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修羅編 二章:修羅の鍛錬
第二の故郷
しおりを挟む新たに『赤』の七大聖人となったケイルの影響により、エリクとアリアを含めた一行に懸けられた指名手配書と賞金が解除される。
それに伴い、ケイルは所属国となったルクソード皇国を秘かに出立した。
それから二ヶ月後、人間大陸の西側に位置する島国に一隻の船が到着する。
船から伸びる橋道を渡り港に足を踏み入れたのは、両腰に赤い鞘に差し込まれた赤い長剣と小剣を携え、茶色の外套を羽織り身軽な軽装に一つの荷袋を持つ、肌の焼けた黒い短髪の女性だった。
「――……帰って来ちまったなぁ……」
女性はそう呟き、入国する為に審査を行っている港の検問所まで向かう。
同じ船に乗り入国して来た者達が身分証となるモノを提示し、入国の目的や滞在期間などを定めて検問所を通り抜けていく。
その女性もまた身分証を提示した後、着物を纏う審査官の男に目的を質問をされた。
「――……ルクソード皇国からか。アズマ語は分かるか? 通訳は必要か?」
「問題ない。自分で喋れる」
「ほぉ。それで、入国の目的は?」
「世話になった知人に会いに来た。この国で暮らしてる」
「その知人というのは?」
「京の近くで暮らしてる。月影の人間だ」
「京の月影流か。……武器は、腰に下げている剣二本だけか?」
「ああ。それ以外には持ち込んでない」
「滞在期間は?」
「長くて三年ほど」
「三年か。……念の為に、荷物を調べさせてもらう。構わないか?」
「ああ、構わねぇよ」
女性はそう言い、躊躇せずに荷袋を男に渡す。
それから男は検問所の建物側へ視線を向け、そこに佇んでいた一人の二十代程の女官を視線で呼んだ。
それに応じるように、女官は歩き二人に近付く。
そして男は荷袋を女官に渡すと、命じるように対応をさせた。
「荷物の検査を。あと、身体検査もするように」
「はい。……それでは、こちらへどうぞ」
「ああ」
女官から促された女性は、検問所に設けられた建物内に移動する。
十数分後、そこで荷物と衣服の確認を終えて問題が無い事を証明された女性は女官と共に検問所の外に戻って来た。
「――……不審な物は有りませんでした。また武器も、申告通り剣二本だけです」
「分かった」
女官の報告を聞いた男は頷き、女性に目を向ける。
そして腰に携えていた絵巻を手に取り広げると、そこに書かれていた言葉を口にした。
「それでは、入国する者にこの国で定められた条項を述べる」
「……」
「外国からの入国者には、入国証明として向こうで木札が配られる。その時に申告する滞在期間に相応した入国費を支払う事で、滞在期間を書き込んだ木札を受け取れる。また身分を保証する物なので、紛失した場合には奉行所に出向き再発行の手続きを行え。ただし、再発行する際には銀銭二十枚を必要とする。また木札に記された滞在期間を過ぎ延長費用を支払えない場合には、即日この国から退去してもらう。木札を失くしたまま滞在期間を過ぎている事が分かった場合、状況次第で不法滞在者として刑罰を執行する。宜しいか?」
「了解だ」
「入国後、入国者が何かしらの問題に巻き込まれ怪我や死亡した場合でも、この国は何らの責任も負わない。しかしこの国の法を犯す行為を行った場合には、他国の者と言えどこの国の刑罰に準じてもらう。それでも宜しいか?」
「分かった」
「この国は、帝と呼ばれる方が治政を行っている。入国者が赴ける場所は、その帝が許可した場所までとする。それを破った場合にも、厳罰を下す事となる。それも宜しいか?」
「ああ」
「立ち入りを禁止している地域の情報や、この国の法に関して分からぬ場合は、奉行所に赴き聞くといい。検問所までは外国の金銭で構わないが、国内で金銭を支払う場合には『銭』に換金する必要がある。両替商は、ここから北側の大通りを歩いた先にある場所だ。アズマ語が読めるなら看板で分かるだろう。――……以上。何か聞きたい事は?」
「特に無い」
「そうか。では、向こうで木札を購入しろ。一時間以内には用意される。――……ようこそ、アズマの国へ」
説明し終えた審査官の男はそう述べ、女性はそれに頷きながら木札を受け取る為に別の建物へ向かう。
そして十数分後に木札を受け取った女性は、検問所を出て両替商が店を構える大通りに向かった。
人間大陸の中で最も古くから存在するとされる島国、アズマの国。
五百年前に起きたとされる天変地異を乗り越えた唯一の国であり、また他の国とは少し異なる人種が根付いている国と認識されている。
それ等の人々はアズマ人と呼ばれ、全員の髪がほとんど黒色で黄土色の肌。
また容姿的にも他国の人々と違い、少し丸みを帯びた顔立ちで平面的な印象を持つ見た目をしていた。
アズマの国は『帝』と呼ばれる人物を中心に、『京』と呼ばれる都に政治の中枢を集めている。
他の大陸と比べても小さな島々で成り立つアズマの国だったが、それでもルクソード皇国を始めとした大規模な四大国家と同じ立場に名を連ねていた。
それを可能としている理由が、現存する七大聖人の中で最も長生きをしている『茶』のナニガシの存在が挙げられる。
また彼が組織し教育した『武士』と『忍者』が少数ながらも他国の兵力と拮抗する程の実力者達であり、小国ながら四大国家の中で最も武芸に秀でた国として一目を置かれていた。
「――……はぁ……。師匠と頭領、未来で会った時には大丈夫そうだったけど……。……今の時点だと、どうなるか分からねぇな……」
その国に足を踏み入れた女性は、そう呟きながら気を重くした声を漏らす。
三十年後と三十年前で二人の態度が違うモノになるだろう事を察している女性は、頭を掻きながら自身の師匠が暮らす京の都へ向かった。
こうして女性は、十一年振りに第二の故郷へ足を踏み入れる。
そこは幼少時代に修練に励んだ地であり、得た実力と同等以上の辛い修練を記憶している国でもあった。
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