虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 二章:それぞれの秘密

狙い定める者

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 ウォーリスの強弁によって、愛するリエスティアとその子供をウォーリスに奪われそうになっていたユグナリスに、思わぬ助けが入る。

 それは元婚約者であり、幼少時から嫌悪し合い続けたアルトリア。
 リエスティア達の今後に関する討論に参したアルトリアは、ウォーリスの強弁に対抗して見せる。
 その中で状況を一気に逆転させ、ウォーリスの素性を敢えて明かす流れに持ち込んだ。

 自身の素性をリエスティアの前で隠し続けていたウォーリスは、『アルフレッド』という仮面を剥ぎ取られようとしている。
 にも拘わらず、ウォーリスの影を宿した表情は口元で笑みを浮かべてた。

 それに気付いたアルトリアは怪訝な表情を見せながら問い掛ける。

「……何がおかしいのよ?」

「……いえ。なるほど、確かに貴方の仰る通り。私はリエスティア様の体質を……魔力を用いたあらゆる魔法モノが効かないという事実ことを知っていました」

「!」

「ただ、私が十七年前の祝宴場パーティーにリエスティア様の兄として参加し、貴方がリエスティア様の傷を治した光景を見たという話は、貴方の推測に過ぎませんね。……それとも、何方どなたかに御聞きし確認した事でしょうか?」

「……じゃあ、私を連れ戻させてリエスティアを治させようとした理由は?」

「貴方は帝国で最も高名な魔法師であることを、我々も聞き及んでおりました。特に治癒や回復の魔法に関しては、他の追随を許さない程だと。ならば可能性の一つとして、貴方ならばリエスティア様を治せるかもしれないと考えるのは、自然ではありませんか?」

「……確かに、そうかもね。でも、まだ腑に落ちない事は山ほどあるわよ? ウォーリスさん」

「なるほど。貴方が疑う前提には、私がリエスティア様の兄君である『ウォーリス』様だという御考えがあるようだ。その誤解が解けない限り、私は貴方に疑われ続けてしまうのでしょうね」

 ウォーリスは余裕を持った表情と声色を見せながらそう述べ、自身が『アルフレッド』である様子を崩さない。
 その為に素性に関する話が平行線となってしまい、その場の空気と会話が滞る様相を見せていた。

 この時にセルジアスを含んだ者達がウォーリスの素性について証言しなかったのは、その話が公に語られた話では無いから。
 仮にこの場でそれについて証言したとしても、ウォーリスはそれを帝国側の誤解か虚言だと切って捨てるだろう。
 そうした様相を見せるウォーリスの態度を見た一同は、水掛け論に因る敵対関係に発展させない為にも口を閉ざすしかない。

 それとは別に訝しさを深めたアルトリアは、認めようとしないウォーリスに呆れた口調で問い掛ける。

「まったく、埒が明かないわね。……貴方がこの子の身内あにだと、認めたくない理由でもあるわけ?」

「そもそも、私はウォーリス様ではありませんから」

「あら、そう。……分かったわ。その話は保留にしてあげる。でもその前に、アンタがさっき言ってた要求を撤回して欲しいんだけど?」

「……」

「アンタはリエスティアの体質を知りながら魔法では治せない事を隠し、不公平な取り決めでユグナリスとリエスティアの婚姻をさせないようにした。その時点で、アンタ達が取り決めた約束事ことは破綻してる。違う?」

「違いませんね」

「なら、この条件で二人の婚姻を取り決める必要は無い。ましてや、共和王国そっちがリエスティアと帝国皇子ユグナリスの子供を奪うという要求なんて出す権利は無い。そういう事ね」

「確かに、要求する権利は無いでしょう。……ただリエスティア様は、ウォーリス王の妹君。共和王国こちらに属する方です。またユグナリス殿下の婚約者候補である事に変わりは無く、共和王国こちらの承諾を得ないままリエスティア様を懐妊させた事実は間違いない。違いますか?」

「はぁ、そうなのよね。この馬鹿が考え無しにヤったから、こういう面倒臭い話になってるのよ」

「グ……ッ」

 ウォーリスが述べる一部の言い分に理解を示すアルトリアは、横に立つユグナリスを睨むように一瞥する。
 その点に関してはユグナリスに反論の余地は無く、アルトリアとウォーリスはその部分に対してだけ共通の面持ちを見せていた。

 そうした中で、ウォーリスはある提案をこの場で持ち掛ける。

「しかし、リエスティア様が懐妊してしまった事実は変えようが無いことです。――……そこで私から、今回の事態に対する折衷案せっちゅうあんを述べさせて頂きます」

「折衷案……?」

「リエスティア様とユグナリス殿下の婚姻に関する条件。リエスティア様の傷を治療する条件を、撤回させて頂きます」

「!」

「ただし、もう一つの条件について。こちらの条件に、少し付け加えをさせて頂きたい」

「……もう一つの条件って、何?」

 アルトリアはウォーリスの話す二つ目の条件に聞き覚えが無く、それを知っていだろう兄セルジアスに問い掛ける。
 それを受けてセルジアスは前に歩み出ると、両者の間となる位置に立ちながらウォーリスが話すもう一つの条件を教えた。

