虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

冤罪の拷問

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 ワーグナーが黒獣傭兵団を率い、ベルグリンド王国からの脱出を決意していた頃。

 拘束されていたエリクの牢獄に、あの騎士の男が現れる。
 地べたに座り鉄の手枷を嵌められていたエリクは静かに目を開け、暗闇の中で騎士が持つ何かを視認した。

 騎士の左手には青い魔石が嵌められた水晶体と、右手に黄色の魔石が柄に嵌め込まれた黒い鞭が持たれている。
 それを敢えてエリクに見える机に置いた騎士は、顔を向けながら口を開いた。

「黒獣傭兵団、団長エリク。これより、貴様に尋問を開始する」

「……」

「貴様は先日、団員を率いて村を襲い、村人を虐殺した。そうだな?」

「違う」

「こちらは確かな情報を得ている。大人しく自白し、その理由と目的を明らかにしろ」

「俺達は、村を襲っていない。襲ったのは、盗賊だ」

「そうだ、村を襲ったのは盗賊だ。貴様が率いている、黒獣傭兵団という盗人共だ」

「……」

「巷では英雄だと持て囃されているようだが、所詮は欲に目が眩む傭兵だ。金目の物を見つけた村を襲ったんだろう。そうだな?」

「違う」

 こうした口頭での尋問が、しばらく続く。

 この時に不幸だと言える事は、拘束されてしまったのがエリクだという事だろう。
 相手が喋る言葉を上手く聞き取れず、理解できる部分だけしか返答できないエリクには、尋問する騎士に対してあの時の状況を上手く伝えられなかった。

 あるいはワーグナーが拘束されていれば、目の前の騎士に対して皮肉を込めながら完全な潔白と農村の生き残りの現状を話し、黒獣傭兵団の潔白を赤裸々に明かしながら説き伏せられたかもしれない。
 しかしエリクだけが拘束されて尋問されている現在、農村が襲撃された前後の事情を騎士に対して話す事も、ましてや自分で理解する事も難しかった。

 そうしたエリクの語弊事情を知らない騎士は、短い否定しか返さないエリクに表情に怒りを込めながら呟く。

「――……しらを切り通すつもりか。……ならば、貴様の体に聞いてやる」

「……?」

 騎士は机の上に置いていた青い魔石が嵌め込まれた水晶体を持つと、それを牢獄の端にある壁に埋め込む。
 すると牢獄の周囲に青い魔力の光が覆い始め、それを視認したエリクは目を驚かせながら周囲を見た。

「これは……」

 そう呟いた時、エリクは僅かに寒さを感じる。
 その寒さは牢獄の中に染み渡るように広がり、エリクが座る石畳の地べたにも伝わった。

 青い魔力の光に覆われた牢獄内の室温が徐々に低下し、エリクの吐く息を白くさせる。
 しかし牢獄の外にいる騎士の息は白くなっておらず、エリクはそれを見て不可解な表情を浮かべて見ていた。

 そんなエリクを見た騎士は口元を吊り上げ、牢獄に施した事を説明する。

「これは本来、冷凍の為に用いる魔道具。一定の範囲を冷気で満たし、その内部にある物を冷凍保存できる代物だ」

「まどうぐ……?」 

「その牢獄内の温度は、下がり続ける。極寒の日すら凌ぐ低温までにな」

「……」

「そのまま寒さで凍えるのが先か、根を上げて自白するのが先か。朝まで時間はあるのだ、たっぷりと観察してやる」 

 そう説明する騎士だったが、エリクはその説明を一部分しか理解できない。
 魔道具という物を見た事がなく、またそうした物を目にしても魔道具だと認識していなかったエリクは、騎士の言葉で理解できる部分を自己解釈し、部屋を寒くされているのだというのは理解した。

