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革命編 七章:黒を継ぎし者

実験室の再会

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 隣領地を挙兵させ異母弟ジェイクとエカテリーナ達を脱走させたウォーリスだったが、その策謀こうどうを全てゲルガルドに見破られる。
 それ等の行動は許されず処分されそうになるウォーリスとアルフレッドを救ったのは、自ら正体を明かすように現れた『黒』のリエスティアだった。

 ウォーリス達への意識ふんどから流れるゲルガルドの興味は、『黒』の七大聖人セブンスワンであるリエスティアに注がれる。
 そしてアルフレッドに命じてウォーリスを実験室に監禁するに留め、ゲルガルドはリエスティアを伴いながら屋敷へと戻った。

 それからウォーリスは、否応も無く実験室での監禁生活が再び始める。
 幼少期時代を過ごした同じ牢獄に囚われ、アルフレッドの監視と管理によって食事を施され続けた。

 しかし唯一の違いがあるとすれば、実験と戦闘訓練は行われないこと。
 ゲルガルドはウォーリスに対する興味を完全に失ったかのように実験室ちかには現れない状況は、ウォーリスを少なからず動揺させていた。

『――……アルフレッド。……リエスティアは、無事だと思うか……?』

『……分かりません』

『……奴が、リエスティアに何かするとしたら。実験室ここに、必ず来るはずだ。……そうだろう?』

『それも、分かりません』

『!』

『ゲルガルドは、こうした施設をこの国に幾つも有していると話していた事があります。なのでこちらの実験室しせつではなく、別の場所で行っている可能性も』

『……お前でも分からないのか?』

『私が管理しているのは、この実験室しせつとその周囲だけです。その他のデータは、何も……。……申し訳ありません』

『……ッ』

 牢獄を挟む形で声を向け合うウォーリスとアルフレッドは、ゲルガルドに連れて行かれたリエスティアの状況が分からぬまま時が経ち続けている事に焦燥感を強める。
 帝都までの途上で親交を深める事が出来た二人にとって、その切っ掛けとなったリエスティアの安否を気にしている事が自覚でき、彼女に対する情を宿しているのを否定はしなかった。

 しかしそれ以上に、ゲルガルドがリエスティアを使い次に何を企み、その結果として自分達の身がどうなるのか。
 二人はそうした危機感を共有しているからこそ、ゲルガルドとリエスティアの状況を知りたがっていた。

 しかしここで自分達が動けば、ゲルガルドは容赦も躊躇いも無く殺すことを二人は理解している。
 安直な思考や状況を打開できる策も無いまま動けず、二人は自分自身で状況を動かせる立場にない事を悔いるような内情を浮かべていた。

 故に二人は、その状況を変化させ得る者を待っている。
 それが出来るのはゲルガルドと接触しているリエスティアだけだと考える二人は、彼女の行動に何かしらの意味がある事を願っていた。

 しかし状況も変わらぬまま、時間は一ヶ月程が経過する。
 その間にアルフレッドは実験室のある庭園周辺の監視を行いながら、徐々に屋敷側の状況をウォーリスは伝えた。

『――……屋敷の人間が、出入りをしていない?』

『はい。この一ヶ月、監視を続けていましたが……屋敷に務めていた者の姿が、まったく確認できません』

『……ということは、エカテリーナの反逆と連動して、屋敷の者達も処分したのか。それとも、私達が到着する前に別の職にでも回しでもしたのか』

『処分したと考えるのが、妥当でしょうね』

『……ということは、ゲルガルドは私達を処分し、あの屋敷を……いや、この領地自体を初めから放棄するつもりだったのか?』

『そう考えれば、屋敷の状況にも辻褄は合います』

『だとすれば、ゲルガルドは別の拠点に移り……リエスティアを連れて行ったのか。……待て、ゲルガルドも屋敷から出ていないのか?』

『はい。あの日以降、ゲルガルドもリエスティア様も屋敷からは出ていません。……しかし、別の移動手段を用いている可能性も』

『……あの屋敷だ、秘密の地下通路ぬけみちでもあるのかもしれないな』

『確かに。……ただ、もう一つ可能性があるとすれば』

『?』

『あの屋敷にも、実験室ここと同じような施設がある。そういった場合です』

『屋敷にも施設が……!?』

『私はこの帝国くにが出来た頃から、この姿になりながらこの実験室ばしょから周囲を観察していました。そして、あの屋敷が出来た頃からも』

『!』

『思い返せば幾人もゲルガルドが乗り移る為の身体にんげんがここで実験を行われましたが、それ等に乗り移る時にゲルガルドは肉体を持ち出し、屋敷に戻ってから乗り移り、二ヶ月程でその肉体となって現れていました』

