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結社編 一章:ルクソード皇国
影の組織
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エリクとマギルスが戦った後、荷馬車の前に戻ってくる。
そこでアリアは訝しげに声を掛けた。
「マギルス。アンタ、まさか首無族なの?」
「あれ、言ってなかったっけ? そうだよ!」
「……」
「強い人ほど、ああいう手に引っ掛かるんだよね。ゴズヴァールおじさんも僕と初めて戦った時は騙されたよ! でも上手く刈り取れなくて返り討ちに遭っちゃった」
微笑みながら教えるマギルスに、アリアは表情を強張らせる。
そして荷車に繋がれた青馬にも視線を向けて、アリアは呟いた。
「……首無族は魔大陸に棲む魔族の中でも特殊な存在。首無騎士王と呼ばれる王の下に集った、鎧の身体を持つ半精神生命体だったはず。人間との間に子孫なんて残せるはず……」
「?」
「マギルス。アンタ、自分の両親の事は覚えてる?」
「ううん。知らない」
「そう……」
「どうしたの、アリアお姉さん?」
「……マギルス。忠告しておくけど、人前で頭を取ったりするような事はしない方がいいわ。馬の方も憑依を解かないで。少なくとも、旅の間はね」
「どうして?」
「精神体と契約している半精神生命体の首無族。その手の情報を知りたい連中がいたら、意地でもアンタを捕縛して研究材料しようと躍起になって襲って来るから」
「大丈夫だよ。そんなの、僕が全部やっつけちゃうから!」
「アンタ、人間を舐めてるわよね?」
「え? だって僕等に比べたら、人間はみんな弱いでしょ?」
「……普通の人間ならね。とにかく、人前で首を取ったりするのは止めなさい。じゃないと、違う意味で私達が厄介事に巻き込まれるんだから」
「はーい」
何時に無く真剣な表情で注意するアリアに、マギルスは渋々ながら了承する。
そして戻って来たエリクにも、アリアは伝えた。
「エリク、さっきの技は凄かったわ。だけど人前では使うのを避けてね。貴方もマギルス同様、狙われて然るべき存在だから」
「俺も、狙われる?」
「マシラから逃げる時にゴズヴァールが言った事を失念してたわ。……鬼神の子孫。つまり貴方は、四大国家の一つであるフォウル国の巫女姫と同じ血筋。その血の価値を知る人が知れば、貴方を手に入れる為にどんな手段を使うか分からないから」
「そうなのか」
「私も違う意味で、そういう研究対象としては打って付けなの。ここに狙われるべき理由が揃った三人が集合しちゃってるのよね」
膨大な魔法知識を受け継ぐ継承紋を宿したアリア。
鬼神の血を引くエリク。
精神体と契約し自身も半精神体のマギルス。
この場にいる四人の内、三人が狙われて然るべき存在だと改めて伝わると、蚊帳の外からケイルが嫌そうな表情で呟いた。
「……やっぱまともなのは、アタシだけじゃねぇか」
改めて自分以外の面々が常軌を逸した存在だと悟り、ケイルはこれからの苦労を考えて悩まされる。
そしてアリアの奨めで先に進む事が提案されると、全員が荷馬車に乗り込んで旅に戻った。
マギルスから受けたエリクの傷にアリアは回復魔法を施す。
鼻血と痛めた脇腹を癒し終えると、次はマギルスに対して傷が無いか確認する。
しかし重傷も無く小さな擦り傷は既に完治していた。
「掠り傷程度だったら、僕等はすぐに治っちゃうもん。エリクおじさんも、血はすぐ止まってたでしょ?」
「ああ」
魔人のマギルスとエリクがそう答え合う様子を見ながら、溜息を漏らすアリアにケイルが聞いた。
