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革命編 五章:決戦の大地

投げ槍な突破口

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 『魔人殺し』の異名を持つ特級傭兵スネイクと彼が率いる『砂の嵐デザートストーム』に強襲を受けた帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトは、禁忌のぶきと対峙する。
 そのスネイクの持つ魔銃が放つ『不可侵の弾丸インビジブルバレット』により障害物を貫通した弾丸がエアハルトの右脚を撃ち抜き、俊敏な動きを止めた。

 一方で建物の屋上を走っていたユグナリスも『砂の嵐デザートストーム』の団員達から狙撃を受け、その動きを止められる。
 辛うじて被弾こそ免れたユグナリスは、その精密な射撃から既に狙撃手達の位置を割り出していた。

「――……左側に五人、右側に四人、真正面に六人、合計で十五人……。……いや、外壁の内側なかからも見られているのか……?」

 射撃を受けた角度と弾数から狙撃手スナイパーの位置を確認できたユグナリスは、外壁側にも意識を向けながら集中力を高めようとする。
 しかし避難勧告の警笛サイレンと銃声に驚く住民達の声も聞こえ、自分達の潜入が無関係な住民達を巻き込んだのではないかと苦々しい言葉を漏らした。

「……俺達が潜入して、この状況が……。……でも、こんなに早く発見されてしまった……。……俺が、身体強化を使ったから……?」

 住民達を巻き込んだという罪悪感に続き、自分達が発見された原因が身体強化を使った原因だと考える。
 それを悔やむ様子を見せながらも、奇妙な違和感がユグナリスの脳裏によぎった。

「……でも、なんで兵士じゃなくて傭兵が……? それも短時間で、既に待ち構えられて……。俺達がここに来るのが、分かっていた……? だとしたら――……っ!!」

 都市内部に潜入してから十分も経たない内に暴かれ待ち構えられていた事を察したユグナリスは、狙撃手達あいての早過ぎる立ち回りに奇妙さを抱く。
 しかしその思考を遮るように、ユグナリスが身を隠す屋上に対して数度の狙撃が再開された。

 しかし三発の着弾音と少し遅れた狙撃音だけが響き、それ以上の発砲は起こらない。
 まるで焦らせるような発砲にユグナリスは表情をしかめると、考えていた思考を止めて現状を打開する為の考えに切り替えさせられた。

「考えるのは後だ。まずは、この状況をどうにかしないと……。――……あの能力ちからを使えれば……」

 先日の出来事を思い出すユグナリスは、自身の覚醒によって出来た『生命の火ちから』を再び使おうとする。
 しかし意識的に使おうとしても身体に巡るのは魔力と白い輝きの生命力オーラだけであり、先日のように『火』を纏うような能力ちからは発現できなかった。

「……やっぱり、今の俺だと使えない……。……あの時も、何であんな事が出来たのか分からないし……」

 ザルツヘルムに対する怒りの感情と共に発現した『生命の火ちから』だったが、意識的に使おうとしても出来ない事をユグナリスは自覚している。
 この都市に赴くまでに幾度か使えないかと試しながらも失敗していたユグナリスには、この場で使えない能力ちからに苦心の感情を抱いていた。

「あの能力ちからを使う為には、何かが足りないのか……。……あの時の俺に有って、今は無いモノ……。いったい、何が……?」

 『生命の火ちから』を使う為の条件が満ちていないことを無意識に感じ取るユグナリスは、右手を握り締めながらどうにか力を引き出そうとする。
 しかし出来ない能力ちからを引き出すのを一端は諦め、外壁の屋上うえとエアハルトが走っていた方面に意識を向けながら様子を探った。

「……こっちの方には、外壁の屋上うえから狙撃は来てない。だとしたら、向こう側エアハルトを狙っているはず……。……今の状態ままで、どうにかするしかない」

 狙撃手スナイパー達の狙いが自分達の分断と長距離からの各個撃破である事を察したユグナリスは、このままの状態が継続したまま敵の増援が来た場合を想定する。
 その状況を避ける為にも、『生命の火ちから』を使わずに狙撃手スナイパー達を倒す手段を考え始めた。

