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結社編 一章:ルクソード皇国
合成魔獣
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予想外な合成魔獣の遭遇と強襲に、一行は思わぬ苦戦を強いられる。
合成された三体の上級魔獣が独立してマギルスとエリクを迎撃し、武器で射程内に入れない。
それを歯痒く思ったのか、エリクがマギルスに叫び伝えた。
「マギルス!」
「えー、しょうがないなぁ」
エリクの呼び掛けにマギルスは応え、キマイラの周囲を移動しながら注意を引いて離れる。
同時にエリクが大剣を構え、膨大な魔力を放ち始めた。
その魔力に気付いたキマイラが三体同時に顔を向け、マギルスからエリクに目標を変える。
「ッ」
キマイラの巨体が迫り魔力斬撃を放つ隙が得られなかったエリクは、襲い来る蛇の口と獅子の前足を回避する。
地面を砕き大木を揺らす衝撃が周囲に響く中、土埃からエリクが飛び出した。
地面に転がり身を起こすエリクに、アリアは叫んだ。
「エリク!?」
「……大丈夫だ」
素早く身を起こしたエリクにアリアは安息を漏らし、マギルスがエリクの傍に移動した。
「おじさんの魔力斬撃は溜めが長いから、すぐに魔力感知で気付いちゃうね」
「ああ」
「あの蛇、硬くて鎌で切れないんだよね」
「逆にするか?」
「だね」
その短い会話で互いのポジションを決め、土埃が晴れる前に迫る大蛇の口がエリクとマギルスを襲う。
左右に別れて避けた二人は、蛇の頭がある後尾をエリクが担当し、マギルスが獅子と山羊の顔がある前方を担当する。
それぞれが立ち位置を決めて対応する中で、アリアとケイルは離れて周囲を警戒していた。
「ケイル、どう?」
「……見た限りじゃ、周囲に人が居るようには見えない。マギルスやエリクも気付いてないとこを見ると、観測者はいないと考えるべきだな」
「じゃあ、あのキマイラは逃げ出して野放しにされてるって線が大きいかしらね」
二人は周囲を索敵し、キマイラを製造したと思われる者達の視線を気にする。
仮にキマイラの遭遇と襲撃が偶然のモノではなく、意図してこちらに嗾けた場合。
その狙いが何なのかに思考を巡らせたアリアだったが、幾らか疑惑を払い除ける。
「ケイル、貴方の意見を聞かせて」
「?」
「仮に合成魔獣がこの大陸で作られたとして。そういう私設がある場所を、貴方は知ってる?」
「知らねぇよ。情報屋ではそんな話は一度だって聞かされてはいない」
「……そう。なら、アレは遠慮せず倒すとして。倒した後はどうすべきだと思う?」
「どうすべき、だって?」
「仮に皇国軍に倒したキマイラの死体を見せたとして、どういう反応になると思う?」
「……お前、何を考えてるんだよ?」
「私はあらゆる可能性を想定したいだけ。合成魔獣なんて案件に関わったら、絶対に厄介事に巻き込まれるのは目に見えてる。アレが存在し私達が倒したということ自体が、邪魔な情報なの」
「つまり、逃げるのか?」
「いいえ。あのまま野放しにすれば、確実に飢餓状態に陥って麓の村を襲うわ。だから倒しはする。でも依頼は破棄する。どうしても依頼を受ける必要があるなら、別の依頼を受けましょう。はっきり言って、今回の件に私達が関わって、メリットは無い」
「……そこは同感だな。分かった、アレを倒しても、燃やすか埋めちまおう」
「そうね」
「そもそも、アレを倒せるかって話だけどな」
アリアとケイルは共に同意し、キマイラの討伐後の話を決める。
しかしマギルスとエリクが苦戦を強いられるキマイラをどう討伐するかを、ケイルは訝しげに聞いた。
そのケイルの疑問に、アリアは簡潔に応えた。
「私も参戦するわ」
「おい、大丈夫なのかよ」
「さっきは驚いてただけ。今は大丈夫。貴方は周囲の見張りを継続して」
「……そうかよ。なら、さっさとやっちまってくれ」
「ええ」
アリアはそう告げ、ケイルから離れてキマイラが暴れる場所まで走り出す。
一方で暴れ襲うキマイラと相対する魔人の二名は、巨体に似合わぬ機敏な動きと防御力に決め手を欠く。
