虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
259 / 1,360
結社編 三章:神の兵士

人としての死

しおりを挟む

 皇国を巻き込む波乱の幕は降り始め、その舞台に立っていた四名が一同に介する。

 今回の事件の当事者であり主犯の一人である、ルクソード皇国第二皇子ランヴァルディア。
 この事態を止める為に自ら関わろうとした、ガルミッシュ帝国元公爵令嬢アリア。
 誘拐されたアリアを救う為に皇国大貴族のハルバニカ公爵に雇われた、傭兵エリク。
 事件に巻き込まれる形で自らの目的を遂行しようとした、結社の構成員ケイル。
 結社の一部組織と関わる奴隷の少女を救った、魔人マギルス。

 四名が交えた皇都での戦いは夜通し行われ、夜を明けて終息を迎える。
 そして日の出の日差しを受けて目を覚ましたのは、地面に寝かされていたランヴァルディアだった。

「――……ここは……?」

「……まだ、あの世じゃないわよ」

 ランヴァルディアは身体を横たわらせたまま、視線を横へ向ける。
 そこには座るアリアと、その周囲にはエリクとマギルスがそれぞれに武器を持って立っていた。
 そして少し離れた場所で仮面を外したケイルが背を向けて座っている。
 それを見たランヴァルディアは、か細く一息を吐いて呟くように話し始めた。

「……そうか。負けたのか、私は……」

「いいえ、貴方の勝ちよ。ランヴァルディア」

「……?」

「貴方は目的を果たしたでしょ? 愛する人を殺した実行犯達を合成魔人キメラの実験材料にして、愛する人を陥れた者達を殺して、それを指示した女皇にも復讐を果たした。これを勝利と言わず、何を勝利と言うの?」

「……確かに、そうだな。私は勝ったんだな……」

「このまま勝ち逃げされるのも癪だから、まだ生きてる内に話してもらうわよ。……ここにいる全員が、貴方の起こした事に巻き込まれた被害者でもあるんだから」

「……私に、何を話せと?」

「今回の事件の、本当の首謀者のことよ」

 アリアがそう聞いた時、ケイルとエリクが僅かに反応する。
 そして弱々しく微笑むランヴァルディアは、静かに話し始めた。

「……事件というのは、どれの事だい?」

合成魔獣キマイラ合成魔人キメラの製造。結社を含めた幾つかの組織の共謀。そして貴方に神兵の心臓コアを譲渡し移植した人物。その全ての出来事が同じ人物の主導で行われ、貴方はその実行犯となっていた。そうでしょ?」

「……君は、私の記憶を見たのだろう? なら、知っているはずだ」

「ええ、でも貴方の口から聞きたいの。……私の予想が正しければ、二十年前にケイルの一族が追い込まれ奴隷へ墜ちた出来事や、女皇がネフィリアスさんを殺して貴方との子供を始末したのも、全てその人物が手を引いているはずだから」

「!?」

「!」

 アリアからその言葉が出た途端、ランヴァルディアの表情が驚きへと変わり、ケイルが立ち上がりアリアに詰め寄るように近付いた。

「どういうことだ!? アタシの一族が、今回の事件と関わりがあるだと!?」

「……なるほど。確かに、あの人ならやりかねない……」

 ケイルは怒号を上げて聞き、ランヴァルディアは納得するように驚きを静める。
 相反する反応を見せる二人に対して、アリアは静かに話し始めた。

「ケイルの方は、まだ私の予想に過ぎない。それは後で調査を頼むわ。だから落ち着いて」

「……ッ」

「ネフィリアスさんに関しては、女皇の思惑と首謀者の意向が合致した結果でしょうね。あまりにも女皇の思惑が表に見え透いている。女皇を盾にして貴方の憎しみを煽り、合成魔獣や合成魔人の製造実験を任せ、神兵の心臓を試す為に貴方を巻き込んだとしか思えない」

「……確かに、そうなのだろうね」

「あの人に対して、貴方の義理も義務も果たしたはずよ。……話して、ランヴァルディア」

「……そうだね、話そうか。……今まで、私を援助していたのは――……」

 アリアはランヴァルディアに対して話すよう促す。
 そして憎しみや怒りから解放されたランヴァルディアは、憑き物が落ちたように全てを話した。

 それをアリアは静かに聞き入り、自身が得ている情報とランヴァルディアの記憶を擦り合わせる。
 傍らで聞きながらも関係の薄いエリクには理解の難しい話が多く、マギルスは話そのものに興味さえ抱かずに欠伸をしながら首のある青馬の上で横になっていた。
 ケイルは自身に関わりがある話を聞いた時に、視線を鋭くさせながら無意識に拳を握り表情を強張らせる。

 そして話しながら開いた瞼を静かに落とし始めるランヴァルディアは、全てを伝え終えると瞳を閉じた。

「――……これが、私の知っている全てだよ……」

「……ありがとう。話を聞かせてくれて」

「いいや……。君と話すのは、楽しいから……」

「……」

「……凄く、疲れたな……。しばらく、疲れた事なんてなかったから……」

「……」

「……そういえば、後ろの彼は……?」

「彼はエリク。私の大事な相棒パートナーよ」

「……そうか。……エリクさん、少しいいかな……?」

「なんだ?」

 アリアと話している途中、ランヴァルディアは重い瞼を開けてエリクを見て話し掛ける。
 それにエリクは応じ、戦い以外で二人は初めて話を交えた。

「……エリクさん。貴方は、私がアルトリアを殺すと言った時、怒っていたね……?」

「ああ」

「……そうか。……アルトリアが大切なら、離してはいけないよ……。私のように、離しちゃいけない……」

「!」

「私は、ずっと後悔してきたから……。あの日、彼女だけを行かせるべきでは、なかったと……」

「……」

「アルトリアを、彼女のようにしないでほしい……。お願い、していいかな……?」

「ああ」

「そうか……、良かった……。私より、頼りになりそうだ……」

 エリクにアリアを託したランヴァルディアは、瞳を閉じて体から力が抜ける。
 そしてアリアとエリクに看取られながら、小さく口を動かした。

「……ネリス……。愛……して……」

 微かな声で呟いた後、ランヴァルディアは命を止める。
 一人の女性を愛し他者によって狂わされた三十二年の人生を生き続けた男の吹く襲撃は、こうして幕を閉じたのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...