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革命編 四章:意思を継ぐ者

迎える者へ

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 狼獣族エアハルトと妖狐族クビアの二人を奴隷にしたアルトリアは、帝都の貴族街に設けられた一つの屋敷に連れて来る。
 そして場面は屋敷に到着した時間に戻り、アルトリアは鉄柵に設けられた外門を開けて二人を屋敷の敷地へ招き入れた。

「――……さぁ、入りなさい」

「お邪魔するわねぇ」

「……」

 クビアは悠々とした様子で門を潜り、厳かな表情を浮かべたエアハルトも無言のまま付いて来る。
 それを確認したアルトリアは屋敷に設けられた扉の呼び鈴を鳴らすと、内側から扉が開けられた。

 内側から出迎えたのはを口髭を生やした壮年の男性であり、執事服を身に付けながら丁寧な礼でアルトリアを出迎えた。

「――……おかえりなさいませ。御嬢様」

「後ろの二人、今日からここで寝泊まりするから。聞いてるわよね?」

「聞き及んでおります。御二人の為に、既に部屋も御用意させて頂きました」

「そう。なら、後で案内してあげて」

うけたまわりました」

「二人とも、付いて来なさい」

 アルトリアと男性執事はそう話し、クビアとエアハルトについて話す。
 そして外に控えていた二人にアルトリアは呼び掛けると、屋敷内に誘いながら歩き始めた。

 それに追従するクビアは男性執事に軽く手を振りながら挨拶し、エアハルトは特に反応もせずに付いて行く。
 そして廊下を歩くアルトリアの背中を見ていたクビアは、先程の会話について不思議そうにアルトリアへ訪ねた。

「……ねぇ。部屋ってぇ?」

「部屋は部屋よ。それ以外に何があるの?」

「そうじゃなくてぇ。奴隷に部屋を用意するのぉ?」

「用意しなくてどうするのよ。アンタ達、屋敷の外で野宿でもするつもりだったの?」

「そうじゃなくてぇ。普通はぁ、他の奴隷と一緒に集められた場所で寝るものじゃなぁい?」

「普通はね。でも、この屋敷にそんなモノはないし、奴隷も居ないわ」

「そうなのぉ?」

「貴族関係者以外で帝城しろ貴族街このくかくで働いてる人間のほとんどは、各貴族家の出身者だったり各貴族家に仕えてる専属使用人の家系に関わる人間ばかりよ。たまに優秀な人を市民街とかから勧誘スカウトすることもあるけど、基本的に奴隷を使う帝国貴族家は貴族街ここには居ないわ」

「へぇー」

「帝都で奴隷を使ってるのは、市民街しみん流民街るみんの人間達くらいよ。それでも普通、奴隷には部屋を与えてるわ。多すぎる場合には、宿舎施設も用意してるし」

「ふぅん、そうなのねぇ」

「アンタ達が奴隷にどういう知識を持ってるか知らないけど、帝国の法律では奴隷にも人権は適応されるわ。奴隷分の税金は買った主人マスターが支払うし、住む場所や食事も法を順守して与える必要がある。もし奴隷の扱いを疎かにしたり酷い扱い方をしてる事が明るみになったら、その主人が罪に問われる場合もあるわ」

「!」

「まぁ、奴隷と言っても種類はあるけど。犯罪奴隷の場合は刑罰として労働環境が過酷な仕事をやらされることが多いし、借金奴隷だったら収入は高いけど危険な仕事を与える場合もある。孤児奴隷なんかは将来の為に、専門職の仕事で下働きなんかを経験させる場合もあるわね」

「でもぉ、それって本当に奴隷なのぉ? 普通の人間を雇ったりするだけでいいんじゃなぁい?」

「そんな事をしたら、浮浪者が増えるでしょ? 孤児や浮浪者を出来る限り失くして保護して、奴隷にしてでも国の将来に繋がる仕事に関与させる。そういう人間は与えられてる給金で後々に自分を買い戻して、培った経験を下に職を得て暮らせるようになり易い。でしょ?」

