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結社編 二章:神の研究
聖人へ至る道
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脱出した後に対峙するアリアとランヴァルディア。
サイレンの音が鳴り響く中で手を翳して向けたアリアは、白装束のランヴァルディアに再び告げた。
「――……ランヴァルディア、今ならまだ間に合うわ。馬鹿な真似は止めなさい」
「馬鹿な真似とは?」
「貴方がやっている研究よ」
「私の研究がどんなものか、君は分かるのかい?」
「ええ、そしてその結果も分かりきってるわよ。……その研究は失敗する。だから止めなさい」
「失敗しても構わないさ」
「!?」
「結果的に失敗しても問題は無い。私の夢が果たせればね」
「……神の研究。そして【到達者】。貴方いったい、どこでそれを聞いたの!? この研究に手を貸してるのは誰!?」
怒鳴るアリアに対して、顔を隠したランヴァルディアは微笑む声で教える。
それは一連の事件の背後に関わる人物であり、アリアが元々勘付いていたことでもあった。
「とある人物が私の研究を手伝ってくれた。……君の良く知る人物だ」
「……やっぱり、あの人が!?」
「彼からして見れば、私自身も彼の実験素体なのだろう。……だが構わない。私の夢が叶えられるのなら、私は彼の実験素体で良いと思える」
「……さっきから言ってる夢って何よ? 貴方、このまま研究を進めたら死ぬのよ!?」
自身の事を語るランヴァルディアとその言葉に、アリアは怪訝な表情と言葉を向ける。
そして白装束の顔部分を剥がし脱いだランヴァルディアを見たアリアは、驚愕の表情を見せた。
「そんな……!?」
「……私の夢。それはルクソード皇国を私自身の手で滅ぼし、ルクソード皇族の血を絶やすこと」
「貴方、既に……」
「そう。私の研究と実験は既に終わっていたのさ、アルトリア。……私は君が来るのを待っていただけだ」
十年前に出会ったランヴァルディアの容姿は、短い黒髪に翡翠の瞳を持つ青年だった。
しかし今の容姿は、黒髪全体が銀色の髪に変色し、翡翠の瞳は血のように赤い瞳へと変色している。
肌は白く血の気を失いながらも、血管が隆起し肌を各所を蠢く。
それを見たアリアは目を見開いて驚きながらも、歯を食い縛り悔やむように目を逸らした後に、悲痛の表情で怒鳴った。
「ランヴァルディア、貴方は馬鹿よ……!!」
「君はこうなる前に私を止めたかったんだろう? ……でも、遅かったね」
「化物になってまで国を滅ぼしたかったの!? もっと他にやり方だって……」
「弱い私がこの国を滅ぼすには、こうするしかなかった。……始めから強く生まれた君やシルエスカには、理解できないだろうね」
「!?」
「強者である君やシルエスカと違い、普通の人間は弱者だ。そして私も弱者だ。だからここに辿り着いた。……弱者としての私は、誰も守れなかったからね」
「……ッ」
「君というきっかけが無ければ、私は今でも弱者のまま無力を嘆きながら這い蹲るしかなかっただろう。……もう一度だけ礼を言うよ。ありがとう、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。君のおかげで私は変わり、夢を果たす事が出来る」
「……そんな事を言われて、私が喜ぶと思ってるわけ!?」
「君には不本意かもしれない。……でも、恋人を皇国に殺され研究を託された私には、君は希望の光に見えるよ」
「殺された……!?」
「最後に御礼を言えて良かった。……始めようか、聖人アルトリア。その為に君を待っていたのだから」
そう告げた瞬間、ランヴァルディアは身に纏う白装束を外す。
ランヴァルディアの体は細身であり、上半身が裸の無防備な姿を晒す。
しかし心臓部分に集中して浮き彫りになる血管が集まり、その中心部には赤く光る物が埋め込まれていた。
それを見たアリアは懸念を確信させ、悔やみを残す顔でランヴァルディアに目を向けた。
