虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

別路の襲撃

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 エリクが魔鋼マナメタルの塔内部で黒騎士を撃破し、次の階段を登っていた頃。
 浮遊している都市の地上部では、グラドが率いる同盟国軍が魔導人形ゴーレム製造施設から時限爆弾を仕掛けていた時。

 シルエスカ率いる同盟国軍はクロエの指示通りに都市部を南下し、ある場所へ辿り着く。
 そこは言わば魔導国の都市では表通りメインストリートと呼ばれる場所であり、都市の出入り口として設けられた場所だった。

 しかし浮遊し新たに増築された外壁によって出入り口は完全に塞がれ、廃墟の如く荒れ果て都市の大門と古い建物群が残っている。
 反面、魔鋼マナメタルで出来た塔や増築された施設などは存在せず、言わば旧魔導国の原型を最も留めている場所と言ってもいい。

 そんな南部に到着したシルエスカは、中央部のように部隊を散開させて地下施設の入り口の捜索と索敵を行わせていた。

「――……各部隊、報告を」

『第七部隊。それらしい施設を発見できません』

『第八部隊。戦車部隊と共同して超音波索敵をしています。しばらくお待ちを』

『第九部隊。第八部隊と行動を共にし、地下空間がある地点を索敵中です』

『――……元帥、第十部隊です。現在捜索中の場所に、人の出入りがある痕跡を発見しました。最近のモノです』

「なんだと……!」

 第十部隊の隊長から届いたその報告は、シルエスカを始めとした各部隊を震撼させる。
 今まで魔導人形ゴーレムさえ確認できず、都市に在住していた三十万人以上の魔導国民が居なくなった廃墟都市で、人の痕跡が見つかったのだ。

 その報告を聞いたシルエスカは自身が率いる第六部隊の数名だけ連れてを報告のあった場所に赴く。
 そして第十部隊と合流し、その痕跡を確認した。

 そこは、傭兵ギルドの跡地。

 過去には依頼を頼む人々や傭兵の出入りも多い場所であり、荒れ果てながらも大きな施設が存在していた。
 そして第八部隊の隊長に、真新しい人の痕跡を確認する。

「――……元帥、これです」

「……確かに、埃塗れにしては足跡が新しい。しかも複数、誰かが頻繁に出入りしている」

「目測ですが、一日も経っていない可能性が……」

「……今、魔導国は地上の全国に対して総攻撃を仕掛けている」

「は、はい。そう聞いていますが……」

「我が気掛かりにしていたのは、魔導国が引き入れていたという【特級】傭兵共だ。奴等は何度もフォウル国へ魔導人形ゴーレムと共に攻め込んでいると聞く」

「……もしや……?」

「そうだ。もしかしたら、奴等がここを根城にしているのかもしれない」

「!」

「第六部隊と第十部隊は、共同で傭兵ギルドの施設内部を調べろ。ここに、地下へ通じる入り口があるかもしれない」

「ハッ」

『ハッ!』

 シルエスカは痕跡を確認しながら立ち上がり、第六部隊の隊長には通信で、第十部隊の隊長へ直にそう命じる。
 そして第十部隊が施設内部を捜索する途中で第六部隊も合流し、傭兵ギルド付近の建築物を徹底的に調べた。

 その結果、十数分後には新たな痕跡が発見されていく。
 そしてそれの痕跡が繋がるように、傭兵ギルド内部の最奥に設けられた部屋にシルエスカと各部隊員が辿り着いた。

「――……ここか?」

「はい。ここに頻繁に出入りしているような痕跡が確認できます」

「地下の金庫か……」

 シルエスカ達が発見したのは、傭兵ギルド施設内部に設けられた地下の大金庫。
 その巨大な金庫は三十年前に存在したルクソード皇国の傭兵ギルドにある金庫とは比べ物にならず、また堅強さも比べ物にならない。

 しかもその素材は、魔鋼マナメタルを除けば最高峰の強度を誇る合金仕様。
 浮遊してから十五年以上経っても錆びた様子は無く、真新しいように輝くその金庫にシルエスカは訝し気な目を向けた。

「……大金庫ここから、誰かが出入りしている。そういうことか」

「はい。足跡の数からしても、十数人程度は確実に通っています。しかも、最近です」

「開けられそうか?」

「それが、扉を開ける為の解除番号パスコードが設けられています。それが分からないと、開けられません」

「……」

「焼き切るにも、この分厚さでは何時間も掛かる可能性が……。どうしますか、元帥?」

 大金庫の扉に居る第六部隊と傍に控える第十部隊の隊長が交互に説明し、シルエスカに状況を伝える。
 それを聞いたシルエスカはしばらく思案し、最終的な決断を下した。

「――……仕方ない。扉を破壊する」

「では、溶断装備の準備を……」

「必要ない」

「え?」

「全員、金庫から離れて部屋を出ろ。――……我がここを溶かし開ける」

「!」

「そ、総員退避! 元帥から離れるんだ!」

 シルエスカはそう言いながら大金庫の扉前まで歩み、腰に携えた槍の柄を両手で掴む。
 何をするかを察した隊長達は部下に指示を飛ばし、大金庫から離れて部屋の外に退避した。

 それを確認したシルエスカは右手に長槍を、左手で短槍を持つ。
 更に二つの槍の尾を繋げるように接触させ、右手を上へ左手を下へ軽く回すと、二つの槍が一本の長槍へ変化した。

 そしてその槍を両手で軽く回転させながら、シルエスカは赤槍に魔法の炎を灯す。
 それが徐々に規模を増していくと同時に、回転させていた赤槍を止めてその矛先を大金庫に向けた。

「――……『穿ち断つ紅蓮の炎ガラムバルグ』ッ!!」

 シルエスカの詠唱と同時に赤槍に刻まれた紋様が輝き、その全身に炎が纏われる。
 そして炎が一点に集約するように赤槍の先端へ集まり、強い赤い輝きを放つと同時にシルエスカは凄まじい速度で突いた。

 そして大金庫の扉に赤槍が接触すると、最高峰の合金が僅か一瞬で焼け爛れる。
 更に腕と足を動かし深く突いたシルエスカは、両手で持つ赤槍の柄を振りながら大金庫の扉を斬り裂く。
 その表面に高温で焼け爛れた金属が姿を見せながら、更に数度も素早く切り払い、シルエスカは大金庫の大扉を見事に溶けるバターの如く切断してみせた。

 切断された大金庫の扉は赤く焼け爛れながら横に倒れ、中へ続く道を開ける。
 それを見届けたシルエスカは炎を静め、赤槍を再び二つに分けさせて腰の鞘に収めた。

 分厚く堅強な大金庫を瞬く間に溶かし斬り裂いたシルエスカを見ていた兵士達は、汗が流れる顔に炎の熱さを残しながら呟いた。

「――……す、凄い……」

「あの金庫を、一瞬で……」

「……あれが、元七大聖人セブンスワン……」

 恐れにも似た感嘆の声を漏らす声を聴きながら、シルエスカは振り返る。
 そして鋭い視線と表情で、外の通路で控えていた隊長と兵士達に伝えた。

「――……各部隊から突入する人員を選定するよう、伝えろ」

「え……?」

大金庫ここから、地下へ続く階段がある」

「……!!」

「急げ!」

「ハ、ハッ!!」

 各兵士達が呆然とした様子を叱るように、シルエスカは次の行動を促す。
 そうして隊長を含めた幾人かが通信機で情報を伝え、突入する人員を選定しようとした時に、シルエスカがいる都市南部の地上で大きな変化が起こった。

「……!」

「な、なんだ……!?」

「地震……!?」

 シルエスカを含めた兵士達が感じ取ったのは、揺れる都市の地面。
 しかも地下の大金庫に居たシルエスカ達はそれを顕著に感じ取った時、それぞれの通信機から地上部隊の報告が飛び込んだ。

『――……げ、元帥! こちら、第九部隊です!』

「どうした? 何があった?」

『そ、それが。……突然、都市の各地点に巨大な黒い箱が出現!』

「!」

『一つではありません! 複数、しかも、地下から現れています!』

「なんだと……!?」

『……な、なんだ……? うわっ!?』

「どうした、何があった!?」

『――……元帥! こちら、第七部隊! 黒い箱から、敵が出現しました!』

「!!」

『敵の魔導人形ゴーレムです! 新しい球体型と、今まで見た事が無い四足の獣型イヌもどきもいます!!』

 シルエスカはその報告を聞き、表情を強張らせながら施設の入り口へ走り戻り、一緒に居た兵士達もそれに続く。
 そして傭兵ギルドの建物外に出ると、そこには報告通りに黒い箱から出て来る魔導人形ゴーレム達の姿があった。

 その光景をシルエスカが確認した時、都市北部でもグラド率いる同盟国軍もまた同じ状況となっている。
 こうしてグラド達と同様に、シルエスカが率いる部隊もまた魔導人形ゴーレム達に襲来を受けた。
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