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革命編 三章:オラクル共和王国
安否確認
しおりを挟む旧ベルグリンド王国の第一王子ヴェネディクトから王国貴族を始めとした反抗勢力の結末を聞いたクラウスは、化物を従えるウォーリスの正体が【悪魔】である事を推測する。
そして南方に侵入した自分達の存在を知られた可能性が高い事を考え、村人達と共に共和王国から急ぎ脱出する必要性がある事を述べた。
そうした話を行っている最中、訪れた孤児院の子供達が逞しく成長した姿を黒獣傭兵団の面々に見せる。
そしてそれぞれが笑みを見せながら話し、南方の状態を聞いた。
「お前等、南方の連中を相手に陽動やってるって聞いたが、平気なのか?」
「ほとんどは大丈夫!」
「ほとんど?」
「凄く強そうな人達と、そうでもない人達がいるの。私達は、そんなに強くない人達だけを相手にしてるんだ」
「ほぉ。だが相手は、銃って武器を持ってるんだろ。本当に大丈夫だったのか?」
「シスターがね、『銃は弩弓と同じ』だって教えてくれたんだ。矢が向いてる方向にしか飛ばないように、銃も向けられてる先にしか命中しないから、障害物や相手の視線から外れる場所なら当たらないって」
「だが、数で襲われたらヤバいだろ?」
「そういう時は、相手の味方がいる場所に回り込むんだよ。そうすれば同士討ちしそうになって、撃つのを止めるんだよ。それに近付けば、銃より素手の方が叩き易い!」
「……なるほど。威力が高くて射程距離が長いだけに、同士討ちの危険もあるのか。……シスターが一人でアイツ等を制圧できたのも、それを利用してたってことか。それでも、すげぇな」
元孤児院の少年達の話を聞いていた黒獣傭兵団は、『銃』という武器にも弱点がある事を教えられる。
高威力と高射程の弾丸を放てる銃は、一方の向きに存在する敵に対しては非常に強力な武器だ。
しかし味方が居る位置や、銃を構え撃つまでの動作に及べない位置に敵が居た場合、その効力を柔然に発揮できない。
そして銃が使用できない接戦に持ち込めば、銃よりも素手や剣などの武器を持つ者達の方が圧倒的に優位となる。
そうした戦い方をシスターから学んだ少年達は、野戦を仕掛ける際に教えを忠実に守り、今まで襲撃や陽動作戦を成功させていた。
しかし銃を持つ相手にそれを成功させられるだけの実力が必要である事も理解できる黒獣傭兵団の面々は、目の前にいる少年達が自分達より強いのではないかと微妙に笑顔を引き攣らせる。
そうした中で、少年達は黒獣傭兵団にある情報を伝えた。
「そうだ。おじさん達、何処かで見つかったりした?」
「!」
「昨日の夜くらいから、南方に集まってた兵士達が大勢で動き出してるの。多分、おじさん達を探してるんだと思う」
「……そうか。すまんな、迷惑を掛けちまって」
「ううん、シスターが前に言ってたよ。この村も、そう遠くない時期に見つかるかもしれないって。僕達がやってる陽動も、少しでも時間を稼ぐ為だってさ」
「時間を稼ぐ……?」
「シスターがね。神様が見せてくれた夢で、黒獣傭兵団が来てくれるって。それまで、時間稼ぎをしなきゃいけないって」
「!」
「僕達、ずっとおじさん達を待ってたんだ! 本当に来てくれて嬉しい!」
「……そうか」
少年達はそう述べ、シスターの話す未来を信じて黒獣傭兵団を待ちわびていた事を伝える。
それを聞いた黒獣傭兵団の面々は、再びシスターの語る未来に現実味が帯びて来た事を実感し、互いに視線を交わして頷き合いながら子供達に話し掛けた。
「ありがとうな。……村の連中に、南方から逃げる準備をするように説得するのを、手伝ってくれないか?」
「皆、もう準備し始めてると思う!」
「えっ」
「シスターがね、黒獣傭兵団が来たら村から離れる準備をしろって、皆に言ってたんだ」
「……いいのか? せっかくお前等が作った村なのに」
「ちょっと寂しいけど、おじさん達が迎えに来てくれたから!」
「……そうか。んじゃ、お前達も準備して来い」
「うん! また後でね!」
笑みを見せる子供達はそう話し、村を離れる準備をする為にそれぞれが住み暮らす建物に向かう。
それを見送る黒獣傭兵団の面々は、視線をクラウスとワーグナーに向けながら覚悟を定めた表情を見せた。
「……俺達も、村を離れる準備をします。そんなに荷物は無いっすけど」
「むしろ、村の周囲を監視した方がいいっすね。捜索が既に始まってる今、兵士共がいつ雪崩れ込んで来てもおかしくない」
「そうだな。村の連中が準備してる間は、俺達が監視をしとこう」
「武器に出来そうな物とかあったら、村の人等から貰って来ます」
「副団長とクラウスさんは、ミネルヴァって人の様子見をして来てください」
団員達はそう述べ、自分達が行うべき役割を率先して伝える。
そして南方から脱出する為の鍵となるミネルヴァの安否を確認し判断を仰ぐ為に、二人をミネルヴァの居る建物へ赴かせようとした。
それを聞いていたワーグナーとクラウスは互いに頷き、それぞれの準備を団員達に任せる。
二人は仮宿にしている集会所から離れ、ミネルヴァが眠っていた小屋に再び訪れて扉を叩いた。
「シスター、居るか?」
「――……はい。どうぞ」
小屋の中からシスターの返答があり、ワーグナーは扉に手を掛けて開ける。
すると中には椅子に座るシスターと、寝台に上で座り壁に背を預けるミネルヴァの姿が見えた。
ワーグナーとクラウスは小屋の中に入り、改めて『黄』の七大聖人ミネルヴァと対面する。
そしてミネルヴァが閉じた瞼を開き、黄色の瞳を見せながら二人に話し掛けた。
「……クラウス=イスカル=フォン=ローゼン。そしてそっちが、あのエリクが所属していた傭兵団の団員か」
「!」
ミネルヴァは前日に自己紹介を済ませていたクラウスの名を呟いた後、隣に立つワーグナーを見ながらそう述べる。
それを聞いたワーグナーは思わず両目を見開き、驚きを見せながら尋ねた。
「アンタ、エリクを知ってるのか?」
「……あの男もまた絶望の未来に抗う為に、神に与えられた自分の役割を果たそうとしている」
「な……?」
「……それはつまり。ここに居るシスターと同じく、エリクと言う男も未来の出来事を知り、何かを目的として動いているということか?」
ミネルヴァの言葉を理解し損ねたワーグナーに代わり、クラウスがその意味を代弁する。
それに僅かな頷きで返答するミネルヴァに、クラウスは続けて問い掛けた。
「ミネルヴァ殿。貴方も、彼等が夢で見たという未来を知っているのか?」
「……夢などではない。一度は世界が辿った、未来の出来事だ」
「!」
「お前の娘、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。彼女は、今から三年後に死亡する」
「!?」
「そして彼女の亡骸は死霊術によって操られ、魂は悪魔と契約し、自ら故郷の国と人間の国々を滅ぼした。……その時に私は彼女に敗北し、暗示の重ね掛けを受け、人間の殲滅に手を貸してしまった」
「……アルトリアが、人間を滅ぼすだと……?」
「そうさせない為に。我が神は時の流れを戻し、私達の記憶を残して使命を与えた。……そして私は、彼女を利用した【悪魔】と思しきアルフレッドなる男を討つ為に、ベルグリンド王国に赴いた」
「!!」
「……だが、私はあの男に敗北した。……そしてあの地下に囚われ、死霊術を用いられて操られようとしていた」
ミネルヴァはそう話し、神によって世界の時が戻された事を伝える。
そしてアルトリアを基点とした未来の惨劇を伝え、それを阻むべく動く者達の中にエリク達がいる事を述べた。
それを聞いていたクラウスは表情を強張らせ、自分の娘が死後に死霊術を用いられ、人間を滅ぼそうとしたという話に驚愕を示す。
しかし心の内で幼い頃のアルトリアを思い出し、人間を滅ぼそうとしたという話に奇妙な納得を浮かべていた。
そうした中で再び未来の話を聞かされたワーグナーは、思考を困惑させながらも尋ねる。
「その、神の使命だかなんだかは分からんが……。エリクの奴は、生きてるんだな?」
「……あの男は、彼女を死の運命から救う為に……そしてあの悪魔を討つ為に、ある場所へ赴いている」
「ある場所……?」
「……場所は言えない。あの男に知られれば、彼等の使命が妨げられてしまう」
「そ、そうか……。……エリクの奴も、俺達と同じような目標で動いてるんなら。きっと生きてたら、いつかまた会えるだろうさ」
ミネルヴァはフォウル国に赴いているエリク達の事を話さず、情報がウォーリスに伝わる事を危惧する。
それに関してワーグナーは小さな溜息を漏らしながらも、エリクが今も生きている可能性がある事を聞き、自分達と同じくウォーリスの打倒を目指している事を知り、確かな心強さを感じていた。
こうして目覚めたミネルヴァは、クラウスとワーグナーが知る人物達に関する情報を伝える。
そして互いに落ち着いた表情を見せた後、この状況を脱する為の話し合いが行われ始めた。
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