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太陽の神
例外
私は振り向いたまま体が固まった。
ヒサメの向ける表情、その視線、その瞳は私を知っている。
「どうして、私のこと・・・。」
「制服がボロボロだな、新しいのを作ってもらおう。異論はないよな、当然。」
「ないです。」
即答できたのはこれまでの経験からだ。
ここで迷えばヒサメはしつこいくらいに問い詰めることだろう。
私以上に混乱しているアシャレラは黙ったまま大人しくしている。
ヒメは驚きと戸惑いでヒサメに問いかける。
「ヒサメ様、どういうことですか。ボクはあなたとずっと一緒にいたはずです。それなのに、ボクの知らない人なんているはずないですよね?ボクに与えられていない情報なんて、ないですよね?」
ヒメのその声は震えていた。
ヒメにとってヒサメの隠密であることは、強いられた運命ではあった。
しかし、ヒサメと過ごしてきたヒメは、誰よりもヒサメの側にいるということを自負してきたのだろう。
だからこそ、自分の知らない情報があるということを受け入れがたいのだ。
ヒサメはヒメの肩を叩く。
その手がかなり重かったのか、ヒメはよろけた。
「当然だ、ヒメ。つまり、キミも彼女を知っているということだ。」
そう言われたヒメは、その場に座り込んだ。
訳が分からない、と呟いて翼を広げて縮こまってしまった。
「ボクが説明してもいいかな。とはいっても、記憶がないと理解できないだろうけどね。」
そう言って山を上がってきたのは、ハルを背負っているアルだった。
その隣にはドウシュ、そしてふらふらと飛んでくる硝子の竜がいた。
アルはゆっくりとハルを下ろして、地面に寝かせた。
「アルさん、ハルさんどうしたんですか。」
私は駆け寄って、少しはマシだろうと頭の下に布を敷いた。
「神による記憶操作の後、ハルはボクに魔法を使おうとしたんだ。おそらく、記憶になんらかのズレが生じていると気付いてしまった。それが堕天使だからなのかは分からない。でも、ボクの記憶を覗いたことにより、脳がショートしてしまったみたいなんだ。無理もないよね、神が消した記憶を無理やり戻そうとしたんだから。」
ハルは相手の記憶を覗くことが出来た。
だから、ハルは失った自分の記憶の部分を補填しようとしたんだ。
「ってことは、つまりアルさんは私のことを覚えているんですね?」
「覚えているよ。ヒサメ国王が覚えてるのも、ボクのおかげなんだからね?」
アルはわざとらしくおどけて見せた。
だから私はアルに抱き着いた、そうしたいと思った。
「アルさん、ありがとう。本当に、ありがとう。」
「一か八かの賭けではあったけどね。成功して、ほっとしたよ。」
アルはどうして記憶が操作されなかったか、説明を始めた。
「覚えてるかな、夜明けの国で闇の神と話したとき、闇の神は姿を消したボクのことを認識できなかったんだ。」
「そういえば、そうでしたね。私と二人だけで話していると思っているようでした。」
「そう、それでボクはそこから仮説を立てた。姿を消した状態だと、神様ですらボクたちを見つけられないのかもしれないって。」
翼のエルフは魔力感知をすることができる。
それを応用することによって空気中の魔力と同化することで姿を隠すことが出来る。
「それにね、子供に必ず聞かされる翼のエルフの昔話があるでしょ。あれって、代々語り継がれているってことが実はヒントになったんだ。だって、元々光魔法を持つ人間が翼のエルフになったのって、ずっとずっと前の話で。その間に、記憶操作は行われてるはずだから。その話に歪みが出ていないのは、神様自身が、神様からボクたち光魔法の人間を逃がそうとしたんじゃないかって考えてるんだ。」
そんなアルの話を遮ったのはヒメだ。
「ボクは、そんな昔話知らない。ボクだって、同じように出来るならどうしてボクだけ覚えてないの?」
