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革命編 四章:意思を継ぐ者

妖狐の奮戦

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 魔族と呼ばれる者達には、一貫して共通点がある。
 それは人間の姿や生態が異なるという以上に、体内器官で自身の魔力マナを生み出せるという特徴があった。
 故にそうした生態を持つ者達を『知恵を持ち魔力を生み出す者』という族称で語られ、時代の流れにより『魔族』と呼ばれるようになる。

 しかし『魔族』と呼ばれる者達でも、その出自は大きく分類される。
 その一例に挙げられるのが、『妖精』を祖としている者達と、『魔獣』を祖とする者達の二種類がいた。

 『妖精』を祖とする種族は、いずれに人間の絵物語で語られる存在。
 小鬼族ゴブリン大鬼族オーガ妖耳族エルフ黒耳族ダークエルフと呼ばれる者達。

 彼等の祖先となる妖精達はそれぞれの土地に住み着き、その過程で実体を持ち別々の進化を辿る。
 そうした別個の進化により姿形や特徴は大きく異なりながらも、大元は同じ『妖精』という種族を祖先としていた。

 しかし『魔獣』を祖とする者達は、彼等と違い更に分類が大きく分かれる。

 魔獣と呼ばれる存在は動物が魔力を得て進化した生態を持つ為、先程に述べた『妖精』よりも生態的には『人間』に近い。 
 更に魔獣種の中にはそれぞれ『キング』と呼ばれる者達が過去に存在しており、彼等は自身の肉体を変異させ『人間ひと』に限りなく近い姿を模る事も出来た。

 そして時代が流れる中、何を思ってかそうした魔獣の王達が人の姿を模り人間と交わるという事態が起きてしまう。
 そんな魔獣達の間に生まれた子は魔族の中でも『獣族』と呼ばれ、それぞれの祖である魔獣に似た特性と魔力特性を受け継ぎ、同じく魔族と呼称されている『妖精』の子孫とは見た目や風習が大きく異なっていた。

 この祖となる魔獣達の中には、『九尾キュウビ』と呼ばれたきつねが存在している。

 犬に近い姿ながらも九つの尾を有し、その一本一本に別々の属性魔力を宿して魔術を放っていたという、一風変わった魔獣種。
 その『九尾』を祖先として人間と交わり成された者達は、現在では『妖狐族』と呼ばれていた。

 しかし同じ妖狐族の中にも、時代の流れで様々な違いが生じて来る。
 それは妖狐族として生まれながらも、様々な魔術を用いる為の尾の数が全く違うというハッキリとした格差だった。

『――……妖狐族われわれは人と交わる事で、九尾様の血を薄くさせた。それ故に九尾様の血が薄い程に尾の数が少なくなり、今では一本だけの尾を持つ者が大半。……尾の数に比して生み出す魔力マナの種類と魔力量が増減する我々にとって、これ以上、九尾様の血のを薄れさせるわけにはいかない』

 大昔に九尾が死んだ後、人と交わり力が衰える事を感じた過去の妖狐族はそれに応じた掟を作る。
 これから生まれる妖狐族の尾を減らさぬように取り決めた掟により、尾の数が違う者達は決して結ばれてはならず、また尾の数が多い者達同士の子作りを優先するという、厳しい規律が生み出された。

 その結果、妖狐族は獣族の中でも大きな繁栄できず、絶滅の危機に陥る。
 例え卓越した魔術の使い手でも数が少なければ外敵に対応できる手段も無く、妖狐族は強敵の多い魔大陸から追われ、結果として魔人の多くが住み着いているフォウル国へ身を寄せ、到達者エンドレスである巫女姫の庇護を受けることになった。

 そして二百年以上前、そのフォウル国に『九尾』の血を色濃く受け継いだ九つの尾を持つ二人の女児が生まれる。
 姉の名は『タマモ』、妹の名は『クビア』と名付けられた双子は、干支衆の課す修練を受けながら妖狐族の秘術を受け継ぎ、フォウル国内で最も卓越した魔術師へと成長した。

