1,014 / 1,360
革命編 六章:創造神の権能
魂の導き
しおりを挟む創造神の権能を手に入れようとするウォーリス達の目論見を阻む為に、エリクとその仲間達を乗せた箱舟は『天界』へ向かう。
そして箱舟の内部で警報音が鳴り響く少し前、その視点は『天界』に移った。
四方全てが青い空に覆われている世界で巨大な大地となって浮かぶ白い神殿に辿り着いたウォーリス達は、魔鋼の黒い塔を着地させる。
すると黒い塔の天辺が四方に開かれると、その内部からウォーリスと悪魔騎士ザルツヘルムが飛翔しながら出て来た。
ウォーリスは身綺麗な黒い礼服を身に着け、何も持たない状態でいる。
対象的にザルツヘルムは背中に悪魔の羽を生やしながら飛翔し、その両腕にはアルトリアとリエスティアの二人を抱えた状態だった。
アルトリアは呪印の影響で衰弱している為、まともな抵抗も出来ていない。
もう一人のリエスティアも、精神と魂を失っている為に最低限の生体反応以外は無反応のままだった。
それを確認したウォーリスは微笑を浮かべた後、開かれた黒い塔へ視線を戻し、内部で見上げている側近アルフレッドに声を向ける。
「――……アルフレッド、留守を任せたぞ」
「お任せください」
互いに微笑みの言葉を向けた後、ウォーリスはザルツヘルムと共に中空を飛びながら巨大な白い神殿の出入り口を目指す。
その途中、ウォーリスは周囲を見渡しながら呟いた。
「ここが創造神の神殿……いや、宮殿と呼ぶべきか。……しかし、これほど巨大な大陸を浮かせているとなると……。……まさかこの宮殿、全て魔鋼か?」
巨大な白い神殿を上空から見渡すウォーリスは、それが魔鋼で浮いているのだと察する。
しかし自分達の知る魔鋼と色合いが違う事に疑問を抱き、訝し気な表情を浮かべた。
「しかし、白い魔鋼か。……魔鋼そのものは巨大な魔力の集合体だが、まさか魔石と同じように属性付与させているのか? ……興味深いな、創造神の技術は」
魔鋼の使い方に関して未知なる技術がある事を感じ取り、強かな微笑みを色濃くさせる。
対象的にザルツヘルムの左腕に抱えられているアルトリアは、苦々しい面持ちを色濃くさせながら神殿を見て奇妙な既視感と郷愁を強めていた。
「何なのよ、これ……。……私は、この神殿を知ってる……?」
「……」
そうした対象的な二人の声が聞こえながらも、ザルツヘルムは周囲に注意を向けながら悪魔の羽で飛び続ける。
すると神殿の中腹まで辿り着いた時、アルトリアが何かを思い出すようにしながら声を大きく張り上げた。
「……ちょっと、止まりなさいっ!!」
「!」
「む?」
突如として止まるよう声を上げるアルトリアに、ザルツヘルムとウォーリスは互いに驚きの表情を浮かべる。
しかし二人は飛翔しながら進むことを止めないまま、次の瞬間には奇妙な感覚に襲われた。
「ウォーリス様、これは……」
「……どうやら、神殿そのものに仕掛けがあるらしい。……飛翔が継続できないな」
二人は奇妙な感覚に襲われた直後、飛行高度が意識しないまま落ちた事を察する。
すると素早く身を引かせながら影響の及ばない中空に留まり、この先へ進む為には飛翔できない事を悟った。
しかしウォーリスは、その仕掛けを知るように警告したアルトリアへ注目を向ける。
「アルトリア嬢。何故、こんな仕掛けがある事を知っていた?」
「……ッ」
問い掛けに答えず顔を逸らしたアルトリアを見て、ウォーリスは僅かに思考する。
するとアルトリアが仕掛けを警告した意味を、自身の推論として述べた。
「……なるほど、君は創造神の魂を持つ生まれ変わりだ。どうやらその魂には、自分の創造物にどんな仕掛けを施しているか覚えているらしい。……ザルツヘルム、降りるぞ」
「ハッ」
「アルトリア嬢。君は是非、神殿の道案内を御願いするとしよう」
「……誰が……!」
自身が抱く郷愁と既視感の理由について、ウォーリスの推測が当たっている可能性をアルトリアは察してしまう。
その反発心から睨みと刺々しい拒絶の言葉を口にしたアルトリアに、ウォーリスは黒い微笑みを向けながら降下を続けた。
