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革命編 六章:創造神の権能
未知の人間
しおりを挟む不時着した箱舟の復旧と修理を『青』とテクラノスに任せ、エリクとケイルを含む八名は巨大な白い神殿の入り口と思われる区画まで走り向かう。
そして彼等を排除する為に差し向けられた魔鋼の黒い人形達を吹き飛ばしながら、その出所である敵拠点の黒い塔を目指して走り続けた。
そんな彼等を追う黒い人形達とは別に、そのまま不時着した箱舟に向かう黒い人形達も大量にいる。
その侵攻を阻んだのは、箱舟の船上に転移し姿を見せた『青』だった。
『青』は迫り来る人形達を見下ろした後、周囲を見渡す。
すると白い魔鋼で形成された大地と造形物を改めて目にし、まるで懐かしむような声で呟いた。
「――……五百年前のあの時と、ここは変わってはおらぬな。……いや。変わったからこそ、この状態になっているということか」
『青』はそう言いながら右手に持つ錫杖を前に翳し、嵌め込まれた青い魔玉を輝かせる。
すると箱舟を中心とした半径五百メートルの距離に、五層で形成された円形状の分厚い結界が敷かれた。
結界に接触した黒い人形達は、その侵入を拒まれるように弾き飛ばされる。
そして次々と押し寄せる黒い人形達は、阻む結界に対して刃に変えた腕を突き立て始めた。
それを確認する『青』は、結界を食い破ろうとする人形達を見ながら再び呟く。
「……稼げる時間は、せいぜい二時間程度か。……その間に機構を復旧し、あの人形達を操っている者を倒せなければ……こちらの敗北だな」
現在の状況から残された猶予を見積り、自分達が敗北した条件を察する。
それから『青』は結界を突破しようとする黒い人形達を見張りながら状況の変化に対応できるように備え、箱舟の復旧をテクラノスに任せた。
そして顔を上げた『青』は、エリク達が向かう先へ視線を向ける。
そこから見える神殿の入り口と思える巨大な白い石造を見ながら、もう一つの条件が満たされることを待った。
一方その頃、迫り来る人形達の第一陣を突破したエリク達は神殿の入り口となっている場所を目指す。
その先頭を走る青馬とマギルスは、第二陣となる黒い人形の群れを精神武装の威力で強行突破していた。
それから遅れて続くのは、アズマ国の助っ人として同行している武玄と巴。
その弟子であり『赤』の七大聖人ケイルが続くように走り、後方を走るエリクが攻撃をしないように庇い続けていた。
更に後方からは元七大聖人であるシルエスカとバリス、そして魔人ゴズヴァールが殿を務めながら三人で追撃して来る人形を迎撃する。
この八名で敵拠点から人形達を操る敵戦力を討伐する為に、全員が一つの槍を模った陣形を作り出していた。
全員が『聖人』と『魔人』である八名の進行速度は、常人を遥かに凌ぐ速度で走っている。
黒い人形達の妨害を退けながらも、各々の高い実力がそれを軽く押し退け、大きな疲弊や負傷も無いまま白い大地を駆け抜けた。
そんな中、青馬に乗り精神武装の突破力で切り抜けているマギルスは、余裕を持った表情で周囲を見渡している。
それを叱るように青馬が鼻息を鳴らすと、マギルスは自分達が居る天界に対して奇妙な感想を呟いた。
「ブルルッ」
「油断するなって? ちゃんと警戒してるんだよ。――……それにしても、寂しいところだなぁ。天界って。綺麗だけど、フォウル国や魔大陸みたいにワクワクするモノが無いね」
「ブル……」
「……昔はもっと色々あったけど、天変地異が起きて向こうの世界に落ちた? ……どうしてお前が、そんなの知ってるの?」
「ヒヒィン」
「……昔は天界に居たから? ……それ、初耳なんだけど?」
「フンッ」
「僕と最初に会った頃に、自己紹介で言ったって? 僕、その時はお前の言葉は分からなかったもん! 自分も誰か分かんなかったし!」
「ブルル……」
青馬とマギルスは互いに通じている会話でそうした話を見せながら、黒い人形達の第二陣を突破する。
特に後続から来る者達を気に掛ける様子の無いマギルスは、ただ一心に敵の人形が送り出されている敵拠点を目指し続けていた。
それから更に三十分程が経つと、百体以上が群れる第三陣や第四陣である黒い人形達が襲い掛かる。
それも突破して見せたマギルスと青馬の視界に、白い大地と構造物の中に浮かび上がる異質な黒い塔が視認できた。
「――……在った、あの塔だっ!!」
「ブルルッ!!」
黒い人形達を吹き飛ばしながら進むのも飽きていたマギルスは、視界に捉えた黒い塔を見ながら瞳を活き活きと輝かせる。
それから天界に来て初めて背負っている大鎌の柄を右手で握り持つと、横に引き出しながら一振りで折り畳まれた状態から組み立てた。
そしてマギルスは精神武装の突槍形態を解き、加速を緩めた青馬から跳び出す。
「俊足形態! ――……僕が、一番乗りだもんねっ!!」
マギルスは青馬と共に自身の魔力を身体に憑依させ、脚部分を強化する『俊足形態』を形成する。
そして跳躍した状態から白い地面へ足を着けた後、今までの速度を遥かに上回る走力で一気に走り始めた。
すると一分もしない内に黒い塔が見上げられる位置まで辿り着き、そこから生み出されながら集結している黒い人形達を確認する。
その状況から自ら人形達の集合地点に辿り着いた後、大鎌の柄を両手で握り直しながら俊足形態を解いた。
「邪魔だから、どっか行ってろっ!!」
そう叫ぶマギルスは、自身の身体と共に大鎌を振り回す。
同時に大鎌へ注いだ魔力が、広く細い斬撃となって黒い人形達を襲った。
その威力によって軽い黒い人形達は吹き飛び、その場から凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
すると自身の身体を回転させるのを止めたマギルスは、黒い塔に向けて改めて大鎌を構えた。
「――……『精神武装:死鎌形態』ッ!!」
悪魔騎士ザルツヘルムとの戦いで見せた大鎌の形態を再び現したマギルスは、自身の身体を支えるように左足で踏み止まる。
そして右足を大きく踏み込ませ、超圧縮された魔力斬撃の一閃を放った。
次の瞬間、マギルスの放った一閃が黒い塔を縦方向に襲う。
その余波によって凄まじい衝撃波が生み出されたが、マギルスはその塔に浮かんだ表層の状態を見て微笑みを浮かべた。
「ほら! さっき言った通り、ちゃんと切れた!」
『……ブルルッ』
「表面がちょっと欠けただけ? ……良いじゃん! 切れただけでも!」
塔の状態に変化が及んだ事に気付いたマギルスだったが、大鎌に憑依している青馬の指摘によってそうした言葉を言い返す。
しかしその変化は、マギルス達が喜びを凌駕する状況を生み出していた。
黒い塔は一線された縦側に、僅かな切れ込みが生じている。
それはマギルスの斬撃が魔鋼に傷をつけたという証拠であり、それは切った本人が思う以上に異常な事態だった。
特に魔鋼の性質を知る者がいれば、世界で最高硬度と言える金属に超える破壊力を持つ者は脅威としか思えない。
そして脅威と認識されたマギルスへの対応を、黒い塔は改めて見せ始めた。
「……あっ」
『……ブルルッ』
喜んでいたマギルスだったが、黒い塔の表面に棘のような形状物が次々と作り出されたのを確認する。
そして次の瞬間、溜めも無くその棘から電光のような魔力砲撃がマギルスに放たれた。
「うわっ!」
攻撃が来る瞬時に悟ったマギルスは、素早く俊足形態に変化して次々と迫る魔力砲撃を回避する。
しかし思いの外、余裕があるマギルスは避ける合間に攻撃して来る塔に向けて言葉の煽りを向け続けた。
「へへーん! そんな砲撃、当たんないもんねー!」
『……』
「中に居る人、ちゃんと狙ってるのー? そんなんじゃ一生、僕には当たんないよ!」
『……ッ』
「もしかして、ウォーリスって人がやってるのかなぁ? そうだったら、ちょっと残念だなー! よわっちそう!」
マギルスの叫ぶ煽りが塔の中にも聞こえているのか、次々と塔の表層が棘状に変化していく。
すると更に多くの魔力砲撃が放たれ、マギルスを仕留めようと勢いが増していた。
