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螺旋編 五章:螺旋の戦争
竜の戦士
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待ち伏せを受けた箱舟は、浮遊する魔導国都市に対して突入を掛ける。
それに対してマギルスと青馬が空を駆け、ケイルの手も借りながら大きな損傷を受けずに防衛陣の突破を試みていた。
しかし魔導国の防備は厚く、敵飛空艇の数は見える限りで三十隻以上が箱舟を妨害するように砲撃を浴びせ、同時に飛行する魔導人形が取り付くように近付く。
箱舟に備わる銃座や砲塔はそれに対応するよう迎撃を加えていたが、マギルスの援護を得てもその圧倒的な数の利を覆せていない。
「――……右舷、更に正面! 敵勢力の増援です!!」
「ウワッ!!」
「……ッ、敵砲撃、左舷下部に被弾ッ!!」
「被弾処置班を向かわせろ!」
「後方、再び敵主砲!」
「回避するんだ!!」
各艦橋員達が各機器を確認しながら状況を知らせ、シルエスカは指示を飛ばして対応させる。
上昇しながら前進する箱舟は回避の為に艦首を下げ、一時的に降下する。
その頭上に敵飛空艇から放たれた巨大砲撃が通過し、味方の魔導人形を巻き込みながら撃ち放たれた。
それを艦橋内から見上げるシルエスカは、苦々しい表情で悪態を吐く。
「ク……ッ! 味方諸共とは、下種め……!!」
「向こうにとって、魔導人形は文字通りに駒なんだろうね」
その悪態に答えるようにクロエは話し、敵の戦術を冷静に分析する。
敵のやり方は飛空艇の砲撃を使って追い込み、誘き寄せた場所に魔導人形達を置いて損耗を考えずに突入させ、取り付かせながら箱舟の船体を破壊させる戦術。
非常に単純なやり方だったが、物量で圧倒し圧し潰そうとする敵の動きに、箱舟の突入は幾度も妨害されていた。
その箱舟の周囲で青馬に乗りながら駆け回るマギルスは、珍しく焦った声を通信越しに艦橋内へ届ける。
『――……ちょっと、コイツ等! 多過ぎ!』
「マギルスのおかげで、箱舟は致命的な損傷は避けられてるから。凄く助かってるよ」
『でも! まだまだ、前にはいっぱいだよ!』
「……その通りだ」
焦るマギルスを微笑みながらクロエは褒めたが、シルエスカは正面を見据えながら表情を強張らせて呟く。
浮遊都市を守るように正面へ展開する敵飛空艇の数は、都市の周囲から更に集まり始めていた。
索敵機の魔導反応に映る赤い斑点を数えても、敵の正面戦力は百隻前後。
更にその中には魔導人形が数十機も内蔵されており、正面の敵だけでも軽く二千を超える数だと考えられる。
マギルスも圧倒的な強さを見せているが、一人だけでは全てを叩けない。
数という不利という当初から危惧していた事が、こうも現実として突き付けられてしまう事に、艦橋員を含めた箱舟の兵士達は否応無く感じさせられていた。
そして主砲を回避し、再び上昇角度に舵を切りながら左舷から来る砲撃を回避し、箱舟《ノア》は前進しようとする。
しかし上空を塞ぐように敵飛空艇が近付く、距離が離れながらもある動きを見せた。
「……あれは……!? 左舷へ避けろ!!」
「む、無理です! 敵の砲撃が!」
「ならば、右舷へ!!」
モニター越しにシルエスカはそれを確認し、上空の敵飛空艇が何をするかを察する。
その推察は的中し、敵飛空艇は下部の一部を開きながら、地上で使われた新型の球体状の魔導人形を投下させた。
