虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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南国編 一章:マシラ共和国

南の国マシラへ

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 エリクの魔法適性が判明した後の二日間。
 アリアとエリクは模擬戦を行い実力を高めた。
 そして魔法の訓練方法を聞きつつ、エリクは魔法と共に魔術を行使できないか試した。

 訓練の一環として数時間の精神集中の訓練は、アリアのお墨付きを貰う程の集中力を見せた。
 しかし魔力を感じる訓練や操作などは上手くいかず、エリクは悩みながらアリアに助言を聞いた。

「アリア。魔力とは、どう感じて操るんだ?」

「んー、それは個人次第なのよね。例えば私は、水の魔法を扱う時に、周囲から冷たく感じる魔力を集めるの」

「そうなのか?」

「ほら、実際の水って冷たいでしょ。生暖かいのもあるけど。だから魔力で作る水も人体よりも低温の物質だから、魔力を冷たく感じるのよ」

「じゃあ、火の魔力は熱いのか」

「そうよ。でも私、暑いの苦手なのよね。魔力は個人の好みもあるけど、個人が考える想像力で形作られる場合もあるわ。エリクの適性は、『火』『土』『闇』の三つの属性。エリクはそれ等を、どう感じる?」

「……火は熱い。土は、乾燥している。闇は、暗い」

「そのイメージを持って、貴方なりに魔力を肌で感じて、触れたいと思うの。私からは助言として、それしか言えないわ」

「……そうか」

「言っておくけど、魔法は日頃から行わないと身に付かないモノだからね。自然に腕や足を素早く動かすのと同じように、毎日毎日の積み重ねで出来るようになるの。習ったその日や次の日に出来る人物が居るとしたら、それは天才なんて呼べるモノじゃない。異常な存在よ」

「異常、か」

「私は帝国では天才なんて呼ばれてたけど、それは毎日の努力が身に付いていたから。才能は元々あったけど、努力し続けないと魔法も知識も身に付かない。それが才能によって出来る魔法というモノでもね。才能も知識と同じ。毎日同じように扱わないと、その内に廃れていく人間の技術なの」

「……」

「だからエリクも、毎日頑張りなさい。そうすれば、私ほどとは言わないけど、魔法騎士になれるわよ」

「魔法騎士?」

「魔法を扱いながら剣を振る者達を、魔法騎士と帝国では呼ぶのよ。帝国の騎士団には、意外とそういう人達は多いわ。私のお父様も、火の属性魔法を扱いながら戦う将軍だし。エリクの場合は魔法騎士というより、魔法戦士ね」

「そうか。魔法戦士か」

 そう説明するアリアは、思い出したように言葉を繋げた。

「そうだ。確かログウェルも、魔法が使えるはずよ」

「!」

「貴方と戦っている時に使っていたかは分からない。けど、絵本の物語ではログウェルは魔法を使えると描かれているの。それが本当だとしたら、ログウェル魔法騎士ということになる」

「あの老人も、魔法を……」

「多分、エリクが危惧している強い人物達というのも、魔力や魔法に関わる強さを身に付けた存在になるでしょうね。この先、またログウェルと遭遇して戦うにしても、他の強者達と戦うにしても。少なくとも魔法に対抗できる手段を考えないと、対処出来なくなるかもしれないわね……」

「……」

「まぁ、今はそんな事を考えてもしょうがないわね。さぁ特訓よ、特訓!」

「あ、ああ」

 そうしてエリクは港に滞在中、アリアに付き添われながら魔法の訓練を行った。
 時にケイルが尋ねてきたり、他の傭兵達と改めて挨拶する場などが設けられながらも、エリクとアリアは束の間の休日を過ごした。

 そして港に着いて四日が経ち、リックハルトが荷馬車と馬の用意し、南の国マシラへ向かう準備が整った。

「傭兵の皆さん。それでは明日、マシラまで移動となります。各自で用意した馬車に乗ってください。道中、休息の為に立ち寄れるだけの村には立ち寄り、物を売りつつ進んでいきます。村に寄る度に荷物が軽くなりますので、最後には身軽な状態でマシラへと辿り着けるというわけです」

 リックハルトがそう説明する中で、一人の傭兵が質問を投げ掛けた。

「道中、魔物や魔獣に関する情報と、山賊や傭兵崩れがいるという情報は?」

「幾つかありますが、そういう場所は避けて通ります。危険は少ない方がいい。ただ、盗賊などの連中が襲ってくる場合、貴方達に頼る事になります。宜しいですね?」

 リックハルトから情報を聞き地図を渡され、山賊の情報と共に、傭兵崩れと云われる野盗達が出没した場所を確認しつつ、各傭兵達が打ち合わせを始めた。
 その中で蚊帳の外にされてしまったエリクとアリアは、傭兵達の中に混ざろうとしつつ話し掛けた。

「あの、私達は?」

「アンタ達は守られる側だろうが、一応な。ヤバイと思ったら、アンタ達で勝手に参戦してくれていい。状況判断はアンタ達に任せる」

 そう伝えられた後に、傭兵達の話に混ざっていたケイルが伝えた。

「エリク達が強すぎるから、こっちの陣形に嵌め込むより、自由に行動させといた方が活用できるのさ」

「そういうことね。じゃあ、襲われたらこっちは本当に勝手にしちゃうけど、いい?」

「ああ。でもよっぽどの相手じゃない限り、迂闊に攻めたりすんなよ。エリクは、お嬢ちゃんとリックハルトを守る事に集中。いいね?」

「ああ、分かった」

 ケイルが慣れたようにエリクに話し、道中の動きは即席ながらも手段として決まった。

 用意された五つの馬車の内、中央の荷馬車にリックハルトとその部下を乗せた馬車を走らせ、その後方にケイルと共にエリクとアリアが乗る馬車が付いて行く。
 そして中央から両側と先頭には、各傭兵達が入る馬や馬車を置いて正面と横からの強襲に備える。
 こうして旅路の準備が進められた後、それぞれが最後の準備や休みを取る為に、港へそれぞれ繰り出した。

 リックハルトは最後の調整を行う為に部下と話し、ケイルも準備を行う為にエリク達から離れ、エリクとアリアは顔を見合わせながら聞いた。

「短い休暇だったわね」

「そうか?」

「ここまで色々あったけど、気が抜けなかった日はないもの。こうしてのんびり出来る日も久し振りだったし」

「そうだな」

「エリク。南の国に着いたら、どうしよっか?」

「アリアに付いて行く」

「それ以外に、貴方がやりたい事は無いの?」

「……魔法を、使えるようになるとかか?」

「そういう事じゃなくて。暫く滞在するんだから、何かやってみたいとか、そういう意味でのやりたいことよ」

「……今のところ、考えつかないな」

「そっか。じゃあ、着いてから一緒に考えましょう」

「ああ」

 そうしてその日、アリアとエリクは部屋に行き、魔法の訓練をしてその日を過ごした。

 そして翌日。
 アリアとエリクは馬車に乗り込み、皆と共に南の国マシラを目指した。
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