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革命編 六章:創造神の権能

神の目覚め

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 天界エデンの神殿を閉じる大扉を七大聖人セブンスワンの聖紋で開けた未来のユグナリスは、エリクとマギルスを伴う形でその最奥おくまで辿り着く。
 しかし最奥に広がる世界を観察する暇も無く、巨大なマナの樹の周辺から響き渡る衝撃音を聞いたマギルスと未来のユグナリスは、互いの手段で空を飛びながら衝撃音の発生源を目指した。

 白髪となり疲弊したエリクはそれを地上から追い、アルトリアを助けるという意思でウォーリスと対峙しようとする。
 しかし道端で放置されていたアルトリアの亡骸によってエリクの意思は挫かれ、精神の均等バランスが完全に瓦解し、再び自身に渦巻くどす黒い感情に飲まれながら暴走を始めた。

 その原因となった、アルトリアが倒れた時間へ場面は戻る。

 創造神オリジンの生まれ変わりであるアルトリアがその魂の影響を強く受け始めた事に気付いたウォーリスは、躊躇なく右手で心臓を切り取る。
 そしてアルトリアの肉体と魂を分離し心臓に封じ込めた後、創造神オリジンの『魂』と『器』を両手に持ちながら『マナの樹』へ向かっていた。

 アルトリアの先導を必要としなくなったウォーリスの走りは、周囲を吹き抜ける風の如く速さを見せる。
 そして木々をすり抜けながら上空そらを見上げ、近付きつある巨大な『マナの樹』を眺めながら微笑みを強くした。

「――……もうすぐだぞ、ウォーリス。私の忠実なる息子よ」

『……』

「どうした、嬉しくないのか? もうすぐ我々の手で、この世界を支配できるというのに」

『……ここまでの長い道程みちのりを、思い出していました』

「フッ。私に比べれば、お前が感じる時間など細やかなモノだ。――……私はこの時を、二千年以上前から夢見ていたのだから」

 ウォーリスは表面的に独り言を呟きながら走りつつ、その精神なかでは二つの意思が会話を行う。

 一人は表層おもてで肉体を操る、転生者ゲルガルド。
 そのゲルガルドに応じているのは、転生した彼が血縁者の肉体を奪い、『黒』の子孫ナルヴァニアに産み落とさせた息子ウォーリス。

 一つの肉体に二つの魂が共存しているという異質な状況の中、それでも彼等の中には明確な上下関係は確立しているようだった。

『……二千年以上前。第一次時人魔大戦の時代、貴方は生まれた』

「そうだ。私は当時の人間大陸に生まれ、自分がこの世界で特別な存在である事を自覚していた。――……何せ私には、前世の記憶があるのだから」

『……チキュウでしたか? 貴方が覚えているという、前世の世界とは』

「そう、地球……私達のような人間が誕生した星の名だ。――……しかし、地球もまた下らない世界だった」

くだらない?』

「下らぬ生命ものが蔓延り、ただ欲のまま滅ぼす事しか考えぬ者達が殺し合い、最後には自分達すらも滅ぼしたくだらぬ世界だ」

『貴方は、そうではなかったと?』

前世まえの私は、地球の滅びを防ぐ為に生涯を費やした。数々の知識や技術を考え生み出し、恒久こうきゅうを作ろうとした。――……だが結局、私の理想を理解しない者によって、その夢は奪われた」

『……』

「奴等は私の知識を利用するだけ利用し、最後にはそれを兵器に転用した。人を生かす為に考えた私の知識と技術が、人を殺す為に使われたのだ。……それを良しとしない私に対して、奴等は用済みだと言いながら殺したよ」

『……だから貴方は、人間という存在そのものを強く憎んでいる』

「そうだ。……しかしこの世界に前世の記憶を持って転生した私は、私の理解者に会えた。それが当時、人間大陸を手中に収めたあの『大帝かた』だった」

 過去の出来事を語るゲルガルドは、その脳裏に当時の光景を思い浮かべる。
 それを聞くウォーリスの精神は、感情に任せて口を走らせる父親の昔語りを止めようとはしなかった。

