虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 二章:螺旋の迷宮

二つの選択

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 再び廃村の中を探索する一行は、遺体が持っていたはずの魔石付きの触媒を探す。
 しかしどの建物の中にもそれらしい物は無く、遺体が残されていた建物周辺や近辺の砂を掻き分けて見つけようとした。

 結局、一行は魔石を発見できずに時が暮れ、夜が訪れる。
 廃村の木材を利用して外で焚火し、そこに全員が集まった。
 しかしアリアとケイルは顔を合わせようとせず、それでも行動を共にしていたエリクが代わって状況を報告する。

「――……こっちも探したが、見つからなかった。建物の中に入った砂も掻き分けたが、それらしい物は無い」

「そう……。クロエとマギルスの方は?」

「無かったよ?」

「それらしい物は、何も無かったですね」

「そう……」

 全員から状況は聞いたアリアは、考えながら腰鞄に収めた手帳を取り出す。
 そして手帳を捲りながらとあるページで止まり、その部分をクロエに見せた。

「クロエ。これ、どう思う?」

「……これは、魔法研究の記録ですね。……召喚に関する記述ですか?」

「ええ。どうやらこの手帳の持ち主は、召喚魔法に関する知識がそれなりにあったようね」

「召喚魔法?」

 アリアとクロエが手帳の中身を改める最中、エリクが聞き覚えの無い単語を耳にして聞く。
 それを説明したのは、手帳を見ていたクロエだった。

「召喚魔法は、転移系魔法の一種です。特定の構築式を刻んだ魔法陣に、同じ構築式を刻んだ魔法陣の範囲にある物を転移させる」

「そうなのか。……転移魔法と、どう違うんだ?」

「転移魔法の場合は、移動の際に空間に干渉して対象者を転移させます。その場合には時間的差異は起こりませんが、空間の裂け目を移動するので、対象者に魔力を用いた防壁で覆わないと空間と物体の摩擦に耐え切れず、肉体が夥しいダメージを負います。そうした場合には、死に至る事もあります」

「!」

「召喚魔法の場合は、対象の内部に多量の魔力を帯びさせる事で、対象を一時的に分子レベルで魔力化させます。そして構築式を刻んだ魔法陣を出入口とし、星の地脈を経由して魔力化した対象を移動させます」

「それも、何か危険があるのか?」

「人体を魔力化させるというのが、そもそも危険な行為です。人間で魔力に耐性が薄い場合は、魔力を帯びさせるだけで気を失い、酷ければ脳や内臓に大きな損傷を負います。この場合も、死に至る可能性が非常に大きいです」

「……なら、耐性があれば?」

「例え耐性をあったとしても、肉体を魔力化させて地脈を通る際に急激な魂の劣化現象に襲われ、最悪の場合は魂が崩壊し肉体が形成できず地脈の中で消滅します」

「……人間には使えない、という事か?」

「ですね。召喚魔法を使用できる対象は、魔力化しても問題無い物体や生命体だけ。例えば、マギルスの馬がそうでしょうか。あの子は魔力で肉体を形成した、精神体アストラルですから」

「へー、そうなんだ!」

「なので、召喚魔法はかなり限定的な方法でしか使えません。そして、それよりも危険性が少ない転移魔法が伝え広まった事で、召喚魔法に関する記録や実施は人間大陸の中で廃れ、長らくその名前も魔法社会では表に出て来ていなかったはずです」

「そうか……」

 クロエの説明で召喚魔法に関する概要を知ったエリクだったが、同時に疑問も浮かぶ。

 廃れた魔法を遺体の僧侶が、どうして研究していたのか。
 そして、その話題をアリアが提示しクロエに確認させたのか。

 その二つの疑問を浮かべたエリクは、アリアの方を見る。
 その視線の意味を理解しているアリアも、改めて説明を始めた。

「これだけ探しても、魔石付きの触媒が無い。彼の遺品にそれらしい物が残されておらず、この手帳には召喚魔法に関する記述が残されている。それがどういう意味か、分かる?」

「……まさか?」

「そう。彼はこの世界から脱出する為に、最後の手段として召喚魔法を使用したのよ。……そして、彼はそれに失敗した。外傷は無かったけど、脳や内臓に酷い損傷を受けてしまい、それに関する記述すら手帳に書き込めなかった。そしてあの建物の中で、死んでしまったんでしょうね」

「……そうか」

「けど、自分が身に着けていた物の一部は成功した。……それが、彼が使っていた魔石付きの触媒。遺体の周囲や村の中に無かったのは、それが理由よ」

「……それを確認する為に、探していたのか?」

「確証が欲しかったの。彼が触媒で召喚魔法を使用したのか、それとも失くしただけなのか。その確証がね」

「それに、何か違いがあるのか?」

「ええ。……この『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』を模した別の世界。彼のおかげで、その法則性と成り立ちを理解できたわ」

