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革命編 五章:決戦の大地

蛇は沈む

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 旧ゲルガルド伯爵領地の都市にて外壁の屋上うえから狙撃していた特級傭兵スネイクは、魔銃イオルムを使い狼獣族エアハルトを追い詰める。
 そこで素早く外壁を登った帝国皇子ユグナリスに阻まれ、逆にスネイクが剣の間合いまで追い詰められた。

 しかし次の瞬間、都市全体を覆う結界が赤く変色する。
 そして都市外部に悪魔化している合成魔獣キマイラが再び現れ、狂気の瞳と牙を見せていた。

 その状況が都市全体を使った罠であることを悟ったユグナリスだったが、その前には拳銃型ピストルの変形した魔銃イオルムを持つスネイクが立ちはだかる。
 彼は自身と部下の命を助ける為に、依頼主から命じられた帝国皇子ユグナリス達の抹殺を実行しようとしていた。

 その言葉を聞いたユグナリスは、改めてスネイクを見ながら問い掛ける。

「――……俺を殺せば、この状況が止まると。そう思っているんですか? 貴方は」

「少なくとも、依頼主はそう言ってたぜ」

「貴方達を雇ったのは、ウォーリスという男のはずだ。もしそうなら、例え俺達が殺したとしても。この結界が解けたり、あの化物達が襲って来ないという言葉は信じない方がいい。奴は、帝都の全てを吹き飛ばそうとした男だ」

「……だとしても、俺達はそうする以外に手段が無いんでな。だったら、お前等を殺すという選択肢を選ぶ」

「どうしてっ!? その魔銃ぶきを持つ貴方なら、外の合成魔獣カイブツに対抗するくらい――……」

「出来ないから、こうやってお前等に魔銃イオルムを向けてんだよ」

 スネイクは睨みを向けながら右手に持つ魔銃イオルムを突き出し、その銃口をユグナリスに向ける。
 そうした言動を見せるスネイクを見ながら、ユグナリスは奇妙な面持ちを浮かべながら問い掛けを止めなかった。

「出来ない……というのは、どういう意味なんですか?」

「……」

「まさか、ウォーリスは貴方達にも奴隷紋を?」

「……ふっ、だったらどうする?」

「!」

「哀れで可哀そうな奴隷には、それを向けられないか? 随分と御優しい皇子様だな、吐き気がするぜ」

「えっ」

「俺がこの世で、最も許せないことを教えてやる。――……それはな、自分を上に置きながら他人をあわれむ奴だっ!!」

「!!」

 突如としてスネイクに怒りの感情が見え、それと同時に人差し指に掛けられた魔銃イオルムの引き金が動く。
 その瞬間に魔銃イオルムに嵌め込まれた宝玉が黄色から青色の輝きに変化し、それに気付いたユグナリスは距離を保ちながら身を退かせた。

 そして次の瞬間、魔銃イオルムの銃口から高密度に収束した青色の魔力かがやきが発射される。
 その輝きは銃口の入り口に合わせた幅と細さで放たれながらも、まるで一本の水流が高密度に纏まるような収束砲レーザーとなってユグナリスを襲った。

「クッ!!」

 先程まで見せた魔力の弾丸と異なる収束砲レーザーを視認したユグナリスは、剣に炎を纏わせながら収束砲レーザーの先端に接触させながらはじこうとする。
 しかし先程の弾丸以上の威力で放たれた青い収束砲レーザーは、踏み止まろうとしたユグナリスをあっさりと吹き飛ばした。

「――……グッ、うわっ!!」

「落ちろ、小僧っ!!」

 収束砲レーザーの直撃を防いでいたユグナリスは、剣に纏わせた炎を散らせながら中空に飛ぶ。
 その拍子に外壁の内塀を飛び越え、足場を失ったユグナリスはそのまま五十メートル以上の高さがある内壁側へと落下していった。

 壁からも離れて掴む場所も無いユグナリスは、落下速度を加速させながら下に広がる石畳の地面へ突っ込もうとする。
 その僅かな数秒の時間で姿勢を戻し、身体全体に魔力と生命力オーラを使った身体強化を施したユグナリスは、両足の爪先で地面に着地しながら転がるように全身に落下の衝撃を受け流して停止した。

