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革命編 四章:意思を継ぐ者

悪魔の騎士

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 帝城内で追い詰められる妖狐族クビアは自ら本気の力を示し、悪魔と化したベイガイルを圧倒する。
 しかし焦りと油断よりベイガイルを仕留め損ね、接戦に持ち込まれ大きな損傷ダメージを受けて絶体絶命の状況に追い込まれた。

 一方その頃、祝宴が行われていた会場で対峙する狼獣族エアハルトと元皇国騎士ザルツヘルムもまた、熾烈な激戦を見せている。

 床や壁に金色の雷を走らせるエアハルトは、影から出現する下級悪魔レッサーデーモン達の出現を抑制する。
 そして下級悪魔レッサーデーモン達を率いるザルツヘルムと一対一の状況に持ち込み、『敵』として接戦を繰り広げていた。

「――……ッ!!」

「フッ」

 しかし状況を覆し有利に見えるエアハルトの戦況は、思わぬ形で苦戦を見せる。
 魔人オオカミ化した身体能力と狼獣族特有の固有魔術かみなりで強化した状態であっても、繰り出す爪と脚撃を見切るザルツヘルムが余裕を崩さぬ状況にあった。

 逆に余裕を見せないエアハルトは素早くも大振りの攻撃が多く、ザルツヘルムはそれを回避しながら右手に持つ長剣を走らせる。
 そしてエアハルトの顔面を突いた長剣が頬を霞め、顔の毛を僅かに削ぐ。
 しかも凄まじい熱量を放つ雷撃に影響を受けないザルツヘルムと彼の持つ長剣に目を向けながら、エアハルトは身を引かせて息を乱しながら向か合った。

「……グルル……ッ!!」

「何故、貴様の攻撃が見切れるか教えようか」

「!」

「貴様は、自分自身の身体能力に適応できていない。その覚醒すがたを、自分自身の能力で扱えていないということだ」

「……知ったような口を……」

「分かるのだよ。――……私自身も、この力を得たばかりの時には同じ経験をしたからな」

「同じ……?」

「今は制御できているが、先程の下級悪魔あくま達も手懐けるのに苦労した。何より苦労したのは、自分自身の憎悪から得られる力を完全に御し切ることだった」

「……憎悪の力?」

 ザルツヘルムはそう語り、エアハルトの力量が覚醒した力と見合っていない事を伝える。
 それに伴い自身の得た力について語る言葉を聞き、エアハルトは眉を顰めながら聞き返した。

 その言葉に応じるように、ザルツヘルムは自分の持つ力についても語り始める。

「そう、憎悪によって高まる力。――……それが、ウォーリス様の与えられた私のちからだ」

「……与えられただと?」

「ウォーリス様は様々な知識を得て、あるモノを作り出した。それが、自身の憎悪を力へと変換する種。『悪魔の種』」

「!」

「『悪魔の種』を得た者は、自らの憎悪を糧として独自の進化を遂げる。それにより得られる力は、まさに『悪魔』と呼ばれるに相応しいモノとなるのだよ」

「……その種とやらを与えられ、貴様は俺と拮抗する力を得たとでも?」

「拮抗? いいや、拮抗ではない。――……貴様のような魔人すらも圧倒する、悪魔あくまの力《ちから》を得たのだ」

「!」

「先程の下級悪魔あくま達は、その失敗作。自らの憎悪に飲まれ、もとの意思どころか姿も保てぬ異形となった悪魔達。……だが憎悪に負けぬ自我を有する事が出来れば、私のように人の姿を保ち、そのまま悪魔の力を御する事も可能になる」

「……なら、会場ここに入って来たあの巨大なやつも……」

「そう。アレもまた、悪魔の種により力を得ようとする元人間。だが自我を保てず憎悪の泥に飲まれたままであれば、いずれは人間だった頃の意思や言葉すらも忘れ、ただ欲望と憎悪のまま暴れるだけの怪物となる」

「……」

「エアハルト。貴様の話は、こちらの協力者である魔人から聞いている。貴様もまた人の世で不当に扱われ、人間を憎み、更なる力を得たいと渇望していたのだろう?」

「……それがどうした?」

「ならば貴様にも、ウォーリス様から『種』を得られる権利がある」

「!!」

 ザルツヘルムは自ら得た力が『悪魔の種』によるモノだと語り、エアハルトに教える。
 更に人間を憎み力を渇望するエアハルトの情報も把握しており、『悪魔の種』を与えて味方へ引き込もうと勧誘を始めた。