「ヒメが覚えていないのは、昔話を引き継ぐに値しない年齢ではぐれたせいだと思う。きみはかなり幼いときに、捕まってしまったんじゃないかな。」
アルがそう答えると、ヒサメも口を開く。
「俺と出会った当初、共通言語をろくに話せなかったんだろ、違うか?」
「・・・ヒサメ様、知ってたんですか。」
ヒサメはヒメのことを口下手だと言っていたはずだ。
だがそうではなく、ヒメは共通言語自体を知らなかったのだ。
それをヒサメは気付いていたということだ。
「共通言語を話せないってヒサメ様に言えなかった・・・使えない奴だと思われたら捨てられるって思ってたから。」
「気にしているようだったから指摘しなかった。それに、オレと話していれば嫌でも話せるようになるものだ。ずっと側に置いておくつもりだったから特に気にしたこともない。捨てるなんて思ってたのか。」
「だって、フブキさん以外信用してなかったじゃないですか。」
翼の中に閉じこもるヒメ。
私はヒサメの背中を思わず押していた。
押されたヒサメは閉じこもる羽を軽くぽんぽんと撫でる。
「今はしてる、感謝もしてる。オレにも余裕がない時期があったということだ。頼りにしてる、本当に。」
「・・・正直なヒサメ様、やっぱり気持ち悪いかも。」
「それだけ軽口叩けるなら大丈夫だな。」
翼から顔を出したヒメは私と目が合った。
でも、すぐに顔を逸らした。
「話を戻すけど、ボクはこの姿を消す能力を使って、ヒサメ様も消したんだ。夜明けの国に侵入したときと同じ方法でね。正直、これで神の記憶魔法が届かないなんて思いもしなかった。そうできればいいっと願っていただけ。ヒメは同じ能力を持っているけど、聖女の治療に光魔法を使っていた。だから、姿を消すことが出来なかったんだよ。」
ヒメはヒカルの命を繋いでくれていた。
地震で大きく揺れても、教会がアヴィシャによって崩れようとしても、ヒメはヒカルに光魔法を続けていたんだ。
「その、消されたっていう記憶は、戻らないの?」
ヒメの問いかけにアルは複雑な表情を浮かべた。
「詳しくは分からないけど、神による魔法で成されたものだ。記憶が戻ってくるなんて望みは薄い。ボクの能力がもっと高ければ良かったけど、ヒサメ国王を隠すので精一杯だった。無理やり知ろうとしたハルは倒れてしまったし、それに・・・。」
アルはドウシュを見た。
先ほどから一言も発しないドウシュはこちらを見てにこりと微笑んだ。
こんな微笑み見たことない。
「ドウシュちゃん、どうしたの?俺のこと、分かんない?」
アシャレラの問いかけにも答えない。
彼はただ、微笑んでいるだけ。
「ドウシュは堕ちた悪魔だ。誓約に関わってしまう彼の記憶があると不都合なのかもしれなくて、彼は根本的な記憶まで消されてしまったのかもしれない。悪魔だった時の記憶も、もしかしたら生前の記憶すら消されてしまったのかもしれない。」
ドウシュは悪魔が堕ちた責任を果たそうとしていた。
妹のために復讐した、それを見ていたアヴィシャたちを堕としてしまった。
だから下界にいる間、堕ちた悪魔たちの被害者を減らすように行動した。
操りの魔法を解いて回った。
ドラゴンの血の毒を解毒しようとヒバリたちと研究を始めた。
そして、ソラの母の延命に尽力した。
今回の封印ではアシャレラを呼び出す協力をしてくれて、さらには神々の頂の場をソラと共に整えてくれた。
彼がいなければ、私は今頃とっくに死んでいたといえる。
私はドウシュの手を取り、頭を下げた。
「ドウシュさん、あなたのおかげで全て終わりました。本当にありがとうございました。」
「ドウシュちゃん、いつも俺の話を聞いてくれてありがとう。俺はドウシュちゃんこと、友人だと思ってる。」
アシャレラは私以外に触れられない。だから、ドウシュの手を掴む私の手を握った。
『太陽の神の記憶操作は回避など出来ないと思っていたが、まさかこんな抜け道があろうとはな。』
話し出したのは硝子の竜だ。
