虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

研鑽された牙

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 『神兵』ランヴァルディアが用いた自爆攻撃を決行した『神』は、接戦していたエリク共々に自然の空間を吹き飛ばす。
 しかし自爆したはずの『神』は無傷であり、汚れ一つ無い服と白い肌を見せ金色の髪を靡かせながら、白い空間の地肌を晒した地面へ降り立ち周囲を見渡していた。

「――……チッ」

 そしてある方向を見た瞬間、微笑みを浮かべていた『神』が眉を顰めて不機嫌な表情を見せる。
 数百メートル先に視線の先には吹き飛ばされた大自然の瓦礫が積み上がり、土埃が舞う中で不自然な盛り上がり方がされていた。

 それを『神』は杖を持たない左手を翳す。
 そして太く巨大な『聖なる光ホーリーレイ』を再び放ち、その積み上がりを破壊しようとした。

 しかし白い光線が直撃する瞬間、その中から飛び出すように横から飛び出る人影が見える。
 それを見て更に不機嫌な表情を見せる『神』は、破壊した積み上がりから視線を逸らし、人影が姿を見せた削れ吹き飛んだ自然の大地へ目を向けた。

「――……まさか、アレを喰らって生きてるなんてね」

「……ハァ……ッ」

 不機嫌な表情で『神』はそう呟き、人影の姿を視認する。
 それは上半身に着ていたミスリル製の服が消失し半裸となったエリクであり、身体の節々に見える傷から流血していた。

 『神』の自爆攻撃を受けた瞬間、エリクは爆風に紛れ自分自身の身体も吹き飛ばし、同時に吹き飛ばされている自然の瓦礫を集めて防壁にした。
 更にそこで、エリクが初めて試みる事を実践している。
 それを『神』はすぐに見破り、離れているエリクにも聞こえる声で述べた。

「情報では、アンタは『火』の魔術しか使えないはずだけど?」

「……ハァ……。ハァ……ッ」

「瓦礫を集めて『物質固定フェスト』を行い、更に『物質硬化《ディフェンダ―》』も施した。……これは『土』の属性魔法。アンタ、二属性ダブルの適正持ち?」

 『神』はアリアと同じように、エリクが施した魔法を即座に見破る。
 そして二属性の魔法を扱えるエリクにそう述べ、更に不機嫌な表情を見せた。

 『神』の言う通り、エリクは先程の一瞬で『土』の属性魔法を使った。

 『土』の属性魔法は物体の形状変化と操作を行え、同時に硬化も施せる。
 エリクは吹き飛ばされると同時に周囲の瓦礫に『物質固定フェスト』を施して相対位置を固定し、更に『物質硬化ディフェンダ―』で物体の強度を高めた。

 しかし集め防いだ瓦礫の大半が吹き飛び、残されたのが小盛こもり程度の瓦礫。
 それでも防ぎ切ったエリクは負傷しながらも生き残り、まだ『神』と相対している。

 しかしミスリル製の服や外套《マント》は大半が消失し、残っているのは下半身に纏うズボンと、背負う大鞘と左手に持つ大剣。
 エリクは卓越した身体能力とミスリル製の服によって魔法を防ぎ、障害物を利用しながら辛うじて『神』に接近できた。

 その防御手段の大半を失った以上、今のエリクが再び距離を詰めるには決死の覚悟をするしかない。
 それを理解しているのか、『神』は不機嫌ながらも再び周囲に七色の光球を百以上も作り出し、更に周囲に残る土塊つちくれを浮かばせ更に形状を変化させ、数百以上の鋭利な弾丸を作り出した。

「――……それで? そんな状態で生き残って、アンタはどうする気?」

「……ッ」

「私の攻撃を防げる防具ふくはもう無いし、盾に出来る障害物もりも無い。……このまま蜂の巣になって、アンタは終わりよ」

 そう述べる『神』は周囲に浮かぶ魔法球と弾丸を操作し、杖を向けて数百以上の攻撃をエリクに放つ。
 死角も無く防ぐ手段も大剣一本のエリクは、凄まじい速さで迫る光球と弾丸を必死に避け続けた。

「クッ!!」

「さぁ、無様に踊りなさい!」

 絶え間なく生み出される光球と弾丸はエリクを襲い、その踊る様に例えて『神』は笑みを浮かべる。
 一撃一撃が即死する破壊力を持つ魔法の連発をエリクは避けるだけで精一杯であり、弾くことも『神』に接近する事が叶わない。