 そして姉タマモは巫女姫レイの守護者として十二支の『犬』を束ねる干支衆トップに選ばれ、更に妖狐族いちぞくを束ねる当主となる。
 しかし五十年以上前に妹クビアはフォウル国から逃げ出し、姉クビアに殺されそうになりながら人間大陸へと逃げ延びた。

『――……ひぃっ!!』

もどりんさい、クビアッ!!』

『絶対に嫌よぉ!!』

『アンタは妖狐族いちぞくの為に、多くの子を残す役目があるやろっ!!』

『そんなのぉ、お姉ちゃんだけでやればいいじゃなぁい! 私より弱くて尾も少ない不細工な同族おとこの子なんてぇ、絶対に孕みたくないわよぉっ!!』

『待て言うてるやろっ!! それ以上、駄々捏だだこねるようやったら――……しまいには殺すど、おどれっ!!』

『あぁんっ! 殺されるのはもっといやぁっ!!』

 九つの尾を持ち生まれた姉タマモと妹クビアは、妖狐族の絶滅を防ぎ力を継続させる為に血を残す事を一族から義務付けられる。
 それを拒否し逃げ出した妹クビアは妖狐族いちぞくや姉タマモと完全に決別し、人間大陸に潜みながら自身の思うままの人生を過ごす事を決めた。

『――……本気を出したらぁ、お姉ちゃんに居場所を気付かれるわよねぇ……。……とりあえずはぁ、適当に魔符術これだけで誤魔化してぇ、気楽に人間大陸ここで過ごすのが一番ねぇ』

 クビアは姉タマモに殺されずに人間大陸で暮らす為にも、卓越した魔力制御により本来の力を大きく抑えながら暮らすようになる。
 それでも人間大陸で必要な金銭や居場所を確保する為に、同じくフォウル国から出奔したゴズヴァールの居る闘士部隊に入り、『青』が束ねる【結社】や十二支士の『子』と仕事を無難にこなして来た。

 そのクビアが、今まさに隠し続けた本気の力を披露する。
 悪魔と化したベイガイルを相手に抑えた力では対処できないと判断したクビアは、九つの尾を出し身体中の魔力を解放する赤い紋様くまどりを浮かべていた。

「――……本気でやるからには、手早く終わらせるわよ」

「……ガ、グ……ァアアアアッ!!」

 凄まじい突風に混ぜ合わせた炎熱がベイガイルを焼きながら吹き飛ばし、帝城内の区画を抉り燃やす。
 その威力は先程の魔力斬撃こうげきに比べる事も出来ぬ程に強力であり、ベイガイルに対して深々とした傷と掻き消えない炎で苦痛を与えていた。

 しかし、それでもベイガイルは高い再生能力を見せて起き上がる。
 それと同時に吹き飛ばされた距離を一気に詰めるように飛び掛かるベイガイルに対して、クビアは九つの尾に魔力を灯しながら再び扇子を向けた。

「――……『合魔ごうま』、氷瀑星ひょうばくせい

「ァア――……ッ!?」

 再び向かって来るベイガイルに対して、クビアは光る尾の中で三色の色を光らせる。
 それと同時にクビアの前方に廊下の幅に合わせた巨大な氷岩こおりが出現し、それが凄まじい速度でベイガイルに放たれた。

 巨大な氷岩こおりはベイガイルに直撃し、再び帝城内じょうないを破壊しながら諸共に吹き飛ばす。
 しかしベイガイル自身は無傷を保ち、足を削れる床に着けながら両腕で氷岩こおりを受け止め、完全に勢いを殺して見せた。

「この程度でぇえ――……ッ!?」

 怪力を持つベイガイルは氷岩こおりを投げ返そうとする動きを見せた際、突如として赤い光が発せられる。
 それは氷岩こおり自身が発光している状況であり、状況が分からぬままベイガイルは赤い光に飲み込まれた。

 そして次の瞬間、ベイガイルが掴む氷岩こおりを中心に大きな爆発を起こす。
 その爆風と飛んでくる瓦礫を結界で防ぐクビアは、冷ややかな目を向けながら呟いた。

「……複数の魔力属性を合わせて魔術にする、『合魔ごうま』。普通の魔術とは、一味も二味も違うわよ」

 クビアはそう語り、爆発現場に舞う埃を突風で払いながら一早く状況を確認する。
 すると爆発の中心地から更に奥へ吹き飛んでいるベイガイルが、身体の半分以上を吹き飛ばされ倒れている光景が強化した視力で確認できた。

「――……ガ、ガ……グギィ……ッ!!」

「……嘘ぉ、アレでも死なないのぉ……?」

 殺したかに見えたベイガイルが息を残し、更に吹き飛んだ身体すら黒い泥で修復している光景をクビアは見てしまう。
 そして両足を修復し跳び起きたベイガイルは、右顔と右半身が吹き飛んだままクビアに向けて走り出した。

貴様キサマァアアアッ!!」

「しょうがないわね。――……『合魔ごうま』、氷瀑流星ひょうばくりゅうせい

 死ぬ様子も無く再び向かって来るベイガイルに対して、クビアは再び氷岩こおりを生み出す。
 しかし先程のように廊下を埋める巨大な形状ではなく、人間の頭ほどの大きさがある氷岩こおりを数十個以上も前面に生み出し、それをベイガイルに向けて放った。

 その速度は巨大な氷岩ときより速く、ベイガイルに襲い掛かる。
 しかしそれを迎撃しようと再生を終えている左手で迎撃しようとしたベイガイルだったが、氷岩こおりに拳が直撃した瞬間に赤い光と凄まじい爆発が発生した。

「ハ、グ……ッ!?」

「すぐ再生するなら、再生する間も無く全て吹き飛ばせばいいだけよね」

「グ、ガァア―ー……」

 クビアは扇子を向けたまま中空に新たな氷岩こおりを生み出し、それを際限なく放ち続ける。
 そして放たれた氷岩こおりはベイガイルに直撃すると爆発を起こし、避けようとしても近くを通過した時点で爆発した。

 逃げ場も無く前後左右で爆発を起こされるベイガイルは、その悲鳴さえ爆発音に消えながら吹き飛び続ける。
 飛び散る黒い肉片すらも爆発で吹き飛びながら消失し、人に似た姿は完全に失われ、それでも百を超える氷岩こおりの爆発が一分以上に渡り続いた。

 それを終えた後、クビアは再び埃が舞う場を突風で掻き分ける。
 そして視界を通し易くした後、ベイガイルの居た場所を見ながらその姿を確認した。

「――……あらぁ、意外と呆気なかったわねぇ」

 クビアは魔力で強化した視力で確認し、吹き飛ばした一帯の様子を確認する。

 爆発した周囲には瓦礫すら残らぬ程に吹き飛ばされ、前後左右の建築物を大きく削り取っていた。
 そこにはベイガイルの肉片や黒い泥も残っておらず、それを確認したクビアは小さな溜息を漏らして安堵の言葉を漏らす。

 そして自身を纏う結界を解除しながら、クビアは身体に浮かぶ赤い紋様くまどりを引かせながら渡り廊下を歩き始めた。

「……後はぁ、会場に戻って奴隷契約を解除してぇ、転移で逃げればいいわよねぇ。……でもあんな数を転移できる札は無いからぁ、どうしましょうかぁ。……いざとなったらぁ、一人で逃げちゃうのも手よねぇ――……ッ!?」

 これからの行動を考えるクビアは、そうした本音を漏らしながらも会場に戻る為の順路みちへ向かう。
 そして廊下を曲がろうとした時、凄まじい悪寒と歪な気配を感じ取った。

「……なに……?」

 クビアは悪寒の正体を探るべく、再び扇子を広げ紙札を持ちながら構える。
 そして強化した視力で再び観察した後、感じ取った悪寒が奇妙である事を察知した。

「……違う。この悪寒かんじは、アイツが居た場所じゃない……。……これは……!?」

 ベイガイルが吹き飛んだはずの場所から悪寒を感じないクビアは、その正体が別方向から来るモノだと察する。
 しかしその方角を知る前に、その悪寒が自ら居場所を明かしながら襲い掛かって来た。

「――……捕まえたァアアッ!!」 

「!?」

 クビアは天井が割れ砕けると同時に現れる声に驚き、上を向きながら結界を展開する。
 そこに現れたのは更に禍々しい異形の姿と化したベイガイルであり、頭に生えた角は三本に増え、背に持つ羽を動かしながら飛翔した姿で両拳を向けながら結界に衝突した。

 突如として現れたベイガイルの姿に、クビアは結界越しに驚愕の声を漏らす。

「あの状況で、なんで生きて――……まさか、あの爆発を利用して上に……!?」

「死ねぇえッ!! 死んでしまえぇええッ!!」

「ッ!!」

 上からの突撃を受けた結界は、先程と同様にベイガイルの両拳に突破される。
 その穴を基点に結界を抉じ開けようとするベイガイルに対して、クビアは再び全身に赤い紋様くまどりを浮かばせた。

 そして扇子を振り翳し、突風を放つ事でベイガイルから距離を取ろうとする。
 しかしそれよりも早く、ベイガイルは結界を抉じ開けて砕き、クビアに向けて右拳を振り下ろした。

 しかしクビアは飛び避け、向けられた拳は床へ向かう。
 そして着けられた拳がその周囲一帯を吹き飛ばしながら破壊し、その衝撃派がクビアの肉体を傷を生み出しながら吹き飛ばした。

「クゥッ!!」

 殴打の衝撃波だけで全身に傷が生じた事に驚くクビアは、瓦礫を浴びながらも吹き飛んだ状況を利用してベイガイルから離れようとする。
 しかしそれより早く、羽を動かし跳んだベイガイルの追撃がクビアに届いた。

「殺すぅううッ!!」

「ッ!!」

 ベイガイルの左拳は正確にクビアの身体に狙いを定め、凄まじい速度と威力で放たれる。
 それを防ごうと幾重にも重なる小規模で分厚い結界をクビアは作り出したが、突き出される拳は張られた結界を破壊し、クビアの腹部に右拳を届かせた。

「ガ、ェハ……ッ!!」

 クビアは口から大量の吐血を起こし、手に持つ扇子や紙札を手放しながら吹き飛び帝城内じょうないの壁に激突する。
 そして最後には床に激突しながら転がり、右足や左腕の角度が正常ではない様子を見せながら床に血を吐き出した。

「……ごっ、がは……っ。……ヘマ、しちゃったぁ……」

 結界により威力を軽減させながらも、クビアは身体中の骨が折れて血を流し、腹部にも重大な損傷ダメージを受けた事を自覚する。
 それ等を治癒する為に折れていない右手を使い胸元の紙札を取り出そうとしたが、それを待たずして倒れるクビアの目の前に降り立つ異形の足が見えた。

「――……これで、終わりだぁ……ッ!!」

「……そう、よねぇ……」

 その声がベイガイルである事を察したクビアは、淀んだ殺意を受けながら諦めの息を漏らす。
 そして殺される前に意識を手放し、殺意に満ちたベイガイルの振り上げる両拳がクビアの頭上へ降り注いだ。

 こうしてベイガイルとクビアの戦いは、帝城内じょうないに鳴り響く巨大な衝撃音で終わりを告げる。
 憎悪に満ち悪魔と化したベイガイルに対して、クビアは奮闘しながらも抗う事は出来なかった、
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