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逃亡編 一章:帝国領脱出
魔石の価値
しおりを挟む武器と防具を買い終えた二人は、雑貨屋が多くある通りに入る。
エリクはいまいち必要な物が分からず、尋ねるようにアリアに聞いた。
「今度は、どんな物を買うんだ?」
「まずはテント。それから寝る為の寝具……は、流石に無理だから、枕代わりに出来たり敷ける布。ここに向かうまでの野宿生活で思ったけど、ちゃんと汚れずに横になって寝たいもの」
「俺は別に、座ったままでも寝れるが」
「私と貴方じゃ、慣れが違うのよ。宿で思ったけど、私はやっぱりベットでぐっすり眠りたいわ。疲れの取れ方が違うもの」
「そういうものか」
「そういうものよ」
「そういえば、君と会った時には手荷物くらいしか持っていなかったが。逃げる準備をしたのに、他の荷物は持って来なかったのか?」
「……馬が途中で倒れた話は、したわよね?」
「ああ」
「その時に、抱えきれない荷物は大半を置いてきちゃったの。テントを始めとした旅用の品をほとんどはそのまま、馬を埋めた近くに隠したままよ。持っていったのは、食料と水と金銭。後は最低限の魔石と杖に、私自身だけ」
「そうなのか」
「今度は外で野宿する事になっても、絶対に横で寝れるようにするのが最低条件! それから、魔石を売ってる場所も探しましょう」
「魔石か」
「魔石は、流石に知ってるわよね?」
「それは知っている。魔物や魔獣の心臓部にある石の事だろう」
「そう。もう夜の町で見たと思うけど、魔石は魔法師が作った装置に嵌め込むと、ああやって光を生み出して灯りにもなるの。魔石は基本的に使い捨てだけど、魔道具さえあれば、誰でも簡単に使えるのよ」
「……よく分からないが、便利なものだというのは分かる」
「王国に、そういう魔道具は無かったの?」
「……そういえば、貴族が行く貴族街や城は、夜中でも明るかった。そういう道具を使っていたのかもしれない」
「貴族街はって、他の場所は? 平民とかが暮らす場所とか」
「そういう物は、見当たらなかったと思う。夜中は暗く、火を灯していた」
「そう。……貴族だけが魔道具の技術を使って、平民には行き渡らせてないのね。本当、嫌な国ね。ベルグリンド王国って」
「そうか?」
「そう……思うけど、貴方の出身国なのよね。あんまり悪口を言っちゃうのは気分が良くないわよね、ごめんなさい」
「別に、謝らなくてもいい」
「そう?」
「ああ」
そんな会話をしながらアリアとエリクは雑貨店を見回り、旅に必要な必需品を買い漁った。
そして魔石を取り扱う彫金屋を見つけると、アリアは安く小さな魔石を麻袋に入れて購入した。
安い魔石は魔物の中でも下級種が宿し、魔法の触媒として使うと、数回程度で粉状に砕けてしまう。
それでも魔法使いと呼ばれる者達が使えば、あらゆる手段に用いられる為、魔法師のアリアには必需品と言ってもいい。
「この何の属性も付与されていない安い魔石でも、私が魔法の力を込めれば、属性魔石になるのよ。ふふ、魔法を込めて売れば、属性魔石として元出より遥かに高く売れるんだから、この町に他の魔法師が居ない今が買い込み時よね」
「属性魔石? 魔法を込める?」
「ああ、エリクも知らないのね。魔法師が魔法を使う時の属性を有する魔法を、それに合った魔石にも込められるの。魔石は一種の魔力貯蔵庫と呼ばれているわ。空気中に存在する魔力は気体よりも遥かに細かい、粒子っていうモノでね。その粒子は本来、人工的に保存する事がほぼ不可能なんだけど、魔法師は自身の体を媒介にして構築式を用いて魔力を集められるから、魔法師が魔石に触れながら魔力を流し込むことで、魔石の中に魔力を保管――……」
「……?」
「……分からないわよね。要は、魔法の力を溜め込めるのよ。魔石って」
「魔法を溜められるのか。凄いな」
「ええ。天然物の魔石には元々適応して魔力が込められた属性魔石が存在するんだけど、簡易的に魔石を作るなら、魔法師が魔力を魔石に込めれば、魔法すら保存できちゃう。使い捨てだけどね。でも、そうして前もって準備しておけば、色んな事に使えて便利なのよ」
「そうなのか。……君が持っている杖も、そうなのか?」
「そうよ。私の杖に取り付けてあるのは、光属性の魔石。私がその系統魔法を呪文として唱えただけで、貯蔵している魔力を代価に発動できるのよ。魔力自体は私が溜め込んだものだけど、この杖に使っているのは上級魔獣の魔石だから、短時間に過剰に魔石を酷使しない限りは、私がお婆ちゃんになる頃でも十分に使えるわ」
「便利なんだな、魔石とは」
「そうよ。弱い魔獣の魔石でも銀貨一枚。上級魔獣や王級魔獣から出る高純度の魔石だったら、下手すると金貨を積んで数万から数十万にも及ぶ金額になるわね」
「そ、そうなのか?」
「……エリク、魔獣とか倒してたのよね。倒した魔獣の魔石は、国に渡して売ってたのよね?」
「ああ。だがどんな魔石でも、どれだけ多く大きな魔石を取ってきても、貰える金はさほど変わらなかったと思う」
「うわっ、ピンハネもいいとこじゃない。前言撤回。王国ってやっぱり最低最悪だわ」
「そ、そうか」
エリクの話を聞いてドン引きするアリアと、その表情に苦笑いを浮かべるエリクは、そのまま必要な必需品を買い揃え、自分達が持つ鞄に詰め込んだ。
大荷物となった為に一度宿屋に戻り、二人は昨日の診療所に向かう事を決めた。
そうして宿屋に戻り荷物を置いたアリアとエリクは、また宿屋を出て夕暮れの中を歩き、報酬を貰う為に診療所へと向かったのだった。
その時にエリクは通りを歩く最中に、周囲から感じる自分達に向けられた視線と気配に気付いた。
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