「やっぱり五百年前の『神兵』の細胞を自分の体に……!!」
「そう。胸にある核を破壊すれば私という依り代を破壊できる。……しかし私という外殻を破壊する事は出来ても、顕現する神兵は私の目的を果たすまで止められない」
「……ッ」
「さぁ、五百年前に人々を殺し尽くそうとした神の兵器が聖人にどれほど通用するのか。確認させてもらおう」
無防備なまま歩き出すランヴァルディアを見てアリアは後ずさり葛藤を表情で語るが、覚悟を決めたアリアは魔法を放った。
「――……『凍て吐く冷獄』!!」
対象の肉体を一瞬で冷凍化させる氷の息吹がランヴァルディアを襲い、瞬く間に氷が張り付き停止する。
元闘士達のように凍った肉体が崩れると思われたが、張り付く氷が一瞬で解凍された事にアリアは驚愕した。
「!?」
「……なるほど。この程度の魔法は問題ではないらしい。それとも、手加減をしてくれたのかい?」
「……ッ」
「遠慮はしなくていい。私を殺すつもりで戦ってくれ。……でなければ、君が死ぬ事になってしまうから」
「――……『雹の弾丸』!!」
歩み寄るランヴァルディアの一言が虚勢ではなく真実だと察知するアリアは、数百の氷の弾丸を周囲に生み出してランヴァルディアに撃ち放つ。
ランヴァルディアの肉体が弾丸に貫かれ、夥しい血を吐き出させた。
しかし、ランヴァルディアは倒れない。
手足を撃ち抜かれながらもよろめく様子すら見せず損傷した手足が一瞬で修復し、まるで痛みさえ感じていない様子だった。
「効いてない……!?」
「ああ、痛みを感じない。そしてこの修復力。あの人から聞いた通りだ」
「……ッ」
「さぁ、次はこちらの番だよ。アルトリア」
アリアと一定の距離を保ち歩みを止めたランヴァルディアは手をアリアに向ける。
そしてランヴァルディアが目を見開いた瞬間、アリアは見えない力で吹き飛ばされた。
「な……ッ!?」
吹き飛ばされ壁に激突し苦痛の表情を見せるアリアは、足と手に力を込めて起き上がる。
その様子を静観しながらランヴァルディアは話し始めた。
「君は魔物と魔獣、そして魔族の進化方法を私に話してくれた。しかし人間の進化方法までは聞けなかった」
「カハ……ッ」
「そんな私だが、ある話を聞いて人間の進化論に仮説を立てた。……人間には魔力の代わりとなる力が存在する。アズマの国の人々はそれを『気力』と言い、我々はそれを『オーラ』と言い換えている」
「グ、ゥ……ッ」
「アズマの国で『武士』と呼ばれる者達は、そのオーラを巧みに扱い身体能力を一時的に向上させる技術を持つ。秘伝の鍛錬方法が必要で、普通の人間では扱えないものらしい」
「……ッ」
「私はそれこそが人間の進化を促す力であり、オーラと呼ばれる力を肉体に充実させる事で人間を進化させると、一度は仮説を立てた。……だが、それだけでは駄目なんだよね? アルトリア」
「!」
「実験をして分かった。魔物や魔獣に高出力の魔力を浴びせるだけでは時間を置いても進化しなかった。闘争心を持たせて敵対する魔物や魔獣、更には合成魔人と戦わせる事で進化へ至る固体が多く出た。……彼等は敵対者の居ない環境では進化できない。敵が混在する環境に身を置きながらそれ等と対峙し、魔力を活性化させ肉体を変質させるからこそ進化する。そうだね?」
「……ッ」
「仮に普通の人間が聖人へ至る為には必要なモノとは何か? 敵対者がいる過酷な環境へ送り込み適応させ、肉体に宿るオーラを変質させながら肉体能力を高め続ける事で進化に至れる。それが聖人としての肉体的進化へと至る鍛錬方法だろう?」
「……そう。それで正解よ」
「しかし謎は残っている。先天的に聖人となれる素養を持つ者達、つまりシルエスカがどうして生まれながらに聖人へと至れているのか。その謎だ」
「……」
「父親や母親が、あるいは血筋が特別だから。そう私は思った事もある。あるいは魔族のように、肉親に聖人がいた場合に子供も聖人になるのかとも思った。……だが記録を調べる限りではシルエスカの両親は普通の人間だったし、ルクソード皇族自体も『赤』を継いだ七大聖人以外は極普通に寿命を終えた人間達だった」
