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螺旋編 五章:螺旋の戦争
元師弟の戦い
しおりを挟む『精神武装』の戦車で『神』からの逃走を図る一行だったが、戦車を形作り維持し走行させていたマギルスが力尽きる。
そして追い付かれ『神』が宙へ浮かび投げる瓦礫に殴殺されそうになった時、瓦礫を全て止めて一行の前にたった男が居た。
人類太古から永らえ生き続けた大魔導師、『青』の七大聖人。
かつてエリク達の前に敵として立った男が、今度は一行を助けるかのように『神』の前に立ちはだかった。
「――……奴は……!」
「お前も久しいな、アルトリア」
「ッ!!」
『神』は自身の瓦礫を止めたのが『青』だと察し、更に自分の元の名を呼ばれ憎々しい表情を浮かべる。
そして止められた瓦礫を再び動かそうと右腕を振り杖に魔力を込め、瓦礫が僅かに動き出した。
しかし次の瞬間、『青』が右手に持つ錫杖の先が地面を軽く叩く。
すると宙に浮き瓦礫を包んでいた白い魔力の光が消え、突如としてその場で落下し始めた。
「!?」
「――……やはりか」
『神』は宙に浮かせていた瓦礫を包んでいた魔力が解かれ、全ての瓦礫が落下する光景に驚く。
そうした中で『青』は訝し気な目を『神』に向け、更に後ろに居る全員に結界を施し、落下する瓦礫を防ぎ弾いた。
「け、結界か……!?」
「……『青』のおじさんが、やってくれてるの……?」
「流石、大魔導師だ」
ケイルは意識を失ったままのエリクを抱えた状態で、自分達を守るように張られる結界に驚く。
そしてマギルスはその結界を『青』が張ったモノだと気付く中で、クロエもその手際を褒めるように伝えた。
「――……これで、先程の借りは一先ず返却だ。マギルスよ」
「……はーい」
一行を守る行動をした『青』は、振り向かずにマギルスへそう述べる。
それに応じるマギルスは力尽きるようにその場に倒れ、傍に居た青馬も透明となり姿を消した。
マギルスは魔力を使い果たし、まるで眠るように倒れ込む。
それを支えるようにクロエはマギルスの肩と腕を抱き寄せ、『青』に視線を向けた。
「まさか、君が私を助けてくれるなんてね。『青』」
「……責めぬのか?」
「私を殺し続けていたことかい? 何となく理由は分かってるよ。納得はしていないけどね」
「そうか。――……そこの娘、これを受け取れ」
「!」
『青』はそう述べ、自身の左腕の袖の中から物を取り出す。
それは一メートルにも満たない細い棒状の何かを包んだ布であり、それをエリクを抱えるケイルの方へ投げ渡した。
ケイルはそれを少し慌てながら、右手で受け取る。
そして渡した『青』に怪訝な視線を向け、呟くように聞いた。
「な、なんだコレ……?」
「……行け。ここは儂が引き受ける」
「!」
「……ケイルさん、行こう」
「だ、だけど……!?」
「いいんだ。……これが、彼の選択だから」
そう寂しそうに微笑むクロエはマギルスを背負い、投げ出されていたエリクの大剣に触れ一瞬で『収納』の時空間内に収める。
そして『神』がいる位置とは逆方向へ、マギルスを抱えながら走り出した。
ケイルはそれを見て『青』に一瞥した後、エリクを抱えてクロエの後を追う。
こうして四名が離れて行こうとする姿を視認した『神』は、後を追おうと六枚の黒い翼を羽ばたかせる。
しかしそれを静止させたのは、地上で口を動かし詠唱した『青』の魔法だった。
「――……『魂で成す六天使の翼』」
『青』はそう詠唱を完了させ、その背に『神』の対となる六枚の白い翼を出現させる。
そして『神』がいる上空へ飛翔し、クロエ達の後を追おうとする『神』の前へ立ちはだかった。
「ッ!!」
「お前の相手は、儂がしてやろう」
「……ハッ。アハハハッ!! まさか、私の相手になるとでも思ってるわけ? ボロ負けした敗北者の分際で?」
「そう、儂はお前に幾度か負けた。――……だが、負けたのは儂が憑依しただけの複製であろう?」
「……」
「二十年前、お前は従順なフリをしながら儂の下で自身に施された奴隷紋の解除方法を探り、儂が出入りしていた箱庭の出入り口を掴み、箱庭の操作を解析していた。――……そして機を見た十五年前、お前は儂が憑依していた複製を殺し、箱庭の管理者権限を奪い、更に複製の製造施設を破壊し、儂の身体を箱庭の地下へ幽閉した」
「……フッ。そうよ、私はアンタを幽閉するだけで留めてあげて、生かしておいたのよ。十年間、私の自由を奪った仕返しにね。……どうやって地下から抜け出したか知らないけど、生かされていた分際で随分と生意気じゃない?」
「儂を幽閉したあの空間は、儂という存在を幽閉する為にこそお前は設けたのだろう。……ならば複製を取り込み招くのは、当然であろうな」
「……何を、ワケが分からない事を……」
「お前には関係の無い話だろう」
『青』はこの時、何故マギルスが自分を幽閉していた魔鋼の地下空間へ迷い込んだのかを悟っている。
自身の細胞で作られたマギルスの肉体が、魔鋼に触れた事で誤作動に似た状態を起こした。
同じ遺伝子を持つマギルスを『青』と誤認してしまい、『青』が居る場所まで連れて行こうとしてしまう。
しかし聖人と違い魔力を体内に持つマギルスは異物と判断された時点で、合成魔人と判定されその製造施設へ放り出された。
複製の肉体を得ているマギルスが自身の下まで来れた経緯を聞いていた『青』は、その推察が高いと考える。
そして間近でマギルスの容姿を確認し、過去に失踪した自分の複製だと確信した。
その事実を知らない『神』に対して煽るように微笑むと、『青』は宙に浮かびながら更に言葉を重ねる。
「――……それにしても、以前のお前と比べるのも浅ましい程に落魄れたものだ」
「……何ですって?」
「たかだが儂の複製を殺した程度で、自分の方が上手だと粋がるか」
「……負け犬にしては、随分と惨めな言い訳ね」
「それを証明する為にも、お前は今の儂と戦わざるを得んのだよ」
「――……あのゴミ共を殺してから、たっぷりと身の程を味合わせてあげるわよッ!!」
『青』の挑発した物言いに眉を顰めながらも、『神』はクロエの殺害を最優先に行動する。
周囲に凄まじい数の光球を生み出し、更にそれを『青』に向けて放った『神』は、僅かに迂回して飛びながらクロエ達を追おうとした。
しかし『青』は襲い掛かる光球全てを自身の周囲に展開した結界で吸収すると同時に、その集めた魔力を全て神に向けて反射して放つ。
「!?」
「フンッ!!」
自身が放った光球が全て自分に向かい誘導されている事に気付き、『神』は僅かに目を見開く。
そして光球を回避する為に円軌道を描くも、それを追尾するように光球は動いた。
「なんですって……!?」
「反射と追尾付与。結界を用いた罠は、貴様だけの専売特許ではないぞ」
「チッ!!」
『神』は舌打ちをしながら周囲に光球を生み出し、反射され追尾して来る光球を全て撃ち落とす。
そうした中で『青』は錫杖を『神』に向け、持ち手に取り付けられた青い魔石に凄まじい高密度の魔力を集め、魔法として放った。
「――……『大波で成す竜の顎』ッ!!」
「!」
「『凍て突く波動』ッ!!」
「な――……ッ!!」
『青』は巨大な水流を生み出し、渦巻く水流の波を『神』に直撃させる。
更にそれに合わせて凄まじい速さの詠唱により水流を凍結させ、『神』を凍らせた水流内に封じ込めた。
しかし数秒の時間で、凍った水流に亀裂が走る。
そして氷が割れ砕かれ、その中から結界を纏い黒い翼を羽ばたかせて脱出した『神』が姿を見せた。
そして『青』を忌々しく睨みながら、『神』は吠え叫ぶ。
「――……この、死に損なった爺がッ!!」
「死に損なった? 違うな。お前は儂を殺せなかったのだ」
「!」
「儂の本当の肉体が、あの時のお前を凌駕している可能性を頭の隅に取り払えなかった。そうだろう?」
「……ッ」
「下手に容器を破壊し儂を解放してしまえば、逆撃を受けるか、取り逃がしでもすれば厄介の種となる。お前はそう考え、儂を封じ込めるに留めた。違うか?」
「……フッ。随分と自分を過大評価してるようだけど。少し前まで啜り泣いてた情けない男が、よく言うわ」
「アレが儂の本心だと、本気で思うかね?」
「!」
「アルトリア。儂は記憶を失う前の幼いお前に、色々と教えたモノがある。――……その中の一つが、演技だ」
「……!?」
「『化物』であるお前が人の世を渡る為には、『人間』の仮面を被る為の演技が必要だと儂が教えた。……以前のお前がしていた『人間』の演技は、儂の指導の賜物というわけだ」
「……演技だったと。私に全てを奪われて、泣きながら怯えていたのが演技だとでも、そう言うつもり?」
「怯えていた、か。――……怯えた果てに人を全て殺める事を考え至り、『化物』という楽な在り方を選んだお前には、理解できぬであろうな」
「……ッ!!」
「こう見れば、記憶を失う前のお前の方が遥かに手強く危うかった。何せ『化物』で在り続けるよりも、『人間』で在る過酷さと向き合い、更なる向上の為に自ら動き学ぶ事を願い選んだのだから」
「……」
「そしてもう一つ、お前は勘違いをしている。――……儂は常に、この世を怯えながら生きておるわ」
「!」
「魔族の力を恐れ、人の愚かさを恐れ、全ての在り方を恐れ、それ故に全てを慎重に行い生き永らえた。――……儂はこの世を最も憂い、誰よりも臆病であるが故に、『青』に選ばれたのだ」
「……そう。なら、もう怯えなくて済むようにしてあげる」
「こちらの台詞だ。愚かな臆病者め」
『青』はそう述べ右腕で握る錫杖を僅かに振り、自身の周囲に夥しい量の氷弾を生み出す。
それはアリアが得意としていた魔法である『雹の弾丸』であり、かつて師であった『青』が教えた最初の魔法でもあった。
それに対して『神』は七色の光球を相対するように生み出し、互いに宙に浮かびながら対峙する。
「――……!」
「ッ!!」
互いが無言で杖を僅かに動かした瞬間、二人が生み出した弾丸と光球が互いを襲う。
それに合わせて更に杖を振り動かし、同時に口元を呟かせた二人は詠唱し魔法を出した。
「『天の雷光』ッ!!」
「『爪牙の風』ッ!!」
『神』は自身の左手で魔力を作り出した雷光を纏い、それを『青』に向ける。
それに合わせるように『青』は左手で『神』に向け、放たれた雷光を風の刃で迎撃して弾いた。
そうした中でも二人は次々と弾丸と光球を生み出し、互いに向けて撃ち放つ。
互いが持ち放つ弾丸と光球が混じり弾き、更に結界に触れて吸収されると同時に反射され、二人の夥しい魔法が埋め尽くすように地上の都市へ降り注いだ。
本来の肉体で戦う『青』は、魔法戦で真正面から『神』と拮抗した戦いを見せる。
七大聖人として、また大魔導師として恥じぬ攻防戦を繰り広げる『青』は、クロエ達を逃がす為に『神』と魔法力で対抗して見せた。
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