獅子の爪が土木を切り裂き土埃を起こし、熱源で対象を見分ける斑蛇が鱗と肉質が魔力で強化された鞭になり襲い来る。
足元を狙えば山羊の後足が巨体を跳躍させ、木々を足場に凄まじい速度で回避する。
魔獣単独ならば苦も無く瞬殺出来る二人が、合成された三体の上級魔獣が連携する動きに対処が遅れる。
しかし戸惑い以上に見えるのは、笑みを浮かべて目の前の強敵を喜ぶマギルスと、自分自身が新たに得た力を奮い掴むエリクの姿。
二人は苦戦しているように見えて、キマイラとの戦いを楽しんでいる様子が見えた。
「アハハッ! この魔獣、結構強いね!」
「これだけ強い魔獣は、初めてだ」
「おじさん、後ろの蛇はどう?」
「斬るのは難しい。だが頭に直撃すれば、叩き潰せる」
「僕も首は刈り取れそう!」
交戦する二人が互いに叫び伝え、息を合わせて地面へ着地する。
そして前後同時に足元に狙いを定めると、山羊の足が巨体を跳ね上げ中空に逃れた。
それを見逃さずに二人も跳躍する。
蛇の尾が跳躍したエリクを襲うも、大剣で蛇の突きを受け流しながら腰の短剣を引き抜き鱗の隙間に突き刺した。
その短剣を足場に蛇に乗り、エリクは蛇の背を駆け出す。
マギルスも跳躍した後、獅子の前足が爪を出して襲い掛かるが、それを鎌の刃で引っ掛けて身軽に回転すると前足に身を乗せた。
そして前足を足場にして更に跳躍し、獅子の首に狙いを定めた。
「首、もらい!」
大鎌を薙いだ瞬間、マギルスは山羊の視線を感じて身の毛が逆立つ感覚を味わう。
嫌悪にも似たその感覚は、マギルスに不快感と虚脱感を与えた。
「え、これ……」
マギルスは手の力が抜け、大鎌を落としてしまう。
攻めの勢いを無くしたマギルスはそのまま地面へ落下した。
キマイラはそれを見逃さず、落下速度を利用して獅子の前足をマギルスに向ける。
身体の虚脱感から抜け出せないマギルスは、動けずに地面に突っ伏していた。
「これ、もしかして魔眼……!?」
山羊が放つ視線の効力が魔眼だと気付きも、それに囚われたマギルスは抗えない。
地面へ爪を突きたてるキマイラは倒れるマギルスを襲う瞬間、キマイラの三つの首が絶叫を上げた。
「グォオオオンッ!!」
「ジャアアアッ!!」
「メェエエエエエッ!!」
「!?」
キマイラの巨体が中空でバランスを失い、絶叫を上げた山羊の瞳が逸れた事でマギルスの拘束が解かれる。
落下するキマイラに押し潰されそうになったマギルスはすぐに飛び退いた。
キマイラが落下した後、その背中に大剣を突き刺すエリクの姿が見えた。
「痛みは、一緒か!」
それぞれが独立して動きながらも、一つの肉体で痛覚を共有しているのか動きが鈍くなる。
蛇の鱗より柔らかく足より狙い易い背中へ乗り移ったエリクは、キマイラの心臓部に致命傷を与えた。
しかし、それでもキマイラは止まらない。
「ガアアアアッ!!」
「!?」
大剣を引き抜き飛び降りたエリクは、暴れながら身を起こすキマイラに驚く。
その隣に大鎌を手に戻したマギルスが走り寄った。
「あの位置なら、心臓を破壊したはずだ。何故動ける?」
「心臓も、三つあるのかもね」
「そうなのか?」
「僕も知らないけど、そう考えた方が面白いでしょ?」
「そうか」
「あの羊の眼、魔眼だから気をつけてね」
「魔眼?」
「視線を向けた相手に魔力で影響を与えるものだって。昔、ゴズヴァールおじさんが言ってた」
「そうか。分かった」
互いに情報交換しながら攻略の糸口を二人は話す。
そして血を流しながらも復帰したキマイラの中で、獅子の顔が上空に吼えた。
「グォオオオオオン!!」
「!?」
「ッ」
威圧の咆哮が周囲に響き、それがただの咆哮ではないと二人は気付く。
意識が混濁し視界が回り始め、二人が膝を曲げて地面に付けた。
「これは……ッ!?」
「咆哮で、身体が……ッ」
獅子の咆哮が身体に異常事態を齎す事を察知しながらも、二人は対応が出来ない。
しかし咆哮中は山羊が瞳と耳を閉じる為、魔眼は発動しない。
だが聴覚器官が発達していない蛇の尾は意に介さず、二人を襲う為に大口を開けて突っ込んで来た。
「ッ」
「!」
迫る蛇に抗えない二人は窮地に陥る。
その窮地を救ったのは、別方向から放たれた氷の弾丸だった。
「!」
