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螺旋編 五章:螺旋の戦争
英雄の活躍
しおりを挟む飛行する大量の魔導人形が、箱舟に乗った一行の前に現れる。
艦橋で見ている全員がそれに驚く中で、クロエだけは空を飛ぶ魔導人形を見ながら推察した。
「……へぇ、空を飛ぶ魔導人形か。新型より細いけど、表面の材質は同じかな。推進剤を燃料にした、噴射型機構で飛んでるみたいだ」
「空を飛ぶ魔導人形……!?」
「飛空艇を浮かせてるくらいだ。空を飛ぶ魔導人形があっても、不思議じゃないさ」
モニター越しに飛ぶ魔導人形を確認したクロエだけは驚く様子は無く、逆に関心しながら頷いて見せる。
そうした話を交える中でも状況は動き、艦橋員の一人が状況を伝えた。
「……敵の魔導人形、更に増加中! 数、二百を超えています!!」
「後方、敵飛空艇の高魔力反応が増大! 砲撃、来ます!!」
「回避ッ!!」
シルエスカは後方の砲撃に対して回避を命じ、今度は左側へ大きく舵を切りながら避けさせる。
しかし浮遊都市の突入を遮るように、正面に展開する敵飛空艇から魔導人形が更に射出された。
箱舟は上昇しながら砲撃を回避して進み、前方に展開した敵部隊と飛空艇の中に突っ込む。
それと同時に展開された魔導人形と飛空艇が、箱舟へ攻め込み始めた。
「各銃座! 敵の魔導人形を近付けるな!!」
「各砲塔は、敵飛空艇を迎撃しろ!!」
艦橋員達はそれぞれの区画に指示を飛ばし、周囲を取り囲む魔導人形と敵飛空艇に向けて迎撃を開始する。
幸いにも新型と同じ材質の細い魔導人形は耐久性が落ちているのか、機関銃からの直撃を受けると爆発しながら撃墜できる。
しかしその数は多く、更に前方に控えている敵飛空艇から追加分が射出され続けていた。
「クソッ! キリが無いぞ……!?」
「……やばい! 取り付かれた!!」
「クッ!!」
周囲を覆い飛ぶ魔導人形が数体、箱舟の船体に取り付く。
撃ち落とせる角度にいる銃座はそれを狙い、辛うじて撃破する事に成功した。
しかし左部分の羽根に取り付いた一体の魔導人形は撃墜が遅れ、赤い単眼を光らせる。
そして両手から仕込まれた剣を手甲から取り出すと、結界に覆われた船体に刃を突き立てて貫通させた。
「マズいッ!!」
その傷口を広げるように箱舟の船体を切り裂こうとする魔導人形を、ようやく撃ち払う事に成功する。
その機銃手は通信機で艦橋に報告し、飛翔型魔導人形の性能を判明させた。
「――……飛翔型の魔導人形は近接型! 腕に仕込んだ刃で、結界を貫通し船体を破壊して来ます!」
「地上の新型より軽量化させて飛翔できるようにした分、高威力の中距離武器を積めないんだろうね。けど軽量だから生産し易く数も多い上に、結界を容易く貫通できる機能は厄介だ」
「取り付いた魔導人形を、最優先に破壊するよう各銃座に伝えろ!」
「はい!」
艦橋員の報告とクロエの推察を聞いたシルエスカは、各銃座に着いた機銃手達にそう伝えさせる。
しかし状況が好転するわけでもなく、圧倒的な数の魔導人形と敵飛空艇に包囲され、限りがある弾薬が消費されていく。
更に魔導人形などを回避しながら進む箱舟に、複数の敵飛空艇が箱舟の進路を塞ぐように動いた。
「進路、塞がれます!」
「ク……ッ!!」
シルエスカは立ち塞がる敵飛空艇と魔導人形達を見て苦々しい表情を浮かべる。
艦橋員達も似た表情を浮かべる中で、ただ一人だけ表情の色が違う人物が居た。
それはクロエであり、左手の人差し指で左耳の穴を軽く押さえる仕草を見せる。
更に口元を呟かせ、ある言葉を口にした。
「――……お願いね、マギルス」
『――……はぁい!』
「!」
