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革命編 七章:黒を継ぎし者

意外な介入者

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 実験室ちかにて軟禁状態にあったウォーリスだったが、アルフレッドの推測によってゲルガルドの狙いが『創造神オリジン』の肉体でもある『黒』のリエスティアを乗っ取る可能性に至る。
 その事態を回避する為にリエスティアを救い出す決意を固めようとした直後、脱出させたはずの異母弟おとうとジェイクが実験室ちかに現れた。

 思わぬ事態に驚愕を見せるウォーリスだったが、やや怒り混じりの表情と声色でジェイクに問い掛ける。

『――……ジェイク! どうして戻ってきたっ!?』

『……兄上』

『お前まで戻ってきたら、私がやった事が全て無駄になるっ!! ……それに、カリーナも救えないっ!!』

『……カリーナの事は、大丈夫だよ』

『!』

『あの人に、兄上の母上へ連絡しておくように頼んでおいたんだ』

『……あの人? 誰の事だ』

『結社だよ。僕と連絡を取り合っていた、結社の構成員。その人に会って、兄上の頼まれ事も、全て伝えるように頼んでおいたんだ』

『……!?』

 伝う汗を拭いながら微笑むジェイクの言葉に、ウォーリスは再び驚きを抱く。
 そして更に驚くべき事を、真っ直ぐと背筋を伸ばしたジェイクが伝える。

『それで、その人に頼んだんだ。兄上達も一緒に、逃げられないかって』

『!』

『それで、ここまで戻ってきて。でも、屋敷に誰も居なかったから……。アルフレッド殿だったら、何か知ってるかもしれいかと思って、ここに……』

『……屋敷に入ったのかっ!?』

『い、いや。僕は入ってはいないよ。でも一緒に来てくれたあの人が、屋敷の中を何か魔法みたいな方法もので探ってくれたらしくて』

『……その結社の構成員も、来ているのか?』

『うん。あっ、ちゃんと連絡をしてくれた後だから! ……それにあの人も、兄上と同じように転移魔法が使えるんだ』

『!』

『あの人は今、屋敷の周辺を探ってくれてる。勿論、アルフレッドさんも逃がしてくれるはずだよ!』

 翡翠色の瞳で期待の眼差しを見せるジェイクの言葉に、ウォーリスはむしろ怪訝さを増すように瞼を半分落としながら思考する。
 この状況に【結社】の構成員が介入するに留まらず、自分達を助け出す事に助力しているという状況の意味を、ウォーリスは理解するのに遅れていた。

 しかし母親ナルヴァニアと連絡を取っていた構成員であれば、状況を知ったナルヴァニアによって自分達を救い出すよう依頼を請けた可能性にも思い至る。
 それでもジェイクの口振りを聞くと、その相手は集団ではなく単独であり、一人で幾度も転移魔法を行使できる程の魔法師であることを察した。

 人間大陸で転移魔法を行使できるという人間だけでも珍しいにも関わらず、それを上回るだろう実力者が自分達を助けに来る。
 そのような都合の良い状況があるものかと考えながらも、ウォーリスの思考は別の考えですぐに埋まった。

『……その構成員は、確かに屋敷に人がいないと言ったんだな?』

『そうなんだ。使用人も、囚われていたはずの母上達もいなくて。兄上達も居ないみたいだから、皆で何処かに出掛けているのかも……と、思ったんだけど……』

『……』

『やっぱり、違うんだね……。……みんな……母上も、殺されてしまったの……?』

『……私が脱走させた後、エカテリーナ達は逃げずにゲルガルドを殺そうと屋敷に留まったらしい』

『!』

『だが敵わず、逆に殺された。……その前に尋問を受け、私の行動がゲルガルドに全て知られてしまったんだ』

『……そんな……』

『他の使用人達も、恐らくその巻き添えで……。……すまない、ジェイク。……本当にすまない……』

 母親エカテリーナを含む慣れ親しんだ屋敷の者達が全て殺された事を聞いたジェイクは、膝から崩れるように床へ両手を着く。
 そしてすすり泣くジェイクに謝罪を向けるウォーリスは、この状況を作り出してしまった自分の選択に悔いるような表情で歯を食い縛った。

 今まで守りたいと思っていた家族を一気に失ったジェイクは、床に這わせていた両手を拳に変えて握り締める。
 そして顔を伏せたまま膝を立たせて起き上がると、改めてウォーリスと向き合いながら自分の意思を伝えた。

『……僕は、父上を……いや、ゲルガルドを許せない……っ!!』

『ジェイク……。……駄目だ。私やお前では、奴に勝てない』

『分かってるよ。……それでも僕は、母上達の無念を……少しでも晴らしたい……っ!!』

『……ッ』

『……外に出よう。……あの人の意見も、聞きたいから……』

 今まで穏やかだったジェイクの表情に、悲しみと怒りが入り混じる。
 ゲルガルドに対する怒りを宿すジェイクの心情を理解できるウォーリスは、それを踏み止まるよう説得も出来ずに弟の背中を見据えた。

 すると同じ室内にある機械の扉が開き、アルフレッドの義体からだが出て来る。
 そして同じ場所から取り出した簡素な衣服を身に纏いながら、その場に佇むウォーリスに話し掛けた。

『――……ウォーリス様。今はとにかく、その構成員と会ってみましょう』

『……だが……』

『屋敷に誰も居ないとなれば、やはり別の研究施設にリエスティア様も移されたのでしょう。……何をするにしても、まずはゲルガルドの位置を確認する必要はあります』

『……そうだな。……ありがとう、アルフレッド』

 自身の選択によって招かれた事態とゲルガルドに対する恐怖から立ち止まったウォーリスの背中を、アルフレッドは軽く義体の手で押す。
 義体ぎたいながらにアルフレッドの暖かみを感じるウォーリスは、感情のまま動くのではなく、自分の意思によって改めて踏み出す決意を出来た。

 そうしてウォーリスとアルフレッドは地上に続く実験室ちかの階段まで向かい、庭園のある地上に出て来る。
 すると先に出ていたジェイクが、二人を迎えるように地上で待っていた。

 その傍には見慣れる人影もあり、ウォーリスとアルフレッドは警戒心を高める。
 しかしそうした対応と相反するジェイクは、その人物を紹介するようにウォーリス達へ伝えた。

『兄上、アルフレッド殿。この人が、今まで僕達と連絡を取ってくれいた人だよ』

『……貴方が、結社の構成員?』

『――……まぁね』

 尋ねるウォーリスの言葉に、茶色の外套を羽織り顔まで覆っている相手は声を発する。
 しかし構成員の声色はウォーリスの予想を反し、まだ年若い女性にしか聞こえない声を発していた。

 女性でありながら単独で転移魔法を行使できる魔法師だと改めて知ったウォーリスは、再び疑念を抱きながら問い掛ける。

『……名前を伺っても?』

『どうして聞きたいの?』

『女性でありながら単独で転移魔法を行使できる人物が、人間大陸にそういるはずがありません。……まさか貴方は、フラムブルグ宗教国家の七大聖人セブンスワン……ミネルヴァ?』

『ぶっぶー、ハズレ』

『!』

『でもそうだね、君達になら教えてもいいかな。――……私の名前はメディア。貴方のお母さんの、知り合いだよ』

 軽い口調で話すその女性は、外套フードを脱ぎながら自らの顔と名前を明かす。
 するとメディアという名乗った女性は、年齢的に二十歳前後に見える顔を見せながら茶色の髪と瞳を覗かせた。

 それを見たウォーリスは目を凝らし、メディアなる女性へ声を向ける。

『……偽装魔法ですか?』

『そうよ。髪と目の色だけね』

『母上の御知り合いと言いましたね。……どういう御関係なのか、御聞きしても?』

『色々と調査を頼まれた間柄、って言えばいいのかな』

『調査?』

『知ってるでしょ? 貴方のお母さん、自分の家族を殺した相手を探してるって。その原因となった皇王暗殺未遂犯の調査を、私が請け負ってたの』

『!』

『でも色々と遭ってしばらく帝国このくにに留まってたら、彼女から連絡が届いたわけ。その内容が、君との連絡と取り合いながら、いざとなったら助けてくれっていう依頼をね』

『……母上が……』

『一年くらい前に、貴方の奥さんを皇国むこうに送ったでしょ? それからザルツヘルム君と交代して、この領地を探ってたんだけど。貴方が当主に選ばれたって噂話を聞いて、ちょっと心配になってね。そうしてたら、貴方が逃がした弟君ジェイクと出会えたってわけ』

『……!!』

『そういうわけで、君のお母さんからの頼まれ事だから。君達が望むならここから連れ出してあげるけど……どうする?』

 メディアは明るい表情で自身の母親ナルヴァニアとの関係を明かし、今まで連絡を取り合ってくれていた結社の構成員が間違いなく彼女である事を理解する。
 しかし提案するメディアの言葉とは裏腹に、ウォーリスは首を静かに横へ振りながら答えた。