「……」
「何故そんなシルエスカが過酷な環境に身を置く前に聖人へ至れているのか。……それは、君達の『魂』に関係あるのだろう?」
「!!」
「当たりだね」
静かに聞いていたアリアは瞳で動揺を表してしまう。
ランヴァルディアはそれに微笑みながら続きを話した。
「恐らく、聖人に至るには二つの方法がある。一つは人智を超えた鍛錬による『肉体』の進化。二つ目は『魂』の進化。その中で最初に至るべきなのは『魂』の進化であり、それが出来なければどれだけ肉体を鍛錬しても聖人には至れない。そういう事だね?」
「……ッ」
「それとシルエスカの事を踏まえると、君が今まで聖人から外れた成長をし続けたのか推測できる。……本来の聖人とは、成長過程が五年で一歳前後の成長度合いになる。君が『魂』の進化を既に成して聖人へと至れていたのだとしたら、シルエスカのように幼少時から聖人としての肉体的特長と身体能力を見せるはず。……だが君は、その年齢まで至って普通の年月で常人と変わらぬ成長し続けた。……アルトリア。君は少し前まで、普通の人間と変わらない肉体だったんじゃないか?」
「……」
「そしてマシラ共和国で闘士ゴズヴァールと君が戦った時。君の肉体は聖人へ至ってしまった。そこで何等かの兆候は起こっていたはずだ。……君は幼い頃からその時まで、敢えて肉体的鍛錬を避け、上位者との戦闘を避け続けたんじゃないかい? 君自身が聖人へと至らぬ為に」
「……ッ」
「聖人へと至ってしまえば、帝国や皇国は君を七大聖人に指名しようとするだろう。そしてその方法を聞きだそうとする。それを望まない君は敢えて帝国のローゼン公爵家という隠れ蓑の中で、聖人へ至る為の環境から最も遠い立場で居続けた。……しかし一年の旅を経た君は、聖人へ至る条件を満たしてしまった」
「……」
「君自身、聖人へ至る事は本当に望んではいなかったのだろう。……聖人とは要するに、人間を超えた化物だ。君は聖人になる事を望まなかった。そうなれば他の人間達と違う時間の中で、他の七大聖人と同じ境遇で生かされ続ける事になるからね」
「……」
「君が私を止めようとしたのは、君自身と私を重ねたからだろう? 化物になってしまう孤独と恐怖を、君も知っているから。そして私という化物が、人間を殺すだけの道具になると知っていたから」
「……ッ」
「君は優しい子だね、アルトリア。……でも私は、母とネリスを苦しめ殺したこの国と人間を滅ぼす為に化物になる事を望んだ。そんな私に、気遣いは無用だよ」
「……ランヴァルディア、貴方は……」
「本気で来なさい、アルトリア。今この場で化物を止められるのは、君だけだ」
微笑むランヴァルディアの顔が、途端に険しさを宿す。
そして細身の肉体から凄まじいオーラが放たれ、その場に凄まじい風の流れが生み出された。
髪が乱れながらも化物となってしまったランヴァルディアを見て、アリアは一瞬だけ悲痛な表情を見せながらも鋭い瞳を向ける。
その顔を見たランヴァルディアは満足そうに頷き、対峙するアリアに最後の会話を行った。
「ありがとう。そしてさようなら、アルトリア。君と出会えた事は、私の最後の幸運だった」
「……さようなら、ランヴァルディア。私は貴方と、出会うべきじゃなかった」
微笑むランヴァルディアと目から涙を流すアリアは別れの挨拶を終える。
そしてランヴァルディアから放たれるオーラが細身の肉体に収束し、手を翳し収束したオーラの光がアリアに向けて放たれた。
それを避けようとしないアリアはエネルギー波に直撃し、背後にあった壁を破壊して大きな地響きを発生させる。
立ち込める爆発の煙と地響きが鳴る場で、ランヴァルディアは微笑みながら見た。
土煙の中を魔力で編まれた白い翼が薙ぎ羽ばたく。
その翼を背負うアリアが、ランヴァルディアと改めて対峙した。
「――……『魂で成す六天使の翼』」
「似合っているよ、アルトリア。美しい君に相応しい翼だ」
更にオーラを力強く高めたランヴァルディアが歩み出す。