 そして周囲を探りながら、何か使える物を探す。
 かつて老騎士ログウェルの訓練で帝国西側の湿地帯に放り込まれたユグナリスは、その時の経験を踏まえて周囲にある物で利用できる方法を考えた。

 その際、ユグナリスの視界に幾つかの物が目に入る。
 それを見ながら頭の中で狙撃手達を撃退する為の策が思い浮かべたユグナリスは、左腰の鞘に剣を収めながら屋根から飛び降りた。

 屋根から降りたユグナリスの動きは、狙撃銃に備わる望遠鏡スコープを覗く『砂の嵐デザートストーム』の団員達も気付く。
 そして各々に胸元に備わる装飾型ペンダントの魔道具を使い、短距離での通信を行い始めた。

「――……目標ターゲットレッド』、屋根うえから降りました」

「下から来る気か」

狙撃銃スナイプから小銃アサルトに切り替えますか?」

「……いや、待て。目標ターゲットレッド』、また屋根うえに上がったぞ」

「!」

 建物の下側に警戒を向け始めていた各方位の団員達だったが、左位置で望遠鏡スコープを覗き込む一人の団員が発した言葉で意識を屋根に戻す。
 すると建物の屋根うえから大きくはみ出す長い棒が複数も飛び出ている様子を確認した団員達は、眉をひそめながら呟いた。

「……アレは、物干し竿か?」

「何故、あんなモノを……」

 突如として屋根の上に突き出した棒の正体が、洗濯用の物干し竿である事に団員達は気付く。
 それを怪訝そうに見る団員の一人が、通信用の魔道具を通して他の団員達に問い掛けた。

「前に出て狙いますか?」

「……いや、このまま足止めに徹する。団長が向こうの敵を排除するまでは、無駄弾ムダだまを撃つべきじゃない」

「了解」

 目標ユグナリスの奇妙な行動を目にする団員達だったが、自分達の戦術を崩さずにその場にと留まる事を選ぶ。

 ユグナリスと団員達の距離は四百から五百メートルは離れており、その間合いを詰めるのは卓越した身体能力を持つ魔人や聖人であっても数秒は必要になる。
 その数秒間で目標ユグナリスが迫ろうとしても、三方向に構える狙撃手じぶん達ならば撃ち抜けるという自信が『砂の嵐デザートストーム』には存在した。

 故に様子見に徹する事を選んだ団員達は、望遠鏡スコープを覗きながらユグナリスが身体を出す瞬間を見逃さぬように徹する。
 しかし次の瞬間、ユグナリスが居る位置から予想もしない出来事が起きた。

「……っ!?」

「なっ!?」

「あの棒を、上に投げたっ!?」

「……馬鹿か、あの赤髪」

 ユグナリスは屋根の物陰に隠れたまま、突如として物干し竿を上方向に投げる
 古典的な戦争で用いられる『投げ槍』と呼ばれる技術であり、卓越した使い手であれば百メートル手前まで届くという、古典戦術の中では弓矢や投石の次に用いられる遠距離攻撃だった。

 しかし五百メートルの長距離からでも狙撃できる『銃』を持つ団員達は、微笑すら含んだ困惑を浮かべてしまう。
 自分達には届くはずの無い『投げ槍』という手段を用いたユグナリスの正気を疑い、嘲笑の声すら呟いた。

 しかし上空に投げられた物干し竿を見ていた一人の団員が、空に見える太陽の光で表情をしかめる。
 その影響で投げられた物干し竿を見失うと、それから十秒以上が経ってから驚きの呟きを漏らした。

「……あの棒、まだ落ちて来ないぞ……」

「え?」

「……まさか……!?」

 あまりにも長く落ちて来ない物干し竿の状況に、他の団員達も奇妙な表情を浮かべる。
 そして消えた物干し竿を意識し続けていた団員は何かに気付き、投げられた方角を確認しながら自分の周囲に居る団員達に呼び掛けた。

