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革命編 五章:決戦の大地
影と光の道へ
しおりを挟む五百年前に起きた天変地異と同様の現象が世界に起こり、日食が起きていた空は黄金色に染まりながら巨大な歯車が浮かぶ光景が広がる。
そして日食の影が巨大な穴として現れ、『天界』へ通じる通路を開かせた。
ウォーリス達の居る黒い塔は、その通路に向けて舵を取るように向かう。
その光景を箱舟の艦橋に映し出された画面越しに見るエリクやマギルスを含む十一名は、ウォーリスの目論見を阻止するという『青』の話を聞いた。
しかしその手段に関して曖昧な内容に、ケイルが厳しく問い正す。
その返答次第で状況を一変させかねない十一名を眺める『青』は、淀みの無い表情で言葉を発した。
「――……最終的には、ウォーリスを討つ。それは大前提の話だ。だがその前に、大きな障害が二つ残されている」
「二つ?」
「ウォーリスの配下となっている二人の存在。数多の下級悪魔の従え命を蓄えている悪魔騎士ザルツヘルム。そして聖人と思しきアルフレッドなる男。この二人の障害を排除し、ウォーリスを討つ好機を得なければならない」
「……で、その具体的な方法を聞いてるんだが?」
「『天界』に赴いた際、それぞれに二組へ別れる。一組目は障害となる者達の排除。そしてもう二組目は、ウォーリスを討ってもらう」
「!」
「そして、『鍵』となっている二人の女に関してだが――……敢えて救出はせず、そのまま放置する」
「!?」
青が伝える作戦の大まかな概要に、全員がそれぞれに驚愕を浮かべる。
ウォーリスと側近達の対処はともかく、『鍵』となっているアルトリアとリエスティアの二人を救うでもなく殺すでもない選択は、誰もが予想しなかった返答でもあった。
しかしそれの返答に疑問を持ったエリクは、強張らせた表情を向けて『青』に尋ねる。
「アリア達を放置するというのは、どういう事だ?」
「そのままの意味だ。……確かに創造神の『魂』と『器』である二人を殺せば、相手の目論見を潰すのは容易い。だがそれは結局、一時的な対処にしかならない」
「一時的……?」
「創造神の『魂』と『器』となっている二人を殺したとしても、時間が経てば輪廻を介して現世で『魂』と『器』は生まれ変わる。仮にウォーリスを討てずに二人を殺めたとしても、再び奴が潜伏して生まれ変わりである二人を見つけ出し確保すれば、また同じ事が起こるだけだ」
「……!」
「それに奴等とて、『天界』を掌握するまでは『鍵』の二人を害する事は無いだろう。ならば我々が目的とするのは、ウォーリスを討伐し二度と奴にこのような目論見を起こさせないようにすること。それ以外には手段は無い」
そう述べながら伝える『青』の言葉に、問い掛けたエリクを含めてマギルスやケイルも納得を浮かべる。
更にアルトリアとリエスティアの二人を傷付けずに敵だけを討つという行動目的は、エリクとマギルスの行動を阻害する事の無い選択肢でもあった。
しかしその中で、ある一人の人物が訝し気な視線を『青』に向けながら声を上げる。
それは覆面をした忍者装束の巴であり、目を覚ましている武玄の隣に立ちながら『青』に問い掛けた。
「一つ、窺っても宜しいでしょうか?」
「何かね? アズマの忍者よ」
「『鍵』と呼ばれている二人には手を出さない、それは承知しました。――……しかしウォーリスなる者が追い詰められた場合、二人を生贄に創造神が復活させた時にはどうなさるおつもりか?」
「!」
「生贄……!?」
巴の言葉に驚きを見せたのは、ケイルとエリクの二人。
その意味を巴は口にしながら、『青』に対して更なる追及を見せた。
「我々アズマ国には、天変地異を経験したナニガシ様がいらっしゃいます。我々はその時に何が起きたか、詳細を聞いています」
「……なるほど。それで?」
「創造神なる者の復活は、『魂』と『器』の二人が合わさり一つとなる事で復活を遂げる。その脅威は、当時の七大聖人や魔大陸の強者達すら抗えなかったと聞きます」