「アルフレッド氏は、二人の婚姻を認める為に二つの条件を帝国側に提示した。その二つ目が、先程まで言い争いとなっていたリエスティア姫の治療に関する話だ」

「じゃあ、一つ目は?」

「同盟国として医術や回復・治癒の魔法などを行える人材を派遣し、共和王国の者達にそれ等を指導するという条件だね」

「……つまり、二つ目の条件を無くす代わりに。その一つ目の条件に更に何かを加えるということ?」

 セルジアスの説明で二つの条件があった事を理解したアルトリアは、ウォーリスに問い返す。
 それに頷きながら応じたウォーリスは、一つ目の条件に付け加える内容を述べた。

「その通りです。私はその条件に、一つの要望を加えます。――……アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン様。貴方を指導者の一人に指名させて頂きたい」

「!?」

「……なんですって?」

「貴方の持つ知識と、素晴らしい魔法の腕前。貴方のような優秀な人材にこそ、共和王国こちらから赴かせる教え子達に教鞭を振るって頂きたいのです。……この条件を受け入れて頂ければ、私共はリエスティア様とユグナリス殿下の婚姻を快く承諾する事を、御約束させて頂きましょう」

 ウォーリスはそう述べ、共和王国から赴く人材に技術を教え説く技術指導者にアルトリアを指名する。
 それを聞いた周囲の者達は目を見開きながら驚愕し、アルトリアは更なる訝しさを深めてウォーリスを睨んだ。

 そしてアルトリアの口から、ウォーリスに抱いていた懸念を口にする。

「アンタ、まさか……。始めからこうするつもりで、こんな茶番を……?」

「ふっ。私としても、リエスティア様を悲しませるのような野蛮な事は行いたくありませんでしたが。丁度良い機会が設けられましたので」

「……ッ」

 アルトリアが抱いた懸念を、ウォーリスは微笑みを見せながら肯定する様子を見せる。
 それを聞いたアルトリアは、ウォーリスの起こしたこの茶番劇に乗せられた事を察し、眉をひそめながら苛立ちの表情を強めた。

 そしてウォーリスは視線を変え、帝国宰相であるセルジアスに向けて伝える。

「セルジアス殿。この件に関しては、私が戻る前に正式な書状として御渡しします。後程、書類作成の為に御助力を頂きたい。それから、皇帝陛下やアルトリア様と御相談して頂いた上で、この提案を御検討を」

「……ッ」

「ただし、この提案を受け入れて頂けない場合。二つ目の条件はやはり撤回する事はなく、二人の婚姻を共和王国は認めず、リエスティア様と子供を引き取らせて頂く。……これを拒否すれば、盟約は守られなかったモノとして共和王国も対応させて頂きます」

「……」

「それでは、皆様。私はこれにて失礼を。――……リエスティア様、どうぞ御元気。また御会いしましょう」

「あ……!」

 セルジアスに新たな要求と脅しを向けたウォーリスは、そのまま部屋の扉側へ歩み去る。
 そして最後にリエスティアに別れの挨拶を伝えると、ウォーリスは部屋から退出してしまう。
 リエスティアは去り際のウォーリスに何か、それは扉が閉められる音によって遮られてしまった。

 その場に残った者達は、それぞれが思い悩む表情を見せている。

 第三者として介入したはずのアルトリアは、ウォーリスの仕掛けた茶番劇に乗ってしまい、挙句に自身を交渉の条件に乗せられてしまった。
 そして自身の妹を条件に要求されたセルジアスは、帝国くにと妹を天秤に掛けられてしまう。
 
 ユグナリスも助けに入ってくれたアルトリアを交渉の条件に巻き込んだ形にしてしまい、顔を向ける事が出来なかった。
 リエスティアもまた、今まで『アルフレッド』だと聞いていた人物が本当の兄ウォーリスかもしれないという可能性を知らされ、呆然としながらも思考を困惑させている。

 そうした若者達が動揺する様子を窺っていた年長者である皇后クレアと老騎士ログウェルは、それに対して表情を強張らせながも何も言わずに見守っていた。
 一方で、そうした状況に小さな微笑みを浮かべていた悪魔ヴェルフェゴールは、誰にも聞こえない声量で小さな呟きを口にする。

「……ふふっ。やはり、人間は面白い……」

 こうして一同は、ウォーリスのもたらした茶番劇によって動揺と困惑を起こす。

 アルトリアの自由を再び奪い、帝国と二人の為に用いるか。
 もしくはユグナリス達の婚姻を諦め、潔くリエスティアとその子供を共和王国に引き渡すか。
 それとも、ウォーリスの意思に背きオラクル共和王国と敵対するか。

 この選択を迫られる状況は、アルトリアに狙いを定めているウォーリスにとって、まさに理想の展開とも呼ぶべき状況となっていた。
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