投下された鉄球の幾つかは、箱舟が右舷へ更に回避した為にそのまま通過し、下へ落下していく。
しかし二つの鉄球が箱舟の左翼部に直撃し、結界を破り船体を破壊しながら埋まった。
その振動を感じた艦橋員は再び被弾した事を察したが、シルエスカは更に先の状況を読み取る。
「う……ッ!!」
「しまった……! あの新型に取り付かれたッ!!」
「!?」
シルエスカはそう大声で怒鳴り、艦橋員達も何が起こったかを察する。
左翼部に埋まった鉄球は、地上で見せたように変形して人型に近い形になった。
すると破壊した部分に埋まりながら両腕の魔導兵器を起動させ、それを箱舟の船体に向けて魔弾を撃ち放つ。
魔弾は結界に触れると同時に同調し、貫通しながら船体を容易く破壊し、更に見える銃座や砲塔に向けて撃ち放った。
その衝撃と爆発が艦橋内にも届き、艦橋員達が状況を知らせる。
「ウワッ!!」
「……ッ! 左舷側の砲塔、二基が沈黙!」
「左舷の銃座、三基が破壊されました!!」
「無事な銃座に撃ち落とさせろ!!」
「……ダメです! 機銃では、効果がありません!!」
「あの新型、やっぱり硬い……!!」
左舷で無事な銃座が、機関銃で取り付いた魔導人形を撃つ。
しかし弾は全て防がれ、逆に狙われるように攻撃を加えられた。
左舷の砲塔と銃座が機能せずに沈黙し始め、左舷側の対応が出来なくなる。
更に取り付きながら左舷部分を破壊する魔導人形に、シルエスカは強張った表情を見せながら腰に携える槍を掴んだ。
「……我が向かう! クロエ、指揮を頼む!」
「その必要は無いよ」
「!」
「というわけで、お願いね。エリクさん」
『――……分かった』
再び左耳に左手を付けたクロエの言葉に反応し、艦橋にエリクの声が響く。
そして左舷外部が映るモニターにシルエスカは目を向け、状況を確認した。
破壊された左舷の銃座跡を蹴破り、一つの影が左翼部に乗り移る。
それは大剣を新たな鞘に入れて背中に担ぎ、新たな黒いミスリルの服を着たエリクだった。
「――……またコイツか」
『――……』
魔導人形は赤い単眼でエリクを発見し、すぐに両腕を向けてエリクに魔弾を放つ。
連続で発射される魔弾に対して、エリクは一歩だけ踏み込むと同時に足場の船体を踏み抜くと、その姿を消した。
そして一瞬の間に魔導人形に迫り、その顔面を右手で殴り吹き飛ばして見せる。
「な……!?」
「……流石だなぁ」
シルエスカとクロエはその光景をモニター越しに確認し、互いに違う反応を見せる。
そして残った魔導人形も殴打のみで吹き飛ばしたエリクは、軽く跳躍して出て来た銃座跡から船体内部に戻って声を伝えた。
『――……片付けたぞ』
「ありがとう。左舷の銃座がほとんど沈黙させられたから、また取り付いたらお願いね」
『分かった』
短くも力強いエリクの声は、対応したクロエを除いて全員に頼もしさを感じさせる。
そして再び席に腰を戻したシルエスカは、嘆息を漏らしながら呟いた。
「……エリク、ケイル、マギルス。三人の頼もしさは、まさに英雄だな」
「でも、この箱舟が突入できなければ、彼等の頑張りも無意味になる」
「分かっている。――……突入を続行! 最大船速で、敵の都市に辿り着け!」
「ハッ!!」
クロエに諭されながらも、シルエスカは各員にそう命じさせる。
箱舟はこの時点で、左舷の迎撃機能をほぼ失い、上部の機銃が不足していた。
更に際限の無い敵の増援に、砲塔や機銃の弾薬が大きく消耗し、魔導力機を動かす残存魔力をかなり失っている。
足場の無い空では、高い個人戦力である英雄達も活躍が出来ない。
その中でも、各員は最善を尽くして箱舟を突入させ続けた。
「――……後部砲塔、被弾! 爆発の恐れあり!」
「周辺区画の人員を避難させろ!!」
「右舷の砲塔、大破!」
「ッ!!」
「敵飛空艇、下から砲撃を開始!」
「回避行動! 下部の砲塔で、敵飛空艇を迎撃!」
「後方! 突破した敵飛空艇に、追い付かれます!」
「ク……ッ!!」
「周囲から魔導反応、魔力反応が増大……!」
「もうダメか……ッ!!」
しかし増え続ける正面の敵に対応が難しくなり、箱舟は幾度となく進路を変えざるを得なくなる。
しかも振り切ろうとした背後の敵が追い付き、ついに箱舟は完全に囲まれた。
周囲の魔力反応の増大を知らされ、囲んだ敵の飛空艇が前後左右から主砲を放とうとする事が分かる。
絶体絶命の状況で艦橋員達は覚悟し、シルエスカは表情を強張らせながらクロエを見た。
「……」
「……そうか」
クロエはそれに対して、首を横に振る。
用意された備えは全て無くなり、打つ手は残されていない事をシルエスカは認めざるを得なかった。
「――……くっそぉ!!」
マギルスが奮戦し、何とか正面の敵飛空艇だけは破壊する。
しかし左右と後方から放たれる敵飛空艇の主砲を、防ぐ事は出来なかった。
『――……なに、アレッ!?』
「!?」
全員が諦め掛けたその時、主砲を放とうとする敵飛空艇の下から何かが上昇して来る姿を、マギルスは遠目で確認する。
そして次の瞬間には、主砲を放とうとする敵飛空艇が瞬く間に破壊され、爆発しながら地表へ落下を始めた。
「なに……!?」
「……敵の飛空艇、破壊されました! 増大した魔力反応も、消失!」
「何が起こった……!?」
その声に反応した艦橋員達とシルエスカは、周囲に起こった出来事を観測しようとする。
それより先に、箱舟の前方に一つの影が姿を見せた。
「!」
「敵の魔導人形……!?」
「……いや、違う。アレは……!」
突如として前方に現れ、艦橋から視認できる位置に姿を見せたソレに、艦橋の全員が注目する。
その影は人型の姿ながらも、背には大きな翼を広げ、更にその下半身には蠢く一つの尾を持っていた。
更に身体の各所に鱗が見え、頭部のやや後ろ部分に伸びた角が二つ存在している。
外で戦っていたマギルスや、中で様子を見ていたケイルやエリクも突如として現れた謎の気配に気付き、見える位置に移動した。
それを見て人ならざる者が現れた事を全員が理解した中で、クロエが微笑みを浮かべながら呟く。
「……まさか、彼女が動いてくれるとはね」
「彼女……?」
「鬼の巫女姫。フォウル国の増援が、来てくれたんだ」
「……!?」
クロエが帽子の鍔部分を指で下げながら、目の前に現れた存在について話す。
それを聞いた艦橋にいる全員が、目の前に姿を見せた魔人に注目した。
一方で箱舟の周囲に十数体以上の影が飛びながら現れると同時に、前方を飛ぶ一人が叫ぶように箱舟へ声を向ける。
「――……巫女姫の命により、貴殿等に助力する!」
「!」
「竜の戦士達よ! 生の誇り無き者共を、蹴散らせッ!!」
竜人達を指揮しながら三又の槍を掲げる男の声に合わせ、周囲の竜人達が翼を羽ばたかせて更に飛翔する。
そして瞬く間に箱舟の周囲にいる敵飛空艇と魔導人形達を破壊し、地表へと落下させていった。
「あれは、竜人か……!」
「フォウル国の魔人だぁ!」
「……強いな」
その光景を目視したエリクやケイルは、互いに目を細めてその強さに瞠目を浮かべる。
逆にマギルスは瞳の色を輝かせながらその光景に喜びを浮かべた。