氷の弾丸に気付いたキマイラは咆哮を止め、山羊の足ですぐに飛び退く。
咆哮が止まった後、マギルスとエリクも身体の異常が無くなったが、痺れにも似た感覚は拭えない。
そんな二人に、氷の弾丸を放ったアリアは大声で伝えた。
「マギルス! エリク!」
「……アリア」
「お姉さん!」
「討伐依頼は中止よ! コイツは私がやる!」
「!?」
「え……!?」
アリアの言葉に二人は驚くが、それに対する返事を聞かずに短杖を持ったアリアがキマイラと相対する。
そのキマイラの特徴を見ながら、アリアは呟いた。
「……戦獅子の咆哮は、空気中の魔力を振動させて相手の内蔵にダメージを与えて行動不能にする。体内に魔力を持つ二人には効果覿面でしょうね」
「グォオォオオ……!」
「山羊の魔眼は、対象の魔力を吸い上げて虚脱状態に陥らせる。これも魔人の二人には脅威になるわね」
「メェエエェ……!」
「蛇は魔力で硬質化した鱗と伸縮し弾力性のある肉質で攻撃にも防御にも対応する。エリクとマギルスじゃ、強化された鱗ごと蛇を切断できない」
「シャアァァア……!」
「人間であれ魔人であれ、防御手段が無かったら何も出来ずに死んじゃう相手ね。……生憎と、私は魔力障壁ができるワケだけど」
アリアは短杖を横に振りながら接近し、杖に付いた魔石に魔力を集約させる。
収束した魔力に反応したキマイラは駆け出しアリアを襲う。
しかしアリアの背後に展開された氷の弾丸が先にキマイラを襲った。
「可哀相だけど、死になさい」
慈悲に声と共に放たれる氷の弾丸。
しかし元闘士達の時のようには行かず、蛇の尾と獅子の前足が氷の弾丸を全て叩き落した。
「アンタ達なら叩き落せるでしょうね。……それは失敗だけど」
氷を弾き続けるキマイラに異変が現れ始めた。
蛇が途端に動きが鈍り、強靭な筋肉で起こしていた蛇の身体を地面へ突っ伏した。
エリクとマギルスは蛇の表面に張り付くそれを見て、驚きを深める。
「あれは……」
「氷だね」
蛇にこびり付いて離れないのは、氷の膜。
外皮に膜状に張られた氷が蛇の体温を急速に奪い、低温に弱い蛇を活動を鈍らせる。
蛇の尾の異常に気付いた二頭の頭は、氷の弾丸を防ぐのを停止して回避に入った。
強靭な前足と後足が連携して駆け出し、アリアの横へ素早く回り込んで獅子の爪がアリアを狙う。
しかし、アリアは接近を許さない。
夥しい数の氷の弾丸がキマイラを襲い、的確に急所を狙って放つ。
接近が出来ないと悟ったキマイラは跳躍して氷の弾丸を回避しようとした。
「もう遅いわ」
「!!」
キマイラは回避が出来なかった。
その時には既に弾いた手足に氷が地面へ張り付き、キマイラの動きを阻害する。
そして新たな氷の弾丸がキマイラの手足を貫き血液が噴出し、その血液さえ凍結して動きを妨げた。
前足と後足の動きを封じられたキマイラに、アリアは短杖を向けた。
「――……『混沌と叡智の輪』」
テクラノスが用いた魔法をアリアが模倣する。
巨大な光の輪が十数個ほど出現してキマイラを取り囲み、三つに収束した光の輪がそれぞれの首に嵌った。
「――……せめて苦痛を少なく逝きなさい。『断首の輪』」
三つの光の輪が急速に縮まり、数秒後にはそれぞれの首を切断する。
三つの首が地面へ落とされるとそれぞれの瞳から生気が失われ、キマイラは生命活動を停止した。
先ほどまで魔人である二人を相手に圧倒していた合成魔獣が、意図も容易く最後を迎える光景を目にすると、他の三名は驚愕を浮かべる。
そして実行者であるアリア自身は、厳しい表情でキマイラを見つめていた。
キマイラとの遭遇戦は、アリアの完封で幕を下ろした。
合成された三体の上級魔獣が独立してマギルスとエリクを迎撃し、武器で射程内に入れない。
それを歯痒く思ったのか、エリクがマギルスに叫び伝えた。
「マギルス!」
「えー、しょうがないなぁ」
エリクの呼び掛けにマギルスは応え、キマイラの周囲を移動しながら注意を引いて離れる。
同時にエリクが大剣を構え、膨大な魔力を放ち始めた。
その魔力に気付いたキマイラが三体同時に顔を向け、マギルスからエリクに目標を変える。
「ッ」
キマイラの巨体が迫り魔力斬撃を放つ隙が得られなかったエリクは、襲い来る蛇の口と獅子の前足を回避する。
