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革命編 六章:創造神の権能

門前の攻防戦

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 不時着した箱舟ノアに押し寄せる黒い人形を退けながら、エリクやケイルを含む八名は白い大陸にそびえる巨大な神殿の入り口へ向かう。
 その位置に構える敵拠点とうに真っ先に辿り着いたマギルスは、俊足形態スピードフォルムで突破しながら神殿まで続く道を走り抜けた。

 それを防ごうと飛び出たアルフレッドに対して、アズマ国の武士サムライである武玄ブゲンが首を落とそうと奇襲を仕掛ける。
 しかしアルフレッドの首を斬り飛ばす事は叶わなかったが、謎に包まれていたアルフレッドの正体を明らかにさせた。

 ウォーリスの親友であり第一の側近として称されていた、アルフレッド=リスタル。
 彼は人間の『魂』と機械の身体を組み合わされた、機械人間サイボーグだった。

 その事を知ったエリク達から、視点は神殿へ向かうアルトリアとウォーリスに視点は移る。
 そこでウォーリスから語られていたのは、アルフレッドが機械人間サイボーグになるまでの生い立ちだった。

「――……アルフレッド。彼は三百年前に私が見つけた、生まれながらにして『聖人』の少年だった」

「……!」

「生まれながらの『聖人』は、常人よりも肉体的な成長が遅い。それ故にやまいであると勘違いされ、親から捨てられる子もいる。……アルフレッドは、そうした者の一人でもあった」

「……それを、アンタが拾ったわけね」

「そうだ。生まれながらの『聖人』は、極めて稀だ。成長すれば、長く使える手駒に出来る。……だが、アルフレッドには重大な欠陥があった」

「欠陥……?」

「彼は生まれながらに『聖人』だったが、その肉体はあるやまいに蝕まれていた。……言うなれば、遺伝子の劣化現象と言うべきか」

「……遺伝性疾患いでんせいしっかん……」

「そう、彼は遺伝子に恵まれなかった。生後十年も経たずに染色体に異変が起き、幼い身体にも関わらず異常な老化現象に見舞われた。『聖人』であるが故に、その見た目は幼くも老人にすら見える状態に陥ってしまっていた。……だから彼は、肉親にも気味悪がられながら捨てられた」

「……ッ」

「そこで私は、第一次人魔大戦時代の技術を用いて、彼に病に蝕まれる事の無い身体を与えた。……機械の『義体からだ』をね」

 階段を緩やかに登りながらそう話すウォーリスは、アルフレッドが機械人間サイボーグになった経緯を話す。
 それを聞きながら先導しているアルトリアは、苦々しい面持ちを強めながら問い掛けた。

「……その恩で、アイツはアンタに従ってるってわけ?」

「勿論、それもあるだろう。……だがそれ以上に、彼も世界の変革を求めている」

「!」

「彼は生まれながらに、自分に課せられた不平等を呪った。『聖人』として生まれながらも、その肉体は次なる進化を出来ぬ程に衰弱していく。……自分の意思ではどうにもならない不平等を、彼は最も憎んでいるのだ」

「……ッ!!」

「その不平等を失くす為に、彼は私に尽力してくれている。……私が創造神オリジン権能ちからを手に入れ、世界を掌握した暁には。彼のような人間が二度と生まれないようにする為にね」

「そんな事が、本気で出来ると思ってるわけ……!?」

「やってみなければ分からないさ。……さぁ、もうすぐ階段も終わるようだ。足を止めずに、歩きたまえ」

「……ッ」

 アルフレッドついて語り終えたウォーリスは、足を止めて問い掛けたアルトリアの背中を軽く押す。
 僅かによろめきながらも踏み止まったアルトリアは、渋々ながら足を動かし始めた。

 そんなウォーリス達から、再び視点はアルフレッドと対峙するエリク達に戻る。

 左顔の人工皮膚が剥がれ、黒い金属に覆われた機械の顔を露にしているアルフレッドは、自身が機械人間サイボーグである事を明かした。
 その聞き慣れない言葉とアルフレッドの姿に驚きを浮かべていたエリク達だったが、同じような動揺を見せない武玄ブゲンが前に歩み出ながら刀を向けて構える。