フォウル国が率いる、竜人の参戦。
それは箱舟を窮地を救い、圧倒的で頼もしい戦い振りを見せつけた。
それに対してマギルスと青馬が空を駆け、ケイルの手も借りながら大きな損傷を受けずに防衛陣の突破を試みていた。
しかし魔導国の防備は厚く、敵飛空艇の数は見える限りで三十隻以上が箱舟を妨害するように砲撃を浴びせ、同時に飛行する魔導人形が取り付くように近付く。
箱舟に備わる銃座や砲塔はそれに対応するよう迎撃を加えていたが、マギルスの援護を得てもその圧倒的な数の利を覆せていない。
「――……右舷、更に正面! 敵勢力の増援です!!」
「ウワッ!!」
「……ッ、敵砲撃、左舷下部に被弾ッ!!」
「被弾処置班を向かわせろ!」
「後方、再び敵主砲!」
「回避するんだ!!」
各艦橋員達が各機器を確認しながら状況を知らせ、シルエスカは指示を飛ばして対応させる。
上昇しながら前進する箱舟は回避の為に艦首を下げ、一時的に降下する。
その頭上に敵飛空艇から放たれた巨大砲撃が通過し、味方の魔導人形を巻き込みながら撃ち放たれた。
それを艦橋内から見上げるシルエスカは、苦々しい表情で悪態を吐く。
「ク……ッ! 味方諸共とは、下種め……!!」
「向こうにとって、魔導人形は文字通りに駒なんだろうね」
その悪態に答えるようにクロエは話し、敵の戦術を冷静に分析する。
敵のやり方は飛空艇の砲撃を使って追い込み、誘き寄せた場所に魔導人形達を置いて損耗を考えずに突入させ、取り付かせながら箱舟の船体を破壊させる戦術。
非常に単純なやり方だったが、物量で圧倒し圧し潰そうとする敵の動きに、箱舟の突入は幾度も妨害されていた。
その箱舟の周囲で青馬に乗りながら駆け回るマギルスは、珍しく焦った声を通信越しに艦橋内へ届ける。
『――……ちょっと、コイツ等! 多過ぎ!』
「マギルスのおかげで、箱舟は致命的な損傷は避けられてるから。凄く助かってるよ」
『でも! まだまだ、前にはいっぱいだよ!』
「……その通りだ」
焦るマギルスを微笑みながらクロエは褒めたが、シルエスカは正面を見据えながら表情を強張らせて呟く。
浮遊都市を守るように正面へ展開する敵飛空艇の数は、都市の周囲から更に集まり始めていた。
索敵機の魔導反応に映る赤い斑点を数えても、敵の正面戦力は百隻前後。
更にその中には魔導人形が数十機も内蔵されており、正面の敵だけでも軽く二千を超える数だと考えられる。
マギルスも圧倒的な強さを見せているが、一人だけでは全てを叩けない。
数という不利という当初から危惧していた事が、こうも現実として突き付けられてしまう事に、艦橋員を含めた箱舟の兵士達は否応無く感じさせられていた。
そして主砲を回避し、再び上昇角度に舵を切りながら左舷から来る砲撃を回避し、箱舟《ノア》は前進しようとする。
しかし上空を塞ぐように敵飛空艇が近付く、距離が離れながらもある動きを見せた。
「……あれは……!? 左舷へ避けろ!!」
「む、無理です! 敵の砲撃が!」
「ならば、右舷へ!!」
モニター越しにシルエスカはそれを確認し、上空の敵飛空艇が何をするかを察する。
その推察は的中し、敵飛空艇は下部の一部を開きながら、地上で使われた新型の球体状の魔導人形を投下させた。
投下された鉄球の幾つかは、箱舟が右舷へ更に回避した為にそのまま通過し、下へ落下していく。
しかし二つの鉄球が箱舟の左翼部に直撃し、結界を破り船体を破壊しながら埋まった。
その振動を感じた艦橋員は再び被弾した事を察したが、シルエスカは更に先の状況を読み取る。