彼は昔の戦争の終わった後に堕ちた闇の神だ。
『国王たちには先に告げたが、お主。以前の名をもう使ってはならん。』
硝子の竜は私に向かってそう言った。
「どういうことでしょうか。」
『名前がいかに重要か、太陽の神に奪われたお主ならばよく理解しておるだろう。ずっと使っていたお主の偽名は、もはやお主のものになっておる。それゆえに記憶と結びついておるのだ。名前を知ることで記憶が戻るなんてことはないが、ズレが生じて異常をきたすことになるやもしれん。そうならないためには、その偽名を二度と使わないことだ。』
リビ。
太陽の国で名を聞かれ、思い出せなくて自分でつけたこの名前。
致死毒のあるルリビの木の実から取った名前。
もうすでに、自分の名前なのだと確かに思っていた。
皆が、この名前を呼んでくれた。
だけど、この名前は二度と使えない。
「太陽の神から名前を返してもらったんだろう?オレはその名で呼ぶ気はしないが、キミが呼んで欲しいというのなら話は別だ。」
ヒサメはそう言ってくれたが、私は首を横に振る。
「私も呼ばれる気がしません。だって、この名前の私はもう死んだので。」
「それなら、二人の時だけあの名で呼べばいいな。」
「いや、俺もいるからね?国王様??」
アシャレラの言葉を軽く受け流しつつ、ヒサメは硝子の竜に問う。
「翼のエルフによって今回の封印の記憶は保たれた。今まで神は誓約に関することをひた隠しにしていたはずだ。オレたちが覚えていることで生じてしまう問題はあるか?」
『あの記憶の魔法は使えば使うほど綻んでいるのだろう。だから、中途半端に文献が残っていたり、壁画が残されていたりするのだ。今回、お主等が覚えていたとして、それを伝えようとしたとして、多くの者が信じるのは難しい。それゆえに、何かに情報を残そうとしたとしてもワシが咎めることはない。ワシはもう神ではなく、ただの老いぼれの竜よ。100年後、200年後、はたまたもっと先。また同じように世界の均衡を揺るがそうとする者が現れるやもしれん。その時、お主等の情報が未来の獣人王たちを救うことになるやもしれん。その頃には多少、上界も改善されていれば良いが、ルールとはなかなか変わらないものだからな。時代が変わるとともに、変わらねばならないルールもあるはずだが、変わってはならないものもある。その見極めが難しいのだろうな。』
堕ちる者はまた、必ず現れる。
だからこそ、根本のルールさえ変わってくれればと願わなくもない。
ただ、その一つのルールを改変したがために起こる別の問題が浮上してしまうのも分かる。
だから、現状維持が一番いいと考えてしまうこともある。
『堕ちた神、翼のエルフ、転移者など、記憶を保つ例外などいくらでもいる。それが増えていくことにより、例外が例外を呼ぶことにもなる。そのズレていく世界を保つためにはきっと、新たなルールが必要にもなる。そうしなければ、起こった問題を解決することが出来なくなっていくからだ。そうすると必ず、争いが起こるのだ。』
それによって傷つく人がいるならやっぱりどうにかしたいと思う。
自分にそれだけの力がないと分かっていても、思いあがっているのだとしても。
答えの出ない解決方法をずっと考え続けなければならない。
「ヒサメ様、私たちの記憶を残しておきましょう。信じてもらえなくても、ただの物語だと思われてもいい。いつか、立ち向かわなければならない人たちのために少しでも情報を渡せるように。」
「無論だ。いつか王に立つその者に受け継がれるようにしよう。そうしていつか、キミの魔法を引き継いだ者と出会えるようにしなければな。」
大地震によって各国は建物が崩れ死傷者が出ているようだ。
勿論その大地震とは、均衡の崩れによるものだが知る者はほんの一部だ。
その混乱を収めるために、ヒサメはヒメと白銀の国へ。
アルとハル、それからドウシュは神々の頂でヒバリを待つという。
