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螺旋編 五章:螺旋の戦争
重なる光
しおりを挟む箱舟三号機でグラドが運んだ抗魔力凝固剤が詰められた青い鉄箱はゴズヴァールに委ねられ、瘴気を溢れ出させる赤い核の真上から降下させる。
その光景を黒い人形に包囲されながらも驚異的な視力で確認したエリクは、残る五枚の白い翼を羽ばたかせるアリアに告げた。
「――……青い箱が、箱舟から落ちた!」
「えっ!?」
「道は、俺が作るッ!!」
再びエリクが右腕に凄まじい生命力を集め、右手に持つ黒い大剣が白い輝きを宿し始める。
それを見たアリアは再び白い翼を広げながら空中で踏ん張れるようにした瞬間、エリクが前方に向けて大剣を振り薙いだ。
再び極光にも似た気力斬撃が放たれ、エリクとアリアの正面に展開していた黒い人形達を蹴散らし吹き飛ばす。
その瞬間、アリアは全ての翼を使い全力の速度で落下している青い鉄箱を目指して向かった。
死者の怨念が宿る黒い人形達はそれを追うが、僅かにアリアの飛翔速度の方が僅かに速い。
そしてほとんどの建物が赤い瘴気に沈んだ都市の上空で、一筋の白い光が赤い核の上空に辿り着いた。
「エリク、箱は何処っ!?」
「あそこだ! ――……あれは……!?」
「どうしたの!?」
「……アレは、ゴズヴァールだ!」
「えっ!?」
エリクは大剣の刃先を赤い核に向け、落下している青い鉄箱の場所を教える。
それに従い斜め下側へ急降下するアリアだったが、エリクの視力が鉄箱を持つように落下しているゴズヴァールの姿を視認した。
「なんで、牛男が……!?」
「――……マズい!」
「!」
エリクが更に視認したのは、自分達と同じように落下する青い鉄箱に迫る黒い人形群。
明らかにゴズヴァールに狙いを定めている怨念を宿す黒い人形達は、その両腕を刃に変えた。
ゴズヴァールもそれを視認しているが、歯を食い縛りながら血だらけの身体にも拘わらず鉄箱を手放さない。
その時、エリクとゴズヴァールの視線が重なり合った事を互いが認識した。
「――……奴は……!」
「――……!」
「……そうか。……ならば……ッ」
ゴズヴァールは白い翼と共に視認したエリクの姿を見て、口元を僅かに微笑ませる。
そして青い鉄箱を両手で握り掴むと、ゴズヴァールは全身に魔力を滾らせた。
更に落下している自分の位置を見極めた後に、ゴズヴァールは叫びながらエリクの耳にその声を届ける。
「――……お前に託す! 受け取れッ!!」
「!」
そう言い放つゴズヴァールは、中空にも関わらずその腕力だけで一トンを超える重量の青い鉄箱を投げ放つ。
更に右脚で凄まじい蹴りを放ち、鉄箱を赤い核の真上に吹き飛ばした。
ゴズヴァール自身はその反動で赤い核から逸れ、まるで黒い人形達を引き付けるように瘴気が満ちた都市部に落下し始める。
しかし満ち足りた表情で口元を微笑ませたゴズヴァールは、呟きながら顔を横に向けた。
「……アレクサンデル様。どうか、強くなられよ――……」
最後に箱舟二号機がある方向を見ながら、ゴズヴァールは微笑む。
そして上下左右から迫る黒い人形達は変化させた腕の刃で、ゴズヴァールに全身を突き刺した。
「……ッ!!」
『キャハハハッ!!』
『死ンダ! マタ死ンダッ!!』
「――……魔人を、舐めるな」
『!』
ゴズヴァールは自らの肉体を魔力で高め、身体全体の筋肉を膨張させる。
それによって突き刺した人形達の刃を肉体に留めて抜けなくさせると、腕と手足で自分を突いた人形達を固定した。
そのまま黒い人形達は放さず、ゴズヴァールは瘴気が満ちる都市に落ちる。
そして生気を失いつつある瞳を上空にある白い翼に向け、微笑みながらゴズヴァールは赤い霧の中に沈んだ。
「――……アリア!」
「ええ!」
エリクはそれを見送りながらも、投げ放たれた青い鉄箱を見る。
そしてアリアに向かわせると、青い鉄箱の傍に空中で近付いた。
左腕で掴んでいたアリアの腰からエリクは離れ、青い鉄箱に移るように跳ぶ。
そして鉄箱の上を足場にしたエリクは、アリアに顔を向けながら伝えた。
「――……俺はこのまま、核を砕き割る!」
「!」
「君は、浄化の準備を!」
「……お願いね!」
「ああ」
互いが互いの言葉で頷き応え、アリアは翼を広げてその中空に留まる。
そして加速しながら落下する鉄箱の上で、エリクは両手で黒い大剣を握り締めた。
上段に大剣を構え、エリクは一呼吸を行い瞳を閉じて集中する。
そして瞬く間に全身から生命力を全身に滾らせ纏い、黒い大剣にも渾身の力を集めた。
あと数秒で、赤い核に青い鉄箱が直撃する。
その瞬間を見極め瞳を再び開いたエリクは、軽く跳躍し黒い大剣を振り下ろした。