「う……ッ!!」
「しまった……! あの新型に取り付かれたッ!!」
「!?」
シルエスカはそう大声で怒鳴り、艦橋員達も何が起こったかを察する。
左翼部に埋まった鉄球は、地上で見せたように変形して人型に近い形になった。
すると破壊した部分に埋まりながら両腕の魔導兵器を起動させ、それを箱舟の船体に向けて魔弾を撃ち放つ。
魔弾は結界に触れると同時に同調し、貫通しながら船体を容易く破壊し、更に見える銃座や砲塔に向けて撃ち放った。
その衝撃と爆発が艦橋内にも届き、艦橋員達が状況を知らせる。
「ウワッ!!」
「……ッ! 左舷側の砲塔、二基が沈黙!」
「左舷の銃座、三基が破壊されました!!」
「無事な銃座に撃ち落とさせろ!!」
「……ダメです! 機銃では、効果がありません!!」
「あの新型、やっぱり硬い……!!」
左舷で無事な銃座が、機関銃で取り付いた魔導人形を撃つ。
しかし弾は全て防がれ、逆に狙われるように攻撃を加えられた。
左舷の砲塔と銃座が機能せずに沈黙し始め、左舷側の対応が出来なくなる。
更に取り付きながら左舷部分を破壊する魔導人形に、シルエスカは強張った表情を見せながら腰に携える槍を掴んだ。
「……我が向かう! クロエ、指揮を頼む!」
「その必要は無いよ」
「!」
「というわけで、お願いね。エリクさん」
『――……分かった』
再び左耳に左手を付けたクロエの言葉に反応し、艦橋にエリクの声が響く。
そして左舷外部が映るモニターにシルエスカは目を向け、状況を確認した。
破壊された左舷の銃座跡を蹴破り、一つの影が左翼部に乗り移る。
それは大剣を新たな鞘に入れて背中に担ぎ、新たな黒いミスリルの服を着たエリクだった。
「――……またコイツか」
『――……』
魔導人形は赤い単眼でエリクを発見し、すぐに両腕を向けてエリクに魔弾を放つ。
連続で発射される魔弾に対して、エリクは一歩だけ踏み込むと同時に足場の船体を踏み抜くと、その姿を消した。
そして一瞬の間に魔導人形に迫り、その顔面を右手で殴り吹き飛ばして見せる。
「な……!?」
「……流石だなぁ」
シルエスカとクロエはその光景をモニター越しに確認し、互いに違う反応を見せる。
そして残った魔導人形も殴打のみで吹き飛ばしたエリクは、軽く跳躍して出て来た銃座跡から船体内部に戻って声を伝えた。
『――……片付けたぞ』
「ありがとう。左舷の銃座がほとんど沈黙させられたから、また取り付いたらお願いね」
『分かった』
短くも力強いエリクの声は、対応したクロエを除いて全員に頼もしさを感じさせる。
そして再び席に腰を戻したシルエスカは、嘆息を漏らしながら呟いた。
「……エリク、ケイル、マギルス。三人の頼もしさは、まさに英雄だな」
「でも、この箱舟が突入できなければ、彼等の頑張りも無意味になる」
「分かっている。――……突入を続行! 最大船速で、敵の都市に辿り着け!」
「ハッ!!」
クロエに諭されながらも、シルエスカは各員にそう命じさせる。
箱舟はこの時点で、左舷の迎撃機能をほぼ失い、上部の機銃が不足していた。
更に際限の無い敵の増援に、砲塔や機銃の弾薬が大きく消耗し、魔導力機を動かす残存魔力をかなり失っている。
足場の無い空では、高い個人戦力である英雄達も活躍が出来ない。
その中でも、各員は最善を尽くして箱舟を突入させ続けた。
「――……後部砲塔、被弾! 爆発の恐れあり!」
「周辺区画の人員を避難させろ!!」
「右舷の砲塔、大破!」
「ッ!!」
「敵飛空艇、下から砲撃を開始!」