身構えるアリアは六枚の翼を広げ、神兵と化したランヴァルディアを阻むべく立ち向かった。
運命に翻弄された二人の戦いが、こうして幕を開けた。
サイレンの音が鳴り響く中で手を翳して向けたアリアは、白装束のランヴァルディアに再び告げた。
「――……ランヴァルディア、今ならまだ間に合うわ。馬鹿な真似は止めなさい」
「馬鹿な真似とは?」
「貴方がやっている研究よ」
「私の研究がどんなものか、君は分かるのかい?」
「ええ、そしてその結果も分かりきってるわよ。……その研究は失敗する。だから止めなさい」
「失敗しても構わないさ」
「!?」
「結果的に失敗しても問題は無い。私の夢が果たせればね」
「……神の研究。そして【到達者】。貴方いったい、どこでそれを聞いたの!? この研究に手を貸してるのは誰!?」
怒鳴るアリアに対して、顔を隠したランヴァルディアは微笑む声で教える。
それは一連の事件の背後に関わる人物であり、アリアが元々勘付いていたことでもあった。
「とある人物が私の研究を手伝ってくれた。……君の良く知る人物だ」
「……やっぱり、あの人が!?」
「彼からして見れば、私自身も彼の実験素体なのだろう。……だが構わない。私の夢が叶えられるのなら、私は彼の実験素体で良いと思える」
「……さっきから言ってる夢って何よ? 貴方、このまま研究を進めたら死ぬのよ!?」
自身の事を語るランヴァルディアとその言葉に、アリアは怪訝な表情と言葉を向ける。
そして白装束の顔部分を剥がし脱いだランヴァルディアを見たアリアは、驚愕の表情を見せた。
「そんな……!?」
「……私の夢。それはルクソード皇国を私自身の手で滅ぼし、ルクソード皇族の血を絶やすこと」
「貴方、既に……」
「そう。私の研究と実験は既に終わっていたのさ、アルトリア。……私は君が来るのを待っていただけだ」
十年前に出会ったランヴァルディアの容姿は、短い黒髪に翡翠の瞳を持つ青年だった。
しかし今の容姿は、黒髪全体が銀色の髪に変色し、翡翠の瞳は血のように赤い瞳へと変色している。
肌は白く血の気を失いながらも、血管が隆起し肌を各所を蠢く。
それを見たアリアは目を見開いて驚きながらも、歯を食い縛り悔やむように目を逸らした後に、悲痛の表情で怒鳴った。
「ランヴァルディア、貴方は馬鹿よ……!!」
「君はこうなる前に私を止めたかったんだろう? ……でも、遅かったね」
「化物になってまで国を滅ぼしたかったの!? もっと他にやり方だって……」
「弱い私がこの国を滅ぼすには、こうするしかなかった。……始めから強く生まれた君やシルエスカには、理解できないだろうね」
「!?」
「強者である君やシルエスカと違い、普通の人間は弱者だ。そして私も弱者だ。だからここに辿り着いた。……弱者としての私は、誰も守れなかったからね」
「……ッ」
「君というきっかけが無ければ、私は今でも弱者のまま無力を嘆きながら這い蹲るしかなかっただろう。……もう一度だけ礼を言うよ。ありがとう、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。君のおかげで私は変わり、夢を果たす事が出来る」
「……そんな事を言われて、私が喜ぶと思ってるわけ!?」
「君には不本意かもしれない。……でも、恋人を皇国に殺され研究を託された私には、君は希望の光に見えるよ」
「殺された……!?」
「最後に御礼を言えて良かった。……始めようか、聖人アルトリア。その為に君を待っていたのだから」
そう告げた瞬間、ランヴァルディアは身に纏う白装束を外す。
ランヴァルディアの体は細身であり、上半身が裸の無防備な姿を晒す。
しかし心臓部分に集中して浮き彫りになる血管が集まり、その中心部には赤く光る物が埋め込まれていた。
それを見たアリアは懸念を確信させ、悔やみを残す顔でランヴァルディアに目を向けた。
「やっぱり五百年前の『神兵』の細胞を自分の体に……!!」
「そう。胸にある核を破壊すれば私という依り代を破壊できる。……しかし私という外殻を破壊する事は出来ても、顕現する神兵は私の目的を果たすまで止められない」
