169 / 1,360
南国編 閑話:舞台の裏側
激流の再会 (閑話その十二)
しおりを挟む
自ら囮となったローゼン公爵と、それを追う追跡者。
互いに馬を走らせながら南に向かい、
反乱軍の包囲網を避けて西側寄りに移動していく。
長い道のりをローゼン公爵は駆け抜け、
その意に従う白馬は逞しく、
他の馬に比べて長く力強く走り続けた。
追走劇は半日近く続き、
先に潰れたのは追跡者の馬だった。
倒れる馬と飛んで着地した追跡者を見て、
ローゼン公爵は振り返りながら確認した。
「やっと潰れたか。ただの馬で、我が愛馬に勝てると思うな!」
「……」
そう言いながらも不気味に立つ追跡者を怪訝に思い、
ローゼン公爵は移動を緩めず更に南下する。
すると追跡者は倒れた馬に対して一礼し、
懸念した通りに走りながら追って来た。
その速度は常人離れしており、馬の移動速度に匹敵する。
白馬の踏み場を選びながら進む自分に対して、
走る追跡者との距離が縮まる予想外の事態に、
ローゼン公爵は驚きながらも思考を止めなかった。
「まさか、魔人か!?」
追跡者を魔人だと断定したローゼン公爵は、
そのまま馬を走らせ続ける。
しかし、朝から走り続けた白馬に疲弊が色濃くなる。
山間に入り大きな森と崖が見えたローゼン公爵は、
現在位置を記憶と照らし合わせて何かを思い付き、
白馬を崖が見えた方角に向かわせる。
そして限界が近い白馬からローゼン公爵は飛び降りると、
騎馬具を槍で切り外して白馬に別れを告げた。
「ここまでの働き、感謝する! ……お前の子供を死なせてすまなかった。後は自由に生きろ」
「ブルル……」
別れと共に謝罪を呟き、ローゼン公爵は森へ入る。
白馬はそれを見送りながら、命じられた通りに森から離れた。
追跡者は白馬を無視し、森の中に入る。
周囲の様子でローゼン公爵の通り道を察知し、
視界が狭まった森の中を軽快に進んでいく。
森を抜けた先に広がるのは、
底の深い崖と凄まじい勢いの渓流。
そこで待つローゼン公爵は追跡者と相対し、
間合いに入る前に呼び掛けた。
「聞いておこう! 私は、クラウス=イスカル=フォン=ローゼン。貴様が狙う相手で間違いは無いか?」
「ええ。その通りでございます」
「!」
「御挨拶が遅れ、先に名乗らせてしまい申し訳ありません。……私の名はヴェルフェゴール。とある方にお仕えする者です」
牽制の呼び掛けに素直に応じ、
深々と頭を覆ったフードを外した追跡者が顔を見せる。
黒髪に白が混じるオールバックの髪型。
金銀妖瞳で顔立ちを整わせた二十代の男性。
そして外套の下には黒い執事服を身に付けた人物。
ローゼン公爵の追跡者は、
老騎士ログウェルと渡り合ったゲルガルドの執事だった。
「……ヴェルフェゴール。なるほど、東港町でコソコソと動いていたのは貴様の事だな?」
「帝国の礎にして要であるローゼン公爵家当主クラウス様に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」
「私の機嫌が良いように見えるか?」
「いいえ。今の貴方には関係の無い言葉です」
「?」
「これからは死者の世界で元気にお過ごし下さいという意味で、述べさせて頂きましたので」
「……なるほど」
殺す意思を変える気は無い相手に、
ローゼン公爵は改めて赤槍を構えて向かい合う。
それを見ながら微笑むヴェルフェゴールは、
一本の食器ナイフを袖口から取り出して素早く投げた。
それを赤槍で打ち払った姿に、ヴェルフェゴールは感心する。
「見事な御手前です」
「この程度の事が出来ねば、帝国貴族は名乗れぬ」
「なるほど。確かに貴方は帝国最大の、そして最高の帝国貴族です。……だからこそ、貴方を殺す意味がある」
