虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 六章:創造神の権能

一路の突破

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 天界エデンに浮かぶ白い魔鋼マナメタルの大陸を目指していた箱舟ノアは、敵勢力ウォーリスの側近アルフレッドの妨害によって撃墜される。
 辛うじて白い大陸に不時着を成功させた箱舟ノアだったが、その損傷は酷く機構システムは停止に追い込まれ、稼働していた魔導人形ゴーレム達を動かせなくなった。

 その隙を逃さぬように、アルフレッドは魔鋼マナメタルの黒い塔から黒い人形達を作り出す。
 そして箱舟てきの勢力を排除すべく、凄まじい速さで走らせながら迫りつつあった。

 一方その頃、大陸の中央に建てられた巨大な神殿へ足を進めて長い階段を登っていたウォーリス達も、拠点とうに居るアルフレッドが何かを迎撃し始めた事に気付く。
 そしてその光景すがたを強化した視覚で捉えたウォーリスは、訝し気な表情を浮かべながら呟いた。

「――……あの形状かたち、まさか飛空艇だと……」

「……!」

「もしや、『青』か。……しかし、ここまでの通路みち魔鋼マナメタルの爆発で破壊したはず……。……いや、そういうことか……?」

 破壊したはずの通路を利用し『天界エデン』に現れた箱舟ふねを確認したウォーリスは、その思考にある可能性を浮かべる。
 それは現在の状況からかんがみての推察だったが、『青』達の戦略を見事に言い当てる推論モノだった。

「これも【魔王】と名乗った者の仕業か。こちらの機構システムを妨害するだけではなく、偽装も施していたとは」

「……ウォーリス様。ここは私が」

「いや、アルフレッドに任せる。お前は器を運んだまま、神殿おくまで来い。――……さぁ、アルトリア嬢。案内を続けたまえ」

 敵の来襲を知ったウォーリスだったが、自ら対応を行おうとするザルツヘルムを抑えながらアルフレッドに任せると告げる。
 それを聞き入れたザルツヘルムにそのままリエスティアを運ばせ、再びウォーリスは先導させているアルトリアへ進むよう催促を向けた。

 衰弱しているアルトリアには何が起きているか分からなかったが、二人の会話である程度の状況を察する。
 そして歩みを進めながらも、僅かな抵抗として皮肉染みた言葉をウォーリスに向けた。

「……アンタの計画も、穴だらけみたいね……。……そんなんで、世界を手に入れられると本気で思ってるわけ……?」

「思っていなければ、こんな行動ことはしないさ」

「……予想外の敵が来てるんでしょ? アンタ達が、総出で相手をしなくていいわけ?」

「安心したまえ。アルフレッドが全て排除してくれる」

「……あんな優男が、一人で……?」

「見た目だけであなどってはいけない。……何せ彼は、私が作り出した最高の親友ともなのだから」

「……作り出した……?」

 ウォーリスは微笑みを浮かべながら親友アルフレッドについてそう語り、アルトリアに困惑させた表情を浮かべさせる。
 そして三人は歩く速度をそのままに足を進め、神殿の階段を上り続けた。

 そうして神殿側へ進むアルトリア達から視点は変わり、再び不時着した箱舟ノアに場面は戻る。

 貨物室の大扉から出たエリクとマギルス、そしてケイルに続くように船内を移動して来た十名の者達は、下がった大扉を足場にしながら箱舟ふねの外に出た。
 そして箱舟ふねの外側にも通信器を用いた『青』の声が響き渡り、全員に届くようにその言葉が伝わる。

『――……我とテクラノスは、箱舟ふね機構システムを急ぎ修復させる』

「えー。じゃあ、僕達はどうするのさー? 『青』のおじさんに案内してもらわないと、天界ここに何が在るか分かんないよ!」

『おそらく敵は、この大陸の中央にある神殿を目指している。ここからでも見えるだろう? あの巨大な神殿だ』

「……あそこか」

 マギルスの訴えに『青』は応えると、その場に居る全員が視線を動かしながら遠目からでも分かる巨大な神殿を視界に収める。
 まるで巨大な山にすら思える神殿の造形は、遠目からでも全景を把握できぬ程の様相を見せていた。

 そして再び『青』の声が響き、全員に更なる事態が起きている事を伝える。

『……マズいな』

「?」

『こちらに何かが向かってきている。敵は我々にトドメを刺すつもりだ』

「!」

『だが機構システムを復旧させ、箱舟ふねの応急修理を進める為には時間が掛かる』

「……時間稼ぎをしろってことかよ?」

箱舟ふねを復旧できなければ、目的を達したとしても元の世界には戻れぬ。……敵に偽装が暴かれずに潜入するのが、理想的な最善策だったのだがな』

「……最善の策から、最悪の状況に切り替わってしまったということだな」

 伝えられる危機的な状況を改めて伝えられる面々の中で、新旧の『赤』であるケイルとシルエスカが共にそうした言葉を呟く。
 しかしそれについて立案者を責められる立場ではない事を察する一同の中で、ゴズヴァールが歩み出ながら通信器越しに『青』に呼び掛けた。

