虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 四章:意思を継ぐ者

混沌の夜

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 ゲルガルドの魂から肉体の主導権を交代したウォーリスは、『創造神オリジン』を基点とした歪んだ世界を破壊し再編する目論見を明かす。
 そして到達者エンドレスの魂を一つの肉体で共有するという共通点を持つ同士として、エリクを自ら仲間として引き入れようとした。

 それを拒否し『敵』となる事を選んだエリクに対して、ウォーリスは悪魔化して対峙する。
 そして瞬く間にエリクを瘴気の魔弾で撃ち落として消し飛ばすと、その場から姿を消した。

 一方その頃、飛竜ワイバーンに騎乗している女勇士パールは、アルトリアが飛び込んだ影を追跡している。
 目を凝らしながら南下を続ける膨らみを持つ影を見失わないように追い続けるパールだったが、その先に見える赤い光が上空に浮かぶ光景に気付いた。

「――……アレは……!!」

 パールが見たのは、夜空を飛翔しながら向かって来る赤い瞳を持った合成魔獣キマイラの大群。
 帝都に侵攻していた地上の合成魔獣キマイラと同じように、上空そらにも敵側が控えさせていた鳥獣系の猛獣を組み合わせた合成魔獣キマイラ達が控えていた。

 少なからず百を超えるだろうその大群が向かって来る様子を目にし、パールは表情を強張らせる。

 突っ込んで来る合成魔獣キマイラ達の姿は、十メートルを超える飛竜ワイバーンよりも小さい。
 しかし一匹一匹が悪魔化しており、凶悪な暴食性と狂気を孕んだ赤い瞳を輝かせ、飛竜ワイバーンとパールを餌と見做して躊躇せず襲い掛かろうとしていた。

 それを察したパールは、大声で飛竜ワイバーンに命じる。

「くっ!! ――……炎を吐いて、奴等を蹴散らせっ!!」

「ガォッ!!」

 パールはそう命じながら背中側へ飛び退き、背の鱗を掴みながら前を見据える。
 そしてパールの言葉を理解しているのか、飛竜ワイバーンは口に炎を溜め込みながら突入して来る合成魔獣キマイラ達に吐き出した。

 飛竜ワイバーンの吐いた炎は火炎弾ファイアボールとして形作り、幾度も吐き出しながら合成魔獣キマイラ達に命中する。
 すると火炎弾ファイアボールを浴びた合成魔獣キマイラは肉体を燃やしながら落下し、地上へと撃ち落とされた。

「やはり、飛竜おまえの吐き出す炎は強いな。私も、火炎弾アレを避けるのに苦労した」

「ガァッ」

 飛竜ワイバーンの背に乗りながら撃ち落とされる合成魔獣キマイラを見下ろすパールは、二匹の飛竜ワイバーンを引き連れた飛竜ワイバーン頭目リーダーを思い出す。

 三匹の中で一回りほど大きかったその飛竜ワイバーンとパールは、樹海の中で戦った。
 硬い鱗に覆われ樹海で作られた棒槍を弾く飛竜ワイバーンは、口に溜めた炎を火炎弾にしてパールに放つ。
 その火力は見た目以上に高く、パールが避けた場所に着弾した炎は凄まじい勢いで燃え盛り、水気を含んだ樹木すら破壊し燃やす程の威力を持っていた。

 しかし過去に一度、パールは部族の村を襲った飛竜ワイバーンとの戦闘で同じ状況を目撃している。
 そして飛竜ワイバーンの倒し方も心得ていたパールは、樹海の高低差と地形を利用しながら素早い動きで攪乱し、過去に戦った時よりも素早く二匹の飛竜の瞳を突いて倒した。

 パールは地形を利用し勝利したが、仮に上空から飛竜ワイバーン火炎弾ファイアボールを吐き続ければ、自分を含む勇士達は対抗できずに村や人間を焼かれていたと思っている。
 飛竜ワイバーンがそうしなかったのが村に備蓄してある獣の肉を狙っての事だと理解しているパールは、火炎弾を連発できる飛竜ワイバーンの脅威と頼もしさを誰よりも理解できていた。

 絶滅種と呼ばれていた上級魔獣ハイレベル飛竜ワイバーンは、悪魔化しながらも下級から中級の魔獣の細胞で作られた合成魔獣キマイラを諸共しない。
 連発される火炎弾は、体内に持つ炎熱器官を魔力で操作する事で高い威力を維持しながら連発を可能としていた。