「アリア。エリクやマギルス、そしてお前自身を狙うかもしれないと言ってる連中に、心当たりがあるのか?」
「……ええ。あるわ」
「どんな奴等だ?」
「詳しくは私も知らない。ただ、ガンダルフ師匠がずっと昔に、私にも注意したの。同じような事を言ってね」
「聞かせろよ。とりあえず情報共有してなきゃ、懸念も出来ないだろ」
「……そうね。話しておきましょうか。マギルスもエリクも、ちゃんと聞いておいて。自分の身を守る為に」
荷馬車で進む一行は、アリアの話に耳を傾けた。
そこで語られたのは、人間大陸で暗躍する者達の話だった。
「私達を狙うかもしれない連中の事を話す前に。人間大陸の国家間では、様々な制約が取り決められているの。その中で特に顕著なのが、魔族に対する法律よ」
「魔族に対する法律?」
「人間大陸には幾つか魔族が住み着いてる場所もあるんだけど、基本的に魔族が絡んだ犯罪に対する処置は、人間と同じではないの」
「同じというのは、どういうことだ?」
「人間が犯罪を起こした場合、その場で殺されたり捕まえて投獄される。生きて捕まった犯罪者は裁判の後に、有用だと判断されると奴隷として墜とされて奴隷紋を肉体に刻まれて誓約を結ばされる。他にも借金関連で奴隷に墜ちる人もいるわね。奴隷は基本的に捕らえた国家内で売買が行われるけど、若い奴隷は人手が足りない場所で買い取られてる。そしてテクラノスみたいな重犯罪者の場合は、四大国家の承認を得てからその国で雇われる事もある。……そこまでは分かる?」
「……そ、そうか。凄いな」
「エリクは分かってないようだけど、他の二人は?」
「分かるー!」
「ああ、よく知ってるよ」
エリクの理解だけ遅れる事を承知していたアリアは、改めてエリクに分かり易く説明する。
ようやく理解出来たエリクを確認し、アリアは改めて話を進めた。
「人間の犯罪者の場合はそういう対処を行うけど。魔族の場合は違うの」
「違うのか?」
「魔族の場合、犯罪を行った者はその場で殺すか、捕まえた後に魔大陸に強制送還する。どんな理由であれ魔族を奴隷に墜とす奴等がいれば、四大国家が総力を挙げてそういう組織を潰しに掛かる。過去に何度もそういう手合いが出てたと聞かされているわ」
「どうして、魔族を奴隷にしてはいけないんだ?」
「そういう盟約を、大昔の魔大陸の代表者と人間大陸の代表者達が結んで、今でも有効になったままだから。その盟約がどういう意図でなされたか、エリクは分かる?」
「いや……」
「人間と魔族の関係を悪化させて、人魔大戦を再び起こさない為よ」
「人魔大戦……?」
「過去に二度ほど、人間と魔族は大きな戦争を起こしているの。第一次人魔大戦は千年以上前。第二次人魔大戦は五百年ほど前。その二度の戦いで、人間側は完敗したと云われてる」
「!」
「五百年前の戦いでは、当時の七大聖人が総力を結集して挑んでも、魔大陸の強者達に打ち倒されてボロ負けしたらしいわ。その時に七大聖人達に勝った魔族のほとんどが、今でも魔大陸の王者として君臨している。……どうして四大国家が躍起になって魔族の奴隷を生まないようにしてるか、理解出来るわよね?」
「……魔族と戦えば、負けるからか?」
「そう。そして魔族の報復を恐れているから。第一次人魔大戦で当時の人間大陸の国家の九割が、怒り狂ったハイエルフの魔王と女王に滅ぼされかけたそうよ。辛うじてフォウル国の鬼巫女姫が魔王と女王の怒りを鎮めて、盟約を結んだことで全滅は避けたらしいけど。でも再び魔族を奴隷にすれば、女王の血族であるハイエルフの王が襲って来るかもしれない。それが怖いのよ、四大国家は」
