虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
726 / 1,360
革命編 一章:目覚める少女

闇夜の襲撃

しおりを挟む

 持ち越されたリエスティア姫の治療が翌日に行われるはずだったローゼン公爵領地にて、突如として異変が起こる。
 それは上空に存在する何者かが放った一つの極光が、アルトリア達が滞在しローゼン公爵家が統治する都市に降り注ぐという事態だった。

「――……ッ!?」

「!」

「な……!?」

「な、なんだっ!? あの光――……!!」

 暗闇に染まっていたはずの夜空が、突如として白い一筋の光に突き破られる。
 その先端はローゼン公爵家が治める都市に向けられ、都市全体に張り巡らされた結界が白い光と衝突した。

 刺さるように降り注がれた白い光を都市の結界は防いだかに見えたが、その光に触れた結界ぶぶんが突如として崩れ落ちていく。
 そして空中で崩壊した障壁が魔力に還元されて戻り消失していく光景は、まるで空に散った星々が流れ落ちるようにすら目撃者達に思えた。

 それを見上げていた都市に駐屯し警備している兵士達や魔法師が、呆然とした表情を見せながら呟く。

「――……ま、まさか……。都市の、結界が……!!」

「あ、ありえないぞ……!?」

「あの光、一撃だけで……」

「破壊、されたのか……?」

 都市に上空に張り巡らされていた結界が、帝都やルクソード皇国の皇都に用いられている結界ものと遜色ない性能だと知る者ほど、その結果に驚きを持つ。
 そして上空から突き刺さる白い光は結界だけを破壊して消失し、それから何も起こる様子を見せなかった。

 しかし都市を防衛する兵士達は、迅速に行動し事態に対処する為に動き始める。
 それは長年に渡り兵士達を鍛え上げていた先代当主クラウスと、現当主セルジアスが築いた都市防衛に関する人事と機構が上手く働いていた証拠だった。

「――……壁内警備隊は、結界の術式と魔石の確認を! 急げッ!!」

「都市警備隊は、市民の避難させながら地下の避難施設シェルターに誘導させろ!」

「各兵団を掻き集め、壁外を警戒! 結界が解けている間に、敵勢力が侵入してくる可能性がある!」

「次の、上空からの攻撃は……!?」

「まだ、確認できません!」

「今はアルトリア御嬢様や、皇后様達も中央敷地の別邸にいらっしゃるはず! 至急に本邸へ連絡を送り、護衛団を増員して警備を増強し、皇后様達を本邸の避難施設まで誘導するよう指示をッ!!」

「ハッ!!」

 都市の各防衛を担う指揮官達が機能し、市民と避難と同時進行で結界の修復をそれぞれの担当部署にて行わせ、更に奇襲を受け結界が消失した事に因る都市内外の警戒を兵士達に行わせる。
 それに伴い、別邸に居る皇后クレアを始めとした帝国にとっての重要人物達を守る為に本邸を預かる家令達と連絡を取り、急ぎ彼等を避難させる為の対処が実行されていた。

 その時、都市防衛を担う指揮官と幹部達が集まる施設に、一つの通信が魔道具越しに届く。
 それは彼等が予想した中で、最も嫌う状況が作り出されてしまった事を知らせる情報でもあった。

『――……指揮官殿! 壁外に、突如として多くの人影が出現しました!』

「突如だと!?」

『これは、おそらく……転移魔法が使用されているモノかと!』

「転移魔法だと……。馬鹿なっ!?」

『次々と、敵らしき人影が白い光の発光と共に出現していきます……。現状、数は二百以上!』

「二百名以上を、転移魔法で……」

「転移魔法は、最高峰の魔法師達を掻き集めても、一度に十数人を転移させるのがやっとのはずなのに……!」

 魔道具越しに届く兵士の情報を聞き、都市司令部は最悪の状況に流石に困惑を見せる。

 都市外部には白い渦上の光が地面から出現し、それ等から光り輝く粒子状のモノが集い、一つに固まり人型と思しき影が姿を見せる。
 それを転移魔法だと推測する兵士達の情報によって、都市を攻めて来た者達が恐ろしく魔法に長けた大規模な集団である事が判明し、司令部は迎撃方針を伝えた。

「遊撃部隊は壁外に出ず、そのまま壁内に留まり敵の侵攻に合わせて遠距離から迎撃するよう指示を! 敵に魔法師が居る可能性が高い以上、迂闊に壁の外へ出れば狙われる!」

「はい!」

「本邸との連絡は、繋がったか!?」

「そ、それが……。……本邸周辺にも、壁外に出現したと思われる光が出現したと連絡が……!」

「なにっ!? ――……急いで護衛団を本邸と別邸に送れッ!! アルトリア御嬢様と皇后様達を、急ぎ救出せよッ!!」

 壁外に敵兵力と思しき集団が転移魔法らしき手段で出現し、更に結界が消失した壁内にも同じ方法で敵が侵入する。
 予想と都市防衛機能を上回る速度で事態は進み、どれだけ臨機応変に備えられる者達であっても、常人では手に負えなくなる様相を見せつつあった。