地面を砕き大木を揺らす衝撃が周囲に響く中、土埃からエリクが飛び出した。
地面に転がり身を起こすエリクに、アリアは叫んだ。
「エリク!?」
「……大丈夫だ」
素早く身を起こしたエリクにアリアは安息を漏らし、マギルスがエリクの傍に移動した。
「おじさんの魔力斬撃は溜めが長いから、すぐに魔力感知で気付いちゃうね」
「ああ」
「あの蛇、硬くて鎌で切れないんだよね」
「逆にするか?」
「だね」
その短い会話で互いのポジションを決め、土埃が晴れる前に迫る大蛇の口がエリクとマギルスを襲う。
左右に別れて避けた二人は、蛇の頭がある後尾をエリクが担当し、マギルスが獅子と山羊の顔がある前方を担当する。
それぞれが立ち位置を決めて対応する中で、アリアとケイルは離れて周囲を警戒していた。
「ケイル、どう?」
「……見た限りじゃ、周囲に人が居るようには見えない。マギルスやエリクも気付いてないとこを見ると、観測者はいないと考えるべきだな」
「じゃあ、あのキマイラは逃げ出して野放しにされてるって線が大きいかしらね」
二人は周囲を索敵し、キマイラを製造したと思われる者達の視線を気にする。
仮にキマイラの遭遇と襲撃が偶然のモノではなく、意図してこちらに嗾けた場合。
その狙いが何なのかに思考を巡らせたアリアだったが、幾らか疑惑を払い除ける。
「ケイル、貴方の意見を聞かせて」
「?」
「仮に合成魔獣がこの大陸で作られたとして。そういう私設がある場所を、貴方は知ってる?」
「知らねぇよ。情報屋ではそんな話は一度だって聞かされてはいない」
「……そう。なら、アレは遠慮せず倒すとして。倒した後はどうすべきだと思う?」
「どうすべき、だって?」
「仮に皇国軍に倒したキマイラの死体を見せたとして、どういう反応になると思う?」
「……お前、何を考えてるんだよ?」
「私はあらゆる可能性を想定したいだけ。合成魔獣なんて案件に関わったら、絶対に厄介事に巻き込まれるのは目に見えてる。アレが存在し私達が倒したということ自体が、邪魔な情報なの」
「つまり、逃げるのか?」
「いいえ。あのまま野放しにすれば、確実に飢餓状態に陥って麓の村を襲うわ。だから倒しはする。でも依頼は破棄する。どうしても依頼を受ける必要があるなら、別の依頼を受けましょう。はっきり言って、今回の件に私達が関わって、メリットは無い」
「……そこは同感だな。分かった、アレを倒しても、燃やすか埋めちまおう」
「そうね」
「そもそも、アレを倒せるかって話だけどな」
アリアとケイルは共に同意し、キマイラの討伐後の話を決める。
しかしマギルスとエリクが苦戦を強いられるキマイラをどう討伐するかを、ケイルは訝しげに聞いた。
そのケイルの疑問に、アリアは簡潔に応えた。
「私も参戦するわ」
「おい、大丈夫なのかよ」
「さっきは驚いてただけ。今は大丈夫。貴方は周囲の見張りを継続して」
「……そうかよ。なら、さっさとやっちまってくれ」
「ええ」
アリアはそう告げ、ケイルから離れてキマイラが暴れる場所まで走り出す。
一方で暴れ襲うキマイラと相対する魔人の二名は、巨体に似合わぬ機敏な動きと防御力に決め手を欠く。
獅子の爪が土木を切り裂き土埃を起こし、熱源で対象を見分ける斑蛇が鱗と肉質が魔力で強化された鞭になり襲い来る。
足元を狙えば山羊の後足が巨体を跳躍させ、木々を足場に凄まじい速度で回避する。
魔獣単独ならば苦も無く瞬殺出来る二人が、合成された三体の上級魔獣が連携する動きに対処が遅れる。
しかし戸惑い以上に見えるのは、笑みを浮かべて目の前の強敵を喜ぶマギルスと、自分自身が新たに得た力を奮い掴むエリクの姿。
二人は苦戦しているように見えて、キマイラとの戦いを楽しんでいる様子が見えた。
「アハハッ! この魔獣、結構強いね!」
「これだけ強い魔獣は、初めてだ」
「おじさん、後ろの蛇はどう?」
「斬るのは難しい。だが頭に直撃すれば、叩き潰せる」
「僕も首は刈り取れそう!」
交戦する二人が互いに叫び伝え、息を合わせて地面へ着地する。
そして前後同時に足元に狙いを定めると、山羊の足が巨体を跳ね上げ中空に逃れた。
それを見逃さずに二人も跳躍する。