「回避行動! 下部の砲塔で、敵飛空艇を迎撃!」
「後方! 突破した敵飛空艇に、追い付かれます!」
「ク……ッ!!」
「周囲から魔導反応、魔力反応が増大……!」
「もうダメか……ッ!!」
しかし増え続ける正面の敵に対応が難しくなり、箱舟は幾度となく進路を変えざるを得なくなる。
しかも振り切ろうとした背後の敵が追い付き、ついに箱舟は完全に囲まれた。
周囲の魔力反応の増大を知らされ、囲んだ敵の飛空艇が前後左右から主砲を放とうとする事が分かる。
絶体絶命の状況で艦橋員達は覚悟し、シルエスカは表情を強張らせながらクロエを見た。
「……」
「……そうか」
クロエはそれに対して、首を横に振る。
用意された備えは全て無くなり、打つ手は残されていない事をシルエスカは認めざるを得なかった。
「――……くっそぉ!!」
マギルスが奮戦し、何とか正面の敵飛空艇だけは破壊する。
しかし左右と後方から放たれる敵飛空艇の主砲を、防ぐ事は出来なかった。
『――……なに、アレッ!?』
「!?」
全員が諦め掛けたその時、主砲を放とうとする敵飛空艇の下から何かが上昇して来る姿を、マギルスは遠目で確認する。
そして次の瞬間には、主砲を放とうとする敵飛空艇が瞬く間に破壊され、爆発しながら地表へ落下を始めた。
「なに……!?」
「……敵の飛空艇、破壊されました! 増大した魔力反応も、消失!」
「何が起こった……!?」
その声に反応した艦橋員達とシルエスカは、周囲に起こった出来事を観測しようとする。
それより先に、箱舟の前方に一つの影が姿を見せた。
「!」
「敵の魔導人形……!?」
「……いや、違う。アレは……!」
突如として前方に現れ、艦橋から視認できる位置に姿を見せたソレに、艦橋の全員が注目する。
その影は人型の姿ながらも、背には大きな翼を広げ、更にその下半身には蠢く一つの尾を持っていた。
更に身体の各所に鱗が見え、頭部のやや後ろ部分に伸びた角が二つ存在している。
外で戦っていたマギルスや、中で様子を見ていたケイルやエリクも突如として現れた謎の気配に気付き、見える位置に移動した。
それを見て人ならざる者が現れた事を全員が理解した中で、クロエが微笑みを浮かべながら呟く。
「……まさか、彼女が動いてくれるとはね」
「彼女……?」
「鬼の巫女姫。フォウル国の増援が、来てくれたんだ」
「……!?」
クロエが帽子の鍔部分を指で下げながら、目の前に現れた存在について話す。
それを聞いた艦橋にいる全員が、目の前に姿を見せた魔人に注目した。
一方で箱舟の周囲に十数体以上の影が飛びながら現れると同時に、前方を飛ぶ一人が叫ぶように箱舟へ声を向ける。
「――……巫女姫の命により、貴殿等に助力する!」
「!」
「竜の戦士達よ! 生の誇り無き者共を、蹴散らせッ!!」
竜人達を指揮しながら三又の槍を掲げる男の声に合わせ、周囲の竜人達が翼を羽ばたかせて更に飛翔する。
そして瞬く間に箱舟の周囲にいる敵飛空艇と魔導人形達を破壊し、地表へと落下させていった。
「あれは、竜人か……!」
「フォウル国の魔人だぁ!」
「……強いな」
その光景を目視したエリクやケイルは、互いに目を細めてその強さに瞠目を浮かべる。
逆にマギルスは瞳の色を輝かせながらその光景に喜びを浮かべた。
フォウル国が率いる、竜人の参戦。
それは箱舟を窮地を救い、圧倒的で頼もしい戦い振りを見せつけた。
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