虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 五章:決戦の大地

力の代価

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 『天界』へ向かう箱舟ノアに乗る一行は、それぞれに覚悟と準備を整えながら休息に入る。
 そしてそれぞれが艦橋ブリッジで別れてから十二時間程が経った頃、疲弊していたエリクは眠りから目が覚めた。

 すると先に起きていたマギルスが床の上で逆立ちしている様子を見るエリクは、寝起きの声で呼び掛ける。

「――……マギルス?」

「あっ、おじさん。おはよ!」

「ああ。……どのくらい、俺は寝ていた?」

「半日くらいじゃない? 僕もそれくらい寝てた!」

「そうか。……何をやっているんだ?」

「準備運動!」

「そうか」

 逆立ちしながら両手で部屋の中を歩くマギルスの奇怪な行動にも、エリクは動じる様子は無い。
 そんなエリクに対して、マギルスはそのままの状態で話を続けた。

「おじさんの調子はどう?」

「……問題は無い。戦える」

「そっか。……おじさん、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「おじさんって、何かしてるよね」

「何か?」

「ほら、未来でクロエの試験から戻って来た時にさ。エリクおじさん、見た目だけじゃなくて強さも雰囲気も前と違ってたじゃん。だから、試験で何かやってたのかなって」

「……俺のなかに居る鬼神フォウルと、ずっと戦っていた」

「へぇ、それだけであんなに強くなれるの?」

「……」

「『牛』のおじさん達から聞いてるけどさ。おじさん、巫女姫の修行では身体を使った訓練はしてなかったんでしょ? なんでそんなに強いの?」

「……いいや、何もしていないわけではない」

 上半身を起こしていたエリクは寝台から足を降ろし、床に着ける。
 そしてマギルスの方に身体を向けながら、到達者エンドレスに匹敵する実力を身に着けた秘密の一端を明かした。

「俺は、俺自身に誓約ちかいを立てた」

ちかい?」

「俺自身の実力では、鬼神やつのような到達者エンドレスには勝てない。そして、俺自身の持つ生命力オーラにも限りがある。……だから俺は、アリアと同じ事をした」

「!」

「アリアは自分に『誓約ちかい』を立て、自分自身の『能力ちから』を大きく制限させる『制約ルール』を敷いていた。ならその逆、自分の力を増幅させる『制約ルール』も立てられるのかと、俺のなかに居た制約ぶんしんのアリアに聞いた。……すると、可能だと言われた」

「……じゃあ、おじさんが凄く強くなってるのは、その『制約ルール』で?」

「そうだ」

「ふーん、どんな『制約ルール』にしたの?」

「俺の『寿命いのち』を代価にしている」

「へー――……えっ!?」

 エリクが自らに『誓約ちかい』と『制約ルール』を敷いて巨大な力を得た事を知ったマギルスは、その内容を問い掛ける。
 すると思わぬ返答が帰って来た事で、マギルスは驚きを浮かべながら逆立ちしている姿勢を崩して転がるように床へ倒れた。

 そんなマギルスに対して、エリクは自らが敷いた『制約ルール』の内容を明かす。

「俺が今の自分が持つ実力以上の能力ちからを引き出す時に、自分の『寿命』を上乗せして自分の肉体と生命力オーラ強化つよくしている」

「……マジ?」

「そうでもしないと、俺は誰にも勝てない。そう思って、そういう『制約ルール』にした」

「……もしかして、未来の戦いでも……今までもずっと?」

「ああ」

「おじさんって、今は『聖人』だよね。だから寿命が千年だとしたら……もう、どのぐらい使ってるの?」

「……この戦いが終わるまでは、大丈夫だ」

 自身の寿命がどれほど残っているかを問い掛けられた時、エリクは敢えて年数を明かさずにその言葉だけを返す。
 それを聞いたマギルスは横に倒れている自身の身体を戻しながら床へ座り、改めてエリクに問い掛けた。

「それで良かったの?」

「ああ。これでいい」

「そっか。……じゃあ、僕は何も言わない。でも、ケイルお姉さんが知ったら怒りそうだね」

「……そうだな」

「そういえば、寝る前にケイルお姉さんと話をしてたんだよね。何の話してたの?」

「……『青』と協力している者が、アリアだという話だ」

「えっ?」

「だが、そのアリアは俺達の知るアリアではないと言われた。……恐らくアリアの短杖つえに、未来の記憶を持つアリアが協力しているのだろうと」

「ふーん、それなら色々と納得かな。ウォーリスって奴の目的を知ってたのも、未来のアリアお姉さんだからなんだね。……それで?」

「……未来のアリアと、今のアリアは違うと言われた。……ちゃんと区別しろと」

「あっ、そっか。現代いまって、記憶の無いアリアお姉さんと、未来の記憶を持ってるアリアお姉さんの二人がいるんだ。……エリクおじさん的には、どっちも助けたいってとこ?」

「……ああ」

「じゃあ、それでいいんじゃない? 未来のアリアお姉さんに手伝ってもらって、攫われたアリアお姉さんは助ける。それでいいじゃん」

 呆気も無くそう述べるマギルスの言葉に、エリクは頷きを見せる。
 しかし浮かない表情を見せるエリクに、マギルスは首を傾げながら問い掛けた。

「どうかしたの?」

「……またアリアは、自分を犠牲にする策で動いているかもしれない」

「えっ」

「具体的な方法は分からない。……だが、アリアが俺達の力を頼りながら、自分がウォーリスを倒す策を考えていないはずがない」

「あー……。確かに、何か考えてそうだね。アリアお姉さんだし」

「そうなる前に、ウォーリスを倒したいが……。……奴に飛ばれながら戦われたら、今の俺では攻撃が届かない」

「おじさんの装備ふく、ボロボロだもんね。僕の青馬やつに乗って戦う?」

「いや、恐らく駄目だろう。もっと速く、自由に飛べなければ……奴に迎撃されてしまうだけだ」

 エリクはそう言いながら自身の傍らに置いている破損した魔装具マントを見つめ、苦々しい面持ちを浮かべる。
 如何に寿命を上乗せしたエリクの斬撃が強力であろうと、飛翔が出来なるウォーリスに対して直接的な有効打は与えられない。

 遠距離で斬撃の撃ち合いとなれば、到達者エンドレスとして無限に近い生命力オーラと魔力を持つウォーリスに圧倒的な分がある。
 実際にウォーリスと対峙したエリクは、今の自分が持つ装備だけでは対抗できない可能性を考えていた。

 そんな時、不意に扉を叩く音が響く。
 それを聞いたエリクとマギルスは扉に視線を向けると、二人の返事を待たずに扉が開けられた。

 すると扉を開けた人物に対して、マギルスが声を向ける。
 
「あっ、『青』のおじさん」

「――……傷と、疲れはどうだ?」

「僕は平気!」

「そうか。……そちらはどうだ?」

「……身体は問題ない。ただ……」

 訪れた『青』の問い掛けにマギルスは応え、エリクも自身の体調について伝える。
 しかし別の懸念を抱くエリクの視線が破損した魔装具マントと衣服に向くと、それを察するように『青』はある事を伝えた。

「なるほど、装備か。……実はお前達の為に、装備が用意されている」

「なに?」

「えっ、僕のも?」

「そうだ。……もし欲しければ、また付いて来い」

「……待て」

 再び付いて来るよう促す『青』は、背を向けながら扉から出て行こうとする。
 しかしそれを呼び止めたエリクは、寝台から腰を上げて立ち上がりながら『青』に問い掛けた。

「俺達の装備を用意していたのは、お前の言っていた協力者だな?」

「……如何にも」

「それは、未来の……俺達と戦った、あのアリアか?」

「……それは、本人に聞くといい」

「何だと……?」

「いずれ、その協力者ものが居る『天界ばしょ』へ辿り着く。……だが、これだけは言っておこう」

「……?」

「アレは、我等が知っておる者ではない。もっと別の存在なにかだ」

「……どういうことだ?」

「それ以上は、我からも言えぬ。……さぁ、来るといい」

 敢えてそうした言い方で語る『青』は、協力者に関する素性を明かさずに扉から出て行く。
 それにまゆひそめながら表情を強張らせるエリクだったが、その後を付いて行くマギルスに続いて部屋を出て行った。

 こうして協力者が未来のアリアだと考えるエリクだったが、その素性を知る『青』からは何の情報も得られない。
 しかし自分の為に用意された武装がある事を知り、その気遣いに僅かながらもアリアの懐かしさを感じていた。
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