アリアの話す過去の歴史を聞き、三人はそれぞれの反応を示す。
マギルスは魔族の強さに興味を惹かれ、ケイルは奴隷という言葉で苦い思いを浮かべる。
そしてエリクも神妙な顔で何かを思い、アリアに問い掛けた。
「アリア。魔人はどうなるんだ?」
「……」
「人間と魔族の子供。俺達のような魔人は、奴隷にしてもいいのか?」
エリクはアリアが伝えようとする真意を突いた。
それに僅かな驚きを見せながら、アリアは答えた。
「……そう。人間と魔族の混血児達。魔人という存在が盟約の基準と照らし合わせてどうなるか。それが未だ問題になってるのよ」
「問題?」
「四大国家でも意見が総別れしているの。フォウル国なんかは明確に、魔人が犯罪を犯したらその場で極刑にして構わないと言い、子供の魔人なら自分の国で引き取ったり大人の魔人なら魔大陸に送還しろと働きかけてる。……でも他の四大国家は、違う主張をしているの」
「……」
「魔人でも平等な法で裁くべきだと言う国もあれば、フォウル国に対抗する為に魔人を雇って軍事力にしようとする国もある。逆に魔族や魔人を排除したい人間至上主義国家もある。四大国家でも意見が完全に分かれてて、その傘下の国はそういう特色が色濃く見えるのよ」
「そうなのか……」
「ちなみに、私の出身国であるガルミッシュ帝国と同盟国であるマシラ共和国は、魔人を軍事利用出来るならするという姿勢に影響を受けた四大国家の一つに組してる傘下国。エリクが居たベルグリンド王国は、人間至上主義の国家に影響を受けた傘下国よ。ただ内実は、魔人でも利用出来るなら利用しようって魂胆だったみたいだけどね」
「……」
魔人に関する扱いが四大国家の影響でそれぞれの国で違うことを、アリアの説明で三人は理解した。
そしてアリアは、今回の本題に入った。
「ここからが、話の本題よ。……私やエリク、そしてマギルスを狙うだろう組織。そいつ等は四大国家の影で暗躍している。正式な名称は無いらしいけど、知る人達はそいつ等を【結社】と呼ぶわ」
「結社か」
「魔法や魔術関連の情報売買を中心に、強い人間や魔人を引き入れて、裏側で組織的な拡大を続けてるらしいわ。どれだけ大きな勢力なのかも不明よ」
「……」
「そいつ等を指揮するリーダー格や幹部が誰なのかも分からない。もちろん、その背後に居る国家もね。完全な縦社会じゃなく、繋がりだけで出来た横社会の組織とも言われているわ。だからそれぞれが独立した組織形態と目的で動き、自分達の利益の為に活動している。そういう組織が、確かに存在するのよ」
「……そいつ等が、俺達を狙うのか?」
「ええ。私みたいな魔法師や貴方達みたいな魔人は、まさに恰好の的でしょうね。傭兵ギルドに所属しているとはいえ、基本的に国に縛られていないフリーな存在だから、束縛したり利用しようとするのは当たり前でしょう。……私達は今後、そういう連中からの視線にも注意しないといけない」
アリアの話を聞き終えると、全員が沈黙しながら考え込む。
それぞれが異なる興味と思考に至る最中、緊張感とは程遠い音がその場に響いた。
それは、魔人であるマギルスの腹の音だった。
「ケイルお姉さん、お腹空いたー!」
「……マギルス。アンタ、もう少し空気とか読めない?」
「だって遊んだからお腹が空いたんだもん。お腹空いたー! 御飯作ってー!」
「……はぁ。もうすぐ夕方ね。ケイル、この辺で野営は出来る?」
「もうちょい先に川があるみたいだから、そこまで待てよ」
「はーい。じゃあ少し急ぐよぉ!」
青馬に命じて川が見える場所まで急がせると、一行はその日を野宿で過ごした。
現状、アリア達に結社達からの実害は無い。
一行は思う所を見せながらも、結社という見えない組織に完全な注意を向けられなかった。
マシラの騒動に巻き込まれた時点で、既に結社達に目を付けられている事にも気付かずに。
そこでアリアは訝しげに声を掛けた。
「マギルス。アンタ、まさか首無族なの?」
「あれ、言ってなかったっけ? そうだよ!」
「……」
「強い人ほど、ああいう手に引っ掛かるんだよね。ゴズヴァールおじさんも僕と初めて戦った時は騙されたよ! でも上手く刈り取れなくて返り討ちに遭っちゃった」
微笑みながら教えるマギルスに、アリアは表情を強張らせる。
そして荷車に繋がれた青馬にも視線を向けて、アリアは呟いた。
「……首無族は魔大陸に棲む魔族の中でも特殊な存在。首無騎士王と呼ばれる王の下に集った、鎧の身体を持つ半精神生命体だったはず。人間との間に子孫なんて残せるはず……」
「?」
「マギルス。アンタ、自分の両親の事は覚えてる?」
「ううん。知らない」
「そう……」
「どうしたの、アリアお姉さん?」
「……マギルス。忠告しておくけど、人前で頭を取ったりするような事はしない方がいいわ。馬の方も憑依を解かないで。少なくとも、旅の間はね」
「どうして?」
「精神体と契約している半精神生命体の首無族。その手の情報を知りたい連中がいたら、意地でもアンタを捕縛して研究材料しようと躍起になって襲って来るから」
「大丈夫だよ。そんなの、僕が全部やっつけちゃうから!」
「アンタ、人間を舐めてるわよね?」
「え? だって僕等に比べたら、人間はみんな弱いでしょ?」
「……普通の人間ならね。とにかく、人前で首を取ったりするのは止めなさい。じゃないと、違う意味で私達が厄介事に巻き込まれるんだから」
「はーい」
何時に無く真剣な表情で注意するアリアに、マギルスは渋々ながら了承する。
そして戻って来たエリクにも、アリアは伝えた。
「エリク、さっきの技は凄かったわ。だけど人前では使うのを避けてね。貴方もマギルス同様、狙われて然るべき存在だから」
「俺も、狙われる?」
「マシラから逃げる時にゴズヴァールが言った事を失念してたわ。……鬼神の子孫。つまり貴方は、四大国家の一つであるフォウル国の巫女姫と同じ血筋。その血の価値を知る人が知れば、貴方を手に入れる為にどんな手段を使うか分からないから」
「そうなのか」
「私も違う意味で、そういう研究対象としては打って付けなの。ここに狙われるべき理由が揃った三人が集合しちゃってるのよね」
膨大な魔法知識を受け継ぐ継承紋を宿したアリア。
鬼神の血を引くエリク。
精神体と契約し自身も半精神体のマギルス。
この場にいる四人の内、三人が狙われて然るべき存在だと改めて伝わると、蚊帳の外からケイルが嫌そうな表情で呟いた。
「……やっぱまともなのは、アタシだけじゃねぇか」
改めて自分以外の面々が常軌を逸した存在だと悟り、ケイルはこれからの苦労を考えて悩まされる。
そしてアリアの奨めで先に進む事が提案されると、全員が荷馬車に乗り込んで旅に戻った。
マギルスから受けたエリクの傷にアリアは回復魔法を施す。
鼻血と痛めた脇腹を癒し終えると、次はマギルスに対して傷が無いか確認する。
しかし重傷も無く小さな擦り傷は既に完治していた。
「掠り傷程度だったら、僕等はすぐに治っちゃうもん。エリクおじさんも、血はすぐ止まってたでしょ?」
「ああ」
魔人のマギルスとエリクがそう答え合う様子を見ながら、溜息を漏らすアリアにケイルが聞いた。
「アリア。エリクやマギルス、そしてお前自身を狙うかもしれないと言ってる連中に、心当たりがあるのか?」
「……ええ。あるわ」
「どんな奴等だ?」