「……」
「私は貴方に対する恨みは無い。むしろ人間という種族の中では敬意に値する対象だと思っています。……ですが、これも契約です。仕方ありませんね」
「……貴様、何者だ? 人間ではあるまい」
「そうですね。あちらの世界に赴く前に、改めて自己紹介させて頂きましょう」
微笑みながら両手の袖口から食器ナイフを取り出し、
ヴェルフェゴールは改めて挨拶を交わした。
「私は【男爵】の位を持つ悪魔、ヴェルフェゴールと申します。我が主との契約により、貴方には舞台から退場して頂きます」
「!!」
悪魔と名乗った相手にローゼン公爵は驚き、
白い眼球が黒に染まったヴェルフェゴールが、
複数の食器ナイフを素早く放つ。
それに対応してローゼン公爵は打ち払うも、
払い損なった一つが右足の太股を深々と刺さった。
痛みを堪えながらローゼン公爵は後ろへ下がる。
しかし、下がる先には断崖絶壁。
逃げ場の無いローゼン公爵を相手に、
ヴェルフェゴールは食器ナイフを両手に持って近付いた。
「さようなら、ローゼン公爵」
「さらばだ。悪魔ヴェルフェゴール」
「!」
そう告げたローゼン公爵は崖に自ら飛び込んだ。
何十メートルという高さの崖を凄まじい速度で落下し、
飛び出た岩場を赤槍を当て押し更に飛び崖の中央へ飛ぶと、
激しい水流の中に身を投じた。
それを驚きで見送ったヴェルフェゴールは、微笑んで呟いた。
「……やはり、純粋な魂を持つ人間は面白い」
ヴェルフェゴールは追おうとはせず、
崖下を一瞥してその場を離れた。
そして激しい渓流の中で岩場を片手で掴み、
ローゼン公爵は顔を上げて息継ぎをした。
「――……プハッ、ゴホッ! ゲホッ、ガハ……ッ。……ログウェルに修練を受けておいて、正解だったな。……何度も、崖には突き落とされた経験が、活きた……」
過去の出来事を思い返すローゼン公爵は、
息を整えながら高い崖を見上げた。
周囲に岸と呼べる場所は無く崖は何十メートルと高い。
足を刺されたローゼン公爵に崖を登るという選択肢は無い。
岩場に腰を乗せてから片手で掴む赤槍を見ると、
魔法の構築式に反応した赤槍が内側に縮まり、腰の鞘に収まる。
そして刺されたナイフを川へ投げ捨て、
首に巻く赤いスカーフを脚の傷にきつく巻き締めると、
軽く溜息を吐き出しながら身に纏う赤鎧を外し始めた。
「……このまま泳ぐしかないか」
渓流に逆らわず泳いで渓谷を抜けようと決意し、
躊躇せずに鎧を川へ投げ捨てる。
防具を全て脱ぎ捨てた後に残るのは、
武器である槍と短剣だけになると、崖上を見上げながら呟いた。
「……悪魔か。確か、人間や魔族の肉体を得て乗り移り、現世へ干渉する魔族だったか」
悪魔と名乗ったヴェルフェゴールの言葉で、知識で知る悪魔を思い出す。
【悪魔族】。
精神と魂だけで現世を生きる精神生命体。
悪魔は依り代となる肉体を得る事で現世を活動できる。
しかし肉体を得る為には契約を行う必要があり、
契約者の死後に魂を輪廻へは行かせず、
己が糧とする為に喰らうと言い伝えられている。
その中で特に危険な悪魔は、『爵位』を持つ悪魔達。
上位の悪魔には【男爵】【子爵】【伯爵《モウ》】【侯爵】【公爵《ロード》】という位が授けられ、
位が高いほど実力の高く危険な悪魔だと云われている。
それ等は魔族や上級魔人すら凌駕する強さを持ち、
特に【伯爵】以上の悪魔は容易く一国を滅ぼすという伝承もある。
そんな危険な悪魔達のほとんどが、魔大陸に住む【魔神王】の下にいる。
その上位悪魔の最下級ながらも【男爵】の悪魔が、
ゲルガルドの下で契約を結び活動している。
それを知ったローゼン公爵は険しい表情を浮かべた。
「……悪魔に対抗できるのは、聖人しかいない。やはりログウェルの助力が必要か。最悪、他の七大聖人を招集する案を四大国家に打診しなければ。……それより今は、俺が生き残れるかどうか、か」
残してきた者達を思いながら、
覚悟したローゼン公爵は水の中に飛び込み、激流に身を任せた。
岩に直撃しないように無我夢中で泳ぎ、
時には岩場を掴み上がり休み休みに流される。
上手く行かずに岩壁に激突し身体を痛め、
過酷な渓流下りを行い続けた。
そうして何時間と過ぎ、夜から朝になる。
脚から血を流し続けたまま渓流を泳いで体力を落とし、
秋頃の肌寒い水で体温を奪いながらも、
火属性魔法で体温を調整し続けるも魔法の使用限界を超えた。
貧血と魔力酔いで意識が朦朧としながら最後の滝を落下し、
水面に浮かび身体を動かしながら岸に流れ着き、気絶する。
そして次に目を開けた時、
ローゼン公爵は見知らぬ場所に居た。
「……ぅ……。……ここは……?」
上半身を起こしたローゼン公爵は、
木と葉が敷き詰められた場所で目を覚ました。
上半身は裸で槍も短剣も傍には無く、
痛めた箇所や脚の傷に薬草を塗られた匂いが漂う。
天幕の外から音が聞こえる。
全身を襲う痛みで顔を歪ませながらも、
ローゼン公爵は身体を起こして天幕から出た。
そこで見たのは、木々が野太く輪生した森の中。
周囲には木と葉で敷き詰められ獣の皮を張った集落があり、
褐色の人々が赤い紅を身体に塗り、
稚拙な服を身に付けている未発達の文明世界。
ローゼン公爵はここが何処なのかを思い出した。
そして天幕から出た数秒後に声を掛けられた。
「――……目が覚めたか? アリスの父親」
「……お前は、あの時の……?」
現れたのは、褐色肌と右腕に僅かな火傷跡を残す黒髪の女性。
今から二ヶ月前にアリアとエリクが来訪し過ごした樹海の友人。
少し髪が伸びた森の守護者の女勇士パールが、
予期せぬ形でアリアの父親と再会を果たしたのだった。
互いに馬を走らせながら南に向かい、
反乱軍の包囲網を避けて西側寄りに移動していく。
長い道のりをローゼン公爵は駆け抜け、
その意に従う白馬は逞しく、
他の馬に比べて長く力強く走り続けた。
追走劇は半日近く続き、
先に潰れたのは追跡者の馬だった。
倒れる馬と飛んで着地した追跡者を見て、
ローゼン公爵は振り返りながら確認した。
「やっと潰れたか。ただの馬で、我が愛馬に勝てると思うな!」
「……」
そう言いながらも不気味に立つ追跡者を怪訝に思い、
ローゼン公爵は移動を緩めず更に南下する。
すると追跡者は倒れた馬に対して一礼し、
懸念した通りに走りながら追って来た。
その速度は常人離れしており、馬の移動速度に匹敵する。
白馬の踏み場を選びながら進む自分に対して、
走る追跡者との距離が縮まる予想外の事態に、
ローゼン公爵は驚きながらも思考を止めなかった。
「まさか、魔人か!?」
追跡者を魔人だと断定したローゼン公爵は、
そのまま馬を走らせ続ける。
しかし、朝から走り続けた白馬に疲弊が色濃くなる。
山間に入り大きな森と崖が見えたローゼン公爵は、
現在位置を記憶と照らし合わせて何かを思い付き、
白馬を崖が見えた方角に向かわせる。
そして限界が近い白馬からローゼン公爵は飛び降りると、
騎馬具を槍で切り外して白馬に別れを告げた。
「ここまでの働き、感謝する! ……お前の子供を死なせてすまなかった。後は自由に生きろ」
「ブルル……」
別れと共に謝罪を呟き、ローゼン公爵は森へ入る。
白馬はそれを見送りながら、命じられた通りに森から離れた。
追跡者は白馬を無視し、森の中に入る。
周囲の様子でローゼン公爵の通り道を察知し、
視界が狭まった森の中を軽快に進んでいく。
森を抜けた先に広がるのは、
底の深い崖と凄まじい勢いの渓流。
そこで待つローゼン公爵は追跡者と相対し、
間合いに入る前に呼び掛けた。
「聞いておこう! 私は、クラウス=イスカル=フォン=ローゼン。貴様が狙う相手で間違いは無いか?」
「ええ。その通りでございます」
「!」
「御挨拶が遅れ、先に名乗らせてしまい申し訳ありません。……私の名はヴェルフェゴール。とある方にお仕えする者です」
牽制の呼び掛けに素直に応じ、
深々と頭を覆ったフードを外した追跡者が顔を見せる。
黒髪に白が混じるオールバックの髪型。
金銀妖瞳で顔立ちを整わせた二十代の男性。
そして外套の下には黒い執事服を身に付けた人物。
ローゼン公爵の追跡者は、
老騎士ログウェルと渡り合ったゲルガルドの執事だった。
「……ヴェルフェゴール。なるほど、東港町でコソコソと動いていたのは貴様の事だな?」
「帝国の礎にして要であるローゼン公爵家当主クラウス様に置かれましては、ご機嫌麗しゅう」
「私の機嫌が良いように見えるか?」
「いいえ。今の貴方には関係の無い言葉です」
「?」
「これからは死者の世界で元気にお過ごし下さいという意味で、述べさせて頂きましたので」
「……なるほど」
殺す意思を変える気は無い相手に、
ローゼン公爵は改めて赤槍を構えて向かい合う。
それを見ながら微笑むヴェルフェゴールは、
一本の食器ナイフを袖口から取り出して素早く投げた。
それを赤槍で打ち払った姿に、ヴェルフェゴールは感心する。
「見事な御手前です」
「この程度の事が出来ねば、帝国貴族は名乗れぬ」
「なるほど。確かに貴方は帝国最大の、そして最高の帝国貴族です。……だからこそ、貴方を殺す意味がある」
「……」
「私は貴方に対する恨みは無い。むしろ人間という種族の中では敬意に値する対象だと思っています。……ですが、これも契約です。仕方ありませんね」
「……貴様、何者だ? 人間ではあるまい」
「そうですね。あちらの世界に赴く前に、改めて自己紹介させて頂きましょう」
微笑みながら両手の袖口から食器ナイフを取り出し、
ヴェルフェゴールは改めて挨拶を交わした。
「私は【男爵】の位を持つ悪魔、ヴェルフェゴールと申します。我が主との契約により、貴方には舞台から退場して頂きます」
「!!」
悪魔と名乗った相手にローゼン公爵は驚き、
白い眼球が黒に染まったヴェルフェゴールが、
複数の食器ナイフを素早く放つ。
それに対応してローゼン公爵は打ち払うも、
払い損なった一つが右足の太股を深々と刺さった。
痛みを堪えながらローゼン公爵は後ろへ下がる。
しかし、下がる先には断崖絶壁。
逃げ場の無いローゼン公爵を相手に、
ヴェルフェゴールは食器ナイフを両手に持って近付いた。
「さようなら、ローゼン公爵」
「さらばだ。悪魔ヴェルフェゴール」
「!」
そう告げたローゼン公爵は崖に自ら飛び込んだ。
何十メートルという高さの崖を凄まじい速度で落下し、
飛び出た岩場を赤槍を当て押し更に飛び崖の中央へ飛ぶと、
激しい水流の中に身を投じた。
それを驚きで見送ったヴェルフェゴールは、微笑んで呟いた。
「……やはり、純粋な魂を持つ人間は面白い」
ヴェルフェゴールは追おうとはせず、
崖下を一瞥してその場を離れた。
そして激しい渓流の中で岩場を片手で掴み、
ローゼン公爵は顔を上げて息継ぎをした。
「――……プハッ、ゴホッ! ゲホッ、ガハ……ッ。……ログウェルに修練を受けておいて、正解だったな。……何度も、崖には突き落とされた経験が、活きた……」
過去の出来事を思い返すローゼン公爵は、
息を整えながら高い崖を見上げた。
周囲に岸と呼べる場所は無く崖は何十メートルと高い。
足を刺されたローゼン公爵に崖を登るという選択肢は無い。