「ウォーリス様もまた、の世に憎悪しておられる。そしての世を正す為に、多くの同志を必要としておられているのだ」

「……」

「貴様も人を憎み、世の理不尽を嫌う者であれば。悪魔の力を得てウォーリス様の下で協力し、この世を正す事に協力しろ。そして共に、憎い者共に復讐を――……」

「――……ク、ハハ……ッ」

「……何がおかしい?」

 ザルツヘルムの勧誘を聞いていたエアハルトは、唐突に乾いた笑いを見せる。
 その笑いが侮りと嘲りの笑いである事を察したザルツヘルムは、睨みを向けながら問い掛けた。

 それに対する答えを、エアハルトは毅然とした態度で見せる。

の世を正すだと? ……どうやら貴様も、そして貴様が尻尾を振るウォーリスとやらも、何も分かっていない」

「……どういう意味だ」

「貴様等のような愚かでくだらぬ人間がいる限り、この世は正されない。そう言っている」

「!」

「この世は強き者が上に立ち、弱き者が下に立つ。それこそ正しい世界で、それ以外は正しくない世界だ。……世の理を正すなど、ただの愚かな人間の詭弁だ」

「……」

「俺の憎悪も理解せず、悪魔とやらの力にすがるしかない貴様は、やはり愚かでくだらぬ人間だ。――……狼獣族おれを舐めるなよ。人間如きがッ!!」

 嘲りと憤怒の混じる言葉を向けたエアハルトに対して、ザルツヘルムの表情に影が落ちる。
 その影に隠れた表情に宿る感情で口元を微笑ませたザルツヘルムは、エアハルトの勧誘について諦める様子を見せた。

「……貴様程の実力であれば、ウォーリス様の良い手駒になると思ったが。……やはり魔人とは、御し難い連中ばかりのようだ」

「貴様達に従う魔人ものなど、誇りの無い愚か者以外にはいない」

「……いいだろう、譲歩できる最後の交渉は決裂した。――……この場で、帝国かれらと共に、ウォーリス様の『敵』として死ぬがいい。愚かな魔人よ」

「!」 

 完全に意見を違えたエアハルトに対して、ザルツヘルムは鋭い表情を見せる。
 それと同時にザルツヘルムから黒い瘴気オーラが放たれ、エアハルトは凄まじい不快感と悪寒を感じ始めた。

 構えながら纏う雷撃を強めるエアハルトに対して、ザルツヘルムは長剣の柄を胸部分に置きながら剣の刃を上に向ける。
 それが帝国騎士や皇国騎士が主君に忠誠を見せる動作だと会場に居る帝国の者達は気付いたが、それを踏襲するようにザルツヘルムは次の変化を見せ始めた。

「見せてやろう。貴様達に、本当の騎士がどう在るべきかを」

「!」

「我が忠誠は、自らの憎悪や悪魔などには屈しない。――……これが、私の忠義ちからだッ!!」

 黒い瘴気オーラを迸らせながら自身の肉体に纏わせ始めるザルツヘルムは、その姿を変貌させていく。
 身に纏う瘴気オーラがまるで全身を纏う鎧と化し、更にザルツヘルムの顔を隠す甲冑にも成り始めた。

 更に握る長剣は刀身を黒に染め、瘴気オーラの鎧は同じ色合いの外套を身に付ける。
 そして瘴気オーラの溢れが止まると、変貌したザルツヘルムの姿を見て会場内の人々はこうした声を漏らした。

「……なんだ、さっきの黒い霧は……?」

「奴の姿が、変わったぞ……」

「しかし、アレはまるで……」

「……騎士の鎧だ」

 そうした声を漏らす人々の声は、ザルツヘルムの変貌を確認する。

 人の姿だったザルツヘルムは地肌の見えぬ鎧と甲冑を身に纏い、黒い外套を羽織る黒騎士の姿となっていた。 
 更に身に付ける鞘や剣も黒に染まり、その様相は一見すればただの騎士に見えなくも無い。

 しかし感の良い者や対峙するエアハルトは、ザルツヘルムがただ黒い鎧を纏っただけではない事を察している。
 彼から放たれる威圧感は先程の比ではなく、また漂う気配も完全に人の域を超えた人外の存在モノであることを理解させた。

 そして黒い瘴気オーラの鎧を身に纏うザルツヘルムは、甲冑の隙間から赤い瞳を見せて声を発する。

「――……私の忠誠は、死して尚も揺るがぬ」

「!」

「ナルヴァニア様、そして彼女の忘れ形見であるウォーリス様。……私の忠誠は、彼等と共に在り続ける」

「……貴様……」

「今の私は、悪魔騎士デーモンナイト。――……我が意義は、主君への『忠義《けん》』に在りッ!!」

 黒剣を構えるザルツヘルムは、電撃を纏うエアハルトに向き合いながら矛先を向ける。
 そして自身の名と在り方を改めて告げると、『敵』であるエアハルトに対して迷いの無い敵意と殺意を向けた。

 こうして悪魔騎士デーモンナイトへと変貌したザルツヘルムは、自身の忠義を示す。
 そして『敵』であるエアハルト達を屠る為に、その忠義を貫く姿勢を見せた。
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