「……ッ」
「さぁ、五百年前に人々を殺し尽くそうとした神の兵器が聖人にどれほど通用するのか。確認させてもらおう」
無防備なまま歩き出すランヴァルディアを見てアリアは後ずさり葛藤を表情で語るが、覚悟を決めたアリアは魔法を放った。
「――……『凍て吐く冷獄』!!」
対象の肉体を一瞬で冷凍化させる氷の息吹がランヴァルディアを襲い、瞬く間に氷が張り付き停止する。
元闘士達のように凍った肉体が崩れると思われたが、張り付く氷が一瞬で解凍された事にアリアは驚愕した。
「!?」
「……なるほど。この程度の魔法は問題ではないらしい。それとも、手加減をしてくれたのかい?」
「……ッ」
「遠慮はしなくていい。私を殺すつもりで戦ってくれ。……でなければ、君が死ぬ事になってしまうから」
「――……『雹の弾丸』!!」
歩み寄るランヴァルディアの一言が虚勢ではなく真実だと察知するアリアは、数百の氷の弾丸を周囲に生み出してランヴァルディアに撃ち放つ。
ランヴァルディアの肉体が弾丸に貫かれ、夥しい血を吐き出させた。
しかし、ランヴァルディアは倒れない。
手足を撃ち抜かれながらもよろめく様子すら見せず損傷した手足が一瞬で修復し、まるで痛みさえ感じていない様子だった。
「効いてない……!?」
「ああ、痛みを感じない。そしてこの修復力。あの人から聞いた通りだ」
「……ッ」
「さぁ、次はこちらの番だよ。アルトリア」
アリアと一定の距離を保ち歩みを止めたランヴァルディアは手をアリアに向ける。
そしてランヴァルディアが目を見開いた瞬間、アリアは見えない力で吹き飛ばされた。
「な……ッ!?」
吹き飛ばされ壁に激突し苦痛の表情を見せるアリアは、足と手に力を込めて起き上がる。
その様子を静観しながらランヴァルディアは話し始めた。
「君は魔物と魔獣、そして魔族の進化方法を私に話してくれた。しかし人間の進化方法までは聞けなかった」
「カハ……ッ」
「そんな私だが、ある話を聞いて人間の進化論に仮説を立てた。……人間には魔力の代わりとなる力が存在する。アズマの国の人々はそれを『気力』と言い、我々はそれを『オーラ』と言い換えている」
「グ、ゥ……ッ」
「アズマの国で『武士』と呼ばれる者達は、そのオーラを巧みに扱い身体能力を一時的に向上させる技術を持つ。秘伝の鍛錬方法が必要で、普通の人間では扱えないものらしい」
「……ッ」
「私はそれこそが人間の進化を促す力であり、オーラと呼ばれる力を肉体に充実させる事で人間を進化させると、一度は仮説を立てた。……だが、それだけでは駄目なんだよね? アルトリア」
「!」
「実験をして分かった。魔物や魔獣に高出力の魔力を浴びせるだけでは時間を置いても進化しなかった。闘争心を持たせて敵対する魔物や魔獣、更には合成魔人と戦わせる事で進化へ至る固体が多く出た。……彼等は敵対者の居ない環境では進化できない。敵が混在する環境に身を置きながらそれ等と対峙し、魔力を活性化させ肉体を変質させるからこそ進化する。そうだね?」
「……ッ」
「仮に普通の人間が聖人へ至る為には必要なモノとは何か? 敵対者がいる過酷な環境へ送り込み適応させ、肉体に宿るオーラを変質させながら肉体能力を高め続ける事で進化に至れる。それが聖人としての肉体的進化へと至る鍛錬方法だろう?」
「……そう。それで正解よ」
「しかし謎は残っている。先天的に聖人となれる素養を持つ者達、つまりシルエスカがどうして生まれながらに聖人へと至れているのか。その謎だ」
「……」
「父親や母親が、あるいは血筋が特別だから。そう私は思った事もある。あるいは魔族のように、肉親に聖人がいた場合に子供も聖人になるのかとも思った。……だが記録を調べる限りではシルエスカの両親は普通の人間だったし、ルクソード皇族自体も『赤』を継いだ七大聖人以外は極普通に寿命を終えた人間達だった」
「……」
「何故そんなシルエスカが過酷な環境に身を置く前に聖人へ至れているのか。……それは、君達の『魂』に関係あるのだろう?」
