虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
48 / 1,360
逃亡編 三章:過去の仲間

聞き込み

しおりを挟む

 宿を無事に取れたアリアとエリクは、その日は休息を兼ねて就寝した。
 一階に食堂と酒場を兼ねた場所があり、二階に簡易的な宿部屋が十室ほど設置されている。
 それも満杯に近い状態だった為、アリアとエリクで一人部屋に一緒に入った。
 硬いベットの上に横たわったアリアは御湯を作って体を拭く事もせずに、ベットに顔を埋めた数分後に寝てしまった。
 そんなアリアに掛け布団を掛けつつ、エリクも床に座って寝た。

 次の日。
 起床したアリアとエリクは朝食を下の階で済ませ、南の国へ向かう商船を探した。
 それに疑問を持ったエリクは、アリアに聞いた。

「商船を探すのか? 南の国に向かう定期船を探すんじゃないのか?」

「定期船はダメ。多分、追っ手が見張ってる」

「そうなのか?」

「南の国に私達が行くのがバレてるなら、定期船を見張るのは当たり前よ。迂闊に私達が定期船の受付を済ませたら、追跡して数にモノを言わせて乗り込んで来るに決まってる」

「そうか。だから商船なのか?」

「個人で船を所有してる商船、あるいは商船団を捜して乗せてもらうの。建前上は傭兵としてね」

「建前が無ければ?」

「簡単に言えば、身分を隠蔽した密航者ね」

「密航者か」

「聞こえは悪いけど、そうする以外に南の国に行く手段が考えられないの。何処かそれらしい商船を見つけて、その船の所有者か商人に交渉するしかないわ」

「何か、宛てはあるのか?」

「あるにはあるんだけど、その商人や商船はお父様達が手を回してるはず。迂闊に頼れないわ」

「そうか。じゃあ、探すしかないな」

「うん。とにかく怪しまれない程度に聞き込み開始よ。私と貴方は傭兵のコンビって事で。元魔法師と元騎士の傭兵って事にしましょう。偽名もそのままで」

「偽名もか?」

「下手に変えたら、私達自身で偽名に対応できない場合、ボロが出やすい。それにアリスやエリオなんてありふれた名前、普通は聞いても、すぐに私達と結び付ける判断はできないわ」

「そうか、分かった」

 商船に乗って南の国に行く方針を固めた二人は共に行動する危険性を考え、二手に分かれた。
 エリクが誰かに対して質問を投げ掛けられる程に成長し、言葉遣いも堂の入るモノへと変化した事で、エリクにも情報収集の役目を与えられた。
 共に港に赴いて手分けして、それらしい商船や商人達に話し掛け、南の国マシラに向かう商船や商人を探す。
 幾人かの南の国マシラに赴く商船と商人を見つけながらも、既に傭兵は雇い済みの商船や、突如として乗り込みたがる怪しい者を信用できず、断られるパターンが続出して出ていた。

 再び合流したアリアとエリクは、夕日が海の落ちる港を眺めて溜息を吐き出した。

「……ハァ、ダメね」

「ダメだな」

「やっぱり。前触れもなく売り込みに行って雇ってくれるような商人や商船は、そうそう無いわよね。……はぁ、どうしよう。このままだと、ここで足止めされちゃう」

「そうだな」

「エリク、何か考えられる作戦とかない?」

「……」

「無いわよね。あぁ、どうしよう……」

 悩むアリアはエリクに尋ねてみるが、十数秒の沈黙を保つエリクから顔を逸らし、新たな溜息を吐き出した。
 そんなエリクから零れた言葉は、アリアに驚きを与えさせた。

「……商人は、どうやって護衛や傭兵を雇うんだ?」

「え?」

「俺の国で傭兵を雇う時は、国を介して商人等が傭兵を雇い、荷物の搬送を行っていた。ここでは、どうやって護衛の傭兵を雇っている?」

「……そうよね。元々から商人が抱えてる護衛の他にも、南の国から来ていないような傭兵達が、チラホラ雇われていたわよね。なのに、私達は雇って貰えなかった」

「奴等は、どうやって雇われたんだ?」

「……そうよ。つまりあるんだわ。何処かに傭兵を紹介して雇わせる、仲介所のような場所が……!!」

「そこに俺達も行けば」

「雇ってもらえる!」

 エリクの言葉をきっかけとして、傭兵を雇う際に経由する仲介所が存在する事にアリアは結論として辿り着いた。
 次に探すべき目標を見つけたアリア達は、立ち上がって新たな聞き込みを開始した。
 そしてついに、違う商船の商人から情報を得た。

「傭兵の仲介所? それだったら、あっちの方にある傭兵ギルドでやってるぜ」

「傭兵ギルド?」

「なんだ、知らないのかい。傭兵をやってる奴は大体が所属してる組織だよ。お前さん達、ギルド所属の傭兵じゃないのか?」

「確かに傭兵なんですが、腕に覚えがあってもまだ駆け出しで。傭兵としてのイロハも疎く、右も左も分からないんです」

「それこそ、傭兵ギルドで習えるんじゃねぇかな。行ってみるといいぜ、看板も立ってる」

「はい、ありがとうございます」

 商人から情報を聞き出した二人は、初めて『傭兵ギルド』なる存在がある事を知った。
 帝国や王国には無いギルド制の組織であり、南の国マシラを始めとした諸外国では一般的にも国から認められた組織らしい。
 その情報を知ったアリアとエリクは嬉々とした表情を浮かべて、傭兵ギルドのある場所へ向かった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

処理中です...