「――……ォオオオオオッ!!」
その瞬間、青い鉄箱が一度だけ赤い核に直撃して跳ねる。
振り下ろされたエリクの大剣は、青い鉄箱を一刀両断して見せた。
青い鉄箱に満ちた抗魔力凝固剤が、青い液体として溢れ出す。
更に黒い大剣と宿る気力斬撃が赤い核に直撃し、抗魔力凝固剤と共に浴びせられた。
エリクの斬撃は再び赤い瘴気を吹き飛ばし、赤い核を割れ砕かせる。
先程と同じように核を修復させようとする赤い瘴気だったが、エリクの大剣と周囲に撒かれ浴びせられた抗魔力凝固剤によって修復が行えなくなっていたのをエリクは確認した。
「――……いける! ガァアアアアアッ!!」
修復されない核を見て破壊できる事を確信したエリクは、両腕に込める力と両足の踏ん張りを更に強める。
そして再び上段に大剣を掲げて凄まじい速度で振り下ろし、赤い核全体に大きな亀裂な生じさせた。
しかし、赤い核の内部に存在する死者達の蠢きをエリクは目にする。
そして割れ砕けた隙間から夥しい瘴気と共に死者達の魂と怨念が溢れ出し、エリクを包み込むように襲った。
「……!」
『――……ドウシテ?』
『ワタシ、ナニモワルクナイノニ……』
『痛イ……怖イヨ……』
『死ニタクナイ……死ニタクナイヨォ……』
『――……マタ、私ヲ殺スノ?』
「……!!」
死者達の声が瘴気と共にエリクを包み、その怨念にも似た悲哀の声を漏らす。
それを聞いたエリクは僅かに動揺した瞬間、再び噴出した瘴気が全身に滾るエリクの生命力を蝕むように浸食し始めた。
「……ッ!!」
『止メテ……オ願イ……』
『殺サナイデ……』
『一緒ニ、コッチニ逝コウ……?』
『皆、一緒ダヨ……。一人ジャナイヨ……』
死者達の声が更に重なり、エリクが纏う生命力を犯し貪る。
その死者達の声に動揺が収めらず、また全身の生命力を消耗し続けるエリクは、あと一押しで砕き割る力を込められなくなった。
全身から力が抜け始める事を、エリクは自覚してしまう。
そして僅かに両膝が落ちてしまい、踏ん張る事が難しくなったエリクは厳しい表情を見せた。
更にエリクの背後からは、怨念を宿した黒い人形達が迫り来る。
それを感じ取るエリクは、苦難となった状況で表情を強張らせた。
「……クソ……ッ!!」
黒い人形達がエリクの背中に向けて、黒い剣を突き放つ。
その時、迫る人形達の背後から更に迫っていた青い光が、その人形達を吹き飛ばした。
「!!」
「――……やっぱり、おじさん達には僕等がいないとダメだね!」
「――……そうだな」
「……!?」
エリクはその時、死者の声とは全く違う声を背後から聞く。
それは聞き覚えのある者達の声であり、エリクの両脇から二つの斬撃がエリクの大剣の刃と並び重なるように振り下ろされた。
一つ目は、大鎌の刃に青馬が合わさり形成された青い魔力斬撃。
二つ目は、大小の赤い刀身と共に放たれた白く巨大な気力斬撃。
エリクはそれを見て両隣に視線を向けながら、その斬撃を放った者達の名を呼んだ。
「――……ケイル……! マギルス……!」
「おじさん! もっと本気でやってよ!」
「こんな死人共に、いちいち反応してんじゃねぇよッ!!」
「……ああ」
罵倒にも近い二人の言葉を浴びたエリクは、動揺した精神を立て直す。
そして再び集中したエリクは、体内に宿る全ての生命力を大剣に乗せながら両腕を振り上げ、赤い核に凄まじい斬撃を浴びせた。
「ウォオオオオッ!!」
「ヤァアアアアッ!!」
「ハァアアアアッ!!」
それに合わせるようにケイルとマギルスも斬撃に宿す魔力と生命力を強め、三人が声を重ねながら赤い核を斬る。
既に三人には死者の声は届かず、溢れ出す瘴気は三人の斬撃によって吹き飛ばされ、赤い核に生じた大きな亀裂が全体に及び、凄まじい音を鳴らしながら割れ砕けた。
それと同時にエリクの持つ黒い大剣もまた、中央から折れ砕けてしまう。
その瞬間、赤い核から夥しい量の瘴気と共に、赤く染まる死者達の魂が天に放たれる。
それ等を迎えるように上空で白い翼を広げていたアリアは、右手に握る短杖を白く輝かせながら完了させた詠唱と共にあの魔法を死者達に放った。
「――……『魂の救済』ッ!!」
アリアが放つその救い光は、過去に制約で威力を低減されていた威力ではない。
都市全体にも及ぶその救いの光は、上空に飛ぶ箱舟や人形達を、そして交戦していたユグナリスと『悪魔』さえも覆い、溢れ出る全ての魂と瘴気を都市ごと覆い尽くした。
この時、落下していた浮遊都市は砂漠の大陸に落下する。
都市全体がその衝撃によって砕け割れ、白い光に覆われた浮遊都市は完全に破壊された。
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