「!!」
「当たりだね」
静かに聞いていたアリアは瞳で動揺を表してしまう。
ランヴァルディアはそれに微笑みながら続きを話した。
「恐らく、聖人に至るには二つの方法がある。一つは人智を超えた鍛錬による『肉体』の進化。二つ目は『魂』の進化。その中で最初に至るべきなのは『魂』の進化であり、それが出来なければどれだけ肉体を鍛錬しても聖人には至れない。そういう事だね?」
「……ッ」
「それとシルエスカの事を踏まえると、君が今まで聖人から外れた成長をし続けたのか推測できる。……本来の聖人とは、成長過程が五年で一歳前後の成長度合いになる。君が『魂』の進化を既に成して聖人へと至れていたのだとしたら、シルエスカのように幼少時から聖人としての肉体的特長と身体能力を見せるはず。……だが君は、その年齢まで至って普通の年月で常人と変わらぬ成長し続けた。……アルトリア。君は少し前まで、普通の人間と変わらない肉体だったんじゃないか?」
「……」
「そしてマシラ共和国で闘士ゴズヴァールと君が戦った時。君の肉体は聖人へ至ってしまった。そこで何等かの兆候は起こっていたはずだ。……君は幼い頃からその時まで、敢えて肉体的鍛錬を避け、上位者との戦闘を避け続けたんじゃないかい? 君自身が聖人へと至らぬ為に」
「……ッ」
「聖人へと至ってしまえば、帝国や皇国は君を七大聖人に指名しようとするだろう。そしてその方法を聞きだそうとする。それを望まない君は敢えて帝国のローゼン公爵家という隠れ蓑の中で、聖人へ至る為の環境から最も遠い立場で居続けた。……しかし一年の旅を経た君は、聖人へ至る条件を満たしてしまった」
「……」
「君自身、聖人へ至る事は本当に望んではいなかったのだろう。……聖人とは要するに、人間を超えた化物だ。君は聖人になる事を望まなかった。そうなれば他の人間達と違う時間の中で、他の七大聖人と同じ境遇で生かされ続ける事になるからね」
「……」
「君が私を止めようとしたのは、君自身と私を重ねたからだろう? 化物になってしまう孤独と恐怖を、君も知っているから。そして私という化物が、人間を殺すだけの道具になると知っていたから」
「……ッ」
「君は優しい子だね、アルトリア。……でも私は、母とネリスを苦しめ殺したこの国と人間を滅ぼす為に化物になる事を望んだ。そんな私に、気遣いは無用だよ」
「……ランヴァルディア、貴方は……」
「本気で来なさい、アルトリア。今この場で化物を止められるのは、君だけだ」
微笑むランヴァルディアの顔が、途端に険しさを宿す。
そして細身の肉体から凄まじいオーラが放たれ、その場に凄まじい風の流れが生み出された。
髪が乱れながらも化物となってしまったランヴァルディアを見て、アリアは一瞬だけ悲痛な表情を見せながらも鋭い瞳を向ける。
その顔を見たランヴァルディアは満足そうに頷き、対峙するアリアに最後の会話を行った。
「ありがとう。そしてさようなら、アルトリア。君と出会えた事は、私の最後の幸運だった」
「……さようなら、ランヴァルディア。私は貴方と、出会うべきじゃなかった」
微笑むランヴァルディアと目から涙を流すアリアは別れの挨拶を終える。
そしてランヴァルディアから放たれるオーラが細身の肉体に収束し、手を翳し収束したオーラの光がアリアに向けて放たれた。
それを避けようとしないアリアはエネルギー波に直撃し、背後にあった壁を破壊して大きな地響きを発生させる。
立ち込める爆発の煙と地響きが鳴る場で、ランヴァルディアは微笑みながら見た。
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その翼を背負うアリアが、ランヴァルディアと改めて対峙した。
「――……『魂で成す六天使の翼』」
「似合っているよ、アルトリア。美しい君に相応しい翼だ」
更にオーラを力強く高めたランヴァルディアが歩み出す。
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