『……まさか、屋敷に肉体を乗っ取れる為の施設があるのか……!?』

『いえ、肉体自体を乗っ取る方法は秘術による結果モノです。……しかし、秘術それを安全に行える場所が必要になる。秘術を用いる際、術者は無防備になってしまうはずですから』

『……なるほど、秘術を用いる際の制約ルール反動リスクか』

『そうです。……しかし、そうなると……。……いや、まさか……』

『どうした?』

『……ゲルガルドがこうして生き永らえてまで叶えようとしている望みは、世界を掌握できる創造神オリジン権能ちからを得る事です。……そしてリエスティア様は、ゲルガルドの血筋から生まれた創造神オリジンの肉体です』

『……まさかっ!!』

『今まさに、ゲルガルドはその望みを叶えているのかもしれません。……リエスティア様の肉体を乗っ取り、創造神オリジン権能ちからを得る為に』

『しまった……ッ!!』

 ウォーリスはこの状況へ至り、自分が拘束されたまま放置されている意味を察する。
 それはゲルガルドが次の肉体からだとしてのウォーリスに価値を感じず、リエスティアという創造神オリジンの肉体を得る為の行動を既に行い始めていた事を理解した。

 牢獄に囚われたままのウォーリスは立ち上がり、魔封じが施されている手枷と足枷を膂力だけで引き千切る。
 そして牢獄の鉄格子を容易く捻じ曲げて出ると、それを止めるようにアルフレッドが止める声を発した。

『御待ちください、ウォーリス様。何をなさるつもりです?』

『決まっている。……リエスティアを、奴の肉体になどさせない』

『先程の言葉は、全て私の憶測にすぎません。情報も定かでないまま動くのは危険です』

『そうだとしても、その危険が十分にあるのなら。確かめなければならない』

『ウォーリス様……』

『……すまない、アルフレッド。……私は行くぞ』

 牢獄から離れながら歩むウォーリスは、アルフレッドの脳髄が保管された室内まで辿り着く。
 そして試験管それに触れながら謝罪の言葉を向けると、地上へと繋がる出入り口まで続く廊下に向かい始めた。

 しかし次の瞬間、二人の耳に僅かな音が届く。
 それは実験室ここの出入り口となる鉄扉が開けられる音であり、更に階段を急いで降りて来るような駆ける足音だった。

『ウォーリス様、誰か来ます。警戒を』

『……ッ!!』

 突如として現れる足音に、ウォーリスは警戒を抱きながら部屋の物陰に身を潜める。
 そしてアルフレッドも黒い人形を複数体ほど出現させ、侵入者と対峙する為に待ち構えた。

 そして階段を降り終わった足音は、続くように実験体モルモットが収められた試験管が並ぶ廊下を走る。
 しかしそこで発せられた声に、二人は内心を驚愕させた。

『――……アルフレッド殿っ!!』

『!』

『……この声、まさか……!』

 アルフレッドを呼んでいる声の主は、そう言いながら脳髄が保管されている室内へやまで辿り着く。
 そして侵入者かれの姿を直に確認したウォーリスは、青い瞳を大きく見開きながら驚きの声を向けながら歩み出た。

『ジェイクッ!?』

『兄上っ!! ……良かった、無事だった……!』

 二人が居た実験室ちかに現れたのは、ウォーリスの異母弟おとうとであるジェイク。
 ゲルガルド伯爵領地を脱出させたはずのジェイクが再び領地ここに戻っている状況に、ウォーリスは強い動揺を浮かべるしかなかった。
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