蛇の尾が跳躍したエリクを襲うも、大剣で蛇の突きを受け流しながら腰の短剣を引き抜き鱗の隙間に突き刺した。
その短剣を足場に蛇に乗り、エリクは蛇の背を駆け出す。
マギルスも跳躍した後、獅子の前足が爪を出して襲い掛かるが、それを鎌の刃で引っ掛けて身軽に回転すると前足に身を乗せた。
そして前足を足場にして更に跳躍し、獅子の首に狙いを定めた。
「首、もらい!」
大鎌を薙いだ瞬間、マギルスは山羊の視線を感じて身の毛が逆立つ感覚を味わう。
嫌悪にも似たその感覚は、マギルスに不快感と虚脱感を与えた。
「え、これ……」
マギルスは手の力が抜け、大鎌を落としてしまう。
攻めの勢いを無くしたマギルスはそのまま地面へ落下した。
キマイラはそれを見逃さず、落下速度を利用して獅子の前足をマギルスに向ける。
身体の虚脱感から抜け出せないマギルスは、動けずに地面に突っ伏していた。
「これ、もしかして魔眼……!?」
山羊が放つ視線の効力が魔眼だと気付きも、それに囚われたマギルスは抗えない。
地面へ爪を突きたてるキマイラは倒れるマギルスを襲う瞬間、キマイラの三つの首が絶叫を上げた。
「グォオオオンッ!!」
「ジャアアアッ!!」
「メェエエエエエッ!!」
「!?」
キマイラの巨体が中空でバランスを失い、絶叫を上げた山羊の瞳が逸れた事でマギルスの拘束が解かれる。
落下するキマイラに押し潰されそうになったマギルスはすぐに飛び退いた。
キマイラが落下した後、その背中に大剣を突き刺すエリクの姿が見えた。
「痛みは、一緒か!」
それぞれが独立して動きながらも、一つの肉体で痛覚を共有しているのか動きが鈍くなる。
蛇の鱗より柔らかく足より狙い易い背中へ乗り移ったエリクは、キマイラの心臓部に致命傷を与えた。
しかし、それでもキマイラは止まらない。
「ガアアアアッ!!」
「!?」
大剣を引き抜き飛び降りたエリクは、暴れながら身を起こすキマイラに驚く。
その隣に大鎌を手に戻したマギルスが走り寄った。
「あの位置なら、心臓を破壊したはずだ。何故動ける?」
「心臓も、三つあるのかもね」
「そうなのか?」
「僕も知らないけど、そう考えた方が面白いでしょ?」
「そうか」
「あの羊の眼、魔眼だから気をつけてね」
「魔眼?」
「視線を向けた相手に魔力で影響を与えるものだって。昔、ゴズヴァールおじさんが言ってた」
「そうか。分かった」
互いに情報交換しながら攻略の糸口を二人は話す。
そして血を流しながらも復帰したキマイラの中で、獅子の顔が上空に吼えた。
「グォオオオオオン!!」
「!?」
「ッ」
威圧の咆哮が周囲に響き、それがただの咆哮ではないと二人は気付く。
意識が混濁し視界が回り始め、二人が膝を曲げて地面に付けた。
「これは……ッ!?」
「咆哮で、身体が……ッ」
獅子の咆哮が身体に異常事態を齎す事を察知しながらも、二人は対応が出来ない。
しかし咆哮中は山羊が瞳と耳を閉じる為、魔眼は発動しない。
だが聴覚器官が発達していない蛇の尾は意に介さず、二人を襲う為に大口を開けて突っ込んで来た。
「ッ」
「!」
迫る蛇に抗えない二人は窮地に陥る。
その窮地を救ったのは、別方向から放たれた氷の弾丸だった。
「!」
氷の弾丸に気付いたキマイラは咆哮を止め、山羊の足ですぐに飛び退く。
咆哮が止まった後、マギルスとエリクも身体の異常が無くなったが、痺れにも似た感覚は拭えない。
そんな二人に、氷の弾丸を放ったアリアは大声で伝えた。
「マギルス! エリク!」
「……アリア」
「お姉さん!」
「討伐依頼は中止よ! コイツは私がやる!」
「!?」
「え……!?」
アリアの言葉に二人は驚くが、それに対する返事を聞かずに短杖を持ったアリアがキマイラと相対する。
そのキマイラの特徴を見ながら、アリアは呟いた。
「……戦獅子の咆哮は、空気中の魔力を振動させて相手の内蔵にダメージを与えて行動不能にする。体内に魔力を持つ二人には効果覿面でしょうね」
「グォオォオオ……!」
「山羊の魔眼は、対象の魔力を吸い上げて虚脱状態に陥らせる。これも魔人の二人には脅威になるわね」
「メェエエェ……!」
「蛇は魔力で硬質化した鱗と伸縮し弾力性のある肉質で攻撃にも防御にも対応する。エリクとマギルスじゃ、強化された鱗ごと蛇を切断できない」