「……そうなのぉ?」

「奴隷の扱いに関しては各国で微妙な違いはあるみたいだけど、四大国家に属する国ならほとんど一緒のはずよ。マシラ共和国でもそうだったんじゃない?」

「確かにぃ、そうだった記憶はあるけどぉ。……実際はぁ、奴隷ってだけでも嫌悪されたりぃ、見下す人間もいるじゃなぁい? そういう中で暮らす奴隷ってぇ、凄く惨めだと思うんだけどぉ」

「そんな低俗な人間の周りに囲まれて働く奴隷は、確かに不幸でしょうね」

「不幸ねぇ。……その不幸がぁ、今はいっぱい人間大陸にあるんじゃないかしらぁ? 貴方が知らないだけでねぇ」

 クビアはそうした話を後ろから行い、奴隷の事を聞きながら自身の経験を元に話を聞かせる。
 それに対してアルトリアは感情をあらわにしたり動揺する事も無く、落ち着いた声色でクビアの言葉を肯定した。

「確かに、そうかもしれないわね」

「あらぁ、素直に認めちゃうのぉ?」

「私だって万能じゃないし、自分の知識が絶対の叡智だと思ってるわけでもない。世界で起きてる出来事なんて、一分いちぶも理解できてるわけじゃないわ。だからアンタが知ってて私が知らない事があるのも、当然だと思ってるわよ」

「……」

「その逆も同じ。魔人のアンタ達が人間に対する酷い部分を多く知ってても、人間に対して良い面がある事も私は少しだけ知っている。それを比較するなら、圧倒的に酷い部分の方が人間には多いんだろうけど。それが人間の全てだなんて考えるような傲慢だけは、絶対に認める事は出来ないわ」

「言うわねぇ。私よりずっと年下の御嬢ちゃんなのにぃ」

「貴方が若さを持つ考えを否定の対象にするなら、私は自分より老いてる存在の考えを否定の対象にするけど?」

「……ああ言えばこう言う子ねぇ」

「話くらいなら、幾らでも付き合ってあげるわ。子供の頃から、口論そういうのは得意なのよ」

「遠慮しまぁす」

 一つの言葉を返す度に多くの持論を投げ掛けて来るアルトリアの物言いに、クビアも疲れた表情と声色で話を止める。
 それを聞きながら小さな嘆息を漏らしたアルトリアは、とある部屋の前で立ち止まった。

 そして追従している二人も足を止めると、アルトリアは二人に顔を向けながら伝える。

「同居人を紹介するわ」

「同居人?」

「今、この屋敷で暮らしてる人間。同居人に顔を知ってもらうのは、当然でしょ?」

「私達と同じ奴隷なのぉ?」

「さっきも言ったでしょ。この貴族街まちに居る奴隷は、今のところはアンタ達だけよ。――……入るわよ!」

 そう述べるアルトリアは木製の扉を三度だけ叩き、声を発しながら室内に居るだろう同居人に訪問を伝える。
 そして無遠慮に扉に右手を伸ばし開いて室内に進むと、クビアとエアハルトも追従して部屋の中に足を進めた。

 しかし室内で待っていた人物を目にし、クビアとエアハルトは驚愕を浮かべる。
 更に反射的なのか、二人は身構えながら僅かに腰を引かせた。

 そんな二人の様子を確認するアルトリアは、微笑みを浮かべながら伝える。

「改めて、アンタ達に紹介してあげる。――……あのお爺ちゃんが、ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。そして馬鹿そうな顔をしてるのが、この帝国くにの皇子ユグナリスよ」

「――……おいっ、馬鹿そうな顔ってなんだっ!?」

「あぁ、そうね。馬鹿だってちゃんと考えてる事があるから馬鹿って呼ばれてるのよね。この場合、何も考えてない頭の悪そうな顔だったわ」

「お前……っ!!」

「――……ほっほっほっ。若者は元気じゃのぉ」

 二人に対して紹介の言葉を伝えるアルトリアに、椅子に座っていたユグナリスが立ち上がりながら怒鳴る。
 そんな二人の口論を微笑みながら呑気に眺めるログウェルは特に喧嘩を止める様子も無く、クビアとエアハルトは身構えたまま困惑した表情を浮かべていた。

 こうして奴隷となってアルトリアが案内した屋敷に訪れた魔人の二人は、一度は敵対した相手と再びまみえる。
 ログウェルとユグナリスの師弟に引き合わせたアルトリアの思惑は、今の二人にとって未知の思考となっていた。
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