「!!」

 アリアが自信に満ちた笑みと言葉に、一行が驚きを浮かべる。
 そして手帳を閉じたアリアは、改めて自分が考えている事を伝えた。

「ここは現世と空間が断絶した別世界を形作っている。だから空間に干渉して移動する空間魔法や、時間に干渉する時空間魔法での移動は不可能。……ならどうして、召喚魔法での物体の移動は成功したのか?」

「……地脈というモノが、繋がっているから?」

「そう。彼は現世側に残していた構築式と同じモノを触媒と肉体に刻み、現世へ戻ろうとした。けれど肉体はその負荷に耐え切れず触媒を手放し、結果として触媒のみが地脈を通じて召喚された。……つまり現世の地脈とこの別世界の地脈は、繋がっている」

「!」

「私達がいる砂漠、そして空に見える太陽と月、そして星。この光景は『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』がかたどっている心象風景だと、私は始めに考えていた。つまり本物の太陽や星ではなく、死者の記憶している情景がこの空間に写っているだけだとね」

「何故、そう考えたんだ?」

「本物の『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』は、死んで行き場の無い魂達が執念で作り出した死者の世界。その世界に浮かぶのは死者達が生前に見ていた光景であり、つまり本物ではない。この寒さや周囲の光景そのものが、死者の魂が自身の体験を元にして作り出したイメージでしかないはずなのよ」

「……つまり、この砂漠や太陽、そしてこの夜空に浮かぶ星や月は、本物?」

「そうよ。この砂漠も風景も、現世にある本物。遺体の彼は、ここが『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』だと知らなかった。だから地脈は繋がっていると思い、召喚魔法を試みた」

「……そして、触媒の召喚には成功した。ということは……」

「この別世界は、現世と地脈で繋がってる。空間や次元を突破して脱出できないのなら、地脈を使ってここから脱出するのよ」

 この別世界に迷い込んでから見せていないアリアの自身に満ちた顔に、エリクは安堵を浮かべる。
 脱出するべき道を見つけ出したアリアだったが、その意見にクロエが手を上げた。

「アリアさん、伺っても?」

「なに?」

「確かに、地脈を通じた脱出は有効でしょう。でも、召喚魔法は聖人や魔人であっても耐えられない。その難題を、どう乗り越えますか?」

「そんなの簡単よ」

「!」

「要は、人体を魔力化するから問題が起きるのよ。だったら、魔力化させずに地脈を通ればいいだけの話じゃない?」

「そうですが、その具体的方法は浮かんでいますか?」

「一つ、考えがあるわ。その方法なら……」

「それが成功する確率も、分かっていますよね?」

「……何が言いたいの?」

「その方法は、全員を危険に晒す可能性がある。それよりも確実な方法を、既に考えついていましたよね?」

「!!」

「その方法なら――……」

「それは、絶対にしないわ!!」

 クロエが話そうとする話に、アリアが表情を強張らせて怒鳴る。
 そのやり取りにケイルを含めた一行が驚きを浮かべ、関わりのあるエリクが尋ねた。

「……アリア。地脈から脱出する方法は、危険なのか?」

「……ッ」

「危険ですね。最悪の場合、全員が死にます。生きられたとしても、無事では済まないでしょう」

「!」

 エリクが尋ねる話に、アリアは僅かに言い淀む。
 その合間を突くように、クロエが危険性を指摘した。
 それに反論するように、アリアが口を開く。

「大丈夫よ! 地脈を抜けた後に、私がすぐに治せば――……」

「貴方自身も、無事では済まないはずです。……いえ、貴方自身が最も危険な事になるのは、分かっていますよね?」

「!!」

「……ッ」

「そんな状態の貴方が、まともな魔法どころか治療を行えるとは思えない。貴方も脱出する際には術に全ての神経を集中してしまい、自己治癒をしながらでは無理でしょう?」

「……アンタは、だからその方法は止めて、あの方法をやれとでも言うつもり?」

「はい。……これは私からの忠告です。その方法を行えば、間違いなくアリアさんが最初に死に、ここにいる全員が次々と死んでしまうでしょう」

「!!」

「そしてもう一つの方法でも、生贄が少なからず一人必要になる。……その生贄の最有力候補は、この場で二人です」

「二人……!?」

 クロエが予言を述べながら、アリアが考える地脈の移動方法を否定する。
 そして元々アリアが考えていた方法を知っていたクロエは、二人の候補者がいる事を述べた。

 アリアはそれに驚き、クロエは二人の候補者を挙げた。

「一人目は、エリクさん。この場でならば貴方が最も適任だと考えるのは、アリアさんが知り得る情報からでは当然でしょう」

「……ッ」

「そしてもう一人が、私です」

「!?」

「アリアさん。私は何も、エリクさんを犠牲にして脱出しろだなんて言っていません。……私を使えば済む話です」

 そう微笑みながら告げるクロエの言葉に、全員が驚愕する。
 特にマギルスは表情を唖然とさせ、友達となったクロエの顔を呆然と見ていた。

 予言者として確かな実力を見せてきた、『黒』の七大聖人セブンスワンクロエ。
 少女の姿をした彼女は、自分の身を呈してこの別世界から脱出する事を、自ら勧めた。
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