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結社編 三章:神の兵士
人としての死
しおりを挟む皇国を巻き込む波乱の幕は降り始め、その舞台に立っていた四名が一同に介する。
今回の事件の当事者であり主犯の一人である、ルクソード皇国第二皇子ランヴァルディア。
この事態を止める為に自ら関わろうとした、ガルミッシュ帝国元公爵令嬢アリア。
誘拐されたアリアを救う為に皇国大貴族のハルバニカ公爵に雇われた、傭兵エリク。
事件に巻き込まれる形で自らの目的を遂行しようとした、結社の構成員ケイル。
結社の一部組織と関わる奴隷の少女を救った、魔人マギルス。
四名が交えた皇都での戦いは夜通し行われ、夜を明けて終息を迎える。
そして日の出の日差しを受けて目を覚ましたのは、地面に寝かされていたランヴァルディアだった。
「――……ここは……?」
「……まだ、あの世じゃないわよ」
ランヴァルディアは身体を横たわらせたまま、視線を横へ向ける。
そこには座るアリアと、その周囲にはエリクとマギルスがそれぞれに武器を持って立っていた。
そして少し離れた場所で仮面を外したケイルが背を向けて座っている。
それを見たランヴァルディアは、か細く一息を吐いて呟くように話し始めた。
「……そうか。負けたのか、私は……」
「いいえ、貴方の勝ちよ。ランヴァルディア」
「……?」
「貴方は目的を果たしたでしょ? 愛する人を殺した実行犯達を合成魔人の実験材料にして、愛する人を陥れた者達を殺して、それを指示した女皇にも復讐を果たした。これを勝利と言わず、何を勝利と言うの?」
「……確かに、そうだな。私は勝ったんだな……」
「このまま勝ち逃げされるのも癪だから、まだ生きてる内に話してもらうわよ。……ここにいる全員が、貴方の起こした事に巻き込まれた被害者でもあるんだから」
「……私に、何を話せと?」
「今回の事件の、本当の首謀者のことよ」
アリアがそう聞いた時、ケイルとエリクが僅かに反応する。
そして弱々しく微笑むランヴァルディアは、静かに話し始めた。
「……事件というのは、どれの事だい?」
「合成魔獣と合成魔人の製造。結社を含めた幾つかの組織の共謀。そして貴方に神兵の心臓を譲渡し移植した人物。その全ての出来事が同じ人物の主導で行われ、貴方はその実行犯となっていた。そうでしょ?」
「……君は、私の記憶を見たのだろう? なら、知っているはずだ」
「ええ、でも貴方の口から聞きたいの。……私の予想が正しければ、二十年前にケイルの一族が追い込まれ奴隷へ墜ちた出来事や、女皇がネフィリアスさんを殺して貴方との子供を始末したのも、全てその人物が手を引いているはずだから」
「!?」
「!」
アリアからその言葉が出た途端、ランヴァルディアの表情が驚きへと変わり、ケイルが立ち上がりアリアに詰め寄るように近付いた。
「どういうことだ!? アタシの一族が、今回の事件と関わりがあるだと!?」
「……なるほど。確かに、あの人ならやりかねない……」
ケイルは怒号を上げて聞き、ランヴァルディアは納得するように驚きを静める。
相反する反応を見せる二人に対して、アリアは静かに話し始めた。
「ケイルの方は、まだ私の予想に過ぎない。それは後で調査を頼むわ。だから落ち着いて」
「……ッ」
「ネフィリアスさんに関しては、女皇の思惑と首謀者の意向が合致した結果でしょうね。あまりにも女皇の思惑が表に見え透いている。女皇を盾にして貴方の憎しみを煽り、合成魔獣や合成魔人の製造実験を任せ、神兵の心臓を試す為に貴方を巻き込んだとしか思えない」
「……確かに、そうなのだろうね」
「あの人に対して、貴方の義理も義務も果たしたはずよ。……話して、ランヴァルディア」
「……そうだね、話そうか。……今まで、私を援助していたのは――……」
アリアはランヴァルディアに対して話すよう促す。
そして憎しみや怒りから解放されたランヴァルディアは、憑き物が落ちたように全てを話した。
それをアリアは静かに聞き入り、自身が得ている情報とランヴァルディアの記憶を擦り合わせる。
傍らで聞きながらも関係の薄いエリクには理解の難しい話が多く、マギルスは話そのものに興味さえ抱かずに欠伸をしながら首のある青馬の上で横になっていた。
ケイルは自身に関わりがある話を聞いた時に、視線を鋭くさせながら無意識に拳を握り表情を強張らせる。
そして話しながら開いた瞼を静かに落とし始めるランヴァルディアは、全てを伝え終えると瞳を閉じた。
「――……これが、私の知っている全てだよ……」
「……ありがとう。話を聞かせてくれて」
「いいや……。君と話すのは、楽しいから……」
「……」
「……凄く、疲れたな……。しばらく、疲れた事なんてなかったから……」
「……」
「……そういえば、後ろの彼は……?」
「彼はエリク。私の大事な相棒よ」
「……そうか。……エリクさん、少しいいかな……?」
「なんだ?」
アリアと話している途中、ランヴァルディアは重い瞼を開けてエリクを見て話し掛ける。
それにエリクは応じ、戦い以外で二人は初めて話を交えた。
「……エリクさん。貴方は、私がアルトリアを殺すと言った時、怒っていたね……?」
「ああ」
「……そうか。……アルトリアが大切なら、離してはいけないよ……。私のように、離しちゃいけない……」
「!」
「私は、ずっと後悔してきたから……。あの日、彼女だけを行かせるべきでは、なかったと……」
「……」
「アルトリアを、彼女のようにしないでほしい……。お願い、していいかな……?」
「ああ」
「そうか……、良かった……。私より、頼りになりそうだ……」
エリクにアリアを託したランヴァルディアは、瞳を閉じて体から力が抜ける。
そしてアリアとエリクに看取られながら、小さく口を動かした。
「……ネリス……。愛……して……」
微かな声で呟いた後、ランヴァルディアは命を止める。
一人の女性を愛し他者によって狂わされた三十二年の人生を生き続けた男の吹く襲撃は、こうして幕を閉じたのだった。
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