦しめられた者はたくさんいる。
そしてそのことに気づいていない人だって大勢いるだろう。
私が迷いの森で殺したあの男二人も、悪魔の魔法によって誘導されていたはずだ。
「しかし、復讐者を駆り立てるのは気が進みませんね。」
「復讐心は何も生まないとか言うタイプ?」
刑事ドラマでよく見るその台詞。
あれは、法に従事する者は、そう言うしかないのだ。
どんな理由があろうとも法を犯すほどの復讐をしてはならない。
その復讐によって新たな復讐を生むことになるからだ。
だが、今回相手は堕ちた悪魔。
復讐が復讐を呼ぶほど、彼らの絆は深くはないだろう。
堕ちた悪魔それぞれが一番大事なのは己の欲以外はないだろうから。
「いいえ。問題は、中途半端な復讐になることです。今回の協力は堕ちた悪魔に直接手を下せるわけじゃない。光の加護を完成させるための間接的な協力になる。堕ちた悪魔に接触することになった時、理性的で冷静でいられる人じゃないと困ります。復讐心が強すぎて、命を懸けて一矢報いたいと思われたら守れる者も守れない。自然魔法の4人は、どんな時でも冷静に対処できて、光の加護を完成させた後は、私たちに全てを任せることが出来る人じゃないといけません。」
「なるほど。リビちゃんを信頼してくれて、冷静で、危険を伴ってでも協力してくれる自然魔法の強い者。そして、堕ちた悪魔に直接復讐しようなんて考えない理性的な者。次第に候補が減ってしまうわけだね。」
条件が多いとはいえ、一番大事なのはこの封印に関わった者が無事生きて帰ることだ。
「冷静で強くて危険にも立ち向かえるなんて、そうそういませんからね。それこそ騎士とかでしょうけど、どの国も大変なのに借りることは難しいですし。」
「絶対来てくれる騎士が一人いるでしょ。負い目感じてるんでしょ?」
悪い顔をして微笑むアシャレラ。
本当に柄が悪い。
「ローザさんのこと言ってます?彼は騎士団長なんですよ、連れてきたらまずいでしょ。」
「彼も堕ちた悪魔に復讐したい一人でしょ。でも、彼の大事なグウル国王は死んでない。つまり、復讐心がそこまで強くない。けれど、私欲でリビちゃんを命の危険に晒したことに罪悪感を抱いている。団長なら強いし、冷静な判断もできるはず。逸材じゃない?聞くだけ聞いてみたら?」
これぞ悪魔の囁きだろうか。
私はため息をつきながらそんな事を思う。
「私が聞いたら断れないでしょ。それに、黄金の国との間に亀裂が出来ても困るんですよ。いくら命を救ったという過去があれど、騎士団長を巻き込んで万が一守れなかったら。」
そんな万が一は、どんな人にだって同じことが言える。
引き受けてくれたアイル先生が死んでしまったとしたら、太陽の国の人も、泉の谷の人も悲しむことになる。
犠牲になっていい人なんかいない。
でも私は、それでもアイル先生にはお願いしたのだ。
国の重要な人物になり得るわけではないから。
私は既に、命を選別してしまっている。
残酷で非情な選択。
最後にはその覚悟ができる闇の神のお気に入りである私だから、命を選ぼうとしてる。
「今考えるべきは守れない確率より封印を成功させることなんじゃない?最低でも4人必要なのは変わらない。そこから危険を伴うか否かは未知数だ。そうして守りきれるか否かも現段階で答えられないよね。だから、リビちゃんは協力してもらう人に命の危険が伴うと正直に伝えるだけでいい。それだけでも誠実だし、最終的に選ぶのは相手だよ。その上で国同士に亀裂が出来ても仕方がないと思うしかない。」
封印が最優先。
封印が成功するとも今ははっきりと言えないのに、成功した後のことを考えても仕方がないと言いたいわけだ。
失敗したら、国同士の亀裂どころではない。
堕ちた悪魔の反撃で今度こそ国は滅んでいくかもしれない。
「そうですね、私は堕ちた悪魔を封印する未来しか見ていませんでした。」
「ある意味ポジティブだね、そういうとこ好きだよ。」
アシャレラが肩を組もうとするのでそれを躱した。
「各国の騎士や兵士が到着し、聞けそうな状況であれば水晶で頼んでみましょう。」
「それなら他の国でも呼びかけてみれば?せっかく水晶で各国と連絡が取れそうなんだから3人くらいすぐに集まるかもよ。」
このことをシグレにも相談し、ある程度騎士や兵士が現地で定着してから水晶で伝令することになった。
あまり時間をかけるわけにはいかないが、焦ってもいいことはない。
その間、私はアシャレラと水晶の信号の勉強に勤しんだ。
通常のスピードに慣れなければ使い物にならない。
ヒカルは光の加護の魔法陣を正確に描けるように、祈りを正しく唱えられるように練習している。
アルはそんなヒカルを補助すべく、一緒に魔法陣について学んでいるようだ。
ヒメは白銀の国にいる間はシグレの補佐に回っている。
ドラゴン4頭は飛び回っている間ずっと魔法を使用し続けてきた。
この白銀の国にいる間は休憩だ。
白銀の騎士と兵士が各国に配置されてから数日。
真っ先に水晶に連絡が来たのは黄金の国だった。
予想の範囲内ともいえるそれは、ローザが話をしたいとの連絡だ。
ローザの言葉を白銀の騎士が水晶で伝えてくれる。
内容は当然、光の加護を施す自然魔法の協力要請だ。
ローザはその協力要請を聞いて、自分が最適だと立候補しに来たと言う。
アシャレラは、ほらね、という顔をしている。
アシャレラだけではなく私だって彼が来てしまうことくらい分かっていた。
彼ならそうするであろうことが、今までの対応から見えていたはずだ。
私は水晶で、過去のことは一切考えずに協力するか否か決めて欲しいと信号を送った。
あなたは騎士団長で、グウル国王の大切な弟、そのことをもう一度考えて欲しいと送った。
私がどれほど気にするなと言ったところで、意味がないことは誰しも分かることだ。
それでも、言わなくてはならない。
ローザの返事は変わらず、協力したいとのことだった。
グウル国王にはそのことを既に伝えており、許可を得た状態だという。
本当に、彼を連れて行ってもいいのだろうか。
迷う私の目に映るのは水晶の光だ。
〈生きて帰ります 兄上の元に リビ様も当然 そのつもりでしょう?〉
彼の望みも私の望みもただ一つ。
今回の封印で誰も死なないことだ。
〈ローザさん よろしくお願いします〉
自然魔法の協力者二人目は黄金の国の騎士団長ローザになった。
彼であれば復讐に身を焦がすこともない。
グウル国王さえ関わっていなければ冷静な対処も可能だろう。
ここまでは想定内とはいえ、残りはどうするか。
そんな思案をする前にまた水晶に連絡がきた。
それは、太陽の国に配置した騎士からだった。
〈リビさんの 知り合いだと 言っていますが〉
そんな信号から始まった連絡の相手は、ミーカだった。
彼女には悪魔の儀式について調査していた時には多くの情報を教えて貰った。
そうして、悲しく辛い過去も話してもらった。
そんな彼女が白銀の騎士に話かけたのは他でもない。
光の加護の協力要請についてだ。
〈どうしても 協力したいと 言っています〉
そんな騎士の言葉に対して、私の返事は決まっていた。
彼女は復讐心が強すぎる。
だからこそ、ミーカに協力を頼むことは出来ない。
でも、彼女に対して誠実であるためにはこの水晶で断るのは失礼に思えた。
「シグレさん、太陽の国に行ってきます。暴走する魔獣の情報があれば水晶にお願いします。」
「ええ、分かりました。とはいえ、あなた方が各国を回ったおかげでかなり治まってはいるようですが。」
目に見える範囲の魔獣は凍らせてきたとはいえ、取りこぼしがないとはいえない。
私はブルームーンドラゴンを連れて再び太陽の国へと向かう。
万が一に備えてヒメを連れてきたが、多少の疲労が見えた。
「ヒメ、大丈夫ですか?」
「シグレさんの補佐疲れた。」
ヒメはそう言ってウミの尻尾に背を預ける。
「ヒサメ様が国の外にいる分、当然シグレさんは国の中での仕事を請け負うことになる。国に残る騎士と兵士の指示。城内にいる上官との会議に出席して、王族貴族の相手をして、財政管理まで。細かい仕事をあげたらキリがないけど、ヒサメ様の側近忙しすぎでしょ。」
確かにヒサメは椅子に黙って座っているタイプではない。
だが、国王としてしなければならない政治的な仕事や管理しなければならないものが山ほどあるはず。
それを、ヒサメがいない間任されているのはシグレというわけだ。
「よくあんなに頑張れるよね。シグレさんだけじゃなくて白銀の騎士は特にそう。ヒサメ様のためならって、リビも思ってるんでしょ。」
そんなヒメの言葉には、羨望を含むようなそんな、感情を乗せているような気がした。
「ええ、そうですね。私も他の騎士の皆さんもヒサメ様に救われている部分が多くある。恩を返したい人も、力になりたい人も、頼られたい人もいるのではないでしょうか。ヒメは、どうですか?」
そんな問いにヒメは丸く縮こまって座って、顔を埋めてしまった。
「ボクに選択肢はない。どこぞの貴族の奴隷になるか、ヒサメ様の部下になるかの二択。実質、一択だね。隠密となったボクが話ができるのはほぼヒサメ様だけだった。生きていく唯一がヒサメ様だけなボクは、ヒサメ様のためになること以外、動けない。ヒサメ様のため、って皆と同じはずなのに、ボクのは同じじゃない。」
「同じじゃないことが嫌なんですか?」
ヒメの白い翼が、ヒメの体を包む。
ヒメは時折ああやって、閉じこもるような形を取る。
ヒメにとってヒサメは命綱だった。
生きていくためにはヒサメの手を取る必要があった。
ヒサメしか会話する相手がいないのに、ヒサメはずっと周りを信用できないでいた。
当然ヒメのことも。
だからヒメはずっと不安なのかもしれない。
皆と同じ感情を持てないことに多少なりとも辛さがあるのだろう。
「私、一番最初ヒサメ様に殺されそうだったでしょ?」
「・・・そうだね。本気ではないだろうけど。」
ヒサメは宝石山にブルームーンドラゴンと闇魔法使いがいることを知っていた。
だが、ヒサメが私を殺しかけたのはフブキの彼女だと思ったからだ。
本気ではないにしろ、多少は殺意があったはずだ。
「本気か否か分からないけど、殺されないためにはヒサメ様に協力するしかないって言うのが私の最初の印象ですよ。強いし、怖いし、フブキさんのことしか考えてないように見えました。でも、ヒサメ様を知るうちに最初の印象はがらりと変わった。国民を想い、己の部下を想いやる。そのために利用できるものはすべて利用する人だから、ヒメのことも私のことも利用価値があるって思ったんでしょうけどね。」
ヒメは顔を上げてこちらをじっと見る。
「リビは近衛騎士になった。それは、ヒサメ様に認められたってことでしょ。利用価値からかなりの出世だ、ボクとは違う。」
「ヒメから見て私はヒサメ様の特別に見えます?」
「それ以外なに。」
「黄金の国でヒメは私を探しに来た。今回の魔獣鎮静化に貢献して、重要人物であるヒバリさんの護衛も任されていた。ヒサメ様は言葉にしないだけで行動には表していると思いますよ。」
ヒサメは思っている以上に面倒な性格の持ち主だ。
それゆえに、もどかしさや不安を感じる騎士やヒメがいる。
「ヒサメ様がヒメに、本当にいつも感謝している、頼りにしているぞヒメ。と言ったらどう思います?」
「気持ち悪い。」
ヒメもヒサメもお互いに素直になれない相手なのではないだろうか。
ヒサメ様にさっきの台詞言って貰おうかな。
そうすれば多少なりとも歩み寄れる、はず。
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僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
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彼女の名は才村 友郁
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取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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