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革命編 四章:意思を継ぐ者
苛烈な迎撃
しおりを挟む影内部に広がる異空間に侵入したアルトリアは、そこで悪魔騎士ザルツヘルムと対峙する。
しかし異空間内の瘴気により魔力と生命力を吸収され、何の抵抗も出来ずに拘束されてしまう。
一方でアルトリアを追う為に飛竜に騎乗しているエリクとパールは、南下する影を追い帝都の流民街区域を飛行していた。
しかし二人の視界には、完全に崩壊している流民街の光景が映る。
悪魔化した合成魔獣の侵攻で建物群は完全に瓦解し、瘴気の腐臭と各場所から漂う血生臭い匂いが二人の嗅覚を通じて不快な表情を露にさせていた。
「――……これは……っ」
「……ッ」
パールは表情を歪めながら、下の状況に苦々しい様子を浮かべる。
同じ景色を見るエリクも表情を強張らせ、未来で襲撃を受けていた港都市や皇都の状況が重なり合うように脳裏に浮かんだ。
点在する場所からは火が燃え広がりながらも、人の気配は感じられず、また人の声も聞こえない。
少し前までは新年の祝杯で人々が賑わっていた南地区の流民街に、生存者は誰もいなかった。
そうした光景を目の当たりにしながらも、エリクは南下する影に視線を戻す。
そして外壁を越えようとする影の膨らみに気付き、パールに呼び掛けた。
「影が外に出る。追いつけそうか?」
「……ああ」
「……パール。影の上まで行けたら、お前は戻れ」
「!?」
「あの影には、俺だけで飛び込む」
「……私も行く」
「駄目だ」
「何故だ?」
「お前には、お前がやれる事がある。この飛竜も使えば、この状況でもやれる事は多いはずだ」
「……私だけでは、悪魔と戦えない。そういう事か?」
「そうだ」
パールの問い掛けに、エリクは躊躇いも無く即答する。
それを聞いたパールは表情を強張らせながらも、会場で見ていた悪魔騎士と帝国皇子達の戦いを思い出した。
悪魔騎士どころか、影に潜み襲撃する下級悪魔すらも対処できない自分では、戦いの役には立たない。
しかしエリクは、襲って来た下級悪魔を撃退できる技術と実力を持っている。
同じ四年という月日で圧倒的な実力差が自分達の間に生じている事を、パールは既に察している。
だからこそ悔しさが滲み出る表情を見せるパールは、エリクを睨みながら声を向けた。
「……分かった」
「ああ」
「だが、必ずアリスを連れ戻してくれ。……でなければ、私はアリスの友として……今の自分を許せない」
「……ああ」
自身の無力さを痛感するパールの言葉に、エリクは応じるように頷く。
そして外壁を越えた影を追う飛竜もまた、外壁を越えた。
外壁を越えて広がる大地に映る不自然な影に、ようやく飛竜の影が重なる。
ようやく影に追い付いた二人は、互いに下を見据えながら声だけを向け合った。
「もう少し前だ!」
「分かっている! あと、少しで……っ!!」
「……パール、避けろっ!!」
「!?」
飛竜は地面を這う影と五十メートル程の高さを維持しながら飛行していたが、その下の影が突如として奇妙な蠢きを起こす。
すると飛竜が真下に在る影の表面に、突如として鋭い黒棘が生み出され始めた。
その棘が全て飛竜に矛先を向けるのに気付いたエリクは、パールに危機を伝える。
しかしパールが命じる前に飛翔する飛竜が矛先を向ける黒い棘に気付き、身体を左側に傾けた。
すると影の表面から発射される黒い棘が、飛竜の飛んでいた位置と高さを越えて放たれる。
凄まじい速度で通過する黒い棘の発射は止まらず、避ける飛竜を襲い続けた。
「グッ!!」
「パール! 一旦、飛竜を影から離せっ!!」
「くそっ、あと少しだったのに……!!」
影から放たれる対空攻撃を避け続けるのは不可能だと判断したエリクは、パールにそう命じて飛竜を旋回させながら影から離す。
そして飛竜の影が追っている影と数十メートル以上の距離を開けると、黒い棘の発射は止まった。
しかし南下を続ける影自体は止まらず、飛竜に乗る二人は苦々しい面持ちを浮かべる。
目論見通りに行かぬ状況に焦りと苛立ちを含む表情を見せながら、パールは再び飛竜に命じようとした。
「もう一度、あの影の上へ!」
「駄目だ。飛竜では、さっきの攻撃は避け切れない」
「だが、このままでは――……!?」
「ッ!!」
再び影の上に向かおうとするパールを制止したエリクは、どうするべきか考えようとする。
しかしその思考する時間すら許さず、二人の視界に眩い程の極光が放たれた。
パールは思わず目を閉じながら顔を手で覆い、飛竜も瞼を閉じて視界を失う。
すると飛竜が動揺しながら身体を揺らし、飛翔速度を落としながら一気に急降下した。
しかし次の瞬間、エリクは右手で背負う黒い大剣を引き出し、更に前へ翳しながら大剣を腹を盾のように構える。
そして叫ぶ声を見せると、大剣の柄に取り付けられた赤い装飾玉が赤い光を放った。
「吸えっ!!」
『――……!!』
エリクがそう叫ぶと同時に、大剣の腹部分が開くように形が変形する。
すると大剣の内部に魔石を加工した宝玉が埋め込まれており、その周囲には構築式と思しき紋様が刻まれていた。
そして目の前に広がる極光が粒子状に変化しながら大きな渦上となり、大剣の宝玉に吸い込まれる。
それと同時に凄まじい風圧が飛竜を襲い、飛翔するのが困難な状況を作り出した。
「グ……ッ!!」
「な、なんだ……この光は……!?」
「……これは、アリアと同じ……!!」
必死に角を掴みながら振り落とされぬようにするパールに対して、エリクは極光の正体に気付く。
それはアルトリアが放つ魔力砲撃と同じ性質の魔法であり、つまりは魔力を用いた攻撃だった。
そして十数秒以上も続く魔力砲撃の照射を、エリクは大剣の宝玉で吸収し続ける。
すると極光は無くなり、高度を落としながら飛行を続ける飛竜に立つエリクは、魔力攻撃が放たれた中空を見据えながら呟いた。
「……ウォーリス」
「――……もう、貴様に邪魔はさせないぞ。エリク」
エリクの視界の先には、中空に浮かぶウォーリスの姿がある。
一方でウォーリスもエリクを睨み、互いに敵意を見せながら顔を向け合っていた。
こうしてエリク達の前に、あのウォーリスが立ちはだかる。
アルトリアを魔法技量で遥かに凌駕し、圧倒的な実力差を見せつけた到達者のウォーリスが、今ここでエリクの障害となった。
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