「――……"さいぼーぐ"が何かは知らぬが、うぬが敵である事に変わりはあるまい」

「ええ、私は貴方達の敵です。――……だが、貴方達の相手は私ではない」

「!」

 アルフレッドは左顔から剥がれ垂れている人工皮膚を自身の左手で剥ぎ取ると、両目を赤く光らせる。
 すると黒い塔から再び黒い人形達が生み出され始め、更にマギルスに吹き飛ばされていた人形達も起き上がりながらその場に集まった四人を囲み始めた。

 そうした人形達の包囲網が築かれながら、アルフレッドは改めて声を向ける。

「貴方達の相手は、人形達かれらだ。――……奴等を殺せ」

「!」

 アルフレッドはそう語り、人形達に指示を飛ばしながら一斉に襲い掛からせる。
 それに相対しようと武器の柄を握ったエリクとケイルだったが、それを許さぬように前に立つ武玄ブゲントモエに命じた。

トモエ

「――……『影分身かげぶんしん』っ!!」

「!?」

 武玄ブゲンが呼んだ次の瞬間、両手でいんを結んだトモエの周囲から数十体の影分身が瞬く間に作り出される。
 それと同時に四方に散らばったトモエ本人と影分身は、それぞれに体術を駆使しながら襲い掛かって来る黒い人形を吹き飛ばし始めた。

 影分身だけで百体以上の黒い人形の侵攻を退けると、アルフレッドは即座に自身の両手を握り合わせる。
 そして前に突き出すように武玄ブゲン達の方角へ両腕を向けると、その殺気を感じ取った武玄ブゲンが握り持つ刀に瞬時に気力オーラを集めた。

「燃え尽きろっ!!」

「月の型、『弦月げんげつ』ッ!!」

 次の瞬間、相対するアルフレッドと武玄ブゲンは互いに声を上げる。
 するとアルフレッドの両腕が赤い光を灯らせた後、両腕から多くの射出口が開かれ、そこから巨大な熱線レーザーが放たれた。

 それを迎撃するように放たれた武玄ブゲンの巨大な『弦月ざんげき』が、襲い掛かる熱線と衝突する。
 互いの攻撃が衝突し威力を相殺させながら凄まじい衝撃を生み出した後、アルフレッドと武玄ブゲンは互いに衝撃波の中を飛び越えるように刀と機械の右腕を衝突した。

「ッ!!」

「チッ!!」

 交差する刀と機械の右腕が火花を散らし、互いの身体を別方向に弾き飛ばしながら着地する。
 そして右腕を伸ばしながら右手を向けたアルフレッドは、手の平から球体状の核を出現させて巨大な雷撃を放った。

 それを迎撃するように、再び武玄ブゲンは刀を振るいながら技を放つ。

「月の型、『満月みちつき』ッ!!」 

 武玄ブゲンは気力を纏わせた剣を円形状に振ると、自身の全面に気力で形成した円盾たてを作り出す。
 そのわざによって放たれた電撃が防がれると、その気力の円盾たてを刀で押し出した武玄ブゲンは、逆に高速で放った気力オーラの塊をアルフレッドに浴びせた。

「ク――……ッ!!」

 アルフレッドは両手を前にかざしながら気力オーラの塊を受け止め、両腕の射出口を再び開きながら熱線レーザーによってそれを弾き返そうとする。
 しかしその前に、受け止められたかに見えた球体状の気力オーラが僅かに収縮した後、凄まじい勢いで膨張しながらアルフレッドの身体を覆い尽くした。

 すると次の瞬間、アルフレッドを包んだ気力オーラが凄まじい勢いで爆発を起こす。
 それを確認した武玄ブゲンだったが、更に追撃するように『弦月げんげつ』の気力斬撃を幾度もアルフレッドに浴びせ放った。

 しかし、その途中でアルフレッドの周囲に異変が起こる。
 そこに電撃のような球体状の磁場バリアが生み出され、武玄ブゲンの放ち浴びせていた気力斬撃ブレードを消滅させた。

 その内部では両腕を横に広げたアルフレッドが立ち、ボロボロになった衣服と身体の各箇所の人工肌が剥がれ消えた様子が窺える。
 しかしそれ以外の被害は何も無く、機械の義体からだには何一つとして損傷ダメージを与えられてはいなかった。

 それを見た武玄ブゲンは技を止めながら、互いに訝し気な瞳を向ける。

「……なるほど。奴の身体も、魔鋼まなめたるという金属もので出来ているらしい」

「……ここまで生命力オーラの扱いに長けた人間が、七大聖人セブンスワン以外にもまだいるとは……」

 互いに相手の脅威を認識しながら距離を保ち、向き合うように身構える。
 そして武玄ブゲンはそのままの姿勢を保ち、後ろに構え立つエリクとケイルに呼び掛けた。

軽流ケイル。ここは、儂とトモエでやる」

「!」

「おぬしは、その男を連れて先に行け」

「……分かりました。エリク、行くぞ!」

 武玄ブゲンの言葉にケイルは頷きながら返答し、神殿の入り口となっている門を模した石造オブジェクトへ走る。
 それに追従するように走るエリクに、武玄ブゲンは怒鳴るような声を向けた。

「エリクとやら!」

「!」

「儂等のむすめ、おぬしに預けるぞ」

「……ああ」

 そう告げる武玄ブゲンに対して、エリクもまた頷きながら入り口となっている神殿の門へ向かう。
 しかしそれを見逃すつもりの無いアルフレッドは、走るケイルに左手を向けた。

「そうはさせ――……ッ!!」

うぬの相手は、儂だっ!!」

 ケイルに意識が逸れた瞬間を狙ったように、武玄ブゲンが瞬く間に距離を詰めて気力オーラを纏わせた刀で露になっている機械の瞳に突き刺そうとする。
 それを弾くように右腕で顔を守ったアルフレッドに対して、武玄ブゲンの影から迫っていたトモエが右脚を放った。

「クッ!!」

 腹部に蹴りを浴びたアルフレッドは、損傷ダメージこそ無いものの大きく吹き飛ばされる。
 そして白い地面を擦るように両足で踏み留まりながらも、既に入り口の門を通り抜けたケイルとエリクは追撃するのが難しい位置になっていた。

 人形達はトモエの影分身によって阻まれ、二人を追えていない。
 アルフレッド自身も武玄ブゲントモエの本体に阻まれ、人工皮膚が残る右顔を険しくさせながら呟いた。

「……ウォーリス様、申し訳ありません。――……奴等をすぐ始末し、あの三人も排除させて頂きます」

トモエ、背中は任せる」

「はい」

 自身の失態を受け入れるアルフレッドは、目の前に立ちはだかる二人の敵を見据える。
 そして自身の義体からだから凄まじい熱量ねつを放ち始め、その余波が相対する武玄ブゲントモエにも届いた。

 しかし動揺や怯みを見せない二人は、落ち着いた面持ちでを見せる。
 そして機械の義体からだで迫るアルフレッドに、武玄ブゲントモエは待ち構えた。

「……ッ!!」

 すると次の瞬間、金属部分が露になっているアルフレッドの左顔に拳が直撃する。
 そのまま拳の勢いに負けて吹き飛ばされたアルフレッドだったが、背中の噴射口が開きながら吹き飛んだ勢いを相殺し、両足で地面を噛み締めるように踏み止まった。

 そして顔を上げたアルフレッドに、新たに現れた者達の姿が映る。
 それは右拳を握り構える魔人ゴズヴァールと、黒い人形達を退けながら現れた元七大聖人セブンスワンのシルエスカとバリスの三名だった。

「――……遅くなった」

「あの姿、奴も人間ではなさそうだな……」

「エリク殿達は、先に向かったようですね」

「……次から次へと……!」

 新たに現れた三名の敵に、アルフレッドは苛立ちに似た声を向ける。
 そして強者と言える五名と相対しながらも、それを排除する為に数百体の黒い人形達を操作しながら襲い掛かった。

 こうして武玄ブゲントモエの助力を得ながら、エリクとケイルも神殿の入り口となっている巨大な門を通過する。
 そして側近アルフレッドの相手を彼等に任せ、ウォーリス達が歩んだ道を二人は走り続けた。
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