1,006 / 1,360
革命編 五章:決戦の大地
力の代価
しおりを挟む『天界』へ向かう箱舟に乗る一行は、それぞれに覚悟と準備を整えながら休息に入る。
そしてそれぞれが艦橋で別れてから十二時間程が経った頃、疲弊していたエリクは眠りから目が覚めた。
すると先に起きていたマギルスが床の上で逆立ちしている様子を見るエリクは、寝起きの声で呼び掛ける。
「――……マギルス?」
「あっ、おじさん。おはよ!」
「ああ。……どのくらい、俺は寝ていた?」
「半日くらいじゃない? 僕もそれくらい寝てた!」
「そうか。……何をやっているんだ?」
「準備運動!」
「そうか」
逆立ちしながら両手で部屋の中を歩くマギルスの奇怪な行動にも、エリクは動じる様子は無い。
そんなエリクに対して、マギルスはそのままの状態で話を続けた。
「おじさんの調子はどう?」
「……問題は無い。戦える」
「そっか。……おじさん、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「おじさんって、何かしてるよね」
「何か?」
「ほら、未来でクロエの試験から戻って来た時にさ。エリクおじさん、見た目だけじゃなくて強さも雰囲気も前と違ってたじゃん。だから、試験で何かやってたのかなって」
「……俺の魂に居る鬼神と、ずっと戦っていた」
「へぇ、それだけであんなに強くなれるの?」
「……」
「『牛』のおじさん達から聞いてるけどさ。おじさん、巫女姫の修行では身体を使った訓練はしてなかったんでしょ? なんでそんなに強いの?」
「……いいや、何もしていないわけではない」
上半身を起こしていたエリクは寝台から足を降ろし、床に着ける。
そしてマギルスの方に身体を向けながら、到達者に匹敵する実力を身に着けた秘密の一端を明かした。
「俺は、俺自身に誓約を立てた」
「誓い?」
「俺自身の実力では、鬼神のような到達者には勝てない。そして、俺自身の持つ生命力にも限りがある。……だから俺は、アリアと同じ事をした」
「!」
「アリアは自分に『誓約』を立て、自分自身の『能力』を大きく制限させる『制約』を敷いていた。ならその逆、自分の力を増幅させる『制約』も立てられるのかと、俺の魂に居た制約のアリアに聞いた。……すると、可能だと言われた」
「……じゃあ、おじさんが凄く強くなってるのは、その『制約』で?」
「そうだ」
「ふーん、どんな『制約』にしたの?」
「俺の『寿命』を代価にしている」
「へー――……えっ!?」
エリクが自らに『誓約』と『制約』を敷いて巨大な力を得た事を知ったマギルスは、その内容を問い掛ける。
すると思わぬ返答が帰って来た事で、マギルスは驚きを浮かべながら逆立ちしている姿勢を崩して転がるように床へ倒れた。
そんなマギルスに対して、エリクは自らが敷いた『制約』の内容を明かす。
「俺が今の自分が持つ実力以上の能力を引き出す時に、自分の『寿命』を上乗せして自分の肉体と生命力を強化している」
「……マジ?」
「そうでもしないと、俺は誰にも勝てない。そう思って、そういう『制約』にした」
「……もしかして、未来の戦いでも……今までもずっと?」
「ああ」
「おじさんって、今は『聖人』だよね。だから寿命が千年だとしたら……もう、どのぐらい使ってるの?」
「……この戦いが終わるまでは、大丈夫だ」
自身の寿命がどれほど残っているかを問い掛けられた時、エリクは敢えて年数を明かさずにその言葉だけを返す。
それを聞いたマギルスは横に倒れている自身の身体を戻しながら床へ座り、改めてエリクに問い掛けた。
「それで良かったの?」
「ああ。これでいい」
「そっか。……じゃあ、僕は何も言わない。でも、ケイルお姉さんが知ったら怒りそうだね」
「……そうだな」
「そういえば、寝る前にケイルお姉さんと話をしてたんだよね。何の話してたの?」
「……『青』と協力している者が、アリアだという話だ」
「えっ?」
「だが、そのアリアは俺達の知るアリアではないと言われた。……恐らくアリアの短杖に、未来の記憶を持つアリアが協力しているのだろうと」
「ふーん、それなら色々と納得かな。ウォーリスって奴の目的を知ってたのも、未来のアリアお姉さんだからなんだね。……それで?」
「……未来のアリアと、今のアリアは違うと言われた。……ちゃんと区別しろと」
「あっ、そっか。現代って、記憶の無いアリアお姉さんと、未来の記憶を持ってるアリアお姉さんの二人がいるんだ。……エリクおじさん的には、どっちも助けたいってとこ?」
「……ああ」
「じゃあ、それでいいんじゃない? 未来のアリアお姉さんに手伝ってもらって、攫われたアリアお姉さんは助ける。それでいいじゃん」
呆気も無くそう述べるマギルスの言葉に、エリクは頷きを見せる。
しかし浮かない表情を見せるエリクに、マギルスは首を傾げながら問い掛けた。
「どうかしたの?」
「……またアリアは、自分を犠牲にする策で動いているかもしれない」
「えっ」
「具体的な方法は分からない。……だが、アリアが俺達の力を頼りながら、自分がウォーリスを倒す策を考えていないはずがない」
「あー……。確かに、何か考えてそうだね。アリアお姉さんだし」
「そうなる前に、ウォーリスを倒したいが……。……奴に飛ばれながら戦われたら、今の俺では攻撃が届かない」
「おじさんの装備、ボロボロだもんね。僕の青馬に乗って戦う?」
「いや、恐らく駄目だろう。もっと速く、自由に飛べなければ……奴に迎撃されてしまうだけだ」
エリクはそう言いながら自身の傍らに置いている破損した魔装具を見つめ、苦々しい面持ちを浮かべる。
如何に寿命を上乗せしたエリクの斬撃が強力であろうと、飛翔が出来なるウォーリスに対して直接的な有効打は与えられない。
遠距離で斬撃の撃ち合いとなれば、到達者として無限に近い生命力と魔力を持つウォーリスに圧倒的な分がある。
実際にウォーリスと対峙したエリクは、今の自分が持つ装備だけでは対抗できない可能性を考えていた。
そんな時、不意に扉を叩く音が響く。
それを聞いたエリクとマギルスは扉に視線を向けると、二人の返事を待たずに扉が開けられた。
すると扉を開けた人物に対して、マギルスが声を向ける。
「あっ、『青』のおじさん」
「――……傷と、疲れはどうだ?」
「僕は平気!」
「そうか。……そちらはどうだ?」
「……身体は問題ない。ただ……」
訪れた『青』の問い掛けにマギルスは応え、エリクも自身の体調について伝える。
しかし別の懸念を抱くエリクの視線が破損した魔装具と衣服に向くと、それを察するように『青』はある事を伝えた。
「なるほど、装備か。……実はお前達の為に、装備が用意されている」
「なに?」
「えっ、僕のも?」
「そうだ。……もし欲しければ、また付いて来い」
「……待て」
再び付いて来るよう促す『青』は、背を向けながら扉から出て行こうとする。
しかしそれを呼び止めたエリクは、寝台から腰を上げて立ち上がりながら『青』に問い掛けた。
「俺達の装備を用意していたのは、お前の言っていた協力者だな?」
「……如何にも」
「それは、未来の……俺達と戦った、あのアリアか?」
「……それは、本人に聞くといい」
「何だと……?」
「いずれ、その協力者が居る『天界』へ辿り着く。……だが、これだけは言っておこう」
「……?」
「アレは、我等が知っておる者ではない。もっと別の存在だ」
「……どういうことだ?」
「それ以上は、我からも言えぬ。……さぁ、来るといい」
敢えてそうした言い方で語る『青』は、協力者に関する素性を明かさずに扉から出て行く。
それに眉を顰めながら表情を強張らせるエリクだったが、その後を付いて行くマギルスに続いて部屋を出て行った。
こうして協力者が未来のアリアだと考えるエリクだったが、その素性を知る『青』からは何の情報も得られない。
しかし自分の為に用意された武装がある事を知り、その気遣いに僅かながらもアリアの懐かしさを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?
笹乃笹世
恋愛
おケツに強い衝撃を受けて蘇った前世の記憶。
日本人だったことを思い出したワタクシは、侯爵令嬢のイルメラ・ベラルディと申します。
一応、侯爵令嬢ではあるのですが……婚約破棄され、傷物腫れ物の扱いで、静養という名目で田舎へとドナドナされて来た、ギリギリかろうじての侯爵家のご令嬢でございます……
しかし、そこで出会ったイケメン領主、エドアルド様に「例え力が弱くても構わない! 月50G支払おう!!」とまで言われたので、たった一つ使える回復魔法で、エドアルド様の疲労や騎士様方の怪我ーーそして頭皮も守ってみせましょう!
頑張りますのでお給金、よろしくお願いいたします!!
ーーこれは、回復魔法しか使えない地味顔根暗の傷物侯爵令嬢がささやかな幸せを掴むまでのお話である。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる