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革命編 三章:オラクル共和王国
同志の握手
しおりを挟むシスター達と合流したワーグナーと黒獣傭兵団の団員達は、オラクル共和王国に訪れてから初めて自分達が進んで来た道を支持し信頼してくれている者達がいると再会する。
そして彼等が向ける信頼と心配の言葉を身に染みて感じ、感涙の表情を見せせながらシスター達の村に歓迎される形で招かれた。
そしてワーグナー達とクラウスは、村の中にある集会所らしき建物に案内される。
それなりの広さがある建物内で敷き布だけの状態ながら横になって眠れる環境を得た一行は、共和王国に訪れてから初めて安堵の眠りに就けた。
そして十時間余りの睡眠を行った後、集会所内の全員が目を覚ます。
先に起きていたクラウスは窓から外を眺めながら、ワーグナーを含む黒獣傭兵団の面々に話し掛けた。
「――……起きたか?」
「……ああ。……アンタ、先に起きてたのか?」
「少し前にな。……そこの机に、昼飯が置かれている」
「……これは?」
「先程、村人が置いて行った。お前達が起きたら、食べてくれとな」
「……そうか」
クラウスはそう述べながら、机に置かれただろう果物の一つを丸齧りしながら話す。
それを見たワーグナーは机に置かれた硬めのパンと干した果実を手に取り、口に含んだ。
そして黒獣傭兵団の団員達も、二人が食べる姿を見てから食べ始める。
そうして全員が丸一日ぶりの食事を進めていくと、真実を聞かされた後に初めて団員達が口を開き言葉を交えた。
「――……俺等は、つまり。前の団長だった人の復讐に、巻き込まれたってことなんっすよね?」
「おい……」
「だって、確かにそのガルドって人がこの黒獣傭兵団を作ったかもしれないっすけど。その人に対する復讐と、俺等は無関係じゃないっすか?」
「……そうだよな」
「とばっちりってヤツだな……」
五名の団員達はそれぞれに置かれた境遇に関する意見を口にし、全員が溜息を漏らす。
そうした話を聞いていたワーグナーは、表情を渋くさせながら団員達に言葉を向けた。
「……すまんな。お前等を巻き込んじまって」
「いや、副団長のせいじゃないっすよ!」
「そうです」
「団長も副団長も、復讐される理由になった暗殺には何も関わってないんでしょう?」
「……まぁな」
「だったら……」
ワーグナーが口にした謝罪を戻そうとした団員達だったが、ワーグナーは軽く右手を上げてそれ等の言葉を止める。
そしてワーグナーも、この復讐劇に関する自分の意見を伝えた。
「……確かに。ガルドのおやっさんの過去と、俺やエリクは無関係かもしれない。……だが少なくとも、俺とエリクはおやっさんの弟子みてぇな立場だ」
「!」
「二人で黒獣傭兵団の頭を張るようになったのも、おやっさんが死んだ後。……おやっさんがくれた俺達の黒獣傭兵団を、壊したくなかったからだ」
「……」
「いや……そもそも、それ自体が俺の提案した事だ。エリクはただ、俺の我儘を聞いて団長になっただけ。……言っちまえば、俺が黒獣傭兵団を生かし続けたのが、こんな目に遭ってる原因なのかもしれない」
「……副団長」
ワーグナーは悔いる思いを言葉で吐き出し、瞼を閉じながら表情の渋さを深める。
そして団員達に顔を向けた後、ワーグナーは真剣な表情と口調で問い掛けた。
「……お前等。抜けるなら、今の内だぞ」
「!?」
「ちょっ、何を言ってるんっすか……?」
「この黒獣傭兵団《だん》に居続ける限り、お前等も野郎の復讐に巻き込まれる。……樹海に残ってる連中も、あのまま部族の奴等と一緒に暮らせるようになれば、巻き込まれる事はない」
唐突なワーグナーの言葉に、団員達は驚愕を見せる。
その言葉は団員達に強要するモノではなかったが、強く言い聞かせるような口調であり、彼等を黒獣傭兵団から引き離すべきだというワーグナーの意思が感じ取れた。
そして団員の一人が、敢えてワーグナーに問い掛ける。
「じ、じゃあ……。副団長はどうするんっすか?」
「……俺は、俺が始めた黒獣傭兵団を捨てるつもりはない」
「!」
「俺は最後まで、黒獣傭兵団で居続ける。……それが俺の選んだ道の、落とし所になるだろうさ」
「ふ、副団長……」
「……お前等も、よく考えろ。……俺の矜持に付き合って、死ぬ必要はない」
ワーグナーはそう語り、手に残った果実の芯を机の上に置かれた皿へ投げ捨てる。
そして座っていた床から立ち上がり、扉を開いて建物の外に出て行った。