岩場に腰を乗せてから片手で掴む赤槍を見ると、
魔法の構築式に反応した赤槍が内側に縮まり、腰の鞘に収まる。
そして刺されたナイフを川へ投げ捨て、
首に巻く赤いスカーフを脚の傷にきつく巻き締めると、
軽く溜息を吐き出しながら身に纏う赤鎧を外し始めた。
「……このまま泳ぐしかないか」
渓流に逆らわず泳いで渓谷を抜けようと決意し、
躊躇せずに鎧を川へ投げ捨てる。
防具を全て脱ぎ捨てた後に残るのは、
武器である槍と短剣だけになると、崖上を見上げながら呟いた。
「……悪魔か。確か、人間や魔族の肉体を得て乗り移り、現世へ干渉する魔族だったか」
悪魔と名乗ったヴェルフェゴールの言葉で、知識で知る悪魔を思い出す。
【悪魔族】。
精神と魂だけで現世を生きる精神生命体。
悪魔は依り代となる肉体を得る事で現世を活動できる。
しかし肉体を得る為には契約を行う必要があり、
契約者の死後に魂を輪廻へは行かせず、
己が糧とする為に喰らうと言い伝えられている。
その中で特に危険な悪魔は、『爵位』を持つ悪魔達。
上位の悪魔には【男爵】【子爵】【伯爵《モウ》】【侯爵】【公爵《ロード》】という位が授けられ、
位が高いほど実力の高く危険な悪魔だと云われている。
それ等は魔族や上級魔人すら凌駕する強さを持ち、
特に【伯爵】以上の悪魔は容易く一国を滅ぼすという伝承もある。
そんな危険な悪魔達のほとんどが、魔大陸に住む【魔神王】の下にいる。
その上位悪魔の最下級ながらも【男爵】の悪魔が、
ゲルガルドの下で契約を結び活動している。
それを知ったローゼン公爵は険しい表情を浮かべた。
「……悪魔に対抗できるのは、聖人しかいない。やはりログウェルの助力が必要か。最悪、他の七大聖人を招集する案を四大国家に打診しなければ。……それより今は、俺が生き残れるかどうか、か」
残してきた者達を思いながら、
覚悟したローゼン公爵は水の中に飛び込み、激流に身を任せた。
岩に直撃しないように無我夢中で泳ぎ、
時には岩場を掴み上がり休み休みに流される。
上手く行かずに岩壁に激突し身体を痛め、
過酷な渓流下りを行い続けた。
そうして何時間と過ぎ、夜から朝になる。
脚から血を流し続けたまま渓流を泳いで体力を落とし、
秋頃の肌寒い水で体温を奪いながらも、
火属性魔法で体温を調整し続けるも魔法の使用限界を超えた。
貧血と魔力酔いで意識が朦朧としながら最後の滝を落下し、
水面に浮かび身体を動かしながら岸に流れ着き、気絶する。
そして次に目を開けた時、
ローゼン公爵は見知らぬ場所に居た。
「……ぅ……。……ここは……?」
上半身を起こしたローゼン公爵は、
木と葉が敷き詰められた場所で目を覚ました。
上半身は裸で槍も短剣も傍には無く、
痛めた箇所や脚の傷に薬草を塗られた匂いが漂う。
天幕の外から音が聞こえる。
全身を襲う痛みで顔を歪ませながらも、
ローゼン公爵は身体を起こして天幕から出た。
そこで見たのは、木々が野太く輪生した森の中。
周囲には木と葉で敷き詰められ獣の皮を張った集落があり、
褐色の人々が赤い紅を身体に塗り、
稚拙な服を身に付けている未発達の文明世界。
ローゼン公爵はここが何処なのかを思い出した。
そして天幕から出た数秒後に声を掛けられた。
「――……目が覚めたか? アリスの父親」
「……お前は、あの時の……?」
現れたのは、褐色肌と右腕に僅かな火傷跡を残す黒髪の女性。
今から二ヶ月前にアリアとエリクが来訪し過ごした樹海の友人。
少し髪が伸びた森の守護者の女勇士パールが、
予期せぬ形でアリアの父親と再会を果たしたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる