虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
847 / 1,360
革命編 四章:意思を継ぐ者

破格の勧誘

しおりを挟む

 奴隷として扱われる事になったエアハルトとクビアは、主人マスターとなったアルトリアと共に貴族街に設けられたとある屋敷に訪れる。
 そこで屋敷で待っていたのは、老騎士ログウェルと帝国皇子ユグナリスの師弟だった。

 彼等を改めて紹介しながらユグナリスとの喧嘩をし終えたアルトリアは、警戒し身構えるエアハルトとクビアに対してこう伝える。

「警戒するのは分かるけど、今日からアンタ達は同居人よ。少しは仲良くしなさい」

「お前が言うなよ」

「うるさいわねぇ」

「ほっほっほっ。話が進まんから、大人しくしとれ」

「うわっ!!」

 先程までと矛盾するアルトリアの言葉に突っ込むユグナリスによって、再び二人が喧嘩を始めようとする。
 それを仲裁するように微笑みながらユグナリスの後ろ襟を掴んで椅子に腰掛けさせたログウェルを見て、アルトリアは小さな溜息を漏らした。

 そんな様子を見ながら警戒を向け続けるクビアは、訝し気な視線を向けながら尋ねる。

「……同居って、どういうことぉ?」

「そのままの意味よ。今日からアンタ達が暮らすこの屋敷には、あの二人も住んでるのよ」

「……私達の監視役ってとこかしらぁ?」

「そう考えてもいいわよ。ただ私は、別の依頼をお爺ちゃんの方に頼んでるけど」

「依頼……?」

 アルトリアが述べる話の意味を理解できないクビアとエアハルトは、怪訝さを増した表情を隠さずに見せる。
 そうした中でログウェルが椅子の近くから離れてアルトリア達が居る傍に近寄ろうとすると、魔人の二人は一歩分だけ足を引かせながら構えの深さを強めた。

 そんな二人を見ているログウェルは、視線を向けずにアルトリアへ訪ねるような言葉を見せる。

「して、どちらもかね?」

「いいえ。今は男の方だけでいいわ」

「そうかね。どうせなら、アルトリア様もどうかね?」

「私は忙しいから、遠慮しておくわよ」

「残念じゃのぉ」

 二人はそうした話を行い始め、互いに一度だけエアハルトに視線を集中させる。
 その会話の中に自分の事が含まれているのを察したエアハルトは険しい表情を浮かべ、ログウェルが襲い掛かって来るのではと歯を剥き出しにしながら威嚇を始めた。

「グルル……ッ!!」

「ほっほっほっ。安心せい、ってったりはせんわよ」

 警戒心を剥き出しにするエアハルトに対して、ログウェルは微笑みながら諭す。
 そんな二人のやり取りを見ていたアルトリアは、改めてログウェルに行った依頼の説明を始めた。

「お爺ちゃんに依頼したのは、貴方の訓練よ。エアハルト」

「!?」

「さっきも言ったけど、私はしばらく忙しいから。その間の訓練を、お爺ちゃんに御願いするのよ」

「……コイツが、俺に訓練を施すだと……?」

「アンタ、強くなりたいんでしょ? だったら現役の七大聖人セブンスワンに訓練を受けるのは、かなり貴重な時間になるんじゃないかしら」

「!!」

 アルトリアが説明を行い、エアハルトの待望を得る為にログウェルに訓練の依頼をしていた事を明かす。
 それを聞いていたエアハルトは始めこそ拒絶に近い嫌悪の表情を見せたが、目の前の老人ログウェル七大聖人セブンスワンだと知って驚きながら目を見開いた。

 そうして驚愕の視線を向けられるログウェルは、微笑みながら話し掛ける。

「ほっほっほっ。依頼されたからには訓練を施すが、手加減はしてやらんぞい?」

「……いいだろう。強くなる為に利用できるなら、七大聖人セブンスワンの訓練とやらを受けてやる」

 ログウェルの挑発に似た言葉を受け、エアハルトは驚愕の視線を鋭くさせる。
 そして訓練を受ける事を承諾し、ログウェルは僅かに口元を吊り上げるように微笑ませた。

 そんな二人の様子を見ていたアルトリアは、思い出したようにログウェルに話す。

「そういえば、今は魔封じの枷を嵌めさせてるけど。訓練の時は外させる?」

「いや、そのままで構わんよ?」

「なに……!?」

「あら、いいの?」

「未熟な魔人ほど、魔力を用いた身体強化に頼りっきりになるからのぉ。むしろ魔力が枯渇した状態で肉体を強める方が良いんじゃよ」

「そう。なら、訓練の内容は貴方に任せるわ。お願いね」

「ほっほっほっ。引き受けましょう」

 ログウェルは魔封じの枷を嵌められたままエアハルトに訓練を施す事を伝え、アルトリアはそれを承諾する。
 その会話を聞いていたエアハルトは別の意味で驚きを浮かべ、ログウェルに対して疑心を秘めた言葉を投げ掛けた。

「……魔族は、魔力を用いてこそ強い。なのに、その魔力を封じたまま訓練をして何の意味がある?」

「そうした考えこそ、未熟なのじゃよ」

「ッ!!」

「確かに魔力を用いた魔族や魔人の身体能力は、人間を遥かに凌駕しておる。しかしそれ故に、魔力を用いた身体の動かし方に慣れ過ぎた魔族や魔人は、魔力が枯渇してしまうと人間と変わらぬか、下手をすれば子供に劣るようになる場合が多い」

「……それは、当たり前だ。俺達の力は、俺達の中に流れる魔力によって得られている」

「その当たり前を無くす必要があるんじゃよ。でなければ、お主はいつまでも弱いままじゃよ?」

「!?」

「丁度、お主との戦闘でユグナリスも自分に足りぬ経験モノを得られた。二人とも、次の段階となる訓練を行うとするかの」

 そう述べるログウェルは、エアハルトと後ろの椅子に腰掛けたままのユグナリスにそう伝える。
 エアハルトは怪訝な表情を更に深めたが、ユグナリスは覚悟する表情を浮かべながら唾を飲み込み身体が冷え込むような感覚を味わっていた。

 そんな三人の様子を見ていたアルトリアは、今度はクビアに話し掛ける。

「クビア。アンタにも、少しだけ話があるわよ」

「……何かしらぁ?」

「アンタの話をある程度は信じるとして。アンタが【結社】の仕事や私の誘拐依頼を受けた理由は、主に金銭目的なのよね?」

「そうねぇ」

「オラクル共和王国に雇われた時には、白金貨一万枚だったかしら? それは成功報酬? それとも前金で支払われた額?」

「成功報酬ねぇ。だからまだ、貰ってないのよぉ」

「なら私は、その倍。アンタに白金貨二万枚の出資をしてあげる」

「!」

「そのオマケで、アンタに帝国領の地方領地を一つゆずってあげる。そしてローゼン公爵家が全面的に支援して、アンタ達が保護してる子供達をその領地に集めて、ある程度の保証と将来の手助けをしてあげるわ。この条件で、帝国に寝返ってみない?」

 破格とも言うべき条件で寝返りの交渉を行うアルトリアに、クビアは口を小さく開けながら驚愕の表情で固まる。

 依頼の成功報酬より倍額の資金を得るだけではなく、資金繰りに苦労しながら養う孤児達が暮らせる場所を一領地として与えられ、しかも帝国内で莫大な財政能力を持つローゼン公爵家の支援を受けられるという話。
 しかしその破格とも言うべき条件が、逆にクビアの疑心を浮き彫りにさせた。

「……そんな事をしてぇ、貴方に何か利点メリットがあるわけぇ?」

「特に無いわね」

「だったらぁ、そんな事をする意味が無いじゃなぁい。……私を騙そうとしてるのかしらぁ?」

「別に騙す気なんか無いわよ」

「信じられないわぁ」

「まぁ、それは当然ね。なら、私が考えてる正直な話をしてあげるわ」

「……まぁ、聞きましょうかぁ」

「正直な話、私は今の帝国が深刻なまでに人材が不足していると思ってる」

「へぇー」

「帝国内で起きた反乱のせいで多くの貴族家と関連する人間が処罰されて、各領地に使える人材が割り振られたせいで帝都内の人材が薄い。オマケにお父様クラウスが居なくなったせいで帝国内の統制能力が以前より劣ってるし、それを補えるような優秀な人材の育成が追い付いてない。今の帝国には、仕える人材が少なすぎるのよ」

「……それでぇ?」

「そして今の帝国は、オラクル共和王国と敵対しようとしている。七大聖人セブンスワンのログウェルは戦争行為に参加できないし、私だって戦争なんかに手を貸すつもりは無い。でも今の帝国が共和王国と対峙して勝つ可能性は、少し薄めね」

「……そこで、魔人の私を取り入れて人材の補強ってことぉ?」

「そうよ。帝国……と言うより、お兄様は優秀な人材を欲している。だったらオラクル共和王国と同じように、外部から人材を仕入れるしかない。でも共和王国以上の条件を出して人を引き入れられる程、余裕があるわけじゃないわ。なら目の前に誘い易そうな人材が居たら、引き入れておくのが最善じゃないかしら?」

「……つまりぃ、私に共和王国むこうのくにと戦わせるようにしたいってことかしらぁ。そしてエアハルトもぉ?」

 話を聞いていたクビアは自分達が求められている理由を察し、嫌そうな表情を浮かべながら問い掛ける。
 それを聞いていたエアハルトも表情を厳しくさせ、嫌悪の視線をアルトリアに向けていた。

 そんな二人の視線を受けながら、アルトリアは堂々とした様子で答える。

「まさか。そんな事なんかさせないわよ」

「!」

「そもそも、アンタ達は私の奴隷よ? 私が参戦しないのに奴隷だけ参戦させるなんて理屈、通るはずがないじゃない」

「……でもぉ、奴隷の戦士も戦争ではよく使われるじゃなぁい?」

「そんなの、まともに兵力かずも揃えられない国がやる事でしょ」

「でもぉ、さっき帝国このくには人材不足だって言ったじゃなぁい?」

兵力かずならいるわよ。その気になれば皇国の方に増援も呼ぶ手もあるし。私が言ってる問題は、しつの話。共和王国むこうがどんな状況かはともかく、その前に他国から多くの人材を招き寄せてたのは確か。なら帝国としては、どうするのが最善の選択だと思う?」

「……まさかぁ、共和王国むこうから人材を引き抜くぅ?」

「そういうこと。その手始めが、アンタってわけ」

 アルトリアは微笑みを強めながらクビアの寝返りにどのような意図があるかを話し、クビアは少なからず納得を浮かべる。

 ミネルヴァの自爆によって共和王国が大きな被害を受けた今、共和王国むこうが引き入れられた人材は大きな不安を持つだろう。
 その隙を狙うように共和王国むこうの人材を帝国側へ勧誘し、人材の増強と共和王国側の弱体を強める。

 そうした策略の手始めとしてクビアを寝返らせる為に資金と場所を提供した現ローゼン公爵セルジアスは、妹を介してクビアの勧誘を行っていたのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...