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修羅編 閑話:裏舞台を表に

王国の強者 (閑話その七十七)

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 新年が明けてから帝都に訪れ謁見の間に跪いた、オラクル共和王国の使者達。
 その代表者として立ち上がる黒髪と青い瞳を持つ青年の姿に、亡きルクソード皇国の女皇ナルヴァニアの姿を重ねたルクソード皇族の三名は驚愕した様子を見せる。

 しかし両脇に控える官僚達に気付かれる前に三名は表情に落ち着きを戻し、姿を明かし立ち上がった青年に対してゴルディオスは名前を尋ねた。

「……貴殿は?」

「――……私の名は、アルフレッド=リスタル。オラクル共和王国の国務大臣を務める者です」

 その言葉に応じるように、黒髪の使者せいねんは緩やかな動作で左手に持った帽子を胸まで、姿勢を正しながら礼をする。
 そして緩やかに顔を上げると、後ろへすきあげた黒髪と青い瞳を晒しながら自身の名を告げた。

「アルフレッド=リスタル……。貴殿が、ウォーリス王の腹心か?」

「光栄にも、そう呼ばれております」

「なるほど。ウォーリス王もそうだったが、貴殿も若いな」

「若輩ながら、今回ウォーリス王の名代として使者の任を務める事になりました。どうぞ、お見知り置きを」

「うむ。……貴殿等には、色々と聞きたい事も多い。だがその前に、まず使者として余の前に赴いた理由を聞こうか」

 ゴルディオスはそう尋ね、アルフレッドと名乗る青年にそう尋ねる。
 それに応じるように、アルフレッドははっきりとした口調で返答を述べた。

「では、ウォーリス王の御意思を御伝えします。――……旧ベルグリンド王国の名を改めた新生オラクル共和王国は、再びガルミッシュ帝国との和平を望みます」

「!」

「また国名を変え四大国家の盟約から我が国が外れた事に関しても、並々ならぬ事情が有ります。しかし内容が内容だけに、迂闊に書状などで御伝えする事が出来ませんでした。ですから今回この場を御借りする形で、私がオラクル共和王国を新設した理由を説明したいと考えています」

「……良かろう。その理由とやらを話してみよ」

 厳かな様子を見せながら尋ねるゴルディオスに、アルフレッドは軽く頭を下げながら応じる。
 そして再び顔を上げた口から話される言葉は、ガルミッシュ帝国の一同を驚愕させた。

「先年の半ばも過ぎる頃になるでしょうか。まだ我々がベルグリンド王国で在る時に、王都の前に突如として『きん』の七大聖人セブンスワンが現れました」

「!」

「それだけに留まらず、彼女は理由も言わず王都に押しろうとした。王都を守る我が国の兵士達はそれを留めようとしましたが、彼女は狂気するように手に握る武器を振り翳し、我々に攻撃の意思を見せました」

七大聖人セブンスワンが……!?」

「我々は『黄』の七大聖人セブンスワンと交戦状態となりました。幸いにも死人は出ませんでしたが、理由も無く王都へ押し入り攻撃を行った『黄』の七大聖人セブンスワンとその所属国でありベルグリンド王国の親国であるフラムブルグ宗教国家に対して、我々は強い不信感を抱く結果となったのです」

「……それで属するフラムブルグ宗教国家から離れ、七大聖人セブンスワンを優遇する四大国家の盟約から外れたと?」

「はい。また今回は退かせる事に成功しましたが、再び七大聖人セブンスワンが我が国に攻め入り民を傷付ける可能性を否定できない以上、今後の対策を考える必要性がありました。そこでウォーリス王は傭兵ギルドを通じて各地に集う傭兵達に呼び掛け、新生オラクル共和王国に雇い入れる事に決めました」

七大聖人セブンスワンの対策に、傭兵を?」

「それだけではなく、王国内は各国に比べ技術や魔道具の発展が遅れており、また強者と呼べる者が少なく、害を齎す魔物や魔獣を退ける道具や討伐できる人材が不足しております。また兵士の練度も低いので、戦闘経験の豊富な傭兵達を雇い入れ戦闘教練を騎士や兵士に施す意図も含まれています」

「騎士や兵士に、傭兵の戦い方を教えるということか?」

「はい。また帝国と違い、王国は魔法を扱える者達が貴族だけに限られてしまい、平民の大多数が魔法の覚える環境がありませんでした。そこで外国で活躍する傭兵の魔法師達を集め、魔法に対する知識を学べる場を用意し、民に魔法や魔道具を普及させようという考えもあります」