 そうして都市側では突如の敵勢力と思しき事態に追われる中、別邸の庭で佇み結界を破る極光を放った人物を視覚で捉えていたログウェルは上空を睨んでいる。
 しかし都市に届いた連絡通り、別邸周辺でも地面から現れた光の渦が浮かび上がり、白い粒子状を展開しながら人影に近い何かを作り出していた。

 その数は瞬く間に数十を超え、別邸周辺を覆うように光の渦が展開されていく。
 空を見ていたログウェルは視線を落とし、光の渦によって出現した人影を視認しながら、左腰に下げた長剣の鞘口を左手で押さえた。

「――……これは、随分と手の込んだ贈り物じゃな」

 光の渦から消失すると同時に、そこから出て来た人影をログウェルは睨みながら視線を細める。

 それは二メートルを超えるだろう体格を持ち、顔すらも覆う黒い外套を全身に着込んだ姿。
 一見すれば人に見えるが、歩み進むその足は地面を大きく沈み込ませながら重量感のある足音を鳴らし、明らかに普通の人間には思えぬ様相を見せていた。

「……人の気配ではないな。……ならば、これは人形か」

『――……』

 ログウェルは別邸の周辺に出現した人影の集団が、人間ではなく生命の無い人形だと気付く。
 それと同時に人形と思しき集団は歩く速度を上げ、別邸に向けて攻め込んで来た。

 そして皇后クレアの護衛として赴いていた帝国騎士の複数が、同じようにログウェルが居る庭先に辿り着く。
 しかし別邸の周囲から鳴り響きながら近付く足音と、更に出現する光の渦を確認し、困惑した様子を見せながらログウェルに声を向けた。

「――……ロ、ログウェル殿! これは、いったい何が……!?」

「お前さん達は、クレア様達を守っとれ」

「!」

「儂が出来る限り、数は減らす。屋敷に入られたら、お前さん達でしのぎなさい」

「わ、我々も御手伝いを!」

「要らんよ」

 帝国騎士達は別邸へ侵入しようとする集団を確認し、ログウェルと共に侵入を阻もうと腰の剣を抜こうとする。
 しかしそれを一蹴する言葉と共に、ログウェルは左腰に帯びていた長剣を右手で引き抜くと、緑色の魔力を全身に纏い、それ等が風のように巻き上がると周囲の地面や木々を揺らした。

 そして次の瞬間、ログウェルが右足を踏み出すと同時に緑色の魔力がその場に吹き荒れる。
 それによって生じた凄まじい風を顔に受けた帝国騎士達は、守るように顔を覆っていた手を動かすと、既にその場からログウェルが消え去っていた。

 それと同時に、帝国騎士達が向ける視線の先で緑色の光が、まるで突風の如く暗闇の中で動き回る姿が見える。
 そして緑の光が別邸に近付く集団の一画を襲い、凄まじい暴風と共に地面を削りながら人形達を吹き飛ばした。

「――……ただの人形かと思ったが、存外に硬い作りのようだ」

『――……』

 ログウェルは緑の光を纏ったまま地面に着地し、暴風の如く吹き飛ばした集団を視認する。
 しかし凄まじい威力と共に吹き飛ばされたにも関わらず、人形と思しき集団は破壊された様子は無く、何事も無かったかのように起き上がった。

 ログウェル自身、先程の攻撃で人形を一人として破壊できなかった事に驚いた様子を見せる。
 そして視線を細めると、人形達は個々に術式と思しき光を身体から展開しており、自身を守るかのように結界を作り出していた事が判明した。

「……これは、ちと厄介じゃな」

 結界まで張り即座に防御態勢を整えた人形達を目にし、ログウェルは思わず呟いてしまう。
 しかし再び剣を構えると、緑の魔力を纏いながら再び地面を蹴り上げながら跳び、別邸の周囲から迫る人形達の侵入を阻む為に奮戦した。

 そうしている間にも、別邸周辺に出現する光の渦は更に数を増す。
 そこから現れる人形達は既に百近くを超え、更にログウェルの攻撃で吹き飛ばされながらも身に纏わせている外套や身体を破壊できた様子すら無く、減らない人形勢力によって別邸は完全に包囲されてしまった。

 しかし数分程の時間は、老騎士ログウェルがたった一人で人形達の侵攻から別邸を守り通す。
 それでも増え続ける人形を減らせない状況によって圧迫され、ついに別邸の各場所から侵入を許す事となってしまった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...