 牢獄内に漂う冷気をエリクは感じながらも、それに対して平然とした様子を見せる。
 今まで過酷な鍛錬と傭兵稼業の中で、エリクの皮膚は人一倍以上の厚さをしていた。
 また幾つかの修練の中で無意識に呼吸を行い、寒さに晒される環境でも体を僅かに動かす事で自身の体温を上げる技術を得ている。

 エリクは座りながら静かに呼吸し、冷気に対応するように体を密かに震わせて体温を上げた。
 それから一時間ほどが経ち、牢獄内がマイナスの気温に差し込み始めても、エリクは騎士の予想通りに根を上げる事は一度も無かった。

 牢獄内は冷気に満たされ、外から見ている騎士は湿気を含んだ壁や床の石素材に薄い氷膜がある事に気付いている。
 しかし根を上げずに寒さで震える様子も無いエリクに、苛立ちを含んだ声を漏らした。

「……貴様、寒くないのか?」

「寒い」

「ならば何故、そんな平然としている!?」

「寒さには、慣れている」

「……そうか。ならば、これはどうだ」

「?」

 騎士は椅子から立ち上がり、机に置いてある黄色い魔石が嵌め込まれた黒い鞭を右手に持つ。
 そして右手首を振りながら鞭を軽く振り、牢獄にいるエリクを睨みながら呟いた。

「……貴様は、知っているか?」

「?」

「雨雲が荒れる中で空を駆けて放たれる雷。それが極稀に地上を降り注ぎ、こうした鉱物や魔石に蓄えられる事があるそうだ」

「……?」

「この鞭に嵌め込まれた魔石は、その雷が蓄えられている。……そして特定の素材を使う事で、このような武器として扱える」

「……」

「本来ならば、貴様のような罪人を完全な状態で拘束した上で鞭打ちを行う。……だが魔石によって冷気が漂うその牢獄の中に雷を放電するこの鞭が入ると、どうなると思う?」

「……なんだ?」

「身を持って味わえ」

 そう告げる騎士は、右手を振り牢獄に鞭の先端を振り入れる。
 それがエリクに届く事は無かったが、鞭の先端から黄色い光が漏れるように放たれている光景をエリクは目にした。

 そして次の瞬間、魔力の冷気を通り道にして魔力の放電が響き渡り、エリクの肉体にも電撃を浴びせる。
 それを受けた瞬間のエリクは思わず目を見開き、歯を食い縛らせた。

「ギ、グァッ!!」

「流石の貴様も、この電撃には耐えられないようだな!!」

「グ、ァアアッ!!」

「さぁ、言え!! 貴様等がやった虐殺行為を認めろ!!」

「ァア、ガアッ!!」

「言えッ!!」

 鞭の先端から放たれる放電が、魔力の冷気で満たされる牢獄内を駆け巡り続ける。
 その放電を全身に浴びながら苦痛の声を漏らすエリクは、必死に表情を強張らせながらそれに耐えた。
 そして騎士の言葉に対して首を横へ振り、自分達が村人達を殺していない事を伝える。

 頑なに罪を認めようとしないエリクに騎士は業を煮やし、握りの柄を強く握りながら更に放つ放電を強めた。

「ァア、アアグッ!!」

「貴様が罪を認めない限り、この放電は止まらん!!」

「ァアアアアアア!!」

 それから一時間以上、エリクは魔力の放電を受け続ける。
 それは常人が受けた瞬間に気絶する威力であり、受け続ければ体中の血管を通じて内臓や血管を破壊し、脳すら破壊しかねない電撃だった。

 実際に、エリクの目や鼻、そして耳からは流血が見える。
 そして全身を痙攣させ、苦しみながら地べたへ体を横に倒れ込ませた。

 その放電にも、魔人であるエリクは耐える事が出来てしまう。
 ただ魔力障壁バリアという技術を知らないエリクには電撃を完全に防ぐ事は出来ず、今まで戦いの中でも受けた事がない未知の衝撃と痛みに苦痛の声を牢獄の中で上げ続けた。
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