団員達はそれを追えず、僅かに顔を伏せながら互いに神妙な面持ちで考える。
そうした様子を見ていたクラウスだけは、ワーグナーを追うように建物の外へ出て行った。
そして村の様子を眺めているワーグナーに、後ろから話し掛ける。
「いいのか?」
「……何がだよ?」
「どちらも、と言うべきか。……団員を引き離し、敢えて自分だけ黒獣傭兵団として進み続ける。その先に、何がある?」
「……俺は、黒獣傭兵団として顔を知られてる。例え黒獣傭兵団を解散したとしても、野郎の矛先が収まるワケがない」
「そうかもしれんな。……それで?」
「……ビクビクしながら追われ続けるってのも、性に合わんな。かと言って、大人しく捕まって殺される気も無い。……だが、あの村の連中を……マチルダを殺してエリクや俺達を嵌めやがったウォーリスの野郎だけは、絶対に許せねぇ。……だが国を相手に俺一人じゃ、どうも出来ん」
「では、どうする?」
「そうだな。……どうにかして、一泡だけでも野郎に噴かせてぇな……」
大きく溜息を吐き出したワーグナーは、空を眺めながら自身の道筋を模索する。
それを聞いていたクラウスは口元を吊り上げるように微笑ませ、ワーグナーに一つの提案をした。
「そうか。……ならば、私と一緒に来るか?」
「……は?」
「私も、言わば死んでいるはずの人間だ。お前と違って居場所と呼べる場所を人に委ね、今は自由気侭の身。……だが、ウォーリスという気に食わぬ男に一泡を噴かせたいという思いは、お前と同じだ」
「!」
「奴は恐らく、母親の復讐心のみで行動してはいない。何かしらの目的とした野心を持っている。――……その野望を台無しにして、奴の悔しそうな顔を見てみたくはないか?」
クラウスは不敵な微笑みを見せながらそう話し、ワーグナーを仲間に引き入れようとする。
それを聞いていたワーグナーもまた、乾き気味だった表情に豪快な笑いを浮かべながら振り返った。
「……クッ、ハハハハッ!! ……イイねぇ。そういうの、俺は好きだぜ」
「そうか。――……では、雇い主としての関係は終わりにしようか。今日から仲間として、よろしく頼もう。ワーグナー」
「ああ、分かったぜ。クラウス」
クラウスは右手を差し出し、ワーグナーはそれに応えて勢いのある右手で握手を交わす。
互いにウォーリスという共通の敵が抱く野望を破る事を目的とし、対等な立場から共闘関係を築く事になった。
そんな二人が握手をしている中、歩み寄って来る人物がいる。
それに気付いた二人は握手を交わした右手を引かせ、ワーグナーはその人物に声を向けた。
「……シスター」
「――……よく眠れましたか?」
「ああ、おかげ様でな」
「そうですか、それは良かった」
歩み寄るシスターは微笑みを浮かべ、ワーグナーと話を交える。
そうした中でクラウスは鋭い表情へ戻り、シスターに対して言葉を向けた。
「シスター。貴方に聞きたい事がある」
「……何でしょうか?」
「ここで暮らして居る貴方達ならば、何か知っているのではないか? この南方の土地で行われている事が」
「……ええ。大まかに把握はしています」
「訓練を受けている兵士の、数と規模は御存知か?」
「……全てではありませんが。少なくとも兵士を訓練している場所は、三十箇所は存在するはずです。そして訓練兵の数は、約十万人ほどでしょう」
「!?」
「そこまで大規模に……」
シスターの口から出た南方で訓練を受けている兵士達の情報を聞き、二人は驚愕の表情を見せる。
そしてクラウスは表情を渋らせながら眉を顰め、シスターに再び問い掛けた。
「どうして貴方は、私達が隠れたあの廃村の付近に? そして追跡者が貴方の事を、『例の奴』と言っていた理由は……」
「それを御伝えする前に、互いに情報を知る必要があるでしょう。私達はおそらく、貴方達よりも共和王国の現状を知らない。そして貴方達もまた、共和王国になるまで王国がどのような状態だったかを知らないはずです」
「確かに。ならば、情報交換としましょうか」
クラウスはシスターの提案を受け入れ、視線を向けたワーグナーに同意の頷きを得て情報交換を決まる。
そして集会所に戻った二人は室内で考え込んでいた団員達と共に、シスターの話を聞きながら互いの知る情報を伝え合う場を設けた。
こうしてクラウスとワーグナーは雇用関係ではなく、共通の目的を持つ仲間となる。
そしてウォーリスの野望を破る為に、オラクル共和王国となって滅びたベルグリンド王国の過程を伝え聞いた。
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