「詳しくは私も知らない。ただ、ガンダルフ師匠がずっと昔に、私にも注意したの。同じような事を言ってね」
「聞かせろよ。とりあえず情報共有してなきゃ、懸念も出来ないだろ」
「……そうね。話しておきましょうか。マギルスもエリクも、ちゃんと聞いておいて。自分の身を守る為に」
荷馬車で進む一行は、アリアの話に耳を傾けた。
そこで語られたのは、人間大陸で暗躍する者達の話だった。
「私達を狙うかもしれない連中の事を話す前に。人間大陸の国家間では、様々な制約が取り決められているの。その中で特に顕著なのが、魔族に対する法律よ」
「魔族に対する法律?」
「人間大陸には幾つか魔族が住み着いてる場所もあるんだけど、基本的に魔族が絡んだ犯罪に対する処置は、人間と同じではないの」
「同じというのは、どういうことだ?」
「人間が犯罪を起こした場合、その場で殺されたり捕まえて投獄される。生きて捕まった犯罪者は裁判の後に、有用だと判断されると奴隷として墜とされて奴隷紋を肉体に刻まれて誓約を結ばされる。他にも借金関連で奴隷に墜ちる人もいるわね。奴隷は基本的に捕らえた国家内で売買が行われるけど、若い奴隷は人手が足りない場所で買い取られてる。そしてテクラノスみたいな重犯罪者の場合は、四大国家の承認を得てからその国で雇われる事もある。……そこまでは分かる?」
「……そ、そうか。凄いな」
「エリクは分かってないようだけど、他の二人は?」
「分かるー!」
「ああ、よく知ってるよ」
エリクの理解だけ遅れる事を承知していたアリアは、改めてエリクに分かり易く説明する。
ようやく理解出来たエリクを確認し、アリアは改めて話を進めた。
「人間の犯罪者の場合はそういう対処を行うけど。魔族の場合は違うの」
「違うのか?」
「魔族の場合、犯罪を行った者はその場で殺すか、捕まえた後に魔大陸に強制送還する。どんな理由であれ魔族を奴隷に墜とす奴等がいれば、四大国家が総力を挙げてそういう組織を潰しに掛かる。過去に何度もそういう手合いが出てたと聞かされているわ」
「どうして、魔族を奴隷にしてはいけないんだ?」
「そういう盟約を、大昔の魔大陸の代表者と人間大陸の代表者達が結んで、今でも有効になったままだから。その盟約がどういう意図でなされたか、エリクは分かる?」
「いや……」
「人間と魔族の関係を悪化させて、人魔大戦を再び起こさない為よ」
「人魔大戦……?」
「過去に二度ほど、人間と魔族は大きな戦争を起こしているの。第一次人魔大戦は千年以上前。第二次人魔大戦は五百年ほど前。その二度の戦いで、人間側は完敗したと云われてる」
「!」
「五百年前の戦いでは、当時の七大聖人が総力を結集して挑んでも、魔大陸の強者達に打ち倒されてボロ負けしたらしいわ。その時に七大聖人達に勝った魔族のほとんどが、今でも魔大陸の王者として君臨している。……どうして四大国家が躍起になって魔族の奴隷を生まないようにしてるか、理解出来るわよね?」
「……魔族と戦えば、負けるからか?」
「そう。そして魔族の報復を恐れているから。第一次人魔大戦で当時の人間大陸の国家の九割が、怒り狂ったハイエルフの魔王と女王に滅ぼされかけたそうよ。辛うじてフォウル国の鬼巫女姫が魔王と女王の怒りを鎮めて、盟約を結んだことで全滅は避けたらしいけど。でも再び魔族を奴隷にすれば、女王の血族であるハイエルフの王が襲って来るかもしれない。それが怖いのよ、四大国家は」
アリアの話す過去の歴史を聞き、三人はそれぞれの反応を示す。
マギルスは魔族の強さに興味を惹かれ、ケイルは奴隷という言葉で苦い思いを浮かべる。
そしてエリクも神妙な顔で何かを思い、アリアに問い掛けた。