「……なるほど。四大国家から外れるということは、必然として魔法技術に優れた大国との関係性も途絶える。だから傭兵の魔法師を雇うということか」

「その通りです。……本来は和平を結んだ帝国と共同し、建設される同盟都市に魔法学部を設けて互いに親交を分かち合いながらそうした事を御願いする予定でしたが。突如として強襲した七大聖人セブンスワンや状勢が不安定な四大国家の様子を考えると、傭兵を雇い入れて様々な事を学ぶ場を設ける事が必要だとウォーリス王や私共が考えた結果、新たにオラクル共和王国を新設するに至りました」

 アルフレッドは真摯な様子を見せながら言葉を続け、オラクル共和王国が立ち上げられた理由を伝える。
 確かにアルフレッドの言う通り、近年は四大国家の様子が荒れた様子を見せていた。

 ルクソード皇国で起こった騒乱を始めとして、その皇国に対するホルツヴァーグ魔導国とフラムブルグ宗教国家の宣戦布告。
 更に今まで人間の国々が起こす出来事に介入しないとされていたフォウル国が、アズマ国と共にルクソード皇国に肩入れし四大国家同士の戦争を止めた。

 各国は四大国家の間に明らかな亀裂が生じ始めている事を察し、四大国家の崩壊を危惧している。
 ベルグリンド王国側が四大国家の存在を危ういと感じ、四大国家から離れ盟約から外れる理由も頷けた。

 しかし一つだけ、ゴルディオスは話を聞き納得できなかった事がある。
 それを指摘するように、アルフレッドに対して鋭く問い掛けた。

「四大国家から離れ、盟約から外れた理由は理解できた。――……しかし一つだけ、私に分からない事がある。それに答えてもらおう」

「なんなりと」

「君は先程、襲撃した『黄』の七大聖人セブンスワンを退けたと言ったな」

「その通りです」

「現在の『黄』を継ぐ七大聖人セブンスワンミネルヴァは、現七大聖人セブンスワンの中で最も強き者だと聞く。数多くの秘術魔法を扱い、身体能力と戦闘技術に置いてもフォウル国の魔人と単独で互角以上に渡り合える実力者だとされている。例え我が帝国の軍事力を持ってしても、彼女を退けるには多大の犠牲を必要とするだろう」

「……」

「しかし先程、君は王国の戦力が乏しいと述べ、各国から傭兵を呼び雇い入れると決めたと話した。しかし戦力が乏しいはずの王国が、そのミネルヴァを犠牲も無く退けたと話している。……その矛盾を、どう説明する?」

 アルフレッドが述べた矛盾を突いたゴルディオスは、厳しい表情を浮かべ低い声を発する。
 それを聞き周囲の官僚達や騎士達は今までの話に矛盾があった事に気付き、共和王国の使者達に警戒を向けた。

 しかしアルフレッドは周囲の警戒とゴルディオスの指摘に臆する様子を見せず、口元を微笑ませた後に口を開く。

「――……流石は、この帝国に君臨されている皇帝陛下です。私の話から、すぐにその矛盾に気付かれるとは」

「世辞はいい。答えたまえ」

「分かりました。……『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァが王都に押し入ろうとし、更に王国兵と交戦しようとした話については、事実にございます。しかし一つだけ、私から説明していない事柄がありました」

「説明していない事柄?」

「実はミネルヴァと交戦し退かせた者のは、一人です」

「一人……!?」

「それがわたくし。アルフレッド=リスタルです」

「なんだと……!?」

 七大聖人セブンスワンの中で最も優れたミネルヴァを退けさせた人物が目の前に居る青年アルフレッドだと聞き、周囲の者達は騒然とした様子を見せる。
 あのミネルヴァを退けられる実力を青年アルフレッドが有しているようには見えず、ほぼ全員が疑心を持った瞳をアルフレッドに向けていた。
 
 それはゴルディオスも同じだったが、傍に控えていた宰相セルジアスが囁くような小声で伝える。

「――……陛下。彼が言っている事は、おそらく本当でしょう」

「セルジアス……?」

「王国に潜入させていた者達から伝わった情報ですが、ミネルヴァが王都を襲ったという話が各所に流れていたのは確かです。それと対峙し転移魔法に巻き込まれ一時消息を絶っていたのが、ウォーリス王の腹心であるアルフレッドという者だったそうです」

「!」

「おそらく彼も、聖人です」

 セルジアスはそう囁き、目の前に居る青年アルフレッドが聖人である可能性をゴルディオスに教える。
 そしてセルジアスとアルフレッドの青い瞳から放たれる視線が重なるように交わり、互いに何かを感じ取る様子が見られた。

 七大聖人セブンスワン最大戦力トップと称されるミネルヴァを一人で退けたと述べる、アルフレッドと名乗る青年。
 彼に対する未知数の素性が、ゴルディオスを含んだ帝国側の人々に僅かな混乱を齎していた。
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