「敵の数は分かるか?」

『不明だ。だが生態反応や魔力反応を感じられない事を見ると、相手は魔鋼マナメタルの人形達だろう』

「うげっ、またアイツ等……!?」

「……あの未来で戦った、黒い人形共か。まずいな……」

 向かって来る敵が魔鋼マナメタルの人形達だと教えた『青』の言葉で、人形達それらと戦った未来を覚えているマギルスとケイルが渋い表情を浮かべる。
 その心情を察するように、『青』は人形達について更なる説明を加えた。

『敵が送り出したのが魔鋼マナメタルの人形達ならば、破壊は不可能だろう。奴等に弱点があるとすれば、質量的に軽いということだ』

「軽い?」

魔鋼マナメタルは魔力を物質化してはいるが、実は空気より軽い素材でもある。それに指向性を持たせ人としての形を模していても、普通の人間よりも遥かに軽いのだ。幼い子供でも付き飛ばせる程にな』

「……だが、奴等は硬いぜ。気力オーラ斬撃けんでも、まったく切れなかった」

「それと素早いし、身体全体から武器みたいに形が変わるよ!」

『だからこそ、接近を許さなければ脅威とはならない。――……状況が変化した以上、少し作戦に変える必要があるな』

「!」

『テクラノスは機構システムの修復を行い、我が人形共は箱舟ふねに侵入させぬように食い止める。他の者達は人形共を突破し、それ等を操っている敵施設の者を倒す。そして神殿へ向かっているであろうウォーリス達を追い、奴等を討伐してくれ』

「……魔法を使える奴が、居ない状況か」

『人形共を操っている敵を抑えてくれれば、我も向かう。そして箱舟ふねが復旧できれば、こちらの魔導人形ゴーレムを動かせる。……それ以外の手順は、事前に伝えた通りだ』

 状況に即しながら改めて伝えられる『青』の作戦に、全員が覚悟した表情を見せながら頷く。
 そこでケイルの方を向いたエリクは、懸念している事柄を問い掛けた。

「ケイル。アリアの救出は……」

「一応、伝えてある。だが状況次第だって、師匠達には言われた」

「状況……」

「もし敵の側近連中に捕まっていても、倒すのが優先だと思ったら、助けるのは後回しだ。そうしないと、逆にやられるかもしれないってさ」

「……そうか。そうだな」

「それに『青』の意見だと、『鍵』であるアリアは首謀者ウォーリスと一緒に重要施設しんでんの方に連れて行かれてるかもしれないってさ。……だから……」

「……俺達で、アリアを助けるしかないか」

「そういうことだ」

 アリアを救出し協力してウォーリスを討つという作戦を実行しようとしているエリク達は、それを自分達で成さねばならぬ事を改めて察する。
 そして『青』が改めて通信器から声を発し、最後の警告と敵の接近を教えた。

『神殿の周囲には、見えない結界が張り巡らされている。敵の塔が構えている出入り口以外の場所を通過しようとすれば、命を失うと思え。――……敵が来るぞ。全員、そのまま突っ切れ!』

「ッ!!」

 外に出ている十名は、『青』の情報を聞きながら巨大な神殿の見える場所まで走り始める。
 そして全員が凄まじい速度で走る中、マギルスは相棒である青馬ファロスを出現させながら誰よりも速く前に出た。

 するとマギルスと青馬の視界に、表情を顰めさせるような光景が浮かぶ。
 それは未来で襲って来た黒い人形達が、再び津波のように迫り来る光景だった。

「やっぱり、またアイツ等だ! ――……行くよ、相棒ファロスっ!!」

「ブルルッ!!」

「――……『精神武装アストラルウェポン長槍形態ランスモード』ッ!!」

 魔力で形成した青い手綱を強く握り締めるマギルスは、騎乗する青馬ファロスと共に青い魔力を纏い始める。
 するとマギルスと青馬を覆うように展開された巨大に膨張した魔力が、まるで一本のランスを模すような形となった。

 その内部を走る青馬ファロスは、更に速度を増しながら人形達が押し寄せる津波へ突っ込んでいく。
 そして青い巨大な槍が黒い人形達の群れへ突撃し、津波それを貫くように通過し始めた。