ハルが目覚めたら、いや、目覚めなかったとしても全員で遠霧山に帰るのだ。
そうして私は、戻ってきたソラに手を振った。
ヒサメの向ける表情、その視線、その瞳は私を知っている。
「どうして、私のこと・・・。」
「制服がボロボロだな、新しいのを作ってもらおう。異論はないよな、当然。」
「ないです。」
即答できたのはこれまでの経験からだ。
ここで迷えばヒサメはしつこいくらいに問い詰めることだろう。
私以上に混乱しているアシャレラは黙ったまま大人しくしている。
ヒメは驚きと戸惑いでヒサメに問いかける。
「ヒサメ様、どういうことですか。ボクはあなたとずっと一緒にいたはずです。それなのに、ボクの知らない人なんているはずないですよね?ボクに与えられていない情報なんて、ないですよね?」
ヒメのその声は震えていた。
ヒメにとってヒサメの隠密であることは、強いられた運命ではあった。
しかし、ヒサメと過ごしてきたヒメは、誰よりもヒサメの側にいるということを自負してきたのだろう。
だからこそ、自分の知らない情報があるということを受け入れがたいのだ。
ヒサメはヒメの肩を叩く。
その手がかなり重かったのか、ヒメはよろけた。
「当然だ、ヒメ。つまり、キミも彼女を知っているということだ。」
そう言われたヒメは、その場に座り込んだ。
訳が分からない、と呟いて翼を広げて縮こまってしまった。
「ボクが説明してもいいかな。とはいっても、記憶がないと理解できないだろうけどね。」
そう言って山を上がってきたのは、ハルを背負っているアルだった。
その隣にはドウシュ、そしてふらふらと飛んでくる硝子の竜がいた。
アルはゆっくりとハルを下ろして、地面に寝かせた。
「アルさん、ハルさんどうしたんですか。」
私は駆け寄って、少しはマシだろうと頭の下に布を敷いた。
「神による記憶操作の後、ハルはボクに魔法を使おうとしたんだ。おそらく、記憶になんらかのズレが生じていると気付いてしまった。それが堕天使だからなのかは分からない。でも、ボクの記憶を覗いたことにより、脳がショートしてしまったみたいなんだ。無理もないよね、神が消した記憶を無理やり戻そうとしたんだから。」
ハルは相手の記憶を覗くことが出来た。
だから、ハルは失った自分の記憶の部分を補填しようとしたんだ。
「ってことは、つまりアルさんは私のことを覚えているんですね?」
「覚えているよ。ヒサメ国王が覚えてるのも、ボクのおかげなんだからね?」
アルはわざとらしくおどけて見せた。
だから私はアルに抱き着いた、そうしたいと思った。
「アルさん、ありがとう。本当に、ありがとう。」
「一か八かの賭けではあったけどね。成功して、ほっとしたよ。」
アルはどうして記憶が操作されなかったか、説明を始めた。
「覚えてるかな、夜明けの国で闇の神と話したとき、闇の神は姿を消したボクのことを認識できなかったんだ。」
「そういえば、そうでしたね。私と二人だけで話していると思っているようでした。」
「そう、それでボクはそこから仮説を立てた。姿を消した状態だと、神様ですらボクたちを見つけられないのかもしれないって。」
翼のエルフは魔力感知をすることができる。
それを応用することによって空気中の魔力と同化することで姿を隠すことが出来る。
「それにね、子供に必ず聞かされる翼のエルフの昔話があるでしょ。あれって、代々語り継がれているってことが実はヒントになったんだ。だって、元々光魔法を持つ人間が翼のエルフになったのって、ずっとずっと前の話で。その間に、記憶操作は行われてるはずだから。その話に歪みが出ていないのは、神様自身が、神様からボクたち光魔法の人間を逃がそうとしたんじゃないかって考えてるんだ。」
そんなアルの話を遮ったのはヒメだ。
「ボクは、そんな昔話知らない。ボクだって、同じように出来るならどうしてボクだけ覚えてないの?」
「ヒメが覚えていないのは、昔話を引き継ぐに値しない年齢ではぐれたせいだと思う。きみはかなり幼いときに、捕まってしまったんじゃないかな。」