「う……っ」

「――……ソニアといい、クラウスといい。ルクソード皇族ってのは、ムカつく野郎ばっかりだぜっ!!」

「!」

 強化した肉体と分散した衝突の痛みを感じたまま立ち上がるユグナリスに対して、外壁の屋上うえから見下ろすスネイクは魔銃イオルムの銃口を下側に向ける。
 そして宝玉部分を赤く輝かせ、連射するように赤い魔力の弾丸を連射させた。

 その圧力けはいに気付いたユグナリスは、上を見ずに崩した姿勢を立たせて走り出す。
 そして地面へ着弾した赤い魔力弾が一瞬だけ膨張し、凄まじい爆発力を生み出しながらユグナリスが着地した周辺を吹き飛ばした。

 それに留まらないスネイクは、銃口の向きを変えながら魔銃イオルムに命じる。

「イオルム、火力を最大にしろ! 奴を丸焦げにするっ!!」

『――……』

 苛立ちの籠った声で魔銃イオルムにそう呼び掛けた後、スネイクはユグナリスが逃げ込もうとする建物側に新たな魔力弾を発射する。
 すると着弾した地点から十メートル以上が爆発を起こし、ユグナリスの逃走経路を爆風と瓦礫で阻んだ。

「クッ!!」

 足を止められたユグナリスは爆風と共に襲う大小の瓦礫を腕で防ぎながら、両足で跳び退く。
 そして飛び退く場所を見抜くように、スネイクの銃口からは複数の赤い弾丸が新たに発射された。

「!?」

しまいだっ!!」

 銃弾が放たれた圧力けはいを察知したユグナリスだったが、その弾丸はユグナリス本人とその四方を囲みつつ放たれる。
 着弾まで一秒にも満たない時間に全ての弾丸の爆風から逃れられないのを瞬時に察したユグナリスは、表情を強張らせながら襲って来る弾丸を見上げた。

 その瞬間、ユグナリスの直上十メートル程の位置で赤い弾丸に黄色い閃光が走り貫く。
 すると赤い弾丸の全てが爆発を起こし、両者は目を見開いた。

「なにっ!?」

「あの電撃ひかりは……!」

 着弾前に全ての弾丸が爆発した状況に、スネイクは驚愕の声を漏らす。
 逆にユグナリスは小さな微笑みを見せながら電撃ひかりが飛んできた場所を確認すると、その場から離れた外壁に右腕一本で取り付いていたエアハルトが電撃に変換した魔力と生命力を纏った姿で左脚を蹴り上げた光景が見えた。

 それを見たユグナリスが声を発するよりも早く、エアハルトは次の行動に移る。
 右腕一本と両脚のみで外壁を瞬時に登り終え、スネイクが立つ外壁の屋上ゆかへ両足を踏み入れた。

 それに気付いたスネイクは驚愕しながらも右手に持つ魔銃イオルムの銃口をエアハルトに向け、赤い輝きから青い輝きに変化した状態で弾丸を放つ。

「チッ!!」

 青い収束砲レーザーを放ったスネイクに対して、エアハルトは電撃を纏ったまま凄まじい走力で加速する。
 そして電撃の残した斬壮を収束砲レーザーは貫き、身を屈めたまま加速するエアハルト本人を止められずに間合いに入られた。

 右手に力を込めながら鉤爪かぎづめを太く鋭くさせたエアハルトは、強く踏み込みながら右腕を横に振るう。
 そこから跳び襲う電撃の斬撃が、スネイクの左腕と胴体を深く斬り裂いた。

「グゥ……ッ!!」

「――……貴様が、終わりだっ!!」

 右腕を振り終わった姿勢で、エアハルトはそのまま左脚で床を蹴りながら前方へ跳ぶ。
 そして右脚を前に突き出しながら右足の爪を鋭くさせながら、スネイクの胴体に蹴りを突き込んだ。

 更に電撃を纏わせた右足が接触した事で、蹴りの衝撃と電撃がスネイクの肉体に深い損傷を与える。
 跳び避ける空間も無く新たな弾丸も放てなかったスネイクは、そのまま口を大きく開きながら凄まじい速度で蹴り飛ばされた。

「ガ、ァ……ッ」

 蹴り飛ばされたスネイクは、そのまま塀に激突しながら外壁の内側へ落ちていく。
 完全に意識を失いながらも魔銃イオルムだけは手放さないスネイクは、そのまま五十メートル以上の高さを頭から落ちる光景を見せた。

 それを見た瞬間、下に居たユグナリスは反射的に壁を駆け上る。
 そして落下して来るスネイクの方へ跳び込み、両腕を突き出しながらその身体を受け止めた。

 更に身体全体に身体強化を施し、そのまま地面へ着地する。
 二人分の重さと落下の衝撃に耐えながら表情を僅かに歪めるユグナリスだったが、そのまま倒れずに堪えてスネイクを石畳の地面へ寝かせるように降ろした。

「……よかった、生きてる……」

 それからスネイクが息を残しているのを確認したユグナリスは、口から溜めていた疲労感を漏らす。
 すると外壁側から跳ぶように着地したエアハルトが、生きたまま倒れるスネイクとユグナリスを睨みながら低い声を向けた。

「――……どういうつもりだ?」

「……エアハルト殿」

「奴は敵だ。敵をどうして救う?」

「……敵かもしれない。でも、俺達と彼は同じなのかも」

「同じだと?」

「彼も恐らく、ウォーリスに従うよう強制されています。……見てください」

 ユグナリスはそう言いながら、斬り裂かれたスネイクの服を破きながらその肉体を見せる。
 すると後ろ腰の部分に奴隷紋が施されている状況を二人は確認し、スネイクがウォーリスの奴隷となっている事を知った。

 そして奴隷紋を見るエアハルトが、更に険しい視線を見せながら声を向ける。

「……奴隷紋か」

「そうです。彼も無理矢理に従わされているのなら、殺す必要は……」

「それがどうした?」

「!」

「コイツが敵の奴隷なら、俺達を殺すように命じられているんだろう。その命令を果たせないのなら、どのみち奴隷コイツは死ぬしかない」

「……そ、それは……」

「コイツは危険だ、トドメを刺せ。――……貴様がしないなら、俺がる」

 奴隷であるが故に主人マスターの命令を守れない場合の結末を知るエアハルトは、躊躇せずにスネイクを殺す選択肢を強要する。
 そして自らスネイクを殺そうと右手の鉤爪を伸ばしながら強化し、気を失ったスネイクの息の根を止めようとした。

 一方で、奴隷紋を施され命令を強要されているスネイクを殺害する事を躊躇うユグナリスは、その行動を見て立ち上がる。
 そして鞘に戻していた剣を右手で握り持ち、鉤爪の軌道に刃先を置きながらエアハルトの動きを止めた。

「……貴様、何のつもりだと聞いている」

「貴方に、彼は殺させない」

「なら、貴様が殺すのか?」

「いいえ。彼も、ウォーリスに従わされているだけの被害者だ。殺す必要は無いはずです」

「……貴様の偽善にはうんざりだ。退け」

退きません」

 二人はそうした言い争いを見せ、互いに向かい合いながら睨む表情を見せる。
 しかし二人は周囲に近付く気配に気付き、そちらの方向へ振り向きながら身構えた。

 二人が意識を向けた先には、狙撃銃を構えた『砂の嵐デザートストーム』の団員達が十数名で取り囲んでいる。
 しかし一人の団員が狙撃銃を降ろしながら前に出ると、渋い表情を見せながら二人に頼み込んだ。

「――……ま、待ってくれ。スネイク団長を、殺さないでくれ……」

「貴方達は……」

「俺達は、傭兵団の『砂の嵐デザートストーム』だ……。……でも、今回の事は依頼じゃない。脅迫されて、仕方なく……」

「……貴方達にも、奴隷紋が?」

「いや……。奴隷紋を付けられたのは、スネイク団長だけだ」

「え?」

「俺達は、前回の任務に失敗して……。それで、雇い主から……あの化物から殺されそうになって……。でも団長は、俺達が殺されない為に……自分で奴隷紋を……」

「!」

「……チッ」

 苦々しい表情で自分達の状況を話す『砂の嵐デザートストーム』の団員は、団長であるスネイクを庇う為に言葉を続ける。
 それを聞いていたユグナリスは小さな驚きを見せ、エアハルトは苛立ちの籠る舌打ちを漏らしながら爪を引かせた。

 こうして特級傭兵スネイクを倒したエアハルトとユグナリスだったが、生き残っていた『砂の嵐デザートストーム』に助命を頼まれる。
 それは『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァの起こしたオラクル共和王国の『閃光事件』の後、『砂の嵐デザートストーム』の状況を知る機会でもあった。
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