虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

信頼関係

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 傭兵ギルドのマスターであるドルフの自室を出たエリクは、待っていたアリアの所まで戻って来た。

「待たせた」

「ううん。どうしたの、何か忘れ物でもした?」

「一つ、質問をして来た」

「質問?」

「昨夜から、監視の目が付いていた理由を聞いてきた」

「……やっぱり。私を逃がせという依頼と同時に、無理なら殺せという依頼を受けてた?」

「気付いていたのか」

「当たり前よ。ゲルガルドのゲスさを知ってれば、そういう事も十分に考えられるわ。だからドルフも、傭兵ギルドも信用できなかったの」

「どうする。危険だが、奴の話に乗るのか?」

「……現状は、乗ってみるしかない。でも、違う道も探しましょう。念の為、ギルドで他に依頼が無いか確認して、その依頼主に個人交渉をしてみましょう。最悪、賄賂を渡して密航させてくれるなら、十分に有り難いわ」

「そうか、分かった」

 アリアが立てる第二の南の国に渡航する作戦に、素直にエリクは頷いて了承した。
 そのエリクを見ながら、アリアは凝視しつつ口を開いた。

「エリクって、賢くなったわよね」

「そうか?」

「私が言ってる事を、ちゃんと理解出来るようになってるじゃない。それに、依頼の裏にあるもう一つの依頼も自力で考えてたみたいだし、賢くなってるわよ」

「それは、多分。君のおかげだ」

「まぁ、文字や言葉は私が教えてるのは確かだけど。でも知識的な面を私は教えてるだけで、知恵的な部分は何も教えてないわ」

「知識と知恵に、違いがあるのか?」

「あるわ。知識は文字や言葉を始めとした単なる知識という情報。でも知恵は、その情報を元にした発想や想像力から生まれる情報。エリク、貴方は知識と同時に、元々持ち合わせてる知恵が、やっと言語化できるようになったのね」

「……すまん。よく分からない」

「まだ難しいのね。でもその内、エリクにも理解できるようになるわよ」

 そんな会話を行いつつ傭兵ギルドの中心部であるホールに戻った二人は、出されている依頼を確認する為に掲示板の前に来た。
 しかしドルフが提示した依頼以外、南の国に渡航する為の護衛依頼は全て埋まっていた。

「……ドルフの奴。私達の逃げ場を無くしたわね」

「どういうことだ?」

「私達が他の依頼主に交渉して逃げる事を予想して、南の国に行く他の依頼を先に埋めたのよ。依頼関係で南の国に行く為には、ドルフの話に乗るしかない……」

「そうか。なら、そのまま五日後の乗船まで待つか?」

「これだけ大きな港町なんだから、南方大陸に乗せる密航業者がいるはずよ。それと接触すれば、もしかしたら……」

「いいのか?」

「え?」

「ドルフが言っていたが、密航業者に接触する事は、厄介事に巻き込まれかねないんじゃないのか」

「そう、だけど……」

「五日後に南の国に行ける目処は立った。なら、ここで無理をする必要は無いんじゃないのか?」

「……」

 エリクの質問にアリアは口を閉ざし、考えつつ目を閉じて思考した。
 数秒後に目を開けたアリアは、エリクに向けて言った。

「分かった。素直に五日後の依頼を受けて、南の国に行きましょう」

「ああ」

「それと同時にあと四日間。この東港町で旅の準備をしつつ、密航業者を探すわ」

「探すのか?」

「ええ。念には念を入れてね。傭兵ギルドが敵に回った場合を考慮して探しておくの。密航業者を見つけて交渉出来たら、状況次第でそっちに乗り換えよ」

「それで、良いのか?」

「このまま座して待つより、私達でも出来得る限りの事をしたいの」

「……分かった。君を信じよう」

「良かった。じゃあ早速、ドルフが紹介した宿に行きましょ。御風呂が付いてれば、ずっと泊まっててもいいかもね」

 決意し微笑みながら傭兵ギルドを出るアリアに、エリクは追従しながら後ろを歩く。
 その道中に話題を出したのは、珍しくエリクの方だった。

「そういえば」

「ん?」

「アリアは、俺を信用しているのか?」

「えっ、今になってそれを聞くの?」

「ドルフを信用できないなら、俺も信用できないんじゃないか。俺も、一応は王国の傭兵だった」

「……エリク、前に言ってたわよね。村を襲っていた野盗に怒りが沸いて、全員殺したって」

「ああ。それで俺は、罪人として捕まるきっかけにもなった」

「私、それを聞いた時に。エリクは頼る事ができるなって思ったの」

「どうしてだ?」

「私も聞きたいんだけどさ。エリクは、野盗に殺された村人の為に怒ったの? それとも、村を襲った野盗に怒ったの?」

「……よく、分からない。あの時、あの光景を見た時に、俺の中で怒りが高まった。それだけは覚えている」

「私も多分それを見たら、そうなると思う。でも私が怒る理由は、村人や野盗に対して怒るんじゃなく、そういう理不尽が起きる事を怒ったと思うわ」

「理不尽に怒る、か」

「うん。国が豊かで民の事を考えた統治が行き届いていれば、野盗なんてそもそも発生しないもの。発生するとしたら、その国の統治が何かしらの歪みを生んでる事になる。そしてその歪みが野盗という理不尽になって、人や村を襲う災害になる。……私はそういう理不尽を、許せないの」

「許せない、か。……俺も、あの光景を見た時、許せないと思ったかもしれない」

「そう思えるエリクだから、私は信頼してるし、信用してるのよ。これが答えにになってない?」

「……よく分からないが、俺を信頼してくれているんだな」

「ええ。エリクは私の旅に一番必要な、大切な相棒よ」

 そう微笑みつつ伝えたアリアの言葉に、エリクは無意識に胸の高鳴りを感じた。
 その時に感じた気持ちをエリクは理解できず、そのまま話しながら二人はドルフの指定した宿に辿り着いた。
 その宿には部屋に風呂が備え付けられ、二人部屋を選んだアリアは早速、風呂に突入する。
 エリクはそれに苦笑しつつ、二時間ほどベットに座って休む事にしたのだった。
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