「!」
「『窮鼠、猫を噛む』。そういう諺が我がアズマの国にはありますが、追い詰められた相手が形振りを構わずに創造神を復活させた場合。……貴方は我々に対して、どのような対応を御求めになるのですか?」
「……ッ」
丁寧な言葉ながらも圧の宿る巴の言葉に、全員が厳しい表情を浮かべながら『青』に視線を向ける。
それを聞いた『青』は両瞼を閉じた後、何かを思考した後に両瞳を見せながら返答を向けた。
「……創造神を復活させる前に、奴等を倒すのが理想的な展開ではある。……だが創造神が復活した場合、再び封じるしか手段は無い」
「封じる。その方法を、貴方は御存知なのですか?」
「……いや、我は知らぬ」
「!」
「だが封じる方法を知る者なら、知っている。……そしてその者は、既に奴等の懐に潜入している」
「!?」
「今回の計画も、その者の主導によって行われたと言ってもいい。……我はそれに手を貸し、お前達を集めてウォーリスを討つよう託されたに過ぎぬのだ」
「……誰なのです? その者というのは」
『青』がそう伝える人物に関して聞き、それに驚きを浮かべる者達が数多い。
ただケイルだけは驚きではなく渋い表情を浮かべる中、巴がその人物について『青』に尋ねた。
しかし首を横に振る『青』は、それについてこうした言葉を返す。
「本人の要望でな。正体は伝えぬように言われている」
「何故です?」
「理由はある。だが奴に関しては、七大聖人である我が信頼を置けることは保証しよう」
「貴方が保証できると考える、その根拠は?」
「主等の国を守れる魔導人形やこの箱舟の含む戦力を製造したのが、その者の手腕だからだ」
「!?」
「奴がいなければ、我々は今回の事態に何一つとして対処できなかった。……世界の国々やあの大陸が今も健在なのは、奴が働きかけたおかげだ」
『青』はそう述べながら操作盤の一つを右手で扱い、艦橋の左側にある画面の映像を変えながらある光景を映し出す。
それに視線を送る全員が、そこに映し出された光景を目にしながら訝し気な声と表情を漏らした。
「これは……?」
「ガルミッシュ帝国と、元ベルグリンド王国のある大陸を映し出している」
「な……っ。だが、これは……海しか見えないぞ……!?」
「そう。ウォーリス達は自分達の居る塔以外の遺跡を切り離し、浮遊させていた同盟都市を落下させた。……そして奴等は切り離した遺跡側の魔鋼を起爆剤にして、あの大陸ごと生ける者達を全て吹き飛ばした」
「なんだとっ!?」
「……と、ウォーリス達は思っているだろうな」
「えっ?」
画面に映し出されるのは、黄金色に染まった空に応じて黄色に染まる海。
それを見せた『青』はガルミッシュ帝国のある大陸が吹き飛んだ事を教えたが、それに付け加えるように微笑みを見せながらテクラノスに合図を送った。
「テクラノス、説明を」
「分かりました。……奴等が見ているだろう映像が、今の画面に映し出されている光景。しかし、実際は――……こうなっている」
「……!」
応えたテクラノスは艦橋に設置された操作盤に触れながら、画面の映像が偽装である事を教える。
すると画面の映像に揺れが生じた後、そこに帝国の在る大陸が改めて映し出された。
それを見た者達は理解が追い付かなかったが、その事を知るだろうテクラノスに傍に立つゴズヴァールが尋ねる。
「どういうことだ?」
「師父の言っている協力者。その者のおかげで、あの大陸は吹き飛ばずに済んだ」
「!」
「協力者は始めに事態が動いた時、敵側の装置に不正干渉を仕掛けた。そして遺跡の魔鋼を使った爆撃を行う場合に備え、仕掛けの一部を狂わせながら敵が爆撃を行っても実際には起きていないように偽装を施していた」
「……つまり、敵は大陸を破壊したと思い込んでいる。ということか?」
「その通り。おかげで敵は、大陸諸共に多くの邪魔者を排除できたと誤認している。遺跡内部に居る敵は、偽装された映像しか見ておらぬようだな」
テクラノスは厳かな表情を浮かべながらも、僅かに口元を微笑ませながら敵側の状況判断について語る。
それを聞いていた巴は、改めて『青』に視線を戻しながら尋ねた。
「それも全て、その協力者という方が?」
「如何にも」
「なるほど。その協力者が敵の居城に潜入し、そうした工作しているという事は分かりました。……では創造神が復活した際も、その方に封じ込めを御任せすると?」
「うむ。だが理想は、創造神を復活させずにウォーリスの討つ事だ。それを忘れず、油断はせぬようにしてほしい」
「分かりました。最善を尽くそうとする貴方達の判断に、今は従いましょう」
巴はそうした言葉を向けながら、『青』の策に従う事を伝える。
それを傍らで聞いていた武玄は僅かに眉を顰めたが、閉ざしている口は開かなかった。
しかしその場を交代するように、前に歩み出たエリクが『青』に問い掛ける。
「なら、今から『天界』とやらに行くのか?」
「うむ。だがその前に、更に奴等の索敵を妨害する」
「妨害?」
「テクラノス、やってくれ」
エリクの問い掛けに対して、『青』はテクラノスに再び声を向ける。
それに頷いて応じるテクラノスは再び操作盤を扱い始めると、前方の画面にあるモノが映し出された。
それを見たエリクとケイル、そしてマギルスは僅かに驚きの表情を浮かべる。
しかし他の者達は画面に映し出されている銀色の球体を確認し、それぞれが疑問の声が口から漏らした。
「あれは……?」
「魔導人形を積載させた母船だ」
「船……あんな丸いモノが……?」
「今からアレに、敵の塔を追撃させる」
「なに?」
「我々が乗っている箱舟は、今は偽装し姿を隠している。だが敵側が追跡を懸念し、『天界』までの通路で待ち構えている可能性もある」
「!」
「その懸念を敵側から失くす為に、『天界』へ行かせぬようにする最後の足掻きのように見せ、あの母船で追撃させる。幸い、敵側はあの母船しか飛べる機体を認知していないだろうからな」
そう述べる『青』の言葉に、それぞれが困惑するような視線で画面を見る。
魔導母艦を見た事が無い者達にとって、画面に映し出されている母船がどれ程のモノなのかを測りかねているようだった。
しかし未来で魔導母艦と戦闘経験のあるエリクは、敢えてこうした尋ね方をする。
「あの母船で追撃し、敵の塔を落とせないのか?」
「……見ていれば分かる」
エリクの問いにそう答えた『青』は、画面に視線を送りながら魔導母艦の状況を確認する。
その視線を追うようにテクラノス以外の全員が画面に視線を移すと、そこで行われる黒い塔と魔導母艦の戦闘画面を確認した。
互いに凄まじい砲撃を放ちあった後、魔導母艦は瞬く間に撃墜される。
そして改めて黒い塔の防衛力が魔導母艦を上回っている事を確認させられた面々は、漏らそうとした息を飲み込んだ。
その光景を見て改めて『青』に視線を戻したエリクは、納得した様子で頷く。
「……あの塔を落とすのは、無理か」
「そうだ。少なくとも現状の戦力では、あの塔を破壊するのは難しい」
「……これで、敵側は油断したと思うか?」
「敵も索敵は続けるだろう。だがあの魔導母艦を落とした影響で、遺跡の索敵機能は更に狂う」
「!?」
「あの魔導母艦にも仕掛けを施していた。これで敵側は、偽装し見えなくなっている我々を認知するのが出来なくなっている。……あの塔が穴に突入した後、我々の箱舟も突入する」
そう告げる『青』の言葉通り、ウォーリス達は破壊した魔導母艦が反抗勢力の悪足掻きだと判断し、『天界』へ向かう事に意識を傾ける。
すると黄金色の空に浮かぶ巨大な穴の中心地点へ向かい、光の中へ消えるように突入した。
それを確認した『青』は、自分達が乗る箱舟を同じように巨大な穴へ向かわせる。
そして姿が消えたままの箱舟は、『天界』へ通じる光に飲まれていった。
こうしてエリク達を乗せた箱舟は、黒い塔を追跡し『天界』へ向かう。
そしてウォーリスを討つ為に覚悟する者達は、それぞれの思惑を抱きながら影と光で作られた通路へ侵入を果たした。
応援ありがとうございます!
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