『……私の娘が、ゲルガルドに連れ去られました。……私はカリーナとの約束を果たす為にも、あの子を取り戻さなければならない』

『君の娘、【黒】の七大聖人セブンスワンだっけ? 本当にそうだったの?』

『はい、間違いありません。そしてゲルガルドは、創造神オリジン権能ちからを得る為に……リエスティアの肉体を、乗っ取ろうとしているのかも……』

『そっか。……んー、そうなると。あんまり遠くに行ってるはずがないんだよね。【黒】を連れて転移魔法なんか出来るはずがないし』

『ゲルガルドは転移魔法なんか使わなくても、子供一人を抱えてなら何処にでもいけるはずです』

『それでもやっぱり、それなりに近場だと思うんだよね。君の娘、まだ小さな女の子だよね? その肉体を乗っ取るつもりなら、かなり安全な場所で乗っ取りたいと思うのが人情だよ』

『安全な……?』

『例えば、誰も人が来ないような場所が無難ベターだけど。この領地でそういう場所があるところ、何か知ってる?』

『いえ……』

 改めて別の実験施設があるかを問い掛けるメディアに、ウォーリスは悩む様子を浮かべる。
 そしてアルフレッドとジェイクに視線を向けながら、二人にも問い掛けた。

『アルフレッドは、何か知ってるか?』

『……先程述べたように、私は他の実験施設については何も……』

『そうか……。……ジェイクは、何か知らないか? 恐らく領地の事だったら、お前の方が詳しいかもしれない』

『この領地で、誰も来ないような場所……。……そういえば……』

『何か知ってるのか?』

『いえ、僕も詳しくは。……ただ小さな頃、母上エカテリーナと領地内の観光を行った事があって。……その時に、父上から危険だからと行かないようにと領民達も命じられていた場所があったと』

『危険?』

『……確か、鉱山跡地です。以前まで金脈と魔石が掘り出されていた鉱山だったらしいのですが、枯渇して整備もされなくなり、山の地盤も安定していないので崩落する可能性があると。だから、そこには近付かないようにと……』

『……もしかしたら、そこに別の実験室が……?』

 ジェイクの記憶で存在する領地の空白部分に、ウォーリスは可能性を感じ取る。
 すると三人の話を聞いていたメディアが、軽く両手を重ね叩きながら微笑んで伝えた。

『うん。じゃあ、そこに行ってみようか。場所は何処かな?』

『えっと、確かこの都市から南東の……国境沿いの渓谷がある場所です。でもここから向かったら、馬を使っても一週間以上は掛かる場所で……』

『うんうん。じゃあ、皆で行ってみようか!』

『えっ』

 そう言いながら微笑みを強めるメディアは、右手を翳しながら親指と中指を弾くように指音を鳴らす。
 すると次の瞬間、ウォーリスとジェイク、そして義体であるアルフレッドの足裏から地面が離れ、中空に浮き始めた。

『これは……!?』

『う、浮いてる……っ!!』

『……これは、重力魔法グラビテーション……いや、飛翔魔法フライ……!?』

 突然の浮遊感に驚愕する三人に対して、メディアもまた自身を浮遊させる。
 そして四人の浮遊高度が庭園周辺の建物の標高たかさを優に超えると、南東の方へ視線を向けたメディアが両手に備わる白い魔石付きの手袋グローブを見せながら言った。

『それじゃあ、行くわよ。怖かったら、目をつむってなさい!』

『……これ程の高位魔法を、しかも他者わたしたちにまで……。……貴方は、いったい……!?』

『あら、当たり前よ。――……だって私、天才だもの!』

『!』

『う、うわ――……っ!!』

 余裕の表情と声色を見せるメディアは、伴うように三人を浮遊させたまま自身の周囲に留めて南東の方角に向かい始める。
 決して緩やかな速度ではない飛翔する四名だったが、周囲に結界を張りながら強風を防ぎ、更に周辺の者達に見えぬよう結界に偽装を施す巧みな魔法を操ってみせる。

 ウォーリスは魔法の力量に関して、メディアが自分を上回るだろう事を即座に察する。
 そして自身を『天才』と定義付けているメディアもまた、自分と同じ『聖人』である事を悟ることになった。

 こうして思わぬ人物の助力を得たウォーリスは、弟ジェイクとアルフレッドと共にゲルガルドが潜伏している可能性がある鉱山地帯へと向かう。
 そして家族リエスティアを取り戻す為に、敗北が濃厚だと悟りながらもゲルガルドと対峙する覚悟を決めたのだった。
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