クロエは微笑みながら呟き、艦橋全体にマギルスの声が響く。
そして次の瞬間、箱舟の上部から前方を青い光が駆けるように走り、進路を塞ごうとした敵飛空艇を青い光が襲った。
「!!」
「な……!?」
青い光が敵飛空艇の眼前に迫ると同時に、その青い光をなぞるように敵飛空艇を駆ける。
それと同時に敵飛空艇の中央に真っ二つの亀裂が起こり、爆発を起こしながら急降下し始めた。
その光景に驚く艦橋員達を他所に、マギルスの声が再び響く。
それに微笑みながら、クロエが答えるように話し掛けた。
『――……やったぁ! 今度は一人で斬れたよ!』
「うんうん。強くなったね、マギルス」
『うん! ねぇねぇ、どんどん斬っていい?』
「良いよ。でも、船からは離れすぎないようにね」
『はーい!』
青い光が再び箱舟の近くまで戻ると、映像モニターにその姿が映し出される。
それは魔力障壁を足場にして走る青馬に乗ったマギルスが、大鎌を持ちながら笑顔で艦橋の方に手を振り、再び敵の方へ駆け出す姿だった。
それから青い閃光をなぞる部分を飛んでいた魔導人形や敵飛空艇が、真っ二つにされながら爆発を起こして撃墜されていく。
その光景に驚く一同を他所に、クロエがその場の全員に声を掛けた。
「あの子が道を切り開くから、このまま進んでね」
「……はっ、はい!」
「て、敵の砲撃! 左舷から来ます!」
「!!」
マギルスの奮戦で一難去りながらも、続けて新たな危機が続く。
左舷の砲撃を避ける為に大きく右へ舵を切った箱舟だったが、右側には大量の魔導人形が待ち構え、銃座だけで対応が追い付かない。
そして先程よりも遥かに多くの魔導人形達が取り付き、上部に取り付いた銃座が攻撃を受けてしまった。
「う、ウワァッ!!」
結界を貫通した魔導人形の剣が銃身を切断し、機銃を無力化させる。
何とか逃げ延びた機銃手達からの報告と状況を確認した艦橋員が、シルエスカに報告した。
「――……上部右側の銃座、沈黙しましたッ!! 取り付いた魔導人形、撃ち落とせません!!」
「他の銃座からは!?」
「死角となっていて、無理です!!」
「クッ!」
「――……新たな報告! 破壊された銃座から、敵の魔導人形が船体内部に侵入!」
「何だって……!?」
「……ッ!!」
その報告を聞いたシルエスカは、腰に携える槍に意識を向けて席から離れようとする。
それを片手で遮るように止めたのは、クロエだった。
「何を……!」
「大丈夫。――……ケイルさん、任せたよ」
『――……へいへい』
「!」
先程と同じように左手で左耳に触れるクロエが、ケイルの名を呼ぶ。
それと同時に艦橋にケイルの声が響き、その数秒後に鍔鳴りの音が一度だけ響いた。
『――……片付いたぞ』
「ありがとう。上部の銃座が修復するまで、そこで待機をお願いします」
『了解だ』
クロエは微笑みながら喋り、ケイルは面倒臭そうな声で応じる。
そのやり取りを見ていたシルエスカは、クロエを見ながら尋ねた。
「……こうなる事を、分かっていたのか?」
「『備えあれば憂い無し』。昔、そういう諺があってね」
「……そうか、頼もしい限りだ」
シルエスカは溜息を吐き出しながら口元を微笑ませて席に座り直し、艦橋の指揮に戻る。
箱舟は幾つかの損傷を負いながらも前進を止めず、そのまま上昇して敵の包囲を突破しようと試みた。
それを援護するように青馬で空を駆けるマギルスが敵を両断し、道を切り開く。
そして穴が開いた上部の銃座を塞ぐ、応急処置も行われる。
それに付き添うようにケイルは、再び尊敬や畏怖にも似た視線を兵士達から送られ、鬱陶しい表情を浮かべていた。
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