それでも余裕で回避し続けるマギルスは、神殿の出入り口側と思しき場所へ視線を向ける。
更に口元を微笑ませた後、最後の煽りを向けた。
「じゃあ、僕は先に行くねー! 付いて来るなら付いて来ていいよ、射撃が下手っぴな人!」
そうした言葉を向けた後、マギルスは魔力砲撃を掻い潜りながら神殿の入り口へ素早く駆けていく。
それを防ごうと塔から放たれた魔力砲撃だったが、マギルスが通った先へ行こうとする際、神殿側に張られた見えない結界によって防がれるように砲撃を阻まれた。
マギルスはそのまま神殿側へ走り続け、ウォーリス達が歩いた通路から追い始める。
その焦りからか、黒い塔の天辺が四方へ開き始めた。
「――……クッ!!」
開いた四方の天井からは、跳び出すように姿を現す者が出て来る。
それは敵勢力の一人である、ウォーリスの側近アルフレッド。
彼は砲撃を掻い潜り入り口を突破してウォーリス達を追うマギルスに対して、憤りと焦燥感を交えた表情を浮かべながら地面へ着地しようとしていた。
「奴に、ウォーリス様を追わせるワケには――……ッ!!」
「――……当理流、月の型。『立待月』」
アルフレッドが白い地面へ着地しようとした瞬間、何かの接近に気付き顔を僅かに後ろへ傾ける。
するとアルフレッドの後背には、塔の壁を利用し走り跳んだ武玄がいた。
そして武玄が空中で構えた後、鞘に収めていた刀を目にも止まらぬ速さで振り抜き、アルフレッドの首を切断する為に項に刃を通す。
すると凄まじい異音が発せられたと同時に、刀が直撃したアルフレッドは神殿の入り口側へ吹き飛ばされながら地面を叩いて転がった。
その様子に武玄は目を見開き驚きながら着地すると、その後ろに控える巴が呼び掛ける。
「親方様。……敵は?」
「……奴め、普通ではない」
「!」
「儂の刀は、奴の肌首に触れた。……だが、斬れなかった」
「……何かしらの、術ですか?」
「いや、違う。……あの感触、まるで硬い鎧でも斬ったかのようだ」
武玄は吹き飛ばしたアルフレッドに警戒を向けながら、斬ったはずの感触をそう語る。
それを聞いた巴も同じように警戒を向けた後、そのまま起き上がる敵の姿に僅かな驚愕を見開いた目で表した。
「――……師匠!」
「敵は――……!?」
それから少し遅れて追い付いたケイルとエリクは、前を見据える二人の視線へ注目する。
そして同じようにアルフレッドに視線を向けた時、その四名が同じような驚きを表情に浮かべる事になった。
するとそんな四名に対して、起き上がったアルフレッドは顔を向ける。
そこで見せるのは共和国の王ながらも好青年として慕われた顔ではなく、左顔の肌が破けるように爛れ、その内部には血肉の通わない黒い金属で構成された素顔だった。
「……アレは……」
「――……見てしまいましたね。私の、本当の顔を」
「!」
「この顔を見たのは、ウォーリス様を除けば貴方達が初めてです」
「……うぬは、何者だ?」
アルフレッドは機械と肌のある顔を見せながら、感情の無い声を向ける。
その異質な姿に関して問い掛ける武玄に、アルフレッドは改めるように自身の名前と正体を告げた。
「私の名は、アルフレッド=リスタル。――……私はウォーリス様に作られた、機械人間です」
「……さいぼーぐ?」
「人の『魂』と、機械の『身体』で作られた存在。……それが機械人間。そしてそれが、私です」
「……機械の、人間……!?」
アルフレッドは皮膚の無い機械の顔と、皮膚の在る人間の表情を見せながら自身の素性を明かす。
それを聞きながらも警戒する武玄と巴に代わるように、エリクとケイルは流石に動揺を浮かべていた。
こうして状況を打破しようとそれぞれが動く中で、ついにウォーリスの側近アルフレッドの正体が明かされる。
それは『人間』に『機械』という能力をウォーリスに与えられた、『機械人間』という未知の人間だった。
応援ありがとうございます!
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