アルがそう答えると、ヒサメも口を開く。
「俺と出会った当初、共通言語をろくに話せなかったんだろ、違うか?」
「・・・ヒサメ様、知ってたんですか。」
ヒサメはヒメのことを口下手だと言っていたはずだ。
だがそうではなく、ヒメは共通言語自体を知らなかったのだ。
それをヒサメは気付いていたということだ。
「共通言語を話せないってヒサメ様に言えなかった・・・使えない奴だと思われたら捨てられるって思ってたから。」
「気にしているようだったから指摘しなかった。それに、オレと話していれば嫌でも話せるようになるものだ。ずっと側に置いておくつもりだったから特に気にしたこともない。捨てるなんて思ってたのか。」
「だって、フブキさん以外信用してなかったじゃないですか。」
翼の中に閉じこもるヒメ。
私はヒサメの背中を思わず押していた。
押されたヒサメは閉じこもる羽を軽くぽんぽんと撫でる。
「今はしてる、感謝もしてる。オレにも余裕がない時期があったということだ。頼りにしてる、本当に。」
「・・・正直なヒサメ様、やっぱり気持ち悪いかも。」
「それだけ軽口叩けるなら大丈夫だな。」
翼から顔を出したヒメは私と目が合った。
でも、すぐに顔を逸らした。
「話を戻すけど、ボクはこの姿を消す能力を使って、ヒサメ様も消したんだ。夜明けの国に侵入したときと同じ方法でね。正直、これで神の記憶魔法が届かないなんて思いもしなかった。そうできればいいっと願っていただけ。ヒメは同じ能力を持っているけど、聖女の治療に光魔法を使っていた。だから、姿を消すことが出来なかったんだよ。」
ヒメはヒカルの命を繋いでくれていた。
地震で大きく揺れても、教会がアヴィシャによって崩れようとしても、ヒメはヒカルに光魔法を続けていたんだ。
「その、消されたっていう記憶は、戻らないの?」
ヒメの問いかけにアルは複雑な表情を浮かべた。
「詳しくは分からないけど、神による魔法で成されたものだ。記憶が戻ってくるなんて望みは薄い。ボクの能力がもっと高ければ良かったけど、ヒサメ国王を隠すので精一杯だった。無理やり知ろうとしたハルは倒れてしまったし、それに・・・。」
アルはドウシュを見た。
先ほどから一言も発しないドウシュはこちらを見てにこりと微笑んだ。
こんな微笑み見たことない。
「ドウシュちゃん、どうしたの?俺のこと、分かんない?」
アシャレラの問いかけにも答えない。
彼はただ、微笑んでいるだけ。
「ドウシュは堕ちた悪魔だ。誓約に関わってしまう彼の記憶があると不都合なのかもしれなくて、彼は根本的な記憶まで消されてしまったのかもしれない。悪魔だった時の記憶も、もしかしたら生前の記憶すら消されてしまったのかもしれない。」
ドウシュは悪魔が堕ちた責任を果たそうとしていた。
妹のために復讐した、それを見ていたアヴィシャたちを堕としてしまった。
だから下界にいる間、堕ちた悪魔たちの被害者を減らすように行動した。
操りの魔法を解いて回った。
ドラゴンの血の毒を解毒しようとヒバリたちと研究を始めた。
そして、ソラの母の延命に尽力した。
今回の封印ではアシャレラを呼び出す協力をしてくれて、さらには神々の頂の場をソラと共に整えてくれた。
彼がいなければ、私は今頃とっくに死んでいたといえる。
私はドウシュの手を取り、頭を下げた。
「ドウシュさん、あなたのおかげで全て終わりました。本当にありがとうございました。」
「ドウシュちゃん、いつも俺の話を聞いてくれてありがとう。俺はドウシュちゃんこと、友人だと思ってる。」
アシャレラは私以外に触れられない。だから、ドウシュの手を掴む私の手を握った。
『太陽の神の記憶操作は回避など出来ないと思っていたが、まさかこんな抜け道があろうとはな。』
話し出したのは硝子の竜だ。
彼は昔の戦争の終わった後に堕ちた闇の神だ。
