虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 七章:黒を継ぎし者

運命の舞台へ

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 幼い身体で慣れない二週間の旅を続けていたリエスティアは、目的地の手前で発熱を起こす。
 しかし祝宴に間に合うよう帝都へ進む事を選んだウォーリス達は、無事に辿り着くことが出来た。
 そしてリエスティアを市民街に設けられている民間病院へ移し、そこで容態の確認と処置を依頼する。

 民間病院は医学や医術で治療を行う公共施設であり、そこに勤める医師達は治癒魔法や回復魔法を行えない。
 逆にそうした魔法を扱える医師は民間の病院ではなく、帝国くにが運営する国立病院に勤務していた。

 病や怪我の治りが早いのは魔法師が在中する国立病院の方であり、それ故に治療を求める患者の出入りも圧倒的に多い。
 しかし敢えて魔法師のいない民間病院をウォーリス達が選んだのは、リエスティアの体質と物や人の出入りが少ないという理由もあった。

 そうしてリエスティアを担当する白髪が薄ら見える中年男性の医師に診察室へ呼び出されたアルフレッドは、ウォーリスと共にその容態を聞く。

『――……初めまして。クロエオベールさんの担当させて頂きました、マウルです』

『フレッドと申します。クロエ御嬢様に仕えている者です。今回は飛び込みでの御対応をして頂き、ありがとうございます』

『いえいえ。……そちらの少年は、あの子のお兄さんですかな?』

『はい。フロイスと申します』

 診察室に呼ばれたアルフレッドとウォーリスは、マウル医師にそれぞれの偽名を伝える。
 その主軸となっているのが保護者役を務めるアルフレッドであり、偽名として『フレッド』と名乗っていた。

 ウォーリスとリエスティアも、それぞれに『フロイス』と『クロエオベール』という名の兄妹として身分を偽っている。
 そんな彼等に対してマウル医師は特に疑いを向けず、リエスティアクロエオベールの容態について伝えた。

『それで、クロエオベールさんですが。発熱以外の異常は特に診られませんでした。しかし念の為に検査も必要ですから、今日と明日は短期入院を御提案します』

『入院ですか?』

『幼い子供の場合は、流行り病などに掛かり易いですからな。粘膜検査や血液検査にも、それなりに時間が掛かります。宿に泊まって休ませるよりも、病院こちらで一時的に御預かりした方が衛生面でも良いかと思いまして』

『……』

 短期入院の必要性を説くマウル医師に、アルフレッドは悩む様子を浮かべる。
 そして横に座るウォーリスへ秘かに視線を向けると、マウル医師に気付かれない程度のうなづきを確認して入院することを伝えた。

 するとウォーリスの意思を伝えるように、アルフレッドは入院の承諾を口にする。

『分かりました。よろしくお願いします』

『ええ、お任せください』

『……先生。僕も、妹についてやりたいのですが』

 入院の承諾を伝えた後、ウォーリスは唐突にそうした事を申し出る。
 それを聞いたアルフレッドはウォーリスの方を見た後、再びマウル医師へ頼むように伝えた。

『二人部屋が残っていれば、フロイス様も寝泊まりさせる事は出来ませんか?』

『それは……』

『クロエ御嬢様も、見知らぬ病院ばしょで一人で過ごすのは不安になるかもしれません。それにフロイス様は、既に子供の掛かる病にはほとんどかかり終えていますので』

『……分かりました、私から便宜べんきしておきましょう。部屋などの手続きは、入院手続きと一緒に受付で申し出て頂ければ』

『ありがとうございます』

 軽く頭を下げるアルフレッドとウォーリス、微笑むマウル医師に感謝を伝える。
 それからリエスティアの入院手続きを行い、アルフレッドは予定を大幅に超えた民宿へ荷物を載せた馬車と共に向かった。

 そして個室で入院することになったリエスティアの傍に、ウォーリスは付き添う。
 まだ熱を残し汗を浮かべるリエスティアは、薄らと黒い瞳を向けながらウォーリスに微笑みながら口を開いた。