 更にそこへ、『神』は追撃を行う。
 魔法球と弾丸を放ちながら両腕に集めた『雷』の属性魔力を収束し、再びそれを杖に集める。
 それを持ち手側に備わる黒い魔石に集め、『神』は口元を微笑ませながら告げた。

「アンタは、私が思った以上に危険だわ。……これで完全に滅してあげる」

「!」

「――……『八岐大蛇ヤマタノオロチ』」

 『神』はそう唱え、杖に集めた『雷』の魔力を上空に放つ。
 すると青い空に暗雲が発生し、その中で巨大で膨大な雷が放たれ始めた。

 エリクは弾丸を避けながらそれを見上げ、瞳を見開いて驚愕する。
 暗雲の中から凄まじい轟雷が鳴り響き、そして八つの場所から巨大な雷が放たれた。

 垣間見える雷の顔はまるで八つの頭を持つ多頭蛇ヒュドラであり、それがエリクに向けて落雷する。
 再び光速に等しい速度で降り注ぐ落雷に、光球と弾丸によって動きが制限されていたエリクに避ける間も無く直撃した。

「グ、ァアアアアアアア――……」

「アハッ」

 直撃した八つの落雷がエリクと周囲一帯の地面を吹き飛ばし、短い断末魔と共に瞬く間に消失させる。
 落雷の光で消える断末の声とエリクの姿に、『神』は更に深い微笑みを表情に見せた。

 数十秒後。
 落雷が終わり、『神』はエリクが消え失せた跡地へ歩み寄りながら見る。
 そこには焼け焦げた白い床しか存在せず、『神』は周囲を見渡してエリクの生存を再確認した。

「――……今度は、間違いなく消したわね」

 『神』はエリクを消滅させた事を確信し、一息を吐き出す。
 そして周囲を見渡しながら、大きな溜息を更に吐き出した。

「……まったく、手こずらせてくれたわ。自然や家も直すの、面倒臭いわ――……ん?」

 『神』はそう言いながら、家が在った場所へ戻るように歩き始める。
 しかし次の瞬間、違和感を感じ取った『神』は眉を顰め、すぐに後ろへ振り返ろうとした。

「――……!!」

「……お前の油断を、待っていた」

 後ろを振り向こうとした瞬間、『神』の首筋に大剣の黒い刃が添えられる。
 それを見て首を動かさず意識と視線だけを動かした『神』は、後ろから聞こえる声に不機嫌な表情を見せた。

 そこには先程と同じ上半身裸のエリクが、『神』の首筋に添える大剣を右手で持つ姿がある。
 その事実に僅かに驚く『神』だったが、同時に納得も浮かべた。

「……なるほど。私が見ていたのは、闇属性の魔法『写し身ミラー』だったわけね」

「ああ」

「しかも光の角度を利用した『光角迷彩カモフラージュ』で身を隠していた。……『闇』と『光』。まさか魔法と魔術を使える、四属性クワトロプルの適正持ちとはね」 

 エリクが何をやったのか、『神』は正確に把握する。

 『神』が聖なる光ホーリーレイで瓦礫を撃ち抜く瞬間、エリクは瓦礫から脱出して逃れたように見えた。
 しかしそこで姿を見せたエリクは闇属性魔法で生み出された『写し身ミラー』であり、自身の姿を鏡のように映し投影する魔法をエリクは行使する。

 実際にこの時、右手で大剣を持つエリクが左手で持ち、軸足も普段とは逆の右足で行っている。
 更に目の動きが襲い来る光球や弾丸とは違う方向を目にし、左頬の傷痕を始め姿形も左右が逆となっていた。
 戦闘に対する経験不足によって『神』はその事に気付く事に遅れ、更にエリクと相対した為に不審さを感じられなかった。

 更に逆側から逃げた本体のエリクは光属性の魔法『光角迷彩カモフラージュ』で姿を視認させずに、『神』の目を見事に欺く。
 そして『写し身ミラー』に放たれた光球や弾丸を目にしながら、実際にエリク本体で避ける動作を行う。
 弾かず防がず、また直撃させずに『写し身ミラー』である事を暴かれないようにエリクは細心の注意を払い、徹底的に『神』を騙した。

 結果的に八つの落雷は『写し身ミラー』に降り注ぎ、魔法を止めて本体のエリクは難を逃れる。
 そして隙を晒した『神』の背後を取り、『光角迷彩カモフラージュ』を解いて姿を晒した。

「……俺が使えるのは、三属性だ」

「じゃあ一つは、その鞘に刻まれた術式の付与ってことね」

 エリクは『神』の言葉を訂正するように述べ、自身が三属性持ちだと告げる。
 その言葉から一つの属性が鞘に施された魔法術式だと察した『神』は、不機嫌な表情のまま背後を取らせていた。

 以前、マシラ共和国に赴く際。
 エリクはアリアにより、自身がどの属性魔法を扱えるかの適正検査を受けた。

 その中で明らかにされたのは、『火』『土』『闇』の三属性。
 属性魔法に対する適正があり、更に三属性という珍しさにあのアリアも僅かに驚いていた。

 しかし今までの旅で『火』の魔法、もとい『鬼神』の魔力を用いた魔術しか扱えずに、エリクは一度として魔法を使えていない。
 それが使えるようになったのも、なかで施された鬼神フォウルとの戦いがきっかけであり、その師はなかに居る制約コピーのアリアだった。

『――……エリク。貴方、魔法を覚える気はある?』

『俺が、魔法を?』

『あの馬鹿鬼フォウルと戦えば、貴方は多くの戦闘経験を得るでしょう。それは確実に、現実の貴方に強く反映される。だったら、この機会に魔法も覚えておくのは良い事よ』

『俺に、出来るだろうか?』

『出来るわ。前までは、そこの馬鹿鬼フォウルの魔力が邪魔して周囲の魔力を集めるのに苦労してたみたいだけど。聖人に進化した貴方なら、魔法の一つや二つは余裕で覚えられるわよ』

 そう述べる制約コピーのアリアに、エリクは不安な表情を見せる。
 しかしその後ろで聞いていた鬼神フォウルが、二人の会話に口を挟んだ。

『……ケッ。弱いなら弱いなりに、他の技術ことも覚えろってことだ』

『ちょっと! その言い方は無いでしょ!?』

『うるせぇ。俺はしばらく寝るから、さっさと教えてろ』

 そんな会話をしている制約のアリアとエリクの傍らで、寝ながら耳を穿る鬼神フォウルがそう述べる。
 こうして『なか』で魔法の訓練も施されたエリクは、覚えられる限りの魔法を幾つか覚えた。

『――……いい、エリク? 魔法というのは、魔力を用いた明確な人間の技術よ』

『そうか』

『こうして刻んだ魔法術式を施した魔石付きの道具を持つか、息を吸い体内に取り込まれた魔力を循環させた魔力を吐き出すように詠唱すると、魔法という現象が発現するの。両方を使えば、魔法の現象力を更に強められるわ』

『……そ、そうか』

『貴方に分かり易く言うとね。……例えば鍋に入れた水が火で沸騰すれば、湯気が出るわよね? それとは別に、火で温められ続ける沸騰した水からは気泡が生み出される。同じ水でも沸騰すると別の現象が生み出されるのは、どうしてか分かる?』

『いや……』

『答えは簡単。水の中に含まれる要素が、同じ影響を受けても目に見える形で別々の現象を生み出すの。水とは、複数の要素を備えている物質。だから一つの影響で複数の現象を生み出す事が出来るのよ』

『……水のように、一つのモノで幾つも違う現象ことが出来るということか?』

『そうよ。貴方が知ってる木だって、栄養のある土や水、そして太陽の光を浴びるから育つ。そして長年かけて出来た木は加工されて、椅子や机になったり、食器になったり、家になったりするわよね? あの薄っぺらな本の紙も、元は木で出来てる。作る過程は似通ってても、同じ物から別の物が作り出す。誰もが普通にやっていることは、魔法という技術でも同じなのよ』

『……つまり、魔法は魔力というモノから、別々の結果を生み出す技術モノということか?』

『そういうこと。そしてそれを可能にするのが、魔法で使う構築術式や詠唱。これも分かり易く言えば、魔力という素材を調理する為の鍋や包丁みたいな調理器具よ。そして魔法に適正がある人間は、一つの属性魔力そざいを幾つもの器具で調理し、料理まほうを生み出すの。貴方や私みたいに複数の属性魔力そざいを扱える人は、作れる組み合わせて作れる料理まほうの幅がとても広いわ』

『……俺は魔法術式これの使い方を覚え、料理まほうを出せるようになればいいのか』
 
『その通り。……実際の私は、ケイルみたいに料理は出来ないんだけどね』

『そうだな』

『そこ、笑う所じゃないでしょ!』

『そ、そうか』

 そう言いながら笑う制約コピーのアリアに、エリクも微笑みを浮かべる。

 こうしてエリクは逆境の中で、新たに身に着けた『魔法』を使いこなす。
 そして激戦の末、見事に『神』の喉元に研いだ牙を届かせる事に成功した。
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