大帝あのかたは私と同じ、前世の記憶を持つ転生者だった。そして大帝あのかたもまた、圧制者に利用され苦しめられた前世かこを持つ者だった。……しかし私と大帝あのかたには、大きな違いがあった」

『違い?』

「彼は前世においても、そしてこの世界においても、強者に屈する事の無い強靭な精神を持ち合わせていたのだ。……彼は前世においても今世においても、自ら先頭に立ちながら圧制者達に矛を向け、苦しむ者達を導き救済した。そして下らぬ人間達の支配をする国々を全て奪い、人間大陸の全てを手中に収めたのだ」

『……貴方にとって、彼は崇拝すべき神だった』

「そう、彼こそまさしく人間の『神』だった! 愚かな人類の頂点に立ち、新たな世界へと導ける存在だった! ――……だがそれを、あの魔族共に邪魔をされた」

 肉体を操りながら精神内で話すゲルガルドは、歓喜した表情を憎悪と憤怒で染める。
 そしてゲルガルドの記憶には、ある人物達の姿が浮かび上がっていた。

「『始祖の魔王』ジュリア、それに付き従うハイエルフの魔女ヴェルズェリア。奴等が現れたことで魔大陸の掌握が困難になり、帝王かれの覇業は阻まれた」

『……』

「だが大帝あのかたは策を巡らせ、あのジュリアとヴェルズェリアを捕縛に成功した! そしてあと一歩で、奴等は大帝あのかたに殺されるはずだった。……奴さえ邪魔をしなければ……っ!!」

『奴?』

「そうだっ!! 鬼神フォウルの息子だとかいう、あの忌々しい半鬼人ハーフオーガッ!! 奴が邪魔をし、大帝あのかたは道連れとなって殺されてしまったっ!! ……その後に始まったのは、始祖の魔王ジュリアハイエルフの女王ヴェルズェリアの蹂躙。大帝が築き上げた人間大陸せかいの滅びと敗北という、屈辱的な結末だ」

『……』

「私はその時、始祖の魔王ジュリアによって殺された。……しかし死んだはずの私は、再びこの世界で転生を果たした。それがおよそ、六百年前だった」

『……貴方の目的は、大帝に代わりこの世界を支配すること。そしてその為に、今まで人間大陸の中で潜伏し自分の勢力を増やした』

「そうだとも。五百年前の天変地異アレは予想外だったが、それでも得られるモノは大きかった。再興される人間大陸の各地に、私の手を差し入れる事が容易く出来たのだからな。――……そしてついに、ここまで辿り着いた」

 ウォーリスの肉体を操りながら広大な森の中を走り跳んでいたゲルガルドは、微笑みを強くしながらその足を止める。
 すると軽く背中を仰け反らせながら、目の前に存在する巨大なモノへ視線を上げた。

 その目の前には、幅数キロに及ぶ茶色の幹と緑の苔が生え伸びる大樹そびえる。
 これこそがゲルガルドの求め続けながら辿り着いた、この世界の主柱とも言える『マナの樹』だった。

 手で触れられる距離まで大樹に近付いたゲルガルドは、微笑みを強くしながら精神内のウォーリスと再び話す。

「いよいよだ、ウォーリス。……この大樹に『鍵』を与え、大帝あのかたが成し得なかった新世界の構築を、我々が成し遂げよう」

『どうするのです?』

「『マナの樹』とは、世界に漂う生命や魔力を吸い上げ濾過する機能を有している。生命体がマナの樹に触れると、凄まじい勢いで生命力が吸い取られ、養分とされてしまうのだよ」

『では、この二つは……』

「そう、創造神オリジンの生まれ変わりである二つの『鍵』を吸収させれば、このマナの樹自体が創造神オリジンの生命を宿す。……そして濾過されるだろう創造神オリジンの魂と器は、『マナの実』となって大樹に宿るだろう」

『……そして創造神オリジンが宿るマナの実を食べる事で、我々が新たな創造神オリジンになる。そういう事ですね』

「そうだ。そして創造神オリジンの新たな器となるのがお前ウォーリスであり、その権能ちからは魂である私が支配する。これこそが、私達が目指す『創造神化計画オリジンプロジェクト』だ!」