「シャアァァア……!」
「人間であれ魔人であれ、防御手段が無かったら何も出来ずに死んじゃう相手ね。……生憎と、私は魔力障壁ができるワケだけど」
アリアは短杖を横に振りながら接近し、杖に付いた魔石に魔力を集約させる。
収束した魔力に反応したキマイラは駆け出しアリアを襲う。
しかしアリアの背後に展開された氷の弾丸が先にキマイラを襲った。
「可哀相だけど、死になさい」
慈悲に声と共に放たれる氷の弾丸。
しかし元闘士達の時のようには行かず、蛇の尾と獅子の前足が氷の弾丸を全て叩き落した。
「アンタ達なら叩き落せるでしょうね。……それは失敗だけど」
氷を弾き続けるキマイラに異変が現れ始めた。
蛇が途端に動きが鈍り、強靭な筋肉で起こしていた蛇の身体を地面へ突っ伏した。
エリクとマギルスは蛇の表面に張り付くそれを見て、驚きを深める。
「あれは……」
「氷だね」
蛇にこびり付いて離れないのは、氷の膜。
外皮に膜状に張られた氷が蛇の体温を急速に奪い、低温に弱い蛇を活動を鈍らせる。
蛇の尾の異常に気付いた二頭の頭は、氷の弾丸を防ぐのを停止して回避に入った。
強靭な前足と後足が連携して駆け出し、アリアの横へ素早く回り込んで獅子の爪がアリアを狙う。
しかし、アリアは接近を許さない。
夥しい数の氷の弾丸がキマイラを襲い、的確に急所を狙って放つ。
接近が出来ないと悟ったキマイラは跳躍して氷の弾丸を回避しようとした。
「もう遅いわ」
「!!」
キマイラは回避が出来なかった。
その時には既に弾いた手足に氷が地面へ張り付き、キマイラの動きを阻害する。
そして新たな氷の弾丸がキマイラの手足を貫き血液が噴出し、その血液さえ凍結して動きを妨げた。
前足と後足の動きを封じられたキマイラに、アリアは短杖を向けた。
「――……『混沌と叡智の輪』」
テクラノスが用いた魔法をアリアが模倣する。
巨大な光の輪が十数個ほど出現してキマイラを取り囲み、三つに収束した光の輪がそれぞれの首に嵌った。
「――……せめて苦痛を少なく逝きなさい。『断首の輪』」
三つの光の輪が急速に縮まり、数秒後にはそれぞれの首を切断する。
三つの首が地面へ落とされるとそれぞれの瞳から生気が失われ、キマイラは生命活動を停止した。
先ほどまで魔人である二人を相手に圧倒していた合成魔獣が、意図も容易く最後を迎える光景を目にすると、他の三名は驚愕を浮かべる。
そして実行者であるアリア自身は、厳しい表情でキマイラを見つめていた。
キマイラとの遭遇戦は、アリアの完封で幕を下ろした。
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しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
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青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜
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もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか?
(長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)
地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。
小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。
辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。
「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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