 黒い人形達は横側に大きく吹き飛び、そのまま青槍の侵攻を許してしまう。
 それを内部から見ながら突き進むマギルスと青馬ファロスは、そのまま敵の陣形を突破していった。

「もうあんな奴等、敵じゃないもんね!」

「ブルルッ」

「えっ、壊せてないって? ……いいじゃん、いつか壊せるようになるよ!」

「……ブルッ」

 そんな言葉を交わし合うマギルスと青馬ファロスに続くように、巨大な隙間が出来た黒い人形達の群れへエリク達も突入する。
 しかし他の人形達がエリク達の方にも迫るように動き、彼等を刺し貫こうと刃に変えた両手を向けて近付き始めた。

「ッ!!」

 その人形達を見たエリクは、背負う大剣を引き抜こうと右手を柄に伸ばす。
 しかしそれを止めるように呼び掛けたケイルが、エリクの真横に並びながら言い放った。

「お前は攻撃すんなっ!!」

「!」

「露払いなら、アタシがやってるやる。――……当理流とおりりゅう、裏の型。『孤月こげつ』ッ!!」

 寿命を削って攻撃をしていると知ったエリクに代わり、ケイルは自ら前に出て左腰に携えた長刀を引き抜く。
 それと同時に引き抜かれた長刀から一閃された細く研ぎ澄まされた気力斬撃ブレードが襲い来る人形達を吹き飛ばし、二人の進むべき道を開けさせた。

 それを複雑な表情で見ながら後ろを追う師匠の武玄ブゲンに対して、トモエは視線と言葉を向ける。

「――……親方様」

「……分かっている、軽流けいるが決めた事だ。……それより、お前の影分身かげは?」

「別の順路ルートで神殿まで向かおうとしましたが、周囲には見えない結界が張り巡らされております。結界それを通り抜けようとした瞬間、影分身かげが消されました」

「という事は、『やつ』の言う通りか」

「はい。正面突破しか無いようですね」

「歯痒いが、仕方あるまい。――……では、行くか」

「ええ」

 武玄ブゲントモエは裏側で神殿の別順路ルートを探っていたが、それが徒労に終わった事を知る。
 そして躊躇ためらいいを失くした二人は走りを加速させ、目の前のエリクとケイルを抜き去った。

 前に出た事で迫り来る人形達に対して、武玄ブゲンは左腰に収めた長刀に右手を添え、トモエは敢えて押し寄せる群れの中に突っ込む。

「――……月の型、『弦月げんげつ』!」

「ふっ!」

 すると次の瞬間、瞬く間に武玄ブゲンは長く鋭利な気力斬撃ブレードで数十体以上の人形達を吹き飛ばす。
 トモエも体術を目にも止まらぬ速さで迫る十数体の人形達を体術で吹き飛ばし、後ろを走る者達の道を切り開いた。

 それを見て驚くエリクに対して、ケイルは自慢するような微笑みを浮かべながら言う。

「どうだ、アタシの師匠達は凄いだろ!」

「ああ。……頼もしいな」

 エリクは前を走る三人の師弟を眺めながら、その頼もしい背中に安心感を抱く。
 その後方から付いて来るシルエスカは、バリスと共に走りながらも迫って来る黒い人形を見て僅かな寒気と嫌悪感を強めていた。

「……コイツ等を見ていると、悪寒が走る。……これが『青』の言っていた、覚えていない未来の感覚か……」

「シルエスカ様も、この人形達と未来で戦ったようですな」

「そうらしい。……願わくば、こんな人形共に未来の私は殺されていないと思おうっ!!」

 シルエスカはそう言いながら右手に持つ赤槍を振るい、飛び掛かった人形達を吹き飛ばす。
 それに隣り合うバリスも自身の左手を横に翳《かざ》し、白い手袋に刻んだ魔法式を用いて凄まじい突風を生み出しながら人形達を吹き飛ばした。

 こうして人形達の群れを突破している最中、殿しんがりを務めるように追う魔人ゴズヴァールは後ろを気にする。
 その視線には箱舟ふねが映っていたが、彼が気にしていたのは箱舟の中に居る者だった。

「……エアハルト……」

『――……!』

「邪魔だっ!!」

 負傷した身体で船内に残されているエアハルトを気にするゴズヴァールだったが、その背後から迫る黒い人形達を回し蹴りで吹き飛ばす。
 そして身を翻しながら再び前を走り始め、そのまま敵陣を突破する事に集中した。

 こうして一行は、神殿の入り口に在りながら敵勢力が生み出される黒い塔を目指す。
 そして待ち構えている敵勢力ウォーリスの側近アルフレッドを討つべく、魔鋼マナメタルで出来た黒い人形達の群れを突破していった。
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