 しかし飛竜一匹に対して、迫る合成魔獣キマイラの数は圧倒的に多い。
 更に空中でも小回りの利く小型の合成魔獣キマイラ達も多く、火炎弾を避けながら飛竜ワイバーンへ辿り着いた個体も現れた。

「クッ!!」

「ガォオオオッ!!」

 飛竜ワイバーンは迫る合成魔獣キマイラに対して急降下し、本能的に危険だと察知して回避行動に入る。
 しかし追って来る合成魔獣キマイラ達を見上げながら、パールは苦々しい面持ちを浮かべながら舌打ちを鳴らした。

「アレは、普通の魔獣あいてじゃないな……。飛竜コイツも、それを分かっている」

「ガォ……ッ」

「どうする……。奴等を全て撃ち落としたとしても、あの影を……アリスを見失う……!!」

 パールは背の鱗を掴みながら中空に浮かぶ身体を抑え込み、合成魔獣と大地を走る影を交互に見る。
 
 このまま合成魔獣キマイラの相手をしていては、完全に影を見失う。
 かと言って百を超える中型から小型の合成魔獣キマイラを全て撃ち落とすのは、この飛竜ワイバーンだけでは不可能だ。

 それを理解できるからこそ、パールは苦々しく悩む。
 そして彼女の思考には、エリクと交えた厳しい会話を思い出していた。

『――……お前には、お前がやれる事がある。この飛竜ワイバーンも使えば、この状況でもやれる事は多いはずだ』

 こう述べたエリクの言葉を聞き、パールは自分が今やるべき事を考える。
 そして下降する飛竜ワイバーンが上体を起こしながら飛行する中、パールは苦肉の考えで飛竜ワイバーンに命じた。

「……ッ。私だけでは、どのみちアリスを取り戻せない……。――……帝都むこうに戻るぞ! せめてアレが移動していた方角だけでも、エリオ達に伝える……!!」

「ガァッ!!」

 パールは決断し、自ら撤退を決める。
 それに応じる飛竜ワイバーンは身体に纏う魔力をたぎらせ、翼を大きく羽ばたかせながら低空で合成魔獣キマイラ達からの追撃を振り切ろうとした。

 しかし上空を飛翔する合成魔獣キマイラ達は飛竜ワイバーンを追い、飛竜と共にパールを捕食しようと迫る。
 飛竜ワイバーンの飛翔速度を上回る合成魔獣キマイラ達が迫る中、パールは必死に背中の鱗を掴んで後ろを確認した。

「振り切るのは、難しいか……!!」

 パールは振り切るのが難しいと考えながらも、その対抗策を思い浮かべられない。
 そして背後に迫る合成魔獣達を睨む中、突如として広がる一閃が目の前に現れた。

「っ!?」

 夥しい数の白い光が上空から放たれ、飛竜ワイバーンを追っていた合成魔獣キマイラ達を襲う。
 的確に命中した一閃は合成魔獣達の身体を貫き、更に身に纏う瘴気と取り払いながら肉体を青く燃やしながら消滅させた。

 突如として現れた光に驚くパールは、光が放たれた上空そらを見る。
 目を凝らして見るその場所には、黒い布を纏った何者かが浮かんでいた。

 そしてその人物が持つある物に対して、パールは視線を集中させる。
 それは白い魔石いしが取り付けられた短い杖であり、パールはそれに見覚えを感じながら動揺した面持ちを見せていた。

「あれは……アレは、でも……。……いったい……?」

 パールは困惑しながら上空そらを見上げ、遠退いて行くその人物を見続ける。
 そのパールを見ながら上空に浮かぶ人物は、飛竜ワイバーンから目標を変えて迫る合成魔獣キマイラを見ながら呟いた。

「――……まさか、予定より二年も早く事態ことを起こすなんて……。……ここから先は、私も知らない未来だわ……」

 籠る声でそう呟く人物は、迫る合成魔獣キマイラ達に白い魔石が取り付けられた短杖を向ける。
 そして先程と同じ閃光を合成魔獣キマイラ達に放って消滅させると、飛竜ワイバーンに乗るパールを見て姿を消した。

 こうして飛竜ワイバーンとパールは影の追跡を諦めながらも、合成魔獣キマイラ達の迎撃を逃れる。
 しかし新年を迎えたガルミッシュ帝国の夜明けは、人々の恐怖と絶望に満ちた状況を鮮明に映すことになった。
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