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革命編 三章:オラクル共和王国
抗えぬ運命
しおりを挟む包囲された村の中で決行された第一王子ヴェネディクトの救出作戦は、最悪の形で進行される。
救出に赴いた二名の団員は銃弾と爆弾を浴びて瀕死の状態となり、肝心の第一王子も気絶し負傷した状態で動けない。
更に爆発の影響で周囲の視界を遮っていた煙はほぼ消失し、防御の役割を果たしていた防波堤が破壊される。
それによって更に救出が困難な状況となり、クラウスとワーグナー、そして残る団員二名で第一王子の救出を行わなければいけない状況へ追い込まれていた。
そうした状況で団員の死を再び見せられたワーグナーは、悲哀の感情に勝る憤怒を宿した表情でクラウスに怒鳴る。
「――……どうすんだよ、クラウスッ!?」
「……煙玉の残りは?」
「あと、二つだ……」
「……王子達の正面に、煙玉を全て投げろ。そしてお前達は防波堤を持ちながら王子の正面と左右に展開し、森へ牽制射撃を行え」
「!」
「正面は敵が最も狙い易い位置だ。少しでも命中精度を下げて弾丸を防ぐなら正面だろう。……できないか?」
「……ッ」
クラウスは敢えてそう尋ね、全員の覚悟を問う。
今まさに目の前で団員達が成す術も無く死んだ状況で、全員が向かうのは愚策にしか思えない。
しかしここで第一王子を見捨ててしまえば、団員達がやろうとした事が無駄になる。
それを理解できるからこそ、クラウスを除く全員が愚策を行う事を無言で頷きながら承諾した。
「……ならば、やるぞ」
全員の頷きを確認したクラウスは、愚策の決行を告げる。
それに応じた二人の団員は、手元に残る二つの煙玉を正面に投げ放った。
そして再び正面に煙が上がり、森側の視界を塞ぐ。
その上で防波堤を左側に向けながら持ったクラウスが、突撃の合図を放った。
「行くぞッ!!」
短くも鮮明がクラウスの声が響き、四人全員が王子達が倒れる場所へ走り出す。
そして団員の二名が左右へ、ワーグナーが正面に向けて牽制射撃を走りながら行った。
クラウスは防波堤を持ちながら、王子達が倒れる場所を追い越す。
そして正面に防波堤を投げ置き、爆発に巻き込まれた団員の身体を退け、庇われていた王子を引っ張り出した。
その際にクラウスは、王子の状態を確認する。
足部分に爆発の影響で受けた裂傷と、撃ち抜かれた部分から血を流している以外、特に目立った外傷は無い。
しかし肌から血の気が更に薄れており、一刻も早い止血が必要だと瞬時に判断したクラウスは王子を左肩で抱えながら叫んだ。
「戻るぞッ!!」
「おうッ!!」
クラウスは第一王子を引き摺るように抱えて走り、建物がある村側へ走る。
それを援護するように二名の団員とワーグナーは中腰で下がりながら援護射撃を各方向へ行い、敵兵に撃たせまいと慣れない銃で撃ち続けた。
しかし左側の牽制を担当していた団員が、連射していた為に弾切れを起こす。
そして腰に備えていた予備弾倉へ切り替えようと一瞬だけ動きが止まった瞬間、その団員の腹部に一発の銃撃が浴びせられた。
「が……っ!!」
「ッ!?」
「この野郎ッ!!」
銃弾を浴びた団員が倒れ、それに気付いたワーグナーが再び感情を激化させる。
そして身を起こしながら仲間を撃った敵兵へ銃を向けた時、ワーグナーが受け持っていた正面側から夥しい銃声が鳴り響いた。
「ぐぁッ!!」
「副団長ッ!!」
「ワーグナー!?」
その時、防波堤を越えた一発の銃弾がワーグナーの右腕に命中する。
辛うじて貫通はせず腕の筋肉で弾丸は受け止められたが、利き腕を撃たれた衝撃で地面へ倒れながら銃を落とした。
これで二人が撃たれて正面と左側の牽制が無くなると、その方角から敵兵の射撃が強まってしまう。
そして走っていたクラウスの右脚にも、左側に展開している敵兵の銃弾が命中してしまった。
「グゥ……ッ!!」
撃たれたクラウスは走る足を縺れさせ、第一王子と共に地面へ倒れる。
残り十メートルにも満たない位置に村の建物はあったが、クラウスとワーグナーを含む全員の足が止まってしまった。
「クソッ、みんなっ!!」
それに抗うように無事な団員の一人が防波堤を持ち、中腰で引き摺りながら左右へ牽制射撃を行う。
そして負傷具合で最も浅いワーグナーが苦痛の表情で歯を食い縛り、中腰で立ち上がりながら周囲の状況を一瞥して咄嗟に叫んだ。
「……お前は援護を! 俺は、クラウスと王子を!」
「御願いしますっ!!」
ワーグナーはそう言い放った後に走りだし、援護するように各方向へ射撃する団員は援護を行う。
そして僅かに弱まった銃弾の中を掻い潜ったワーグナーは、クラウスが倒れた場所に辿り着いた。
「クラウスッ!!」
「……王子を、早く!」
「ッ!!」
クラウスは自身よりも、第一王子を優先して運ぶように表情を強張らせながら伝える。
それを聞いたワーグナーは更に表情を強張らせたが、飛び交う銃弾によって反論の隙は無く、すぐに第一王子の腕を左手で引きながら建物側へ走り始めた。
そして建物に近付くと、王子を力の限り引いて投げるように射線が途切れる位置へ置く。
これによって辛うじて森側からの射撃を免れる位置に皇子を退避することが出来たワーグナーは、次にクラウスを助ける為に戻ろうとした。
しかしワーグナーが身を起こそうとした瞬間、再び森側の射撃が途絶える。
その僅かな時間に何が起こるかを瞬時に察した者達は、森側から投げ込まれた一つの球体を視界に捉えた。
「逃げろッ!!」
顔を上げた瞬間に投げ込まれた爆弾を見たワーグナーは、クラウス達に対して叫ぶ。
しかしクラウスは右脚を撃たれてからまだ立ち上がる事が出来ておらず、爆弾から逃れられない。
そして投げられた爆弾は地面へ落下し、それがクラウスのやや後方へ着地する。
刻まれた紋様が赤く光るのを右目で捉えたクラウスは急ぎ立ち上がろうとし、ワーグナーは助けようと走り出した。
しかし次の瞬間、その赤い光はあるモノによって遮られる。
それは残る団員の一人が爆弾を右手で掴み持ち、咄嗟に森側へ投げ返す光景だった。
「――……うぉらッ!!」
「!」
「副団長! 早くその人をッ!!」
「お、おう――……っ!!」
「!!」
ワーグナーはそのまま走り、クラウスが倒れる場所へ駆け寄る。
更に投げ返された爆弾が森側で爆発し、爆風や飛ばされた土片や木々の破片がどちらの人員も襲った。
その間にワーグナーはクラウスを左肩で抱え、建物側へ走る。
そして王子を置いた場所まで辿り着くと、ワーグナーは今も応戦する為に銃を撃つ団員に声を掛けた。
「お前も、早くッ!!」
「はいっ!!」
残る団員は防波堤を放棄して銃を各方向へ放った後、弾切れを起こした小銃を捨てる。
そして全力で走りながら建物側へ向かい、ワーグナー達と合流しようとした。
しかしその時、彼の目に仲間達が倒れる光景が飛び込む。
更に腹部を撃たれた仲間が苦しむ様子を見ると、躊躇するように足を止めてしまった。
「お前も――……ぁ……っ!!」
「……!?」
そして倒れた仲間を助けようとした団員は、つい手が伸びてしまう。
しかしその僅かな硬直時間を狙われ、再び複数の銃声と共に放たれた弾丸をその身に受けた。
胸と手足に複数の銃弾を受けた団員は、その場で倒れる。
それを見ていたワーグナーは目を見開き、口を大きく開きながら言葉にならない咆哮を上げた。
「……ぁあ……、……ぉあああああああッ!!」
ワーグナーは視界に居ながらも手の届かず救えない団員達を見て、涙を見せながら叫び声を放つ。
その叫びが響いた後、再び一つの爆弾が彼等が倒れる場所に投げ込まれた。
ワーグナーは反射に近い形で立ち上がり、仲間達を救おうとする。
しかし撃たれた団員達は、咆哮を上げるワーグナーに向けて最後の言葉を叫んだ。
「――……副団長ッ!!」
「!」
「後は、頼みます……ッ!!」
「……!?」
掠れた声で伝えた団員達は、そう述べながら僅かに口元を微笑ませる。
そして地面に落下した爆弾が赤い輝きを強め、再び団員達が倒れた場所で爆発を起こした。
その爆風がワーグナー達が居る場所にも届き、土埃と共に襲う。
更に木片や肉片も含めて、周囲に赤い鮮血を飛び散らせた。
ワーグナーはその欠片達を避けるように建物の影に隠れ、クラウス達と共に爆風を凌ぐ。
それから数秒後、爆風が無くなった後の光景を見たワーグナーは、憤りから悲哀の表情へ変化し、歯を食い縛りながら喉の奥から声を漏らした。
「……チクショウ……。チクショウ……ッ!!」
ワーグナーが見たその場所には、もう生きている者は誰も居ない。
そう思うしかないような惨状を見たワーグナーは、左手で顔を覆いながら目の奥から込み上げる涙を必死に抑えるしかなかった。
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