「マズい、逃げるぞっ!!」

「どうしたっ!?」

「あの野郎、まさか――……っ!!」

 一人の団員がそう叫び、狙撃位置から離れるように走り出す。
 それに気付き他の団員達が驚いた瞬間、先に走り出した団員が自分達の上空を見て表情を強張らせた。

 その上空には、届くはずの無い物干し竿が降って来る。
 しかも一つしか投げられなかった物干し竿には既に切り込みが入れられており、太く頑丈なまま八つに斬り裂かれた物干し竿が、団員達の真上から降り注いできたのだ。

 それに気付いた団員達もその場から立ち上がり、狙撃銃を持ちながら身を引かせて屋根から飛び降りる。
 すると団員達の居た正面位置に『投げ槍』が着弾し、屋根に突き刺さる光景となった。

 それを見た別方角に待機する団員達は、信じられない光景を目にしながら呟く。

「あ、あの赤髪……まさか、アレで俺達の狙撃に対応を……!?」

「あの距離からっ!?」
 
「しかも、こちらの狙撃位置を把握されている……!」

「これは――……っ!!」

「ま、また!」

 各位置に配置した団員達は、再びユグナリスが居る屋根から上空に放たれる物干し竿を視認する。
 今度は左方向側に高く投げられる長槍を見た団員達は、表情を青褪めさせながら身を引かせた。

「い、一時後退っ!!」

「別地点へ配置し直すぞっ!!」

 先程よりも早く身を引かせた団員達の居た場所に、十数秒後に予想通り分断された九つの投げ槍が降り注ぐ。
 そして再び屋根に突き刺さる光景を目にし、ユグナリスが的確な位置に投げ槍の狙撃を行っている事を察した。

 すぐに右方向にも投げ槍が放たれ、三方向に待機していた狙撃手達がその位置から離れる。
 それを察したユグナリスは、安定した狙撃が出来ない状況を利用して一気に隠れていた屋根から飛び出した。

「――……今だっ!!」

「!?」

「班長! 目標ターゲットがっ!!」

「くっ!!」

 飛び出したユグナリスに気付いた団員達は、引く動きを留めて狙撃銃を構える。
 そして立ったまま狙撃しようと照準を合わせたが、常人の動体視力では認識できない動きで跳び走るユグナリスに銃口が重ならず、瞬く間に距離を詰められた。

「クソッ、小銃ライフルに切り替え――……」

「――……遅いっ!!」

「グ、ハ……ッ!!」

 瞬く間に正面に配置されていた団員達に追い付いたユグナリスは、鞘に収めたまま紐で縛っている剣を振り翳す。
 そして狙撃銃から背負う小銃ライフルに持ち替えようとした団員に、躊躇無く鞘付きの剣で腹部を殴打した。

 その勢いで建物の上から吹き飛ばされた団員は、腹部の痛みと落下した衝撃で意識を完全に失う。
 それに動揺する他の団員達にながらも反撃しようとするが、ユグナリスは他五名の団員も瞬く間に打ち倒した。

「っ!!」

「あ、あの野郎っ!!」

 外壁側の正面に配置していた団員達なかまが倒された事を視認した他の団員達は、包囲網が崩された事を自覚しながらも狙撃銃を構える。
 しかし狙撃される前に屋根から地面へ飛び降りたユグナリスは、そのまま狙撃手達を無視して外壁側へ走り出した。

「ま、マズい!」

「スネイク団長っ!!」

 ユグナリスが一点突破を狙い外壁を目指した事を察した各団員達は、それを追おうと屋根や地面を走る。
 しかしそれを遥かに上回る動きと速度で、ユグナリスは外壁に向かいながら道を縫うように走り続けた。

「――……エアハルト殿、待っててください!」

 狙撃手達の包囲網を独力で突破したユグナリスは、最も厄介と言える狙撃手スネイクの場所へ向かう。
 それは今も狙撃され続けているエアハルトを救出する為であり、それは無意識ながらも自身の仲間を助ける行動だった。
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