 ゲルガルドは自らの計画をウォーリスの肉体を介して明かし、自分達が新たな創造神オリジンとなる方法を話す。
 それに対して精神内のウォーリスは黙りながら言葉を伏せると、それに対してゲルガルドは微笑み話した。

「心配はするな。新たに構築した世界には、お前の望むモノが全て与えよう。死んでしまったお前の母親ナルヴァニアも、そして本当の娘リエスティアも。全てが取り戻せるのだ」

 ゲルガルドはそう言いながら、マナの樹が生えている根本に近付く。
 そして両手に持つ創造神オリジンの『しんぞう』と『からだ』を前に突き出し、大樹に触れさせようとした。

 しかし次の瞬間、ゲルガルドが操っていた肉体の動きが止まる。
 そのまま硬直し動けなくなったゲルガルドは、強張る表情を浮かべながら呟いた。

「……何のつもりだ? ウォーリス」

『――……私が望むのは、ただ一つ。……だがそれは、貴様と同じ目的モノではない』

「ッ!?」

『私もこの日を、ずっと待っていた。――……貴様という男の息子に生まれた事を後悔してから、ずっとだっ!!』

「なっ、何を……おいっ、止めろっ!!」

 肉体の制御が効かなくなったゲルガルドは、自身の計画とは異なる動きを強要される。
 それは創造神オリジンの『魂』が宿るアルトリアの心臓と、精神の無いリエスティアの『肉体』を触れさせようとする動きだった。

 ゲルガルドは肉体ウォーリスの主導権を戻そうとするが、それは果たされない。
 そして左腕に抱えられた『肉体』の胸に、『魂』が封じられた心臓が触れ重なった。

「ウォーリスッ、貴様キサマァア――……ッ!!」

『――……さぁ、目覚めろ創造神オリジンよ。……そしてこの私を、この世界を、今度こそ破壊しろッ!!』

 心臓を覆っていた生命力オーラの防壁が解かれた瞬間、創造神オリジンの『魂』と『肉体』が強く反応する。
 その二つが黄金の輝きを放ち始め、心臓に宿る『魂』が『肉体』へと移り始めた。

 そして次の瞬間、黄金色の光がウォーリスの肉体を弾くように吹き飛ばす。
 その衝撃と威力は硬直していたウォーリスを吹き飛ばし、多くの木々を粉々に砕き折らせた。

「――……グ……。……クソ……ッ!!」

 ゲルガルドは再び肉体の主導権を取り戻し、ボロボロになった黒い礼服で立ち上がる。
 そしてウォーリスの裏切りを咎めるよりも、異様な気配が『マナの樹』の方角から感じ取った。

「……まさか……ッ!!」

 ゲルガルドは粉々になった木々の通り穴を通して、自分達の居た場所を確認する。
 するとそこには、黄金色に輝く一人の女性が立っていた。

 その女性の風貌はリエスティアと同じながら、以前より大きく異なる様子も窺える。
 長い黒髪が少しずつ白銀へと染まり始め、耳の先端は僅かに尖り、微かに動く瞼が赤い瞳を薄らと開けさせた。

 それを見たゲルガルドは、顔面を蒼白とさせながら後退あとずさる。
 そして本人にも思い寄らぬ言葉を口にし、驚愕を浮かべさせていた。

「奴が、創造神オリジンだと……!? ……馬鹿な……! ……アレでは、まるで……」

「……」

「まさか、創造神オリジンとは……『始祖の魔王』……ジュリアなのか……ッ!?」

 そこで変貌していく女性の姿を見ながら、ゲルガルドは思わぬ人物の名を口にする。
 それは前世まえ自分ゲルガルドを殺し、第一次人魔大戦において人間大陸を滅ぼし掛けた魔族側の到達者エンドレス、『始祖の魔王』ジュリアだった。

 こうしてゲルガルドは息子ウォーリスに裏切られ、創造神オリジンの『器』に『魂』が注がれる。
 そして目覚めた創造神オリジンは、その赤い瞳に映る世界を再び垣間見ることになった。
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