虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

仄かな気付き

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 ドルフの紹介した宿に身を置いたアリアとエリクは、宿の風呂で身を洗い、食堂で昼食を食べ終わると、魔法で偽装して必要な物を買いつつ、密航業者と思しき組織や集団の情報を仕入れようとした。

 しかし表立ってそんな組織を捜しているとは言えず、またそれ等の情報を仕入れられる場所が分からず、右往左往したまま、時だけが過ぎていった。
 途方に暮れたアリアとエリクは、また海が見える港で座っていた。

「……ダメね。見つからない」

「そうだな」

「知らない町で情報を仕入れるには、やっぱり組織的な情報網を利用するしかないけど……」

「傭兵ギルドのことか?」

「そう。ドルフが私達の事を知ってたのもそうだけど、あそこには情報が集まるのよ。利用するなら傭兵ギルドとドルフを利用するのが手っ取り早いけど、私が下手な行動をすると……」

「傭兵ギルドそのものが、敵に回るか」

「そうなのよね。敵とまではいかなくても、私達を拘束して五日後まで何もさせないようにするかもしれない。そうなると厄介なのよね」

 自分達の置かれた状況を見ながら、アリアは情報収集の難しさを体験していた。
 そうした中で何かを思い出したアリアは、立ち上がってエリクに向き直った。

「エリク、傭兵ギルドに行きましょう」

「どうしたんだ?」

「依頼を見に行くの」

「依頼を? 何か受けるのか」

「ううん。ログウェルの事を思い出したのよ」

「ログウェル……。騎士だったという恐ろしい老人か」

「ログウェルが言ってたわよね。北と南の港町に、輸入品や輸出品を奪って旅行者を襲う盗賊組織がいたって」

「……そ、そうだったか?」

「そうなの。考えてみれば簡単だったわ。北と南の港町にもあるんだもの。この東港町にも、その盗賊組織があるのかもしれない」

「それが、どうしたんだ?」

「傭兵ギルドの依頼を見て、そういう組織の討伐依頼が無いかを探すのよ。そして有ったら、それを受ける、あるいは受けたと見せかけて、情報収集を行うの」

「……それに、どんな意味があるんだ?」

「盗賊組織って言うくらいだもの。裏の事情には詳しいはずよ。特に、密航業者とかね。ううん、その盗賊組織そのものに、密航業者がいるかもしれない」

「!」

「盗賊組織を捕まえるかはともかく、一度そういう手合いを探る為に確認したいの。いいでしょ?」

「ああ。……だが、もうすぐ夜だ。明日の方がいいかもしれない」

「見に行くだけなら、今からでも……」

「道中や樹海の中ならともかく、夜の町で多数の視線が行き交う中で、俺達を追跡する監視者は感じ分け難い」

「……今でもいるのね。傭兵ギルドの監視者が」

「ああ。途中で、一人増えた」

「……今日は色々と動きすぎて、不審に思われたのかもしれないわね。……しょうがないか。今日はここまでにしましょう」

「その方が良いだろう」

 自分達の行動で監視者を増やしたと気付いたアリアとエリクは、その日は自粛し、宿に戻る事にした。
 夕食を食べ終わり、買った道具や荷物を纏めつつ、次の日の行動を部屋の中で打ち合わせた。

「明日は、朝一で傭兵ギルドに行きましょ。そして盗賊組織の討伐依頼・捕縛依頼を見つける」

「そして、その盗賊組織を捜すのか?」

「そう。四日後には出発しないといけないから、依頼自体は受けずにね。町の人達に情報収集をするから、エリクは監視者達の動向を私に逐一教えて」

「分かった」

「仮に盗賊組織が見つかっても、討伐するより先に密航業者の有無を確認よ」

「もし、その盗賊組織が襲ってきたら? 南の港町の時のように」

「その時は、捕獲か討伐するわ」

「分かった」

「第一目標は、密航業者を見つけること。それが達成できない場合、ドルフに従って依頼の護衛で南の国に向かう。仮に盗賊組織が見つかった場合は、第二目標として密航業者との接触を行う。分かった?」

「ああ」

「よし。じゃあ、今日は休みましょう」

 目標が定まった事を納得したアリアは、話を切り上げ、寝る為の服に着替えた。
 乙女らしい恥じらいは既に薄く、エリクの前で堂々と着替え始めたアリアに気を利かせたエリクが視線を逸らしつつ、いつもの様に大剣を抱えて床に座り、そのまま入り口の扉が見える場所で寝ようとした。
 その最中、アリアがエリクに命じた。

「エリク、今日はベットで寝なさい」

「え?」

「貴方、いつもそうやって寝てるわよね。旅の道中や樹海の中ならともかく、町の宿に泊まったら、ちゃんとベットで寝なさい」

「しかし、寝る時には見張りは必要だ」

「それは旅の道中に魔物や人に襲われる場合でしょ。この宿は大きいし、傭兵ギルドのマスターの紹介だけあって、警備する人員もいるわ。仮に人が襲ってきても、ここは最奥の端部屋だから気付けるわよ」

「しかし……」

「それに、私が気になるの。ちゃんと二人部屋でベットも用意してるんだから、ちゃんと寝なさい。これは雇用主としての命令!」

「……わ、分かった」

 ベットでの就寝を命じられたエリクは、アリアの勢いに負けてベットで寝る事となった。
 大剣を床に置いたエリクは、そのままベットに行って座った。

「ちゃんと横になって寝るの!」

「……わ、分かった」

 ベットで座って寝るのがバレてしまい、渋々ながら横になったエリクを見て、アリアは満足そうにしながら、部屋のランプを消して、同じようにベットで横になった。
 二人のベットが横並びの状態で、顔を向け合って横になった二人の中で、アリアが微笑みつつ小声を零した。

「なんか、エリクが横になって寝てるの、新鮮ね」

「そうか?」

「貴方、本当に座ったままでずっと寝てるんだもん。横になって寝てる姿、初めて見たかも」

「そういえば、そうだな」

「エリクって、王国でも座って寝てたの?」

「ああ。それに、王国の町で寝るより、野宿の方が多かったからな」

「そうなの。……ねぇ、エリク?」

「?」

「今まで疑問だったんだけど。……エリクって、男が好きなの?」

「……どういうことだ?」

「だって、長いこと一緒にいるけど。こんなに可愛い私が隣で寝てるのに、襲おうとかする気配も無いし、興味も示さないから。男色家なのかと思って」

「よく分からないが、君を襲って俺に良い事があるのか?」

「無いわね。襲ったら氷漬けにするか、火達磨にしてあげるから」

「そうか。なら、襲わないようにしよう。……それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもない」

「えー、気になるわよ。何? ちゃんと言ってよ」

 言い淀んだエリクに気付き、アリアはここぞとばかりに聞きたがる。
 鼻で溜息を吐き出したエリクは、目を閉じながら言い淀んだ言葉を教えた。

「……それに、君に嫌われたくはない」

「え……。それって、どういう……」

「嫌われると、護衛をし難くなる」

「……そ、そっか。そうよね。じゃあ、明日もいっぱい守ってもらわないとね。だからもう寝ないとね。おやすみなさい!」

「あ、ああ。おやすみ?」

 そう体の向きを変えて背中を見せたアリアに、エリクは不思議そうな顔をしつつ、目を瞑って緊張を持ちながら寝静まった。
 そんなエリクの隣で横になるアリアは、樹海の中で交えたパールの言葉を思い出していた。

『エリオはお前の事が好きで、妻にしたいんじゃないかと、そう思う』

『お前は、エリオが好きなのか?』

『お前はエリオの事が、男として好きじゃないのか?』

 そのパールの言葉を思い出したアリアは、何故か胸の部分に僅かな圧迫感を感じつつ、顔に宿る熱に気付きながらも、気付かない事にした。
 それが、一時の感情の出来事だと信じて。
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