「アリア。魔人はどうなるんだ?」
「……」
「人間と魔族の子供。俺達のような魔人は、奴隷にしてもいいのか?」
エリクはアリアが伝えようとする真意を突いた。
それに僅かな驚きを見せながら、アリアは答えた。
「……そう。人間と魔族の混血児達。魔人という存在が盟約の基準と照らし合わせてどうなるか。それが未だ問題になってるのよ」
「問題?」
「四大国家でも意見が総別れしているの。フォウル国なんかは明確に、魔人が犯罪を犯したらその場で極刑にして構わないと言い、子供の魔人なら自分の国で引き取ったり大人の魔人なら魔大陸に送還しろと働きかけてる。……でも他の四大国家は、違う主張をしているの」
「……」
「魔人でも平等な法で裁くべきだと言う国もあれば、フォウル国に対抗する為に魔人を雇って軍事力にしようとする国もある。逆に魔族や魔人を排除したい人間至上主義国家もある。四大国家でも意見が完全に分かれてて、その傘下の国はそういう特色が色濃く見えるのよ」
「そうなのか……」
「ちなみに、私の出身国であるガルミッシュ帝国と同盟国であるマシラ共和国は、魔人を軍事利用出来るならするという姿勢に影響を受けた四大国家の一つに組してる傘下国。エリクが居たベルグリンド王国は、人間至上主義の国家に影響を受けた傘下国よ。ただ内実は、魔人でも利用出来るなら利用しようって魂胆だったみたいだけどね」
「……」
魔人に関する扱いが四大国家の影響でそれぞれの国で違うことを、アリアの説明で三人は理解した。
そしてアリアは、今回の本題に入った。
「ここからが、話の本題よ。……私やエリク、そしてマギルスを狙うだろう組織。そいつ等は四大国家の影で暗躍している。正式な名称は無いらしいけど、知る人達はそいつ等を【結社】と呼ぶわ」
「結社か」
「魔法や魔術関連の情報売買を中心に、強い人間や魔人を引き入れて、裏側で組織的な拡大を続けてるらしいわ。どれだけ大きな勢力なのかも不明よ」
「……」
「そいつ等を指揮するリーダー格や幹部が誰なのかも分からない。もちろん、その背後に居る国家もね。完全な縦社会じゃなく、繋がりだけで出来た横社会の組織とも言われているわ。だからそれぞれが独立した組織形態と目的で動き、自分達の利益の為に活動している。そういう組織が、確かに存在するのよ」
「……そいつ等が、俺達を狙うのか?」
「ええ。私みたいな魔法師や貴方達みたいな魔人は、まさに恰好の的でしょうね。傭兵ギルドに所属しているとはいえ、基本的に国に縛られていないフリーな存在だから、束縛したり利用しようとするのは当たり前でしょう。……私達は今後、そういう連中からの視線にも注意しないといけない」
アリアの話を聞き終えると、全員が沈黙しながら考え込む。
それぞれが異なる興味と思考に至る最中、緊張感とは程遠い音がその場に響いた。
それは、魔人であるマギルスの腹の音だった。
「ケイルお姉さん、お腹空いたー!」
「……マギルス。アンタ、もう少し空気とか読めない?」
「だって遊んだからお腹が空いたんだもん。お腹空いたー! 御飯作ってー!」
「……はぁ。もうすぐ夕方ね。ケイル、この辺で野営は出来る?」
「もうちょい先に川があるみたいだから、そこまで待てよ」
「はーい。じゃあ少し急ぐよぉ!」
青馬に命じて川が見える場所まで急がせると、一行はその日を野宿で過ごした。
現状、アリア達に結社達からの実害は無い。
一行は思う所を見せながらも、結社という見えない組織に完全な注意を向けられなかった。
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