『――……心配ですか?』

『……自分の娘を心配して、何が悪い?』

『そういう意味じゃないですよ。……大丈夫。流石にあの人達も、帝都ここでは襲ってきません』

『……かもしれない。だが、油断は出来ない』

『だから、私を守る為に傍に居てくれるんですね』

『そうだ。……カリーナとの約束には、娘であるお前も必要不可欠だからな』

 そう伝えるウォーリスの不器用な言葉に、リエスティアは僅かに頷きながら瞼を閉じる。
 それから安定した寝床を与えられたリエスティアは、父親ウォーリスに見守られながら寝静まった。

 しかしウォーリス自身は、虚弱な身体で苦しむ様子からリエスティアとカリーナの姿が重なる。
 すると握り合う両手に力を込めながら、ウォーリスは苦々しい言葉を小声で呟いた。

『……カリーナ。……私はこの子を、どう愛せばいいか分からない。……君が居たら、教えてくれたのだろうか……』

 最愛の女性カリーナの助言を求めるウォーリスだったが、自分の娘リエスティアと向き合い方に困惑した様子を吐露させる。
 『黒』の人格を持つ自分の娘リエスティアをどのような存在だと認識すべきなのか、どう娘として愛せばいいのか、今のウォーリスには分からなかった。

 そうして一晩を明けて悩むウォーリスが過ごす病室に、担当医であるマウルが訪れる。
 すると結果が出た血液検査や粘膜検査を経て、現在の様子からリエスティアの診察を再び行った。

『――……検査の結果、特に流行り病などと類似する異常はありませんでした。不慣れな旅で消耗した身体ところに、免疫の低い感染症が起きてしまったのでしょう』

『そうですか……』

『幼い子供には、よくある事です。一週間から二週間ほど安静にしていれば、御元気になれますよ』

『……』

『ただ熱が高いままなので、下がるまでは動くのは控えた方がいいでしょう。明日まで様子を見て、熱が下がってから宿に御戻りになられた方が良いですな』

『……では明日まで、御願いします』

『分かりました。では、私はこれで』

 診察を終えたマウル医師は、明日までの入院を勧めて病室を出る。
 そして病室に残るウォーリスとリエスティアは、互いに視線を向け合いながら言葉を交え始めた。

『……明日は、祝宴パーティーの一日目だ。どうする?』

『もちろん、行きますよ。私も』

『その状態でか?』

『明日は、必ず行く必要があるんです。……そうでないと、あの子と出会えませんから』

『あの子……?』

『明日には、熱は少し下がります。昼までには退院手続きを終えておくように、アルフレッドさんにも伝えてください』

『おいっ』

『私は、また寝ますね。それじゃあ』

『……ッ』 

 頑なに祝宴パーティーへの出席を行おうとするリエスティアに、ウォーリスは訝し気な表情を浮かべる。
 しかし今までもこうした予言染みた言葉を伝えた後、必ずそれが現実となる事はウォーリスも理解していた。

 つまり明日の祝宴パーティーで、リエスティアは誰かと出会う。
 それが運命を変えられる者だと以前に伝えたリエスティアの言葉を信じ、ウォーリスは疑問を抱きながらも反発をせず、見舞いに訪れたアルフレッドに明日の退院と祝宴パーティーの準備を行うように伝えた。

 翌日、リエスティアの予言通りに熱が僅かに下がる。
 そしてアルフレッドを通して退院の手続きを行い、昼前には退院する事が叶った。

 それから部屋を借りている民宿へリエスティアを連れて行き、用意していた装束ふくを身に着ける為に三人は準備を始める。
 三人はこうして祝宴パーティーに赴ける準備を整えると、手配していた帝城までの行ける馬車が民宿前に訪れた。

『まだ熱はあるんだろう、大丈夫なのか?』

『少し前よりは、ずっとマシですよ』

『……無理だと思ったら言うといい。その身体は、私の娘でもあるんだ』

『分かっています。……じゃあ、行きましょうか』

『ああ』

 熱が残るリエスティアを気遣うウォーリスは、アルフレッド達の待つ馬車まで向かう。
 そして三人が乗り込んだ馬車は、祝宴パーティーが行われる帝城へと向かった。

 こうしてウォーリスとリエスティアは、ガルミッシュ皇族達が集う帝城へ向かう。
 しかしそこは、未来の運命を決定づける者達が集結している場所でもあった。
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