『国王たちには先に告げたが、お主。以前の名をもう使ってはならん。』
硝子の竜は私に向かってそう言った。
「どういうことでしょうか。」
『名前がいかに重要か、太陽の神に奪われたお主ならばよく理解しておるだろう。ずっと使っていたお主の偽名は、もはやお主のものになっておる。それゆえに記憶と結びついておるのだ。名前を知ることで記憶が戻るなんてことはないが、ズレが生じて異常をきたすことになるやもしれん。そうならないためには、その偽名を二度と使わないことだ。』
リビ。
太陽の国で名を聞かれ、思い出せなくて自分でつけたこの名前。
致死毒のあるルリビの木の実から取った名前。
もうすでに、自分の名前なのだと確かに思っていた。
皆が、この名前を呼んでくれた。
だけど、この名前は二度と使えない。
「太陽の神から名前を返してもらったんだろう?オレはその名で呼ぶ気はしないが、キミが呼んで欲しいというのなら話は別だ。」
ヒサメはそう言ってくれたが、私は首を横に振る。
「私も呼ばれる気がしません。だって、この名前の私はもう死んだので。」
「それなら、二人の時だけあの名で呼べばいいな。」
「いや、俺もいるからね?国王様??」
アシャレラの言葉を軽く受け流しつつ、ヒサメは硝子の竜に問う。
「翼のエルフによって今回の封印の記憶は保たれた。今まで神は誓約に関することをひた隠しにしていたはずだ。オレたちが覚えていることで生じてしまう問題はあるか?」
『あの記憶の魔法は使えば使うほど綻んでいるのだろう。だから、中途半端に文献が残っていたり、壁画が残されていたりするのだ。今回、お主等が覚えていたとして、それを伝えようとしたとして、多くの者が信じるのは難しい。それゆえに、何かに情報を残そうとしたとしてもワシが咎めることはない。ワシはもう神ではなく、ただの老いぼれの竜よ。100年後、200年後、はたまたもっと先。また同じように世界の均衡を揺るがそうとする者が現れるやもしれん。その時、お主等の情報が未来の獣人王たちを救うことになるやもしれん。その頃には多少、上界も改善されていれば良いが、ルールとはなかなか変わらないものだからな。時代が変わるとともに、変わらねばならないルールもあるはずだが、変わってはならないものもある。その見極めが難しいのだろうな。』
堕ちる者はまた、必ず現れる。
だからこそ、根本のルールさえ変わってくれればと願わなくもない。
ただ、その一つのルールを改変したがために起こる別の問題が浮上してしまうのも分かる。
だから、現状維持が一番いいと考えてしまうこともある。
『堕ちた神、翼のエルフ、転移者など、記憶を保つ例外などいくらでもいる。それが増えていくことにより、例外が例外を呼ぶことにもなる。そのズレていく世界を保つためにはきっと、新たなルールが必要にもなる。そうしなければ、起こった問題を解決することが出来なくなっていくからだ。そうすると必ず、争いが起こるのだ。』
それによって傷つく人がいるならやっぱりどうにかしたいと思う。
自分にそれだけの力がないと分かっていても、思いあがっているのだとしても。
答えの出ない解決方法をずっと考え続けなければならない。
「ヒサメ様、私たちの記憶を残しておきましょう。信じてもらえなくても、ただの物語だと思われてもいい。いつか、立ち向かわなければならない人たちのために少しでも情報を渡せるように。」
「無論だ。いつか王に立つその者に受け継がれるようにしよう。そうしていつか、キミの魔法を引き継いだ者と出会えるようにしなければな。」
大地震によって各国は建物が崩れ死傷者が出ているようだ。
勿論その大地震とは、均衡の崩れによるものだが知る者はほんの一部だ。
その混乱を収めるために、ヒサメはヒメと白銀の国へ。
アルとハル、それからドウシュは神々の頂でヒバリを待つという。
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