神殿の出入り口まで舗装されている道に、ウォーリスとザルツヘルムは着地する。
そして悪魔の羽を閉じるように背中へ収納したザルツヘルムの左腕から、ウォーリスは奪うようにアルトリアの身体を引き抜いた。
「ッ!!」
「我々のような客人を招くのは、城主としての役目だ。……もし逆らえば、お前の手足を引き千切って持ち易くさせてもらおう」
「……ッ」
「無駄な抵抗は止めておけ。お前を助けてくれる者など、天界には来ないのだから」
ウォーリスの脅迫を耳元で聞かされるアルトリアは、嫌悪の表情を浮かべながらも僅かな抵抗を止める。
そして衰弱した身体で立たされた後、ウォーリスはザルツヘルムに声を向けた。
「ザルツヘルム、呪印を少し弱めておけ。……ここからは、彼女自身の手も借りながら歩いてもらおう」
「承りました」
「アルトリア嬢、もし疲れたらすぐに言いたまえ。私が優しく抱えて、歩いてあげよう」
「……大きな、御世話よ……っ」
白々しい程の笑みで優し気な声を向けるウォーリスに、アルトリアは嫌悪の意識を向ける。
そして弱まっている身体に僅かながらも力が戻り、立ったまま歩ける状態まで体調が戻った。
しかし身体に巻かれるように刻まれている呪印が解けたわけではなく、魔法などもまだ使えない。
それでも自分の意思で動けるようになった状況は、アルトリアにとっては好都合に思えた。
アルトリアに先導させるウォーリスとザルツヘルムは、神殿へ向かいながら緩やかに歩き始める。
それから三十分程の時間が経った頃、黒い塔の内部に待機しているアルフレッドに場面は戻った。
開かれた天井や周囲を投影する映像を見ていたアルフレッドは、『天界』の状況を確認しながら監視を続ける。
そして上空に形成されている光の通路へ視線を向けた時、アルフレッドは瞳を見開きながら光の中を凝視した。
「……!」
見開いた瞳から僅かに奇妙な音が鳴った後、何かに気付いたアルフレッドは投影した操作盤を操り始める。
そして周囲に映し出している映像を全て確認し、更に自身の眼で捉えている光の通路を再確認しながら表情を強張らせた。
「……そうか、そういう事かッ!!」
アルフレッドは操作盤で黒い塔を制御し、その攻撃機能を動かす。
塔の表層を変化させながら数多の黒い棘を作り出したアルフレッドは、その先端から細くも強力な魔力砲撃を光の通路へ放った。
その一つの砲撃が何かを掠め、空の景色が僅かに歪む。
それを確認したアルフレッドは憤りに近い表情を向けながら、唸るような声で呟いた。
「やはり、こちらの機能に介入していたな……!! 【魔王】と名乗っていた者の仕業かっ!!」
怒りに震える声を向けながら、アルフレッドは歪んだ空の景色に向けて再び魔力砲撃を放つ。
すると次の瞬間、その歪んだ景色の偽装から現れる箱舟の姿を確認した。
そして姿を見せた箱舟は放たれた魔力砲撃を浴びながらも、それを逸らすように張られた強力な結界がそれを周囲に逸らし散らす。
その箱舟内部では警報音が鳴り響くと同時に、船内に『青』の声が響いた。
『――……こちらの偽装が暴かれたっ!! これより、強行突入を行う!』
「!?」
「また、未来みたいに突入なのっ!?」
『全員、傍にある物に掴まっていろ!』
設置している通信器を通じて警告を向ける『青』に応じ、貨物室にいるエリクとマギルスは傍にある壁や扉に掴まる。
すると箱舟の後部に備わる魔導機関が全力稼働し、凄まじい魔力を噴射しながら箱舟が急加速を始めた。
箱舟全体がその加速によって振動が生じ、中に居る者達に圧力を加える。
それを撃墜すべく、アルフレッドの操る黒い塔は魔力砲撃が数多に襲い掛かった。
こうして『天界』の神殿へ上陸したウォーリス達は、その最奥を目指すべくアルトリアに案内をさせる。
そしてついに『天界』へ到着した箱舟は、第